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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第36話 ベリアル死す! サクラ、怒りの閃光魔術!!
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デモンライザー サクラ対風魔忍者軍団 2

《招待状 長瀬咲良殿

 初夏の候、貴殿におかれましては益々御清祥のこととお慶び申し上げます。さて、昨日は弊社の者が貴殿に対し甚だしいご迷惑をおかけした事、誠にお詫び申し上げます。つきましては互いに雌雄を決するため、弊社に貴殿をお招きしたく存じ上げます。貴殿がこちらで心細い思いをしないようにすでにそちらの修道女を1名、早速ながらご招待いたしているため、是非、御1人でお越しくださいますこと弊社従業員一同お待ちしております。 風魔軍団副棟梁》


「……こ、これは……」

「なんやコレ? ビジネスマナー書に載っとる手紙の例文をちょちょっと書き換えただけの“果たし状”やんけ!」


河童の言うとおり、どこかチグハグな印象の文面に記されていた内容は「招待状」とは言い難い。それどころか自分たちのフィールドに引き込んで有利な状況を作ろうと目論んでいるのが透けて見える辺り「果たし状」とも思えない。


矢文には“招待状”の他、1枚の地図が添えらえている。

その地図が指し示していたのは子羊園の南、田園地帯の傍にある古い神社であった。

咲良の記憶ではその小さな丘の上にあった神社は古く、長年に渡って放置されていたような荒れ具合であったように思える。

丘には鬱蒼とした雑木林が茂っていて見通しは悪く、さらに周囲に広がる田園は近づく者の監視にうってつけだろう。

ただでさえそうなのに敵は忍者の集団。どんな手を使ってくるか分かったものではない。


(ここは指示通りに1人で行くべきでしょうね……)


もし咲良が行かなかったら、あるいは1人で行かなかった場合に人質に取られているシスター智子がどうなるかなどは“招待状”には書かれていない。一々、書く必要も無い分かりきった事とでもいうつもりか?


「それにしてもおかしいですね……」

「何がです?」

「『風魔軍団』というのは営利目的の忍者集団のハズです。それがいくら昨日、邪魔をされたからといって、わざわざ咲良ちゃんを的にかけるだなんて1円の得にもならないじゃあないですか」


園長先生の言う事ももっともだと思う。という事は風魔軍団は咲良を捕らえる事で利益を得る算段があるという事なのだろうか?

咲良自身、両親の保険金や遺産など僅かばかりの財産は持っているものの、それとて大した金額ではないのだ。とても営利誘拐という成功率の悪い犯罪の対価に見合うとは思えない。


他に風魔軍団が欲しがりそうなものと言えば魔杖デモンライザーとその付属品、あるいは咲良と共にいる河童やツチノコ、座敷童などの妖怪が目的か?

ベリアルも世界的な知名度からすれば有り得ない話でもないが、それでもベリアルは大悪魔。デモンライザーの制御無しでは無制御の核兵器と大差無いように思える。


「河童さんたちが目的か、それともデモンライザー込みでベリアルさんを手に入れるのが目的か……」

「ん、なんや? ワイらを捕まえたってなんもオモロないやろ?」

「座敷童ちゃんはともかく、カッパさんとツチノコさんは捕まえたら賞金出してくれるトコがありますよ?」

「なんやと!?」

「たしかカッパさんは岩手県、ツチノコさんもどこかで……」

「それにしても賞金なんて数百万円程度のものでしょう? とても忍者が動くような金額には思えませんが」


確かに数百万円という金額は咲良たちにとっては大金でも、多数のカラクリメカやサイバネティック忍者ソルジャーを抱える風魔軍団にとっては運営資金の足しにもならないだろう。

やはり目的はデモンライザーかベリアル、もしくはその両方だろうか?

咲良は自分こそが目的だとは露ほどにも思っていない。


「お~い! 御主人様、テレビ空いたよ~!」


敵の目的について話し合っていると出窓からベリアルが出てくる。

それが合図だったかのように園長先生は話を切り上げる。


「シスター智子の事は警察とヒーローに任せましょう。私は通報してきますから、咲良ちゃんも自重してくださいね?」

「そんな! それじゃシスター智子は……」

「彼女も主に命を捧げた身です。いざという時の覚悟はしてもらわねばなりません」

「でも!」

「敵が何を考えているか分からない以上、最悪の事態を想定しなければなりません」


園長は「教育者」ではなく「戦闘員」としての目で咲良を見ていた。

熱く鍛え抜かれた鉄のような眼でもあり、氷柱のような冷たさを感じさせるような眼だ。


思えば園長は咲良が「エクソシスト」になりたいと言っても肯定も否定もしなかった。

咲良が自身の後進の道を選ぶと言ってもただの1度もスパーリングを行なった事などはない。ただ普通に生きていく上でも役に立つであろう体の作り方を教えてくれていただけだ。それは中学校や高校の部活で自主練をしている者にも行っているような差し障りのないメニューだった。


だが今は違う。

ハドー総攻撃のような子供たちの身に危険が差し迫っているわけでもない状況で、園長先生は元エクソシストとして明確に咲良がこれ以上に首を突っ込む事を拒絶している。

そういう眼だった。


「その杖とベリアルさんが悪しき心の持ち主の手に渡った時の事を考えてください。……それでは」

「ん~、御主人様、何の話をしているんだい? ……っと!」


屋内へ向かおうとする園長先生。出窓からサンダルを履いて咲良たちの元へ向かおうとするベリアル。

その2人がすれ違おうとしたその瞬間、ベリアルは突如としてターンを決めるように体を回して園長先生の細い首に手刀を叩き込む。


ベリアルだけではない。

姿勢を崩した老シスターを河童と座敷童が抑え込み、屋内からはガムテープを咥えたツチノコがびょんびょんと跳びはねてくる。

たちまち園長先生はベリアルの慣れた手付きによってガムテープでグルグル巻きにされてしまった。


「後は口も、っと!」

「ベリアルはん、口に直接ガムテ張ったら剥がす時エラい事なるやん? タオル噛ませとこ」

「ハハ! そんな事を考えてっからハゲんだよ! でも気にいった!」

「ハゲちゃうわ!」


カッパの提案通りに口元はタオルで縛ってからガムテープで巻き、両足もガムテープで縛ってからベリアルと河童は園長をキッチンスペースの隅っこの方へと隠す。


「すいません。園長先生、私、シスター智子を助けたいです。今まで一緒に過ごしてきた家族にも等しい人を見捨てたりなんかしたくありません」

「…………」


園長先生の目は咲良を非難するようなものではなかった。

ただ憐れむような、慈しむような目を向けていたのだ。


「夕飯の支度の時間になったら他のシスターが見つけてくれると思います。その時には警察の他にもアーシラトさんに連絡をお願いします」


ベリアルへの対抗戦力(カウンター)であるアーシラトに連絡を求めるというのは、デモンライザーとベリアルを敵に奪われた状態、即ち自身の死という結末を想定した頼みであったが無論、咲良には黙って殺されるつもりはない。

悪の忍者組織のアジトに乗り込む以上、どのような罠が待ち構えているか分からない。

だが魔法が「不可能を可能にする手段」だというのなら、待ち受ける死の運命ですらねじ伏せてみせる。


咲良はゆっくりと仲間たちを見渡してから言葉もなく頷いた。


デビルイヤーは地獄耳!

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