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意気揚々と戻ってきたD-バスターたちに咲良ちゃんがグラスに入れた麦茶を出してやる。
「おっ! どうもありがと!」
「いえいえ、あっ、クッキー美味しかったです」
「そりゃ良かった」
撮影に行く前はエラい嫌がっていた鉄子さんも何やら手ごたえがあったのか余裕の表情でグラスを呷って喉を鳴らしていた。
「それじゃ子供たちがDVD見始める前に少しテレビ借りていい?」
「ええ、どうぞ……」
「何、もう見れるの? カメラは?」
D-バスターズも鉄子さんもカメラを持っているようには見えないのだけれど? 何か記録媒体に保存してあるのかな?
「うん! 見れるよ!」
そう言うとD-バスター1号は手首の内側の軟質素材のカバーを外して中からケーブルを引っ張ってくる。
ああ、これをテレビに繋げというのか。さすがアンドロイド。
でも……。
「ねぇ、その接続端子、何?」
「え? GUSBだけど?」
普通、テレビなどの接続に使われる接続端子はHDMIやDPにせよ、あるいはUSBにせよ長方形の断面をしていると思う。
でもD-バスター1号が手首から出してきたケーブルの先端に取り付けられていた端子は正方形だった。形としてはLANケーブルに近いけど、それよりも1周り大きい。
僕はこんな形の端子には見覚えがない。
「じいゆうえすびぃ、って何?」
「え? 知らないの!? GUSBって宇宙標準規格の接続形式だけど?」
「…………」
本気で言っているのかキョトンとした顔をするD-バスター1号に言ってやりたい事はいくらでもあるけれど、例えば「宇宙でも有線形式って使われてるんだ」とか、「むしろお前、無線通信内蔵されてないのかよ」とか……。
それよりも言わなければならないのは……。
「……ねぇ、その宇宙標準規格とやら、地球のテレビに採用されてると思う?」
「え?」
マジでその事を考えてなかったのか1号は口を半開きで目を見開いたまま固まってしまった。
「……ちなみに鉄子さん?」
「何だね?」
「『UN-DEAD』のアジトとかで使ってるモニター類はそのGUSBとやらが使えるんですか?」
「現地で調達できない物なんか採用するわけなかろう。我々の組織に参加してる異星人勢力とて星外から補給が期待できるわけではないしな」
自分チでもほぼ使えないんじゃないか!
という事はアレでしょ? 精々がルックズ星人やら異星人が保有している機器でのみ使えるって程度の物なんでしょ。
「ハハッ! 1号の内蔵機器は異星規格だからな! でも私の接続端子は地球規格だからそっちを使おう!」
固まったままの1号を放っておいて2号(仮)は同じように左手首のカバーを外して細長い端子のつながったケーブルを引き出す。
でも正直、2号(仮)が出してきた物にも僕はあまり馴染みがない。
端子は長方形で細長く、2列に並んだ小さなピンがずらりと並んでいる。ケーブルも端子と同等の長さの幅広の物で、このような物をテレビに接続している光景など僕は見た事がなかった。
「……これは?」
「IDEだよ!」
「井手?」
「ああ、石動君のような若い人には馴染みが無いかな? 主にパソコン内部の例えば、マザーボードとハードディスクなどの機器の接続に使われていた形式でな……」
鉄子さんの説明を聞きながら僕も電脳内の辞書ファイルを検索してみる。
どうやらIDEという接続形式は10年以上も昔まではメジャーだった形式のようで、でもそれもSATA規格にとって代わられる形で廃れてしまった物だという。
「……駄目じゃん!」
何故、そんな規格の物がテレビに接続できると思ったのか?
パソコンの内部機器の接続に使われていたような規格がなんでテレビに接続できると思ったのか問い詰めてやりたい。
後継のSATA規格ですら3番目の標準規格であるSATA3が普及している御時世なのに!
しかも現代のテレビは2011年から2012年に地上波デジタル放送に切り替わった都合、そんな古い規格の物が使えるわけがないというのに。
これはアレだな。
D-バスター2号(仮)。GUSBとやらの数が足りずに有り物で済ましたどころか、ハー〇オフのジャンクコーナーで漁ってきたパーツが組み込まれている疑惑すら出てきたぞ。
「あ、そうか。これは古い規格か……」
そう言うと2号は今度は右手首のカバーを開いて幾つかのケーブルを取り出した。
「ピロリロン! IDE-HDMI変換あだぷた~!」
国民的青狸型ロボットの声真似を交えながらケーブル類の1つを持ち上げた2号は左手首から伸びたIDE端子に変換ケーブルを噛ませる。
わ〇びボイスではなく、の〇代ボイスのモノマネで、内蔵端子が旧式とか2号(仮)はレトロフィーチャーなのかな?
まぁ、モノマネの方は微妙に似てるせいで妙にイラッとするのだけれど。
「あ、ちょっとファイル形式を変換するから、ちょっと待ってて!」
そう言うと2号(仮)はこめかみに人差し指をあてて眉間に皺を寄せて唸りだしてしまった。
そういうのっている?
確かに何かCPUに負荷がかかってる感はあるけれど、僕も生身の脳味噌の他に演算処理機が搭載されてるけどそんな唸る必要とかないよ?
「いや、あまり期待しないで見てくれよ! 初めての事だし、後から本格的に編集して満足のいく物にしなければならないんだからな!」
変換を待つ間、鉄子さんは期待8割、不安2割といった感じでそわそわとテーブルの面々の顔をちらちら眺めていた。
これは大分、自信があるパターンだな。
咲良ちゃんとアーシラトさんがおやつタイムを終えて今日も特訓のために食堂を後にすると露骨にガッカリとした顔を見せるくらいだもの。
「っと、それじゃ先にテレビの用意でもしてますか……」
2号(仮)の作業が終わるのを待つ間、1号の方がリビングスペースにあるテレビの電源を入れた。
「ん? なんだこりゃ!?」
電源が入り、画面が映し出されたテレビには仮面の者たちがズラリと並んでいた。
立ち並んでいる者たちの姿に統一感は無く、それどころか明らかに人間ではないもの、生命ではない者の姿すら見える。ただ全員が共通の仮面を付けている。
青白い肌に黒い目の仮面。それは見る者に死者を想起させるに十分なものだった。
こんな時間に特撮ドラマなんかやってたかな?
『……我々は既に敗者! 落伍者! 死したる身も同然! 我らが同胞はすでに亡骸と成り果て、夜毎に我らの枕元で怨嗟の声を上げ続ける! 彼らの無念を晴らすまで我らに安眠の時が訪れる事は無く、故に我らは惰眠を貪る者どもに最後の決戦を挑む!
まずは手始めにここ四国の早明浦ダムを破壊して我らが決意を示して見せよう!
もう1度、我らの名を言おう! 我らは「UN-DEAD」! 我らに敗北は無い! すでに我らは死しているゆえ!』
「ぶふぅっ!!!!」
画面の中央に映っている仮面の男? が両手を振り上げて高らかに「UN-DEAD」の名を叫ぶと同時に鉄子さんは口に含んでいた麦茶を盛大にスプラッシュする。
丁度、鉄子さんは僕の方を向いていたために噴出された麦茶は回避不能の面攻撃となって僕の顔と制服を濡らしていた。
文句の1つでも言ってやらなきゃ気が済まないと鉄子さんの顔を見ると彼女は大きく目を見開いて驚愕していて、あまりの迫力に僕は言葉を失ってしまった。
テレビ画面の右上には「LIVE」の文字が。つまりは生放送という事だ。
え? 何? 知らなかったの? なんでそんなに驚いてるの?
てか鉄子さん、ナチスジャパンの代表なのにあの場にいなくていいの?
もしかしてハブ……。
特撮あるあるシリーズ!
誰かがテレビをつけるとちょうど事件の発生がニュースになってるところだ!




