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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第35話 デモンライザー サクラ
231/545

35-8

「え~……。っというわけで第1回チキチキ作戦会議~!」

「わ~……」

「……」


 咲良の言葉に河童と座敷童が音の出ない程度に拍手をしてみせる。


 3人は路上に駐車している背の高いミニバンの陰に隠れていた。

 その先の開けた交差点では子羊園の園長である老シスターが2体のハドー怪人と戦闘の最中。


 子羊園と近隣住民たちの避難場所である大H川中学校から救援のために魔法少女のチームが飛来してすでに他の面々は避難を再開していた。

 だが避難民の人数が人数なので3人の魔法少女たちでは老シスターの救援までは手が回らず後回しとなるという。そのために咲良は河童と座敷童とともに来た道を戻っていたのだ。


 周囲には20体近い戦闘ロボットの残骸が散らばり、咲良がそっと自動車の陰から顔を出して戦況を確認すると2体の、白と黒のイタチ型のように思われる獣人は老シスターを中心にして挟み込むように前後に位置している。


 シスターの前にいた黒イタチ怪人が歯を剥き出しにして「キシャア、キシャア」と声を上げて襲いかかった。

 それと合わせるように後ろの白イタチ怪人も飛び掛かるが、間を外すように前の黒イタチ怪人はシスターの直前で小さなバックステップを行なったために白イタチ怪人の方が先手となる。


 姿勢を落として地表スレスレの位置から爪を振るい老シスターのアキレス腱を狙う。

 老シスターは軸足を中心に素早く体を回す、その勢いで白イタチ怪人の腕にローキックを浴びせて軌道を逸らさせる。

 まるで背中に目が付いているかのような的確なタイミングに思わず咲良は息を飲む。


 さらにタイミングをずらして襲いかかってきた黒イタチ怪人に対して再び体を回し、今度は袈裟切りのように振り下ろされる腕をハイキックで迎撃。

 だが限界まで姿勢を落としていた白イタチ怪人とは違い、黒イタチ怪人は倒れない。

 すでに爪を使う距離ではないと判断したのかそのまま殴りかかってきた獣人の拳をシスターは両腕を十字に交差して受け止めた。

 その鈍いが周囲の燃え盛る劫火に負けずに響いてきた肉を打つ音に咲良は背を竦ませる。


「園長先生、やるやん? てか、あの音、シスターの腕は大丈夫なんか?」

「先生の腕にはインベーダーズ(侵略者由来の)・チタニウムの補強が入っていますから……」

「それでも全身が強化されてるわけやないんやろ?」

「はい。だから早く何とかしないと……」


 そもそも老シスターが腕に補強を入れる羽目になった元凶というか犯人は勝手にお腹を痛くして、とっととお休みモードに入っていたわけだが。


「カッパさんってあの怪人の1体でも引き受けられませんか?」

「無理やな! あの動き、がっつり組み合ってはくれそうにないわ」

「座敷童ちゃんの毬で隙を作っても?」

「どやろ? それで組んでも1ぺん、剥がされたらそれで御終いの分の悪い賭けやで?」


 確かに河童は相撲を好むというし、子羊園の手伝いをしているのを見るに中々の怪力を持つようであった。

 しかし、その怪力がどれほどハドー怪人に通用するかは疑問符が付くし、組み合う事を好む相撲式のスタイルでは素早い動きのイタチ怪人とは相性が悪いだろう。


 咲良たちの安全だけを考えるなら、ここでとっとと逃げるのが得策だっただろう。

 だが避難民たちの殿を自ら務めて戦いに飛び込んでいった老シスターを見捨てる事など咲良にはできなかった。

 キリスト教の「自己犠牲」がどうのこうの言う気は毛頭無い。

 子羊園で暮らすようになってはや6年。咲良にとって老シスターも家族と同様であり、実の肉親を事故で失っていた咲良にとって、再び家族を失う事は我が身を切り刻まれるのと同様に耐えがたい事だったのだ。


 老シスターに目を戻すと再び2体の怪人は前後から挟み込むような位置を取り、今度はシスターを中心に円を描くようにゆっくりと回り込もうとしていた。

 シスターの集中力が途切れた時、2体はすかさず飛び掛かって鋭い爪と牙で肉を切り裂くだろう。


「……せめて少しでも素早さを封じられたらなぁ」

「少し? 少しでいいんですか!?」

「せやな。後はワイの相撲の年季の見せ所ってとこやのにな……」

「それじゃあ、こういうのでどうですか?」

 ………………

 …………

 ……

「いけるやん! 」


 河童と座敷童に咲良が作戦ともいえないような思いつきを披露すると妖怪たちは大きく頷いた。


「えと、座敷童ちゃん、危険だと思うんだけど?」

「……!」


 控えめな声で座敷童の意向を確認すると、幼女は気合の入って目で手にした毬を大きく叩いて見せる。

 河童も四股を踏んでやる気満々といったところか。


「ほな、いくで! 園長先生に何かあったら子供たちが泣いてまうわ!」


 3人は物音を立てないように左手にあった塀をよじ登って回り込むように老シスターが戦っている十字路に近づいていく。

 途中でツチノコを呼び起こして作戦を説明。

 いつも通りに何を考えているか分からない顔であったが、ツチノコは確かに頷いてみせたのだった。




 2体のハドー怪人はゆっくりと老女の周りを回りながら舌なめずりしていた。


 すでに配下のロボットたちは目の前の老女によって全滅させられ、避難民たちを挟み込むように展開していた別の小隊もすでにやられたのか避難民たちの姿は消えている。


 自分たちの作戦が潰えた憂さを目の前の老女で晴らそうとしていたのだ。

 暖かい血で喉を潤して肉を食らおうか、いや、すぐに殺してしまってしまっては詰まらない。この先に非戦闘員が立て籠もっている施設があるらしいし、そこまで無力化した老女を引き摺っていってそこで首をはねてやろうか。


 2体の怪人は自分たちが敗北する事など露ほどにも想像していなかった。

 2体は同規格で制作された“兄弟”であったためにお互いの身体能力を把握しており、互いの能力を活かした連携戦術も一通り押さえていた。

 事実、目の前の老女も地球人とは思えない強力な身体機能を有しているようであったが、2体の怪人を前に攻めあぐねている感は否めない。


 このまま老女の疲労を待てばすぐに好機はやってくるであろうという確信があった。

 おあつらえ向きに冷たい雨が降っていたため、いかに老女が優秀な個体であったとしても地球人の枠を出ない以上、体温の低下は身体機能と集中力の低下を意味するのだ。

 それまでの間、こうやって時間をかけてゆっくりと追い詰めていく事も組み込まれた肉食獣の遺伝子にとっては苦にならなかった。


 ふと怪人の内の1体、白イタチ怪人が老女の後ろへ回り込もうとしていた時、すぐ先の道路の陰から幼い子供の姿が現れたのに気付いた。

 刷り込まれた(インプリンティング)された記憶情報によると現代ではあまり見られない、この国独特の民族衣装を着た幼女。


 幼女は怪人が自分に気付いた事を確認すると、大きく踏み込みながら手にした毬を投げ付ける。右腕が風車のように大きく回って低い位置からの投球。


「なっ!?」


 投げられたボールがどのような武器であるのか分からない白イタチ怪人は毬の軌道を予測して腕でガードしようとする。

 だが、幼女の体格から投げられたとは思えない豪速球はガードの直前にて浮き上がって顔面に直撃した。


「…………」


 痛くはない。

 一瞬の困惑の後、白イタチ怪人が毬の主の方を見やると幼女は不敵な笑みを浮かべていた。

 手の平を上に向けて「来いよ!」とばかりに2、3度、四指を折り曲げて挑発。


「野郎! ブッコロッシャアアア!」


 たまらず激昂した怪人は老女の事を放って幼女を目掛けて遅いかかる。


「お、おいッ!」

「貴方の相手は私ですよ?」


 相棒の事を追おうとする黒イタチ怪人であったが、ここぞとばかりに距離を詰めてきた老女に阻まれて2体は分断されてしまった。


「ちぃっ!? どけ! 老いぼれめッ!」

「折角、あの子たちが作ってくれたチャンスです! ここで決めさせてもらいます」


 老シスターは白イタチ怪人が追いかけて行った幼女が座敷童である事には気付いていた。

 つい最近、子羊園に現れて子供たちと仲良くしてくれているあの子供の妖怪だ。その使役者である咲良も座敷童が逃げて行った方にいるのだろう。


(咲良ちゃん! どうか私が行くまで無事でいて!)


 老シスターの肉体は加齢により衰えており全盛期からすれば見る影もない。

 雨に打たれた体は冷たく、修道服は水を吸って重くシスターの動きを阻害する。

 だが、それが何だというのだろう。


 あの御方は自ら十字架を背負いて丘を登っていったという。

 自分も若い命を助けるためにならば苦難の道を進む事に何のためらいがあろうか?


 シスターの肉体が加速する。

 振り下ろされる爪を払って空いた脇腹に指剣を。

 噛みつこうと下ろしてきた頭をステップで外させて頭突き(ヘッドバット)を。

 そのまま敵の頭部を狙ったハイキックをガードされそうになるのをみるや、捻りを加えてガードを外したブラジリアン・ハイキックで怪人の後頭部を打つ。


 だが、そのいずれもが有効打にならない。

 やはり老いたシスターには決定的なパワーが欠けているのだ。

 かつてエクソシストとして数多の悪魔を屠ってきた必殺(フェイバリッド)(・ムーブ)はすでに放つ事すら難しくなっていたし、相手はその名を轟かせているハドーの遺伝子合成獣人。

 やはり老齢のシスターには敵わない相手なのだろうか?


(……ならば!)


 だがシスターは諦めない。


 我が身を切り裂こうと振り上げられた怪人の腕に飛び付き、全身を絡みつかせて腕ひしぎ十字固めを決める。


 しかし下級の悪魔ならばエクソシストが作る肉体の十字架の効果により、それだけで致命傷を負わせる事もできたのであろうがハドー怪人に十字架が効果があるハズもなく。

 また獣人の膂力は全身の力で腕を圧し折ろうとするシスターの技に耐えて見せたのだ。


「焦ったなッ! ふん!」


 怪人は嘲笑うかのように笑顔を作り腕を振るってシスターを放り投げる。

 シスターの体は一直線に電信柱に。

 このままコンクリートの柱に背骨を打ち付けて死ね。と黒イタチ獣人が笑みを作った時だった。


「……狙いどおりですね!」


 シスターは空中で身を翻して電信柱に両足を付ける。そのまま大きく屈伸して全身のバネを使って再び跳ぶ。


「なにッ!?」

「ハアアアアア!!」


 若き日より己の身1つで強大な力を持つ悪魔たちと戦い続けてきたシスターならではの戦い方だった。

 自分の力が衰えてきたのならば相手の力を使えばいい。

 敵の力をそのまま使う事でやっとシスターはかつてのフェイバリッドを放つ事ができる。


 獣人の元まで舞い戻ったシスターは驚愕している怪人の肩の上に飛び乗り、着地の瞬間に背筋を一気に曲げて獣人の頭部に両の手刀を叩き込む。


飛翔退魔双破斬(空中モトヤ・チョップ)!!」


 世界がまるで音を無くしたようだった。

 怪人の肩からシスターが飛び降りるとゆっくりとハドー獣人は倒れ、その音を聞いてシスターの世界は音を取り戻す。


「退・魔・完・了!」

なんらかの理由で現在は使えなくなってしまった必殺技をなんとかして使う展開すこ?

ワイはすこ!

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