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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第36話 ベリアル死す! サクラ、怒りの閃光魔術!!
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とあるアンドロイドの一日 前編

 対大アルカナ用アンドロイド、D-バスター1号の朝は早い。


 特にやる事があるわけでもないのだが、なにしろ彼女たちが寝室にしている人型機材用ガレージの隣の部屋は防音構造となっているために元「スラッシュパンクス」のメンバーが大音量でロックバンドの練習を始めるのだ。


 彼らスラッシュパンクスとて早起きなわけではない。

 反社会的で攻撃的。商業主義に日和る前のパンクロックをさらに先鋭化させた彼らは世間様の迷惑となる事を仕事としており、この前日の深夜から特別に臭いがキツくなるように調合されたペンキで駅前の高架下に大人の落書き(グラフィティアート)の大作を描きあげ、御満悦のホクホク顔で「UN-DEAD」アジトに帰還して締めにバンドの練習をしているのだ。


 深夜なのか早朝なのか分からないような時間にノイジーな爆音で叩き起こされたD-バスターたちであるが彼らに他人の迷惑になるから止めろと言う事は魚に泳ぐな、鳥に飛ぶなと言う事に等しい。

 結局、すごすごと寝室であるガレージを後にして食堂に移る事になるのがいつもの事だった。


 この時間、テレビも放送休止中であるか通販番組を延々と垂れ流しているかで面白くもないが、さりとて他にやる事もないのでボーといつもと変わり映えしない通販番組を眺めて時間を潰す事になる。


 だが、何の気無しで本日の食事当番が書かれている表を見ていたD-バスター初号機が慌てた様子で叫び出す。


「た、大変だ~!!」

「どうしたの。こっちは本日5回目のお値段発表のリアクションを楽しみにしてるんだから静かにしてくれない?」

「いや、1回目だろうが10回目だろうが『ええ!? スゴーイ! オカイドク!』みたいなモンでしょ! そんな事より今日の朝食の当番、鉄子ちゃんだよ!」

「なに!?」


 食堂内にいた全員が一斉に椅子から飛び上がる。

 D-バスター1号、本家D-バスター、元祖D-バスター、一式D-バスターの全員が初号機の顔を見つめる。その目は恐れおののいているといった表現がピッタリとはまるほどに目は震え、心なしなアンドロイドであるハズの彼女たちの顔色が悪くなったようにすら思える。


 皆、ナチスジャパンの現代表である鉄子の作る朝食の酷さを思いだしているのだ。

 なにしろ自他共に認める「ドイツかぶれ」である鉄子の作る料理といえば大皿に茹でたジャガイモと焼いたソーセージを乗せただけの代物で、実は鉄子を始めとするナチの連中はドイツを馬鹿にしてるのではないかと思わせるほどだ。

 だが鉄子に取ってはこれが「母の味」であり「家庭の味」である。UN-DEADのメンバーの誰もが「ドイツ人だってもう少しマシなモン食ってるだろ!」と言ってやりたいのだが、悪逆非道のUN-DEADと言えどそれを口にしないだけの情けはあったのだ。

 かえってルックズ星人が作るアイスバインやグーラッシュなどのドイツ料理の方がUN-DEADメンバーに好評なのは言うまでもない。彼はレバーケーゼであちらの料理の魅力に取りつかれてネットでレシピを調べてはメンバーへ振る舞っているのだ。


「……どうする?」

「朝食は1日の始まりの活力源。皆、イモとガチガチに焼いたソーセージじゃ力が出ないよ!」

「なら鉄子ちゃんが起きてくる前に私たちで作ってしまうか……」

「それがいい!」

「おい! 元祖と本家は魚市場で干物を買ってきて! 一式と初号機は何かコンビニで色々とみつくろってきて! 私はご飯を炊いて味噌汁を作るから!」

「「「「了解!」」」」


 まだ日の上らない時間といえども魚市場はすでに開いている時間であるしコンビニは24時間営業だ。

 D-バスターシリーズたちは2輌のⅡ号戦車L型を駆ってアジトを出発していく。

 1号も宣言通りに鉄子が起きてくる前に白米と味噌汁の用意を終わらせようと行動に移すが何しろ200名以上の人員の朝食である。米を研いで炊飯器のスイッチを入れるだけなら簡単だが、問題は味噌汁の方だ。

 結局、1号は騒音パンクロッカーたちに手伝わせて朝食を作ることにした。反骨精神が旨のパンカーたちも鉄子の作る朝食には飽き飽きしていたために率先してレザーのパンツやジャケット、機能的な必要の無いチェーンの上にエプロンを付けて厨房に駆け込んでくる。三角巾も頭に巻いているがモヒカンヘアやスキンヘッドに三角巾を巻くのは意味があるのだろうか?


(んと、これなら何とかなりそうかな?)


 1号の計算では魚市場に買い出しに行った同僚の方が先に帰ってくるハズである。コンビニ1軒に置いてある納豆や温泉玉子、野菜サラダなどでは200人以上の分量を賄う事はできずに何件も梯子しなければならないからだ。

 魚市場班が帰還したら急いで干物を焼き始める。干物ならば下拵えが不要ですぐに焼き上げるハズ。

 そうこうしている内にコンビニ班も帰ってくるハズで、もしそれで足りなければ鉄子が用意していたソーセージでも焼こう。


 こうしてD-バスター1号の朝は慌ただしく始まる。




 朝食の後、D-バスター1号は「Re:ヘルタースケルター」の改造人間の健康診断の補助をして過ごしていた。


 Re:ヘルタースケルターはその名の通りにヘルタースケルターの後継の組織で、「最初のヒーロー」とも呼ばれるマスクドホッパーを造ったヘルタースケルターも当然だが最初期の侵略組織である。

 当然、人体改造手術も不完全な部分が多く、後継組織であるRe:ヘルタースケルターの技術も大幅な技術力の向上はあるものの根本的な部分では不完全なヘルタースケルター式の理論から脱却できていない。


 そのためRe:ヘルタースケルターの怪人たちは他の組織の改造人間と比べてマメなメンテナンスが欠かせないのだ。


「ライノグレネードさん、交換したコンデンサーの調子はどうですか?」

「ああ、さすがに異星の技術で作られたパーツはよく馴染むね」

「それは良かった」

「でも今度は脳味噌の中でなんかがコイル鳴きしてるような気が……」

「それじゃ先生に診てもらう前に頭部のCTを撮ってからにしましょうか」

「分かった。いつもすまないなぁ……」


 サイのように頑健な肉体と頭部、両腕には多砲身型のグレネードランチャーを取り付けられた改造人間がペコリと頭を下げる。


 人間の姿と怪人の姿を行き来できる改造人間はよほどのハイエンド機か特殊用途の機体のみ。

 彼のように動作停止するまで怪人の姿で生きていかかなくてはならない者は身体的な健康ももちろんだが精神を病む者も多い。

 UN-DEADに参加しているような組織が壊滅状態になってからも長年に渡って地下に潜伏している者は特にその傾向が強いそうだ。

 そこでUN-DEADの取り纏め役であるルックズ星人はこれまで以上にマメにメンテナンスを行う事で彼らが「必要とされている存在である」事を言外に伝える方法を取っていた。


 D-バスター1号も凶事に使われるために造られた改造人間たちが人間的な表情を見せてくれるこの仕事が好きだった。


 その後は昼食。

 食堂で先ほど検診の手伝いをしたライノグレネードと顔を合わせるとデザートの自家製杏仁豆腐をそっと1号のトレーの上に乗せてくれた。




 午後になると基本的に彼女は暇になった。


 何やら近頃は大きな計画を進めているようで平常の訓練が取りやめになる事も多いし、遊びにいこうにも石動誠は高校があるし、子羊園の小さな子たちだってまだ学校が終わる時間ではないのだ。


 暇を持て余した彼女は同じく手持無沙汰の同僚たちと「正義の味方ごっこ」を始めた。

 ルールは簡単。

 警察無線を傍受して事故や事件があったら現場に急行。人命救助や事件の収束を本職の連中が来るまでに終わらせて逃げるのだ。


 この遊びは良心が痛まないし、助けられた人々が「一体、誰が?」と訝しむ所を想像してほくそ笑む楽しみもある。しかもD-バスターシリーズには冷却器の能力不足によるリミッターという制限があるためにスリリングな遊びでもある。

 UN-DEADの上層部も彼女たちの遊びをヒーローたちの収入源を断つのに丁度いいと認めていた。


 この日も神奈川方面へのバイパス道路にて発生した玉突き事故へ“本家”と“元祖”を派遣し、“初号機”を専任のオペレーターとして当らせ、また1号は警察無線の傍受に戻る。


 だが、この日は事件も事故も少なく、そろそろ外に遊びに行こうかと思った1号の声に聞き覚えのある単語が飛び込んできた。


 《H警管制より各車、児童養護施設「子羊園」より通報。シスターが「風魔軍団」に拉致された模様》


 その無線を聞くや否やD-バスター1号は通信室から駆け出していた。

「正義の味方ごっこ」などと言っていられる場合ではない。

 慌てて追いかけてきた一式D-バスターとともにガレージで埃をかぶっていた車両に飛び乗り、子羊園に向けてアジトを飛び出す。

ドイツ人だってイモと腸詰ばかり食ってるワケないだろ!

いい加減にしろ!


ビールもないとね!(ニッコリ)

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