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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第35話 デモンライザー サクラ
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35-10

 その後、咲良たちは老シスターと合流して避難先である大H川中学校に到着した。


 中学校の体育館で子羊園の面々が無事であろ事を喜んでいると、咲良の元へ高校生くらいの男性がやってくる。

 背が高く眼鏡の奥の眼光が鋭い男だった。


 彼は咲良に自分のスマホを渡し、アーシラトに連絡を取ってくれるように頼みこんでくる。

 なんでも市内全域ドエラい騒ぎだというのにアーシラトと連絡が取れないそうだ。


 だが咲良が暗記しているアーシラトの電話番号にかけると長い呼び出し音の後で普段よりも不機嫌そうに低い声のアーシラトが応答する。


 咲良の知る限り、どう考えても二日酔いの時の声だった。

 咲良もここ数年の付き合いでアーシラトの扱いには慣れたものだったので上手く宥めすかして協力を取り付ける事ができた。


 眼鏡の男にスマホを返して首尾を報告すると、男の表情が緩んでホッとした顔を見せた。

 てっきり常に氷のような冷たい表情をしていると思っていた咲良にとっては意外な事のように思える。もっとも男は他にも連絡を取らねばならない者がいるのかすぐに仏頂面に戻ったのだが。


 その様子を見てシスターたちの中には「さすがアーシラトの巫女」などと言う者もいたが、咲良にとっては愚図る子供をあやすのも二日酔いの大人を宥めるのも大して違いが無いというだけの話だ。




 後に「ハドー総攻撃」と呼ばれる事件はその日の午前中には大勢が決し、翌日には子羊園に帰る事ができた。

 幸い、至る所で起こっていた火災も子羊園とその周辺には及んでおらず、少々の不便を除けば普段通りの生活に戻る事になる。特怪災害になれたH市民にとってこの程度の事件など数年に1回はあるような物なのだ。


 そこで河童がもってきてた白イタチ獣人の死体をどうしようかという話になり、咲良が何の気無しで「冬用の帽子でも作ろうか?」と言ったところ、河童と座敷童にドン引きされたり、逆に腹を抱えて笑うベリアルには気に入られたりという事があったが、少しずつ咲良も日常へと戻っていく。






「何か考え事をしとる顔やの?」

「考え事というか、思い出していた、って感じですかね……」


 河童と座敷童を引き連れて咲良は子羊園への帰路を歩いていた。


 あの「ハドー総攻撃」からもうすぐ1ヵ月。

 すっかりといつもの生活を取り戻した咲良は日曜日の今日、朝から市内の寺に出かけた帰りに魔法少女と忍者との戦闘に首を突っ込んでいた。

 その後、皆と河川敷でコンビニで買ったオヤツを食べて休憩し、座敷童にスポーツ新聞のエロ記事を見せつけてからかうベリアルをカードに収納。ついでに肥満体のために動きにくそうなツチノコもカードへ戻し、3人はのんびりと歩いていた。


 テレビの気象情報では「今年の夏は冷夏だ」と言っていたが、とてもそうとは思えない汗ばむ陽気だ。

 ハドー戦の時の報奨金で子羊園に設置してもらったエアコンの冷気が恋しいので、3人とも言葉は少なく、かといってあまり急いではそれこそ汗だくになってしまう。


「座敷童ちゃんは暑くない?」

「……」


 咲良の言葉に座敷童は着物の裾をはためかせてみせた。

 裾から外気が入って蒸れずに意外と涼しいのだろうか?

 まぁ、もっとも全裸の河童ほどではないだろうが。いや、逆に日光が全身に直撃して暑いのかもしれないのだが。


「今年の夏も暑くなりそうですねぇ……」


 その言葉を最後に3人は再び言葉を無くして歩いていく。


 話もせずに歩いていると色々な事を考えてしまう。


 良い事だってある。

 先のハドー戦から咲良はベリアルへの忌避感が薄れてきている事に気付いていた。

 あの日、咲良たちの命をベリアルが救った事は確かであるし、それにベリアルに「飛べ」と命じた時、手にした杖「デモンライザー」を通じて咲良は自分の“力”が抜けていくのを感じていたのだ。

 それは軽い脱力感のような感覚をもたらすもので、その結果、ベリアルはかつてアーシラトと戦った時にも見せなかった翼を広げて大空を飛んでいた。


 あの力は咲良が命じた結果だ。

 そのベリアルを咲良が否定することは自分にとっても彼女にとっても悪い事のような気がした。

 自分が命じた結果である以上、いたずらに嫌悪するのではなく、きちんと向き合わねばならないのではないだろうか?

 そう咲良は感じていた。


 考えなければならない事はまだある。


 魔杖デモンライザーの付属のカードには河童やベリアルのように存在そのものを封じる事ができる。

 だが、霊的な存在から借り受けた力だけをカードにする事もできるようで、咲良の知己であるアーシラトに頼んでみたり、今日も市内の寺にいる天使だか天部だかに力を借りに行ったのだが、そのカードの使い方がさっぱり分からないのだ。


 存在そのものを封じているわけでもないのでカードリーダーに読み込ませても“力”は空中で霧散してしまうばかりでどうにも使う事ができない。


 どうやらデモンライザーにはまだ咲良の知らない使用方があるらしい。


 退魔士(エクソシスト)を目指しながらも悪魔を使役して戦う少女の進む道は未だ前途多難といえよう。

以上で第35話は終了となります。

幕間をはさんでから第36話は

「デモンライザー サクラ対風魔忍者軍団」

「POWER RISE!」

「サクラよ 亡き戦友とものために哭け」

の3本立てとなっておりま~す!


それでは! じゃん! けん! ぽん(グー)!

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