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D-バスター1号と一式D-バスターが仮設指揮所兼救護所の撤収を終え、カチューシャトラックを天昇園に任せ身軽になった後にアジトに帰還した時にはすでに時刻は夜の8時となっていた。
幾度も尾行は無い事は確認してある。
闇に紛れてしまえば衛星からの追跡もできないであろうがそれでも2人はわざと遠回りして舗装もされていない山道や獣道を選んで帰還していた。
彼女たちが買い出しなどに使っているⅡ号戦車L型は異星からもたらされた技術によって地球の技術としてよく使われる電波や赤外線からの防護は十分であったが、至近距離での戦闘を前提に設計されている彼女たちはステルス性能を考慮されていないがためにアジトの位置が露見する事を避けるための処置である。
6月が迫った東京といっても23区からは離れたH市の夜は涼しい。
D-バスターたちは確かな満足感とともに心地良い風を楽しみながらアジトにしている廃ホテルへの道をあるいていた。
ベリアルという悪魔の事は残念だった。
あの悪魔、知らない内に子羊園に現れては良くリビングのテレビスペースのソファーで膝の上に小さい子供を乗せて特撮ドラマのDVDを見ていたという記憶しか1号の記憶領域にはなかったが、それでもキリスト教系の児童養護施設で悪魔がくつろいでいるところを見て、そのフレキシブルな姿勢は見習わなければなるまいと思っていただけに本当に残念だ。
だが、それでもシスターと長瀬咲良を救出する事はできた。
その役に少しでも立てたと思えばこうやって回りくどい韜晦行動を取る事も何の苦でもない。
それに敵中から瀕死のベリアルを咲良の元まで連れてきて最後の別れをさせた石動誠。
その姿はまるで本物の死神のようで、自分たちがアレと戦うために作られたと思えば厄介なスペックもなんとなく納得できるのだ。
だが、UN-DEAD部隊の警戒網に入ったかどうかという雑木林の中で思わぬ人物に出会う。
「おっ! 外に出てるなんて珍しいね! バンワ~!」
「ちぃ~っす!」
「ん? あ、D子ちゃんかい?」
所々に逞しい植物の芽生えによって割られたアスファルトの道路から少し離れた草むらに積み上げられた廃コンクリートブロックに腰掛けていたのはサクリファイスロッジの代表だった。
「ん? 内原さん、顔、赤くない?」
「あ! ホントだ。どしたのよ?」
月明かりの下でもはっきり分かるほどに代表の顔は赤くなっていた。かといって彼には大酒を呑む趣味は無かったとD-バスターは記憶している。
「ええ、ちょっと実験でポカやらかしましてね……」
「えっ! 大丈夫!?」
「はい。ちょっと熱いスチームを浴びたくらいです。でも、ちょっと見た目が派手ですけど軟膏を塗っておいたので大丈夫でしょう」
「そうなの?」
「ええ、でもちょっと患部が火照ってしまいましてね……」
「ああ、それで……」
サクリファイスロッジという集団、いわゆる「邪教」と呼ばれるいかがわしい宗教団体のさらにその異端者たちが群れるようになった者たちである。
当然のようにその構成員たちは社会不適合者ばかりだったが、その代表ともなればさすがに人当たりの良い人物だ。
だが彼も重度の引きこもり癖とでもいうべき悪癖があり、普段は研究室を兼ねている自室に閉じこもっての生活をしている。食事ですら部下に自室まで運ばせるという徹底ぶりで、D-バスター1号は彼がアジトの外に出ているのを見るのはこれが初めての事だった。
だが軽度だが広範囲の火傷を負ったために患部が火照って夜風にあたりにきたというのであれば納得だ。
もしくは「実験のポカ」と言う辺り、考えが煮詰まって気分転換を欲しているのかもしれない。それならば1人にしておいてほしいと思っているのかもしれないとD-バスター2人はその場を後にする。
「それじゃ、私たちは先に帰るよ」
「あんまり風に吹かれるのも傷口に毒かもよ。痛みが長引くなら診察を受けてね」
「はい。わざわざありがとうございます」
一式とともにアジトへと足を向けた1号であったが振り返る瞬間、サクリファイスロッジ代表の顔に闇に飲まれてなお赤く光る眼が3つ見えたように思えるのはアイセンサーの錯覚か、それとも月明かりの悪戯だっただろうか?
H市災対本第187号
秘等区分:注意
保存期間30年
指名特定侵略組織「風魔軍団」投降者への事情聴取の内容(一部抜粋)
以下は警察他、関係省庁からもたらされた風魔軍団構成員への事情聴取の内容の一部抜粋である。なお原本である録音データへのアクセスは資料課に問い合わせされたし。
質問者(以下「質」と表記す)「モーター・ヴァルキリー、高田××(遺族の要請により秘す)殺害の実行犯、命令者、及びその命令、作戦系統は?」
回答者1(以下「回1」と表記す)「さあ?」
質「とぼけるな。本部業務全般に携わっていた上忍である貴方なら知っているハズだ」
解1「知らんよ。アレは我々がやった事になっているのか?」
質「モーター・ヴァルキリーが貴方たちの組織を追っている事は知っていただろう?」
解1「それはもちろん。だが、たかがバイク乗り風情、いくら腕っぷしが強かろうが撒くのに苦労なんかしないさ。なんなら下忍メカを何体か目の前をうろつかせておけば、すぐにそっちに飛んで行ってたぐらいだしな」
質「それではモーター・ヴァルキリー殺害に『風魔軍団』は関与していないと?」
解1「少なくとも俺の知る限りではな……」
質「証拠は?」
解1「それはそっちの仕事だろ。むしろこっちが聞きたいね。逆に聞くが奴をやって我々に何の利益があるというんだ」
質「というと?」
解1「今はいないが昭和の時代にはヤクザって連中がいたろ? アイツらだってマトモな奴は警官殺しなんてしない。なんでだか分かるか?」
質(沈黙)
解1「警官を殺ったとなりゃお上も目の色を変えて取り締まりが厳しくなる。つまりはヤクザの連中にしたってオマンマの食い上げってやつさ。それと同じ事だな」
質「彼を殺すのは貴方たちにとっても利点が無い?」
解1「ああ、奴さんがもっとこう、我々、忍の者にとって手強い奴ならどうか分からんがな」
質「『手強い』というと××××(某ヒーロー、ヒーロー名未定のために伏せる)のような少女のような?」
解1(長い沈黙)
質「おい、どうした?」
解1「……分からない」
質「分からないとは?」
解1「何故、あんな子供を狙ったのか分からない……」
質「件の作戦の命令者は?」
解1「棟梁だ。だが本部アジトを使い捨てるような作戦を実施するような価値があるのか、それが分からない」
質「ふむ。確かにアジトの規模に、内部で発見されたカラクリメカやサイボーグ忍者の残骸からするに貴方たちはほぼ全戦力を持って××××の捕獲作戦に当ったようだね?」
解1「そうとおり」
質「君たちは営利団体のハズだ。一体、あの少女からどうやってアジトと釣り合う、もしくはそれ以上の金額を捻出するつもりだったのかい?」
解1「分からない。というよりも俺の脳味噌では不可能だな」
質「なら貴方たちの棟梁では?」
解1「分からない。当初、日曜日までは『魔力を持つ人間』という事でヤクザガールズのメンバーの捕獲を計画していたのだが、日曜の作戦の失敗により棟梁命令で対象を変更する事になったんだ」
質「つまり『魔力を持つ人間』として××××を狙う事になったと?」
解1「そう、なのかもしれないな……」
質「ハッキリしない答えだな」
解1「そりゃ、そうだろ? 俺たちは魔力なんか使えるわけもない。ヤクザガールズみたいに大手を振って『魔法を使います』と言ってる連中ならいざ知らず、誰があのガキが魔力を持っていると確認するんだ? そりゃ、あの子供が不思議な術を使うとは聞いていたがな、その力の出所があのガキかからなのか。それとも連れている悪魔やら妖怪やらからなのか俺には分からないだろ?」
質「なるほど。それでは質問を変えよう。ヤクザガールズを拉致する計画を立てた時、風魔軍団に『魔力を持つ人間』を注文した者がいるハズだな?」
解1「ああ、そのハズだ。だが、それが誰かは分からないな。棟梁か副棟梁が受けたんじゃないかな?」
質「では棟梁、副棟梁について聞こう」
解1「棟梁の姿は俺も知らない。副棟梁は鬼みたいな、いや鬼そのものみてぇな人だよ」
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