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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第38話 UN-DEAD、動く!
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38-2

 テーブルの上に並んでいるのはジャムタルトに数種類のクッキー、さらにD-バスターの1体が保冷バッグからプラスチックの容器に入れられたイチゴのムースを出してくる。


「……え? お前ら、お菓子いっぱい作ったからって子羊園に持ってきたの?」


 2体に増えたD-バスターとナチスの女性、鉄子さんは争う意思は無いようで僕たちは子羊園の食堂兼リビングに案内されていた。

 そこに多種多様なお菓子類が並べられていたのだ。

 それに何だかジャムタルトやジャムクッキーにイチゴムースとやたらイチゴの赤が目立つような?


「いや~! ウチの調理同好会の連中、作るだけ作って皆して『甘いのは苦手だ』とか言いやがんの! だから子供たちなら喜ぶかな~って」


 ウチというのは「UN-DEAD」の事だろう。

 UN-DEAD、調理同好会とかあるんだ……。


 D-バスターは勝手知ったる他人の家というか手慣れた様子でコーヒーを用意して僕と真愛さん、鉄子さんの前に出してくる。


「そもそも甘いの苦手だったら作らなきゃいいじゃん?」

「ところがどっこいゴールデンウィークに埼玉にバスツアーでイチゴ狩りに行ってさ、取ってきたイチゴをジャムにしたはいいけど、どう考えてもウチだけじゃ消費しきれる量じゃないんだよね~!」

「ほれ、ゴールデンウィークにハドーさん来てたでしょ? そのせいでツアーとかキャンセル続出だったみたいで格安だったんだよね~!」


 2人のD-バスターは板を水が流れるような勢いでまくしたて、そのままの勢いで僕の前にお菓子をよこす。


「ん~、それじゃ真愛さん、頂こうか?」

「駄目~! まずはパイセンからっしょ!?」

「は?」


 D-バスターは2体揃って両手で「×」を作って見せつけてくる。


「ほら、私らみたいな悪の中の悪、蟲毒を突き詰めたような連中が作ったモン、毒見してもらわなきゃ子供たちや真愛ちゃんに食べさせられないでしょ!?」

「別に何も変なモンは入ってないけどさ、毒見して安全だって分かった方が気持ち的にも楽しめるでしょ!」

「僕はいいの?」

「てかARCANAの改造人間が毒でなんとかできたら苦労は無いんだよなぁ」

「アッハハハ! ウケル!!」


 D-バスターズの勢いに押されてしぶしぶと1枚のクッキーを口へと運ぶ。

 見た目は悪くない。

 小麦色に焼き上げられたクッキーの窪んだ中心にはルビーのようなイチゴジャムが乗せられていて、口元まで運ぶと小麦とバター、そしてジャムの豊潤な香りが僕の鼻孔を刺激する。


「……ん? あれ? 美味しい……」


 意外にもジャムクッキーは普通に、というか想像以上に美味しい物だった。

 これをUN-DEADの連中が作ったとか自分の味覚が信じられなくなった僕は続いてプレーンのクッキーを一口。


「やっぱり……、美味しい……」

「でしょでしょ!」

「ほれ! みんな~! 毒見のお兄ちゃんが食べてもいいってよ~!」


 僕の言葉を聞いてD-バスターは嬉しそうな、それでいて「してやったり!」という顔をして入り口のほうへと声をかける。

 その声と同時にどこに隠れていたのやら子供たちが部屋に雪崩れ込んできてテーブルの上の菓子類が盛られたバスケットに群がった。


「真愛さんもどう? 変な物は確実に入っていないし、ホントに美味しいよコレ!」

「くす、子供たちが一通り取ってからね」


 まるで有名店で売られているようなレベルの高いクッキーだった。

 しかもジャムクッキーとプレーンのクッキーで生地を微妙に変えているあたり、中々のこだわりがあると見える。


「そうそう! 鉄子ちゃん! スマホ貸して!」

「あ、ああ」


 鉄子さんのから飾り気の無いスマホを受け取ったD-バスターは慣れた様子で1枚の写真データを僕と真愛さんの前に見せてくる。


「こ、これは……」

「え? この面子でイチゴ狩りに行ったの?」

「そうだよ?」


 その画像はUN-DEADのメンバーと思わしき面々がイチゴ農園で撮影したらしい写真データだった。

 D-バスターは「当たり前じゃん!」とでも言いたげに軽く返すが真愛さんが驚くのも無理はない。

 スマホの画面一杯に機械的、生物的、あるいは両者の特徴を併せ持った多種多様な怪人が2列にならんでピースサインを作って撮影に応じていた。口元や目が生物的な怪人なんかは明らかに笑っている。彼らが怪人でなければ極々平和な行楽の一風景と呼べたかもしれない。


「おっ! 信じられないって顔してるね? でもさ、良く考えてみ? パイセンもさ、何年も前に潰れたような組織の改造人間や異星人がイチゴ狩りのバスに大人しく座ってたらどう思う?」

「んん……。あ、そっか、更生組のフリしてるのか!」

「そゆこと」

「どこの組織にだって、それこそパイセンに目を付けられでもしないかぎりは壊滅しても生き残りはいるわけよ。その生き残りはウチ(UN-DEAD)に参加するヤツもいるけど大概は社会復帰するわけでしょ?」


 俗にというか、つい今、僕も「更生組」なんて言葉を使ったけれども、その言葉も微妙なもので、悪の組織の構成員も望んで怪人になったという者ばかりではない。

 僕のように悪の組織に拉致されて改造されてしまったなんて人だってザラにいるのだ。

 そのような方を「悪の怪人」として迫害しては差別問題になる。かもしれない。

 そこにUN-DEADの連中は目を付けたのだろう。


「でも、よくバレなかったよね」

「そらウチは『仕事に行った先ではいくら迷惑をかけても遊びに行った先では迷惑をかけちゃいけません』って口が酸っぱくなるほど言われてるから」

「……誰によ?」

「誰ってアっ君が」


 アっ君ってのは確かUN-DEADのまとめ役とかいう異星人の事だったな。


「それじゃ、調理同好会ってのも?」

「そ、そ! 日本政府を転覆させた後に燃え尽き症候群とかにならないように余暇活動を! ってね」

「……へぇ」


 あの怪奇でおぞましい怪人連中がクッキーやらタルトを作っていると思えば少しは微笑ましいのかもしれない。

 確かにクッキーの中には形がエラく歪な物も含まれており、生地自体は他と変わらないために味は変わらないだろうけど、これも怪人が戦闘用の大きな手でクッキーをこねくりまわした結果なんだろうか?


「あ、それ私が作ったヤツ……」


 訂正、歪な形のクッキーは鉄子さん作の物らしい。


「てかさ、鉄子さんは今日はどうしてここに?」

「いや、最近、忙しかったのが一段落して、調理同好会に出たらこいつらが『たまには外に出かけよう』って……」


 そう言うと鉄子さんは随分と恨めしそうな目で2体のD-バスターを睨みつける。

 だがD-バスターズは手作りのお菓子に喜ぶ子供たちに夢中で自分が連れてきたハズの鉄子さんには目もくれない。


「はぁ……、デスサイズがいるなんて聞いていたら来なかったわよ……」


 まぁ、僕が言うのも何だけどD-バスターに細かい配慮とか求めても無駄だと思うよ?

 もちろん、それは鉄子さんたちのせいだろうけどさ!

なおイチゴ狩りに参加して集合写真に写っているメンバーの数人は29話以降で死亡している模様。

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