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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第37話 獣が笑う街で僕は暮らす
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幕間 そうだ! ゴールデンウィークは東北に行こう!

 護衛対象の1人である咲良ちゃんがアーシラトさんに引っ張られて行ってしまい、後は明智君と園長先生とで事務的なやりとりとなったので僕と真愛さんは事務室を後にした。


 とりあえず何事も無ければ20時までは暇なので食堂兼リビングでテスト勉強でもしようかと思ったけど、先に施設周辺の立地を確認しておく事にする。


 住宅街のド真ん中に位置する子羊園は北側に2階建ての建物が、南側にちょっとしたグラウンドのような広さの芝生敷きの園庭がある。

 裏庭のようなものもあるにはあるのだけれど、自動車を10台も停めるのがやっとという程度の広さなので何かあったら園庭まで敵を引き込んで戦うのが最も二次被害が少ないだろう。


 仮に空から攻められてたとして地上からビームマグナムで迎撃したら破片が周辺に落下して不慮の事故が起こりそうだ。

 敵の数次第ではやはり引き込んだ方がいいのかな?

 まぁ、山ほど敵が攻めてきたらそんな事なんか言ってられないのだろうけど。


 施設の周りをぐるりとまわって確認しながらそんな事を考えていると子供たちの囃し立てるような声が聞こえてきた。


「や~い! や~い! 嘘つきぃ~!」

「ホラを吹くなら、もう少しマトモな嘘をつけよ~!」

「ちょっと止めてあげなさいよ男子ぃ~!」

「うわぁ~ん!」


 裏庭から建物の脇を通って園庭に戻ろうとしていた僕と真愛さんの耳に届いてきたのは4、5人の近づいてくる声だった。

 からかわれている子はこちらに逃げ込んできているのかペタペタという足音がこちらに向かってくる。


 ん?

 ペタペタ?


「おっ、デっちゃん! 助けたってや!」

「ひぃっ!?」

「あら? 河童さん」


 角を曲がって現れたのはあの巨大な頭部の河童だった。

 いきなりの事なので思わず悲鳴が漏れてしまったけど、意外と真愛さんは河童が平気なようだ。

 そして河童に続いて小学校低学年から中学年くらいの子供たちが4人やってくる。


 え? この河童、子供たちに囃し立てられて逃げてきたの?

 てか、この子たちも河童が怖くないの? あんまりからかったりすると尻子玉を抜かれて殺されちゃうよ?


「こら! 皆して1人をイジめちゃ駄目でしょ!」

「ゴメンなさい……」

「でも、河童の奴が適当にホラを吹いてそれを嘘だって認めないんだ!」

「嘘やないで! ホンマの話や!」


 真愛さんが子供たちを叱ると河童は真愛さんの後ろに隠れて子供たちにアカンベーをしてみせた。


「え……、ちなみにどんな話なんですか?」

「せや! デっちゃんも岩手育ちなら知っとるやろ!? M市民のソウルフード『納豆キムチレアチーズラーメン』を!」

「…………」


 M市というのは岩手県の県庁所在地で、僕が以前に住んでいた街だ。

 そして河童が言っている「納豆キムチレアチーズラーメン」なる中々にキワいメニューの事も知っている。でも……。


「そ、ソウルフードって言うのは違うんじゃないかな? ウチの兄ちゃんは好きだったけど、僕は苦手だし……」

「ほれ見ろッ! デビルクローはんも納豆キムチレアチーズラーメン食って強くなったんや!」


 納豆キムチレアチーズラーメン。確かに好きな人は好きなんだろうけど匂いのキツい物を3つも熱いラーメンの中にブチ込んだがために最初の一口に勇気がいるような臭気を発していて、僕がラーメンに求める「気軽さ、手軽さ」からは大きく外れている代物だ。


 けど河童は僕の言葉尻を捕まえて持論を押し通そうとしていた。

 しかも悔しい事に子供たちも「兄ちゃんは好きだった」という部分で河童の言葉を信じようとしている雰囲気だ。まるっと「僕は苦手だ」という点を無視して。


「い、いや、別に某店の名物メニューってだけで『M市民のソウルフード』なんてものじゃあないよ? まぁM駅の駅ビルにも支店が出てて食べられるけど……」


 俗に「M市三大麺」などと観光業界に持ち上げられているM市名物の麺料理があるけれど、それは「わんこ蕎麦」「じゃじゃ麺」「冷麺」の3つだ。

 この3つの中に納豆キムチレアチーズラーメンが入っていない事からも分かってもらえるだろう。


 でも子供たちは先ほどまでは河童に向けていた懐疑の目を今度は僕に向けてきていた、


「え……? 岩手に駅ビル……?」

「そこかよ!? もしかして君たち、岩手は県庁所在地の駅前すら田んぼが広がってると思ってる!?」


 くそぅ、生まれついての東京都民どもめ……。


「おっと、東北の麺類の話をしているのなら私も参加させて頂戴!」

「あ、違います」

「あれ? そうなの……?」


 僕がスマホでM市駅前の画像を子供たちに見せて誤解を解こうとしていたところ、空から1人の魔法少女が箒に跨って降りてくる。

 空色のコスチュームに銀色のフレームの眼鏡、三角帽子を取れば綺麗にまとめ上げられたシニヨンが露わになる。

 ヤクザガールズ本部長の栗田さんだ。


「どしたの、栗田さん。ヤクザガールズはしばらく学校で合宿って聞いてたけど?」

「ええ、ですが日曜にウチの組員を助けて頂いたのがこちらの長瀬さんだと分かりましたので御礼に」

「大丈夫、1人で危なくない?」


 僕が心配そうな顔をすると栗田さんは無言で天を指差す。

 空を見ると雲がまばらな上空150メートルほどに2人の魔法少女がゆっくりと子羊園の上を旋回している所だった。

 あのコスチュームの色だと小沢さんと永野さんだな。


「というわけで私がオススメするのは青森県から『つゆ焼きそば』と秋田県の『横手焼きそば』です」


 違うって言っているのに栗田さんは自分のオススメの東北麺料理の話をブッ込んでくる。

 中学生ながらにバリバリのキャリアウーマンの風格を漂わせている栗田さんがサラッとプレゼンを始めてしまったので僕も真愛さん、河童や子供たちも聞かなければいけないような空気になってしまった。


「まずは青森の『つゆ焼きそば』。こちらは太平麺のソース焼きそばに和風カツオ出汁を入れた物なのですが……」

「えぇ!? ソースに出汁汁? 合わないでしょ!?」

「それが酸味の強めのウスターソースにも関わらず、揚げ玉から出汁汁に染み出た油が良い具合に調和を取っているのです」


 栗田さんは手土産として持ってきた菓子折りの箱を手に持ったまま説明を続ける。

 こんな無駄話で時間を潰させて上空の小沢さんと永野さんには申し訳ない。


「続いては秋田県の「横手焼きそば」。こちらも太麺系のソース焼きそばなのですが、味付けは甘辛系でソースが多めだったり、蒸し麺ではなく茹で麺を使っていたりとベッチャリとした印象です」

「美味そうには聞こえへんで?」

「ところがどっこい。具として添えられている目玉焼きの黄身を崩して麺と絡めて食べるとこれが何とも言えない味で。付け合わせとして福神漬けが添えられているので甘じょっぱさが強く印象に残る味わいですね」


 へぇ~! どっちも美味しそう!

 でもさ、どっちも焼きそばって、栗田さんが焼きそば好きなだけだよね!?

 宇宙船の中でも宇宙食の焼きそばばっか食べてたし。


「それでは私はこれで。後はそうそう、横手焼きそばの有名店の中に宗教臭いお店もあるのですが、この場で店名はあげられないので、そういうのが嫌な人は観光客向けの場所で食べる事をオススメします」


 そう言い残すと栗田さんは菓子折りを持って子羊園の中へ入っていった。

 でも栗田さん。「宗教臭い店がどうこう」言ってたけれど、ここ(子羊園)だってまさに宗教関係の場所なんだけどなぁ。


「行っちゃったわね……」

「何だったんだろうね?」

「ほな、次、デっちゃん!」

「えっ! まだ続くの!?」

「当たり前や! 後は宮城、山形、福島やで」


 何故か今度は僕に話が振られてしまった。

 でも去年、マーダーヴィジランテさんと日本全国食べ歩きツアーやった時に山形に美味しいラーメンがあったような。あれは確か……。


「米沢市で食べたラーメンが美味しかったような?」

「『ような?』って何で疑問形なん?」

「いや、美味しいっちゃ美味しいんだけど、食べ終わった後にスープの中に丼の底が透けて見えるようなあっさり系のスープにシコシコの細麺。チャーシューは脂身の無いモモ肉で、と最近流行りのパンチの効いたヤツじゃないから上手く説明できないって言うか……」


 上手くは説明できない。でも毎日でも食べられるようなラーメンだったと思う。


 ただ、僕はもう食べたいとは思わない。

 もう、あの時に一緒に食べた人はいないのだ。

 きっと過ぎ去りし日を懐かしむぐらいが丁度いいのだろう。そうでもしないと彼の事を思い出して涙が溢れ出してきそうだから。


「えと『米沢市 ラーメン』……。ああ、『米沢ラーメン』って言うのね。検索してみたら東京にもお店があるみたいよ? 今度、落ち着いたら行ってみない?」

「え、真愛さんと? 行く、行く!」


 スマホで検索していた真愛さんが明るい声を出した。

 先ほどから河童や栗田さんが言う麺類の事も検索していたみたいだけど、真愛さんの食指が動くのはアッサリ系の物みたいだ。


「う~ん。美味そうやけど、ワイはもっとコッテリ系の方が好みやな!」


 河童の好みではないようだけれど、そら納豆キムチレアチーズラーメンがM市民のソウルフードなんて大法螺を吹かす妖怪からしてみればそうだろうね。


「ところで真愛さんのオススメは?」

「わ、私!? ……そうねぇ。温麺(うーめん)かしらねぇ……」


 温麺?

 これはまた意外な……。

 温麺が名物なのは確か宮城県で、僕も食べた事があるのだけれど風邪で食欲が弱った時にでも食べられるような、そんな優しい味の物だった。


「温かい麺って書いて『温麺』て割りに冷やして食べたりもするらしいけど、私が食べたのは温かくて少しコッテリとしたツユに入れた物だったわね。アーシラトさんは2日酔いだったみたいだけどすんなり食べられたみたいだし、私は生卵を落としてコッテリと。麺自体に癖が無いからアレンジの幅が広いんじゃないかしらね」


 温麺と素麺は良く似ているけれど、製麺の際に素麺は少量の油を使うが温麺は使わないそうだ。

 真愛さんが「癖が無い」と感じたのもそういう所からだろう。

 彼女の言うとおりに温麺の食べ方の幅は広く、「温かい/冷たい」「かけ汁/つけ汁」はたまたツユも醤油仕立てだったり味噌仕立ての物もあり、出汁も素麺などと同じカツオ出汁の物もあれば鶏出汁の物もありと何でもありといったところなのだろう。


「ほな最後は福島!」

「……」

「ん? 誰か福島に行った事ある奴はおるか?」


 いつの間にか仕切り役に納まっている河童がその場の皆に促すけれど、僕も真愛さんも、そして子供たちも福島には行った事がないようだった。


「えと、河童さんは?」

「ワイは新幹線で通過した事しかないな……」

「それじゃ福島県に行った事が無いんじゃない?」

「ほな、この場はお開きという事で……」

「なんだか締まらない終わりねぇ……」

デスサイズ&マーダーヴィジランテの日本全国食べ歩きツアー? 一体、どれほどの血が流れたというんでしょうか(震え声)


あと途中で飽きたわけじゃないよ!

作者が福島に行った事無いだけだよ!

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