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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第37話 獣が笑う街で僕は暮らす
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37-3

 僕が通っている高校は中間テスト期間でお昼で放課だけど、ヤクザガールズの子たちの大H川中学校は平常通りなので時間を潰してから大H川中に向かう。


 状況が変わったのはカチコミ(殴り込み)前、1年生の子たちがコンビニにお菓子の買い出しに行っている最中の事だった。

 まぁ、なんで殴り込みにお菓子の買い出しが必要なのかはおいといて……。そこは一つ、郷に入っては郷に従えという事で。


 本部長の栗田さんが市の災害対策室に風魔軍団アジトへの襲撃を連絡していると、丁度、そのアジトに拉致された民間人がいるという通報が入ってきたんだ。

 しかも、その児童養護施設職員のシスターを助けに登録したばかりのヒーローが単身、アジトへと乗り込んでいったという。


 そこで作戦(そもそも作戦らしい作戦は無かったのだけれど……)は変更。

 児童養護施設の園長が同業者繋がりで救援を要請した老人ホームのお爺ちゃんたちと合流。

 例のボケ防止に戦車乗り回してる控えめに言ってクレイジーなお爺ちゃんたちだ。


 さらにはD-バスターもどういう事か話を聞きつけてロケット砲を乗せたトラックで駆けつけてくる。

 それはいいんだけれどD-バスターの奴、これが人質の救出だって分かってるのかな? あの旧ソ連式のロケット砲って敵に撃ち込むヤツじゃなくて味方のすぐ後ろに撃ち込んで無理矢理に突撃させるヤツでしょ? そうでなくてもレールで加速させて発射する無誘導のロケットって、ロケットの雨が降る中を逃げられる人なら最初から忍者の人質になんかならないと思う。

 ていうかD-バスターの奴、なんか増えてるし……。え? 何? ツッコミ待ち?


 とりあえずトラックが来たのはラッキーだった。

 人質がどんな目に遭わされてるか分かったもんじゃない。敵のアジトに乗り込むという事はこちらも綿密な連携が必要となるだろうし負傷者が出るかもしれない。

 そういうわけで現地で指揮所兼救護所として使うためにトラックの荷台の隙間に運動会で使うようなテントやら長机、折り畳み式の担架、ホワイトボードを積み込んで僕たちは現場に向かった。


 ただ、まあ、なんというかそこで予想もしなかった事が2つ。


 1つは老人ホームからきた戦車隊。

 忍者のアジトに攻め込むのに戦車なんてどうするんだろ? って思ってたら何か一番大きい戦車の車体やら砲塔の上に宇宙人やハドー怪人が跨乗(タンクデサント)してきていた。さらに戦車が揺れる度に砲塔にしがみ付いてキャーキャー騒いでいるポロシャツ姿の女性が1人。見るとハドー怪人たちも彼女と同じポロシャツを着ている。


 そして、そのハドー怪人の中にいたウサギ型獣人に僕と山本組長は見覚えがあった。

 ハドー総攻撃のあの日、ハドーの連中が占拠したHタワーへ乗り込む前にちょっと“お話”をした怪人。

 “お話”と言ってもなんていうか、まぁ、ジュネーブ条約も顔を背ける類のインタビューだ。


 彼女、多分、プロポーション的に胸やお尻が膨らんでいるしウエストはくびれていたり声も女性的だし女性なのだろう彼女は僕と山本さんの姿を見るなり、地球人の女性の後ろに隠れてしまう。

 そのウサギ獣人の様子に地球人の女性からメッチャ睨まれてしまったけれど、僕や山本組長を相手にハドー獣人が彼女の後ろに隠れるというのはどういう事だろうと思ったら、彼女が最近、売り出し中の「鷹の目の女王」と呼ばれるヒーローらしい。確かに鷹の目と称されるだけあって鋭い目付きの女性だった。


 でも、山本さんがウサギ獣人にコンビニのシュークリームを渡して「ゴメンね!」したら許してもらえたのでそれ以上に揉める事はせずに済む。


 ただハドー獣人や「鷹の目の女王」と一緒にいた宇宙人が例の銀河帝国の皇女だというのはどうかと思う。

 宇宙レベルで超がいくつ付くか分からない大国のVIPなら大人しく迎えが来るまで引きこもってくれたらいいのに。

 さすがに「引きこもってろ」は言い過ぎだろうけど、いくらなんでも物見遊山で忍者のアジトに付いてくるというのはどうなんだろ?


 そして予想外の2つ目。

 戦車隊を空から護衛しながら風魔軍団のアジトがある田園地帯へと向かっていた僕らだったが、事前に「探知魔法」の永野さんと、永野さんの護衛として栗田さん、事前空爆のための井上さんが先行するとすでに戦闘が始まっているという。


 アーマード・ニンジャさんから仕入れた情報では風魔のアジトは広大な地下施設という事で向こうはそこへ引き込んでくるだろうと思っていたし、戦っているのは先にシスターを助けに乗り込んでいったというヒーローかと思ったら違うらしい。




「ッシャアアア~~~!! 盛り上がってキタァァァァァ!!」

「ふっ、そう言っていられるのも今の内よ! 見よ! 1人が4人、4人が16人へと変わる。これぞ『分身の術』よ!」

「メンドクセェェェェェ!!!!」


 現場に到着した僕たちが見たモノ。

 それは風魔のアジトを上空からマジカル☆スタングレネードと魔法製催涙ガス弾で空爆する井上さんに、その煙に巻かれ閃光に照らされながら忍者やらカラクリメカを相手に大暴れのアーシラトさんだった。


 ……うん。

 言わなかった僕たちも悪い。

 でも。

 でもさ、井上さん。

 味方がいたら空爆しちゃ駄目って分からないかな?


 アーシラトさんもアーシラトさんでノリが良いのか分身の術で現れた精巧な術者のダミーバルーンを一々、ナックルアローで仕留めてまわっている。

 結果的に井上さんの非致死性魔法兵器での空爆はアーシラトの闘志を盛大に盛り上げるのに役立っているようでバルーンを潰していく速度は凄まじい。

 さしづめ今のアーシラトさんには催涙ガスがドライアイスのスモーク、閃光弾もスポットライトくらいにしか感じていないのだろう。

 でもアーシラトさんって別に拝火(ゾロアスター)教とか関係ないよね。別に火を使っているわけじゃないけどさ。


 忍者も忍者で次から次へと「分身の術」を繰り出していくが、想定外のスピードに後ろの方で裏方の忍者がガスボンベでバルーンを膨らませて用意しているのが丸見えになっていた。


「……さあて、どうすっぺな」

「これはチャンスじゃ!」


 田植え前の田園地帯の中央にある小さな丘を箒に跨った魔法少女が笑いながら空爆し、まるで地上に雷雲が降りたように閃光で輝く白煙の中で雄叫びを上げて忍者と戦う悪魔。


 どこから手を付けたものか途方にくれるほどのカオスな状況に思わず僕の口から御国言葉が零れたけれど、島田さんとかいうお爺ちゃんの声が無線で響いてくる。


「作戦案はふぇんこう(変更)! デスサイズと魔法少女隊は神社へ降下して現地を確保! 西住しゃんたちはアーシラトと協力して敵を撃破しつつ神社をめじゃせ(目指せ)!」


 飛行能力を持つ者は先にアジトの入り口である神社を確保し、地上の参道から神社を目指す獣人組と挟撃しようという作戦だろう。


 そして先頭を走っていた箱型戦車の主砲が火を吹いたのと同時に全員が行動を開始する。

 僕も動こうと思ったけど、D-バスターのトラックが車体の位置の微調整を始めたのを見て、一端、トラックの元に向かって「それ(ロケット)は絶対に使うな」と言ってからだったので1歩、出遅れてしまった。

Twitterやってます

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

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