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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第35話 デモンライザー サクラ
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35-1

 宇垣と豊田、2人の魔法少女の前に現れたのはまだ幼い少女だった。


 セーラー服こそ着ているものの背は低く痩せぎす、さらに大きめの目が少女を実年齢よりもさらに幼く見せているのだ。


 風魔軍団の中忍は日ごろの訓練の賜物か、寸鉄すら帯びていない少女に対しても油断する事はなかった。

 背負った単分子ニンジャブレードに手を掛けて少女の反応を伺う。

 少女が動いて中忍の間合いに入ったならば間髪おかずに裂帛の気合を込めた剣撃をお見舞いしていたであろう。


(……何者だ!? この子供に戦闘に茶々を入れてくるような実力があるとでも?)


 半ば条件反射のように構えを取ったものの中忍は内心、戸惑っていた。


 魔法少女の窮地を見かけて慌てて駆け付けてきたのか、少女は肩を上下させて息を切らしているし、忍の技の速さを知らないのか刀に手を回した中忍に対しても構えのようなものはとっていない。


 まさかヤクザガールズの増援が到着したのかとも思ったがそれも違うような気がしていた。

 中忍も魔法少女捕獲作戦のためにヤクザガールズたちの情報については何度も確認していたが、ヤクザガールズの母校である大H川中学校少女の着ているセーラー服のスカーフの色は冬服が黒で夏服が白だったハズだ。


 しかし少女が着ているセーラー服のスカーフの色は赤だった。

 彼女は大H川中学校の生徒ではないということになる。


 それを裏付けるように休日の日曜だというのにセーラー服の胸ポケットには校章と組章、名札が取り付けられていたが、校章は大H川中学校の物ではない。


 では目の前の少女は一体、何者なのだ?


「あの……!」

「……!」


 中忍が困惑のために身動きが取れないでわずかな時間を沈黙が支配していたが、不意に少女が口を開いた。


「えと、そこの2人はもう戦えないようですし、もう手荒な真似は止めて帰ってもらえないですか?」

「とっとと帰れって、俺の目的はこいつらの拉致なんだけど?」

「あ~……、そっちか~……」


 中忍の言葉に少女はこめかみを押さえながら天を仰ぎ見る。

 その様子は力の無い者が勇気を振り絞ってみたが自分の想定外の事が起こったという印象を中忍に与え、2人の間に張り詰めていた緊張が一気に解れた。

 緊張は互いが互いを警戒するという形から、少女が一方的に忍者集団を警戒するという形になっていたのだ。


「なあ……」

「ひゃ、ひゃい!?」


 少女が緊張のあまり言葉を噛んでしまうが中忍は気にせずに話を続ける。


「お前は何者だ?」

「私ですか!? ん~、エクソシストの見習い、というか修行中というか……」

「はぁ~!? 退魔士(エクソシスト)ぉ!?」

「は、はい!」

「ここには悪魔なんていないから帰れ! 大人の仕事の邪魔すんな!」


 中忍は少女を脅かすつもりで少女の脇の郵便ポストに手裏剣を投げ付ける。

 風魔軍団の炭化(タングステン)タングステン(・カーバイド)製手裏剣は郵便ポストの鋼板に易々と突き刺さった。


 さらに宇垣と豊田を取り囲んでいた下忍メカも少女に対して手裏剣を投擲。


「ちょっ!? マズ! ……!?」


 中忍にしてみれば少女を害するつもりは無かった。

 ただ手裏剣で脅せば尻尾を巻いて逃げてくれるだろうとの打算があっただけだ。

 しかし配下のカラクリメカはそうではない。指揮官である中忍が手裏剣を投擲した事で少女を排除対象と認識して即座に行動を開始、複数の下忍メカが連携して少女へと手裏剣の弾幕を投げ付ける。


 中忍の男は正直、少女の命は無いものと思っていた。郵便ポストの鋼板をも切り裂く炭化タングステンの手裏剣の雨を浴びて少女はずたずたに切り裂かれて絶命するものと思っていたのだ。そして、その運命を変える方法など中忍にすら無い。


 だが中忍の予想だにしない事が起こっていた。

 少女は忍者集団に向かって駆け出し、走りながら身を旋風のようによじりつつ幾つかの手裏剣を叩き落とす。そのまま宙に体を投げ出して中忍に対して足を揃えたドロップキックをお見舞いしてのけたのだ。


「あ、危ないじゃないですか~!!」


 忍者に跳び蹴りを食らわせた少女は前回り受け身の要領で転がりながら勢いをつけて跳び上がってファイティングポーズを取る。

 距離は中忍の間隔で3歩の間合い。あと1歩、踏み込めば中忍のニンジャブレードの間合いという絶妙な距離の取り方だ。


「なるほど……、エクソシストね……」


 手裏剣を回避しつつ、どうしても避けきれない物のみを拳で叩き落とし判断力。

 ドロップキックとその後の間合いの取り方。

 少女の言うエクソシストという言葉も今のたった一瞬のムーヴで説得力が出てくるという物だ。


 退魔士(エクソシスト)

 別名を「悪魔祓い士」とも言うようにエクソシストは悪魔たちと戦えるだけの肉弾戦闘能力を持つと言われている超接近戦型のパワーファイターだ。

 その交戦距離は中忍も装備している忍者刀よりも短く、時には組み付き、絡みついて締め上げて悪魔を調伏するという。


 3歩の距離で睨み合う現在の状況は一見、中忍が刀や手裏剣を使えるだけに有利と思う者もいるかもしれない。

 だが、先ほど中忍は少女のドロップキックを受けてしまっていた。目を逸らしていたわけでもないにも関わらずだ。

 そう。エクソシストにとって悪魔の懐に飛び込む技などいくらでもあるのだ。そして悪魔の技に比べれば刀も手裏剣もとどのつまりただの刃物に過ぎない。


 しかし、それも“本物”のエクソシストが相手だった場合の話だ。


「分かってもらえましたか。このまま戦ってもお互いに益はありません。どうか引いてください!」

「せめてお前がホントに見習いレベルであればな!」

「え゛……」


 しみじみとごちる中忍に少女は何を勘違いしたのか顔を綻ばせて再度、撤退を促してくる。

 だが中忍は背負った鞘からニンジャブレードを抜き放って少女に突きつけた。


「お前の技、あまりに軽すぎるよ!」

「えぇ~……」


 そう。少女の体は細く、背も低い。

 恐らく格闘技で重要視される体重(ウェイト)は40kgにも満たないだろう。

 現に先ほどドロップキックを胸板に叩き込まれたハズの中忍は1歩も動いてはいない。


 つまり少女の一撃はただ単に中忍を怒らせただけだったのだ。

 先ほどは手裏剣で脅して逃げ帰らせようとしていた中忍であったが、文字通り児戯に等しい技で激昂し、骨折の2、3ヵ所は負わせてふざけた事など言えないようにしてやろうという気になっていた。


「フンっ!」

「ファッ!?」


 ニンジャブレードの背を向けて中忍は峰撃ちを狙う。

 少女も峰撃ちを狙っている事は分かっていたが、却ってそれは「今から遠慮なく殴る」と言われているようで逆に恐怖感を煽っていたのだ。

 結果、大げさに悲鳴を上げながら少女は中忍の振り下ろす刀から逃げ回る羽目になっていた。


 なんとか状況を打破しようと少女も剣撃の隙を見計らって懐に潜り込み、再び中忍の胸板に対して掌底を叩き込んだ。

 しかし……。


「だから軽いんだよッ!!」

「きゃっ!」


 少女の動きは体付きの割に素早く、そして見切りも良い。

 だが、それだけだった。

 パワーも無く、リーチも足りず、躊躇なく金的や目潰しを狙うような苛烈さも無い。


 本来ならば振り下ろされる刀を掻い潜って敵の懐に潜り込むという驚嘆すべき身のこなしも、かえって敵の反撃を許すだけの結果になってしまう。


 掌底に怯む事無く中忍は少女へ膝蹴りを叩き込んだ。

 なんとか少女は両腕を降ろしてガードするものの、軽すぎる体重は膝蹴りの威力を抑え込む事が出来ずに少女をアスファルトの上へと転がした。




 何とか立ち上がろうと少女が膝を地に付いたまま顔を上げると自分を見下ろす中忍と目が合った。

 冷たい、何とも冷たい静かに怒った目だった。


 中忍はゆっくりとニンジャブレートを上段に構える。

 刀身の峰を相手に向けた峰撃ちの構え。だが屈強な男の振り下ろす峰撃ちに少女の細い骨格が耐えられない事は火を見るよりも明らかだった。


 だが、その時、ペタペタという何かの足音とともに誰かの大きな声が聞こえてきた。


「サっちゃ~ん!!」

「ん? ……!?」


 少女の方へ駆け寄ってきた者、その者の姿を見て中忍は思わず言葉を失った。


 何と言っていいか分からなかったのではない。

 その者の姿は日本人ならばほぼ確実に一言で言い表すことができよう。


 大きく丸い2つの瞳に平たいクチバシ。

 緑色のヌメヌメとした肌。

 背に背負った大きな甲羅。

 そして頭には白くてツルツルとした皿が。


 現れたのは形容し易い異形、河童。

 杖と新聞を持った河童がペタペタと足音を立てながら少女と中忍の方へ大慌てで駆けてきたのだった。


Twitterやってます。

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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