38-7
突如、テレビ放送を電波ジャックして犯行声明をブチ上げた「UN-DEAD」。
やがて言いたい事を言い終えたのか、中心に立っていた怪人は右手を上げる。
それが合図だったようで、ドローンに取り付けられていたであろうカメラは徐々にズームアウトして遠景になっていった。
「……なんだ、こりゃ!?」
10人ほどの怪人たちが立っていたのは舞台でも壇上でもなく戦車の上だった。
遠景になるにつれて徐々に全体像が明らかになっていくソレは戦車としかいいようがない。でも僕には本当にそれが戦車と言っていい物なのかは分からなかった。
何せ砲塔の上面に10人以上の怪人や異星人が乗っていてもまだまだ余裕のある広さなのだ。多分、テニスコートくらいは楽々と余裕で入る面積があるんじゃなかろうか?
しかも、その巨大な砲塔には「巨砲」としか言いようのない大砲が2門も据えられている。
その砲塔が乗る車体はさらに巨大で、車体前面には通常の戦車砲と大差ないような砲が副砲として搭載されていて、車体の後方上面や側面には針鼠のように対空砲や対空機関砲、さらに大小の各種ミサイルランチャーが所狭しと並んでいた。
しかも、この巨大戦車、車体側面にあるべきであろう無限軌道が無い。
藍色に深く沈んだ色を見せる大海原に浮かぶその姿は車体の上に1つの旋回砲塔という形でなければ「戦艦」だと思ったかもしれない。
「……ホバー・ラーテ!」
「え?」
鉄子さんが振り絞るような声で呟いた。
「お、おい! 第2回で紹介する予定だった“ネズミ”が動画をアップする前に勝手に使われてるぞッ!」
「えぇ……」
あんなモンの紹介動画を動画投稿サイトに上げるつもりだったの!?
そういや確か「ネコと言ったらネズミ。という事で次回はネズミにちなんだ戦車を……」とか言ってたっけ。
僕の辞書機能で検索してみると「ラーテ」というのはドイツ語でドブネズミなどの大型のネズミを示す単語らしい。
でもさ、あんなん絶対に秘密兵器とかでしょ? 大きさ的に秘密にできるかはともかく。
情報保全をドブに捨てていくスタイルはD-バスターだけじゃなく「UN-DEAD」全体のノリなの?
「…………」
やがてテレビ画面にノイズが掛かったかと思うと通常の放送に戻り、しかし、またすぐに緊急の報道番組に切り替わっていく。
チャンネルを回してもどこの局でもそうだ。
虎視眈々と再起の日を待っていた「UN-DEAD」が再び日本全国に周知された瞬間だった。
「え~と、お前ら、ちょっといい?」
「ちょっ!? パイセン! 鉈は置いてッ! おっかないから!」
「顔! 顔、メッチャ怖いよ!?」
「ひぃっ!! その鉈、こっちに向けないで!」
鉄子さんとD-バスターズはエラく怖がっているけれど、別に彼女たちを脅すつもりでマーダーマチェットを手元に転送したわけじゃあない。
殺人鬼にしてヒーロー、マーダーヴィジランテさんが数多の悪党を殺してきた洋鉈は長い戦いの果てに「悪を殺す」事象へと変異していた。
悪党に投げつければどんなに避けられようとも追尾していって切り裂き、逆に“悪”ではない者に投げれば勝手に軌道が変わってかすりもしないという具合にだ。
むしろ投げつける必要もあるのか疑問なくらいで、僕が思いつく限りのステルスを施された敵すら察知して勝手に飛んでいく事すらある。
でもマーダーマチェットは鉄子さんやD-バスターたちに向けてもピクリとも反応しなかった。
つまりはマーダーマチェット、ひいては元の持ち主であるマーダーヴィジランテさん基準では彼女たちは「悪」ではないという事になる。
いくらヴィっさんが問答無用の殺人鬼だからといって、ペットボトルを燃えるゴミに出したくらいでは殺したりはしないのだ。
「……もしかして、3人とも知らなかった?」
僕が問うと3人ともヘビメタバンドのヘドバンのように何度も首を縦に振って見せる。
「も、もし知ってたら、君の前でくつろいでるワケがないだろう!」
「そうだよ! お菓子を置いてとっとと帰るよ!」
ふむ。確かにそりゃそうだ。
むしろ宣戦布告の反応を直に見たいとかいうサイコ野郎でもない限りはアジトで引きこもってるものなんじゃなかろうか?
え? それじゃD-バスターはともかく、ナチスジャパンの代表だとかいう鉄子さんも知らない?
「そう言えば、鉄子さん。あんな大舞台にいなくていいんですか?」
「いいわけないだろッ!」
逆ギレ気味の鉄子さんの剣幕に僕は思わずのけ反ってしまう。
「いや、今日は君の前で情けない所も見せたから、君が私を軽んじるのも分かるがな。例えそうだとしても、私はともかく、私の制服には意味があるとは思わないか?」
「……ナチスがいるという意味ですか?」
「ああ、そうだ」
ナチスと言えばかつて世界大戦の混乱に叩き込んだ世界秩序の敵、戦後に誕生した日本支部であるナチスジャパンも同様に人類がこれまで積み上げてきた社会の打破を目指して武装蜂起した軍勢だ。
そんな事は僕だって電脳の辞書機能に頼らなくても分かる。
先ほどの電波ジャックでの放送で話していたのは中央にいた1人だけ。しかし、その脇にナチスの制服を着た人物がいたのなら見た人の受け取り方も変わるというものだろう。
謎の軍団の中にナチスが参加している。
それだけで事態の深刻さは随分と変わってくるのだ。
「それでは話を変えますけど、『凶竜軍団』、この組織は『UN-DEAD』の中でどのような立ち位置なんですか?」
「どのようなって……、特に? いや、確かに我々の組織に参加しているが、まぁ、なんというか中堅所といった具合で……」
「それじゃあ、宣戦布告を任されるような団体では……」
「ああ、気づいていたか。ああ、そうだ。確かにそんな大役を任されるような団体ではないとは私も思うのだが……」
あの超巨大戦車の上にいた十人ほどの面々、その中心にいて1人、気焔を上げていた怪人。そのいずれも青白い仮面を付けていて顔を見る事はできなかった。
でも隠していたのは顔だけ、その爬虫類然とした体表の特徴から僕の電脳はその中心にいた仮面の人物が「凶竜軍団」の改造人間であると見抜いていたのだ。
でも、それには大きな違和感が残る。
D-バスターから聞いていた話では「UN-DEAD」のまとめ役はルックズ星人という異星人だという。
「凶竜軍団」が四国に因縁があるわけでもないという情報だし、借り出してきた秘密兵器はナチスの物なのだ。
何故、「凶竜軍団」とやらが宣戦布告を任される事になったのだろう?
「おっと! こうしちゃいられない。私たちは帰るぞッ! またな! 次に会うのも戦場じゃなければいいな!」
「え? あ、はい……」
鉄子さんは急に立ち上がり、先ほどとは逆にD-バスターズの手を引きながら食堂を出ていく。
そしてすぐにけたたましいエンジン音が轟き、鋼鉄の履帯がきしむ音を響かせてⅡ号L型で3人は子羊園を後にしていった。
でも「次に会うのも戦場じゃなければいいな」って、どうせ戦場であっても拳銃投げ捨てて降伏してくるんじゃなかろうか?
まぁ、確かに向こうからしたら戦場では会いたくはないのだろうけど。
正直、僕も戦場で鉄子さんに会いたいとは思わない。一緒にお茶をした相手を殺したいとは生身の方の脳は思わないんだ。
それにしても風魔を動かしていた黒幕の正体も分からない内に「UN-DEAD」が動き出して、しかもその事を「UN-DEAD」のメンバーすら知らなかったなんて、なんか事態がどんどん複雑になっていく気がするぞ!?
あ~あ! こんなんだったら事態が1本の糸で繋がってるとかだったら楽なんだろうけどな~!
……あ、ヤベ! 鉄子さんに拳銃を返すの忘れてた……。
以上で第38話は終了となります。
鉄子ちゃんはベリアルさんのような「出番が増えたら死亡フラグ」から逃れる事ができるのでしょうか?
それではまた次回!




