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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第36話 ベリアル死す! サクラ、怒りの閃光魔術!!
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デモンライザー サクラ対風魔忍者軍団 3

 子羊園のあるH市西部の市街地、ZION(ザイオン)ショッピングモールなどがある新国道近辺の郊外新興地域。その間に位置する僅かばかりの田園地帯。


 平成の初期には大型機械の導入のための区画整理がなされていた田園地帯は機能的な碁盤の目状に水田が並んでいて、その中央には小さな丘が残されており、そここそが風魔軍団が指定してきた古神社のある場所だった。


 参道の石段を前にして咲良は周囲を見渡す。

 田植えの時期を前に遠くに見える田んぼではトラクターがゆっくりと水かきをしているところだった。空にはトンビが悠々と旋回している様子も見られ、遥か遠くに霞んで見える都会の喧騒とはかけ離れたのんびりとした風情ある光景と言っていい。


 この先の社に忍者組織のアジトがあって、罪の無い修道女が捕らえられているなどと誰が信じるだろう。

 いや、忍者なんてモノはいると思えばいない、いないと思えばいるものと考えれば一見、のどかに見える田園風景のどこに敵の目があるものか分かったものではない。

 咲良もしばらく石段の前で逡巡していたものの、やがて意を決したのか神社を目指して登り始めた。


(……ん? 三味線?)


 苔生して土埃で真っ黒になった石段を1歩、足を踏み入れると咲良の耳に三味線の音が響いてくる。

 それまでは一切、聞こえてこなかったところを考えると指向性スピーカーが仕掛けられているのか、それとも咲良が領域に踏み込んだのを隠しカメラか何かで確認して演奏を開始したのか。

 いずれにしても風魔の仕業に違いない。


 津軽三味線の早弾きのようなどこか物悲しい調子でありながら勇壮な曲調だった。

 1歩、また1歩と石段を登っていく咲良もつい気が大きくなって周囲の警戒がおろそかになっていた事に気付く。


(いけない、いけない……)


 魔杖デモンライザーこそ手にしているものの、河童やベリアルたちはライザーカードに戻している。1人で来いと敵が要求してきている以上しょうがないとはいえ今の咲良はただの女子中学生だ。学校帰りのままのセーラー服では身を守るには裸も同然。1枚の手裏剣ですら咲良の人生を終わらせるに十分な威力を持つ。

 本来ならば警戒してやり過ぎという事はないハズ。

 それなのに咲良は周囲の雑木林が不意に揺れるのにも構わずに三味線の音色に誘われて急ぐように石作りの階段を登っていった。


 もしかするとそれが風魔の狙いなのかもしれない。

 三味線の音色で気は急ぎ、心の奥では警戒しなければと焦燥感がつのる。

 その心のアンバランスは咲良の精神を擦り減らし、どこかで致命的なミスを誘うかもしれないのだ。


 心細くなった咲良は右の腰に付けたカードホルダーに手をやった。

 河童ののほほんとした顔、ツチノコの泰然自若とした表情、座敷童の小さな体からあふれ出るような闘志。そのいずれかを見る事ができれば勇気が湧いてくるだろうと思う。

 あるいはベリアルのあの笑顔。

 あの悪意で塗り固めたような笑顔を見れば身も心も引き締まるだろう。


 やがて石段を登りきるとそこには咲良の記憶通りに古い神社があった。

 枯れた手水場に屋根の落ちかけた本殿。

 咲良が近づくと入り口脇の石作りのように思われた狛犬がクレイアニメのように動き出して咲良を威嚇する。だが、すぐに攻撃しようというわけでもないようで2体の狛犬は咲良が通り過ぎた後の参道を塞ぐように動きを止めた。

 咲良が逃げる事も邪魔が入る事も許さないというつもりだろうか。


 さらに咲良が本殿へ歩を進めると音も無く1人の忍者が現れる。


「!?」

「長瀬様ですね。お待ちしておりました」


 長身の忍者。

 黒い忍者装束にキツネ面。

 痩身であるようだが、ハイ・ケプラーの鎖帷子からのぞく筋肉は引き締まっている。


「シスターは!? シスター智子は無事なんですか!?」

「はい、それは勿論」

「シスターを返してください!」

「生憎は私は長瀬様に説明するよう申し付けられただけですので……」


 目の前の忍者は慇懃な姿勢を崩さなかったものの付け入る隙は見当たらない。

 恐らくは日曜に出会った魔法少女と戦っていた中忍(指揮官級)よりも遥かな高みにいる技前であろう。


「シスターは我々の棟梁の元におります」

「では棟梁さんとやらはどこに?」

「本殿に入るとすぐ右手側に階段があります。棟梁とシスターは地下4階に、また地下1階から3階までは我々の精鋭が長瀬様とお連れ様を歓迎する用意をしてお待ちしております」


 今、確かに目の前の忍者は「お連れ様」と言った。咲良は誰も連れてきていないのにだ。

 デモンライザーの事も知られているという事だろう。


「お連れ様?」

「ええ。我々としましては“お連れ様”を含めた長瀬様の実力を知りたいのです」

「……分かりました」

「それでは、どうぞごゆるりと……」


 忍者に促されて咲良は本殿の中に入る。

 後ろ手で軋む木戸を締めながら4枚のカードを手に取り、次々と仲間たちを呼び起こしていく。


 《RISE! 「カッパ」! 「ザシキワラシ」! 「ツチノコ」! 「ベリアル」!》


 電子音声とともにカードから馴染みの顔があらわれて咲良はホッとした表情を見せた。

 核弾頭に等しい危険物(ベリアル)とて、このような状況においてはこれ以上ないほど頼りになる心強さだ。


「ん? ここかいな? トモちゃんはどこに?」

「えと、そこの階段を下った先の地下4階らしいんですが……」


 河童に答えて咲良は忍者に教えられた通りに階段を指し示す。

 板張りの本殿の床を剥がしたそこには地下へと続いていく階段があった。


「地下4階まで待ち受ける敵を倒していけって事かいな? ベタやなぁ~!」

「面倒だなぁ~! ん? そこにエレベーターあるじゃない?」

「あ、駄目ですよ。多分、アレ、パスワードとか入力しないといけないやつです」


 ベリアルが指し示した先には確かにエレベーターと思わしき扉が。しかしすぐ脇の壁面に取り付けられているコンソールにはテンキーが取り付けられており、通常のエレベーターのような上下のマークや階数を表示するボタンは見当たらない。


「大丈夫、大丈夫! 任しとき!」


 だが河童は座敷童の手を引いて壁面コンソールの元まで行き、座敷童の両脇に手を入れて持ち上げる。

 河童に持ち上げられてコンソールに手が届くようになった座敷童は特に考えた様子もなく適当にテンキーを何回か押すとチン! という音がなってエレベーターのドアが開いた。


「ハハ! やるじゃん!」

「ベリアルはんはガイジンさんやから知らんかもしらんけど、座敷童は『幸運』の妖怪でもあるんやで?」

「えぇ……」


 困惑する咲良を尻目に河童と座敷童、ベリアルはとっととエレベーターに乗り込んでいき、ツチノコも少し遅れてビタン、ビタンと跳ねながら乗り込む。


「ほれ! サっちゃんも行くで?」

「……いいのかなぁ」


 ゆっくりと咲良がエレベーターに乗り込むと内部は普通のエレベーターでB1からB4までの階数表示のボタンがあった。


「ほな、地下4階やったな! 押すで~!」

「……は~い」

意外! サクラ階段スルー!

理外の階段スルー!

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