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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第35話 デモンライザー サクラ
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幕間 べりあるさん おわり!

 とある金曜の夜。

 咲良は河童と座敷童と古新聞の処理をしていた。


 学校の小学生組の課題などで切り取られた新聞は回収に回し、綺麗な物は生ゴミを包むのに使うために分別する。


 子羊園では基本的には子供たちの生活の面倒はシスターたちが見てくれている。だが将来の生活に困らないように手伝いという形である程度の仕事が割り振られているのだ。

 古紙の回収に回す古新聞は専用の紙袋に入れてテープで口を塞ぐだけでいいのだが、咲良が右隣で作業している河童を見ると紙袋にパンパンになるまで新聞を詰めていた。


「カッパさん?」

「ん、どないした?」

「古紙の回収の時に私たちがいるとは限らないんですから、その、子供やシスターでも持てる重さに……」

「ああ、入れすぎか。スマン、スマン!」


 大体、紙袋の7分目あたりが適量だろうか?

 自分で持って確かめたりしながら作業を続けていると、1枚の折り込み広告が咲良の目に留まった。


 鮮やかなカラー印刷のそれは大手ファミレスのチラシだった。


「ん~、ベリアルさん?」

「なんだい?」


 咲良は作業をしている面々を尻目にソファに寝転がっているベリアルに声を掛ける。

 ソファのひじ掛けに頭を乗せたまま読んでいるのはマンガ本。これは子供たちに「怠惰」を教える立派な悪魔の仕事らしい。もっとも、その割には熱心に読んで時折、溜め息をついている辺り仕事は楽しむタイプらしい。


「前にベリアルさん、トリュフが好きって言ってたじゃないですか?」

「うん」

「もしかして、そのトリュフってチョコレートじゃなくてこっちでしたか?」

「んん~、ってそれ、ハンバーグじゃない?」

「でも、これ……」

「ああ……」


 咲良が指差したところには「期間限定! トリュフソースハンバーグ」の文字が。

 かつてベリアルを召喚した厨二病患者(サタニスト)などは有り余る金に任せて料理が見えないほどのトリュフスライスでベリアルをもてなそうとしていたが、チラシに載っているハンバーグの写真にはトリュフとおぼしき形すら見えない。

 当然、大した事はないだろうと気乗りしないベリアルだったが、カッパと座敷童は興味津々といった感じでチラシを眺めていた。


「これがね~……」

「こないだのハドーの報奨金、まだ残ってますし、明日の昼にでもどうですか?」

「世話になってんだから孤児院なり教会なりに寄付したらどうだ?」

「私もそれは考えたんですが、園長先生が受け取ってくれなくて……」

「ええやん? 命の洗濯も大事やで?」

「そうですよね? たまにの話ですから、ベリアルさんも是非!」


 できれば、その分、チョコレートをくれればいのにとも思ったが結局、咲良と河童、それに無言の座敷童のジト目に押し切られてしまう事になった。




 翌日の土曜日、4人は近所のファミレスに来ていた。ツチノコはカードの中だ。

 ツチノコは今まで何も食べていなかったが、そもそも妖怪は飲食を必要としない者もいるのかもしれない。もっともツチノコがUMA(未確認生物)だとしたら生物である以上、食事をしないというのは異常な事であるが、デモンライザーが「霊的な存在をカードに封印する」物である以上、やはりツチノコは妖怪なのだろう。


 席に案内された一行はお目当てのトリュフハンバーグセットを注文し、咲良と河童がドリンクバーを取りに行く。

 その後、カッパは隣に座った座敷童の着物を摘まんでしげしげと見ていた。


「最近は和服を着とる子も少ないせいかな~! ウェイトレスさん、めっちゃ驚いとったな!」

「いや~、それは……」

「お前のせいだよ! カッパハゲ!」

「ハゲちゃうわ!」


 いつも通りのやり取りをしていると、ふと咲良は思いついた事をベリアルに聞いてみる。


「そういえばこの杖って霊的な存在なら妖怪でもカードにできるのに、何で“デモン”ライザーって言うんでしょう?」

「ああ、そりゃあ、元の持ち主のデッキが悪魔ばっかだったからそんな名前になったんじゃないか?」

「ああ……」


 納得はしたものの、それはそれで凄い話だと思う。

 咲良の知っているアーシラトにせよベリアルにせよ悪魔とカテゴライズされる存在は総じて癖が強い。

 悪魔ばかり仲間にしていたという杖の元の持ち主とやら、悪魔の我の強さを受け入れる聖人だったのか、それとも悪魔以上の変人だったのか。

 聞いたらベリアルは答えてくれるだろうか?


 だが、そうこう考えている内に4人の前にハンバーグセットが運ばれてくる。

 メインのハンバーグと付け合わせが乗った鉄板にライス、サラダ、スープという至ってありきたりのセットメニューだ。


「お! 来た、来た! ほな、明日の前祝いや! 熱いウチに食べようや!」

「ん? ああ、明日、寺にいる天使に力を借りに行くんだっけ?」

「ええ、とは言っても向こうはお寺で修行中みたいですし、アーシラトさんみたいに『力だけを借りた』カードになりますけど……」


 存在自体を封じ込めたカードではなく、未だに使用方の分からない「力」のカードであったが、あっても困る事はないだろうという河童の説得で明日の日曜は市内の寺に行く事にしていた。


「でも、お土産とか持ってった方がいいでしょうか?」

「せやな~。でも、何がええんやろ? ベリアルはんは知ってるか~?」

「ああ、適当なモンで大丈夫だよ」

「適当なって……」


 料理を食べ始めながら話を続けていく。

 咲良とベリアルはナイフとフォークで、カッパは箸で、座敷童は先にナイフとフォークで切り分けてから箸で食べていくらしい。


「その代わりと言っちゃなんだけど、あそこにいる天使は『力が欲しいなら力を見せろ』とか馬鹿みてぇな事を言い出す奴だからなぁ」

「じゃあ、ベリアルさんにお願いしていいですか?」

「ん、私? いいけど、寺に私みたいな悪魔を引き連れて行ったら向こうはどう思うかな?」

「ああ、そっかぁ……」


 付け合わせのポテトにフォークを刺したまま咲良は固まってしまった。


「私は駄目だけど、カッパハゲでいけるんじゃない?」

「ハゲちゃうわ!」

「え、でも、お寺にいる天使って結構な有名な方なんですよね?」

「大丈夫、大丈夫! 向こうが『力を示せ』的な事を言ったら間髪入れずに『オッシャ!』とか言って相撲に持ち込めば向こうは断れないから!」

「えぇ……」

「向こうは4大闘魂天使の1柱、挑まれた勝負は拒めやしないさ! 河童も相撲は得意だろ?」

「任しとき! 相撲なら負ける気せぇへんわ!」


 なるほど、こちらの得意な勝負に持ち込めばいいのか。

 それに河童は妖怪ゆえか怪力なのに咲良よりも背が低いため重心位置が低く、頭部が異様に大きいために頭が邪魔してマトモに組合う事は困難だ。向こうにとって相撲は不利な勝負といえよう。

 まさに「悪意」の悪魔ベリアルの面目躍如といった感のある作戦だった。

 ………………

 …………

 ……


 昨日はファミレスに行こうと言われても気乗りしていなかったベリアルだったが、存外に食事を楽しんでいた。


 トリュフはソースに入っているらしいが形は見えず、特徴的な香りも微かにしか感じ取れない。実際にトリュフを食した事がある者でなければこれがトリュフの風味だと分からないのではないだろうか?

 だがトリュフはともかく、下品なまでに脂の滴るハンバーグに濃厚な味のソースは白米との相性は抜群で大して期待していなかったハズのべリアルを喜ばせていた。


 だが、1つだけ我慢できない事がある。

 サラダだ。

 至って変哲の無いガラス製の小鉢に盛りつけられたサラダに入っている具材に1つ気に要らない物があったのだ。


 青臭く、味なんかしないのに青臭さだけを持った野菜だか果物だか分からないモノ。

 なるほど、スライスしたその具材があれば少しは見た目も良くなるのだろうが、かといって食べようとは思えない。

 周りを見れば咲良や座敷童は気にしないで食べているし、河童はすでに食べきっていたようだ。


 主のような孤児ならば食べ物を大事にするのだろうが、生憎とベリアルは悪魔だ。美味しくもない食べ物を大事にするつもりはないし、かといってただ残したのでは負けた気がする。

 結局、ベリアルは自分が食べれないサラダの具材を他者に押し付ける事にした。


「カッパハゲ」

「なんや?」

「これ、やるよ」

「へっ?」

「知ってるか? イギリスって国じゃあ昔、コイツを冬でもサンドイッチにして食べられる事が裕福の証だったんだな~!」


 河童の返答を待たずにフォークで持ち上げた“青臭いモノ”を河童のサラダ皿に放り込む。

 その様子を見て河童も咲良も座敷童も信じられないモノをみるような目でべリアルを見つめていた。


「あ、ありがとナス! ほな!」


 しかし、いつも以上に目を丸くしていた河童は自分のハンバーグの手の付けていない所を半分ほどベリアルの皿に移した。


「えっ!?」

「ベリアルさん、意外と優しいんですね!」

「…………」


 咲良は慈しむような目でベリアルを見ていたし、座敷童も朗らかな笑顔で「うんうん」と頷いている。

 そして当の河童は満面の笑顔で“青臭いモノ”を食べ始めていた。


 外国生まれ外国育ちのベリアルは知らなかった。

 河童が青臭いだけの野菜、キュウリが大好物であるという事を。

日常回は終わり! 閉廷!

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