34-6
前回を改訂前までに読んだ方にお知らせです。
前回の最後
「節子や、ウリエルさんにまたお客さんじゃぞ」
「ん? 誰でしょう?」
「今日はお客さんがよく来る日ですね」
の後に
やがて住職に案内されてきたのは1人の少女と形容し易い異形だった。
と1行だけ追記してあります。
ヤクザガールズ「さくらんぼ組」若頭の宇垣は大H川中学校への帰路を歩いていた。
共に歩くのは1学年下の豊田が1人。
日曜の昼下がりはのんびりと穏やかな陽気で2人の心を楽しませる。
2人は鮫島工務店に山本組長からの礼状と菓子折りを持って行った帰りだった。
先の宇宙巡洋艦撃破作戦において宇宙攻撃機を搭載したロケットを背に乗せて大気圏外ギリギリにまで上がったドラゴンフライヤーであったが、ヤクザガールズの面々もドラゴンフライヤーの貨物室の中でロケットとの接続アームを魔法で強化していたのだ。
だが空自が運用するC-1、C-2、C-130といった純粋な輸送機とは違いドラゴンフライヤーの種別は突撃戦闘輸送艇。戦闘中には急な空戦機動を行う事も想定されているためにカーゴスペースには人員の輸送用の装備などは無い。あくまで戦地直上まで乗り込んで物品を投下するためのものだ。
当然、ヤクザガールズたちが内部に乗り込むには座席の追加が必要になるが、この設置作業を請け負ってくれたのが鮫島工務店である。
ヤクザガールズの1年生である鮫島の実家でもある鮫島工務店は他社が失敗した際のリスクを恐れて依頼を断っていく中、ただ1社だけで設置作業を請け負ってくれていたのだ。
作業自体は至極単純。
ドラゴンフライヤーに取り付けられているNATO標準輸送パレット用のレールに鋼管パイプを何本か取り付け、そこに自動車用のバゲットシートを必要分だけ取り付けていくだけである。
だが竜型ロボットの背中にロケットを取りつけ、ドラゴンフライヤーの推進器と地上に施された「浮上」の魔法陣で無理矢理、一気に宇宙近くまで飛ばすという前代未聞の計画である。カーゴスペースの中の人員にかかる重力加速度も凄まじく、常人ならば命の危険もあったほどだ。
しかし急拵えの座席は危なげなところ無く無事に任務を終えて帰還するまでその役目を全うしてみせた。
その労に感謝を伝えるための礼状と菓子折りだった。
礼儀を重んじるという建前のヤクザの社会体制をとるヤクザガールズの事である。本当ならば組長自身が赴くべきであろうし、山本も「私もサメちゃんのお家に行きた~い!」とか言っていたが、折しも現在は「UN-DEAD」とかいう謎の組織の暗躍に注意を払わねばならない時期である。
しかも今朝になってH市内で「モーター・ヴァルキリー」というヒーローが遺体で発見されていたために市災害対策室ではその対策に追われていて、何かあった場合には組織的な戦闘力を持つヤクザガールズに負担が圧し掛かる事が予想されていたために組長には組事務所に詰めていてもらわねばならない。
また本来ならば訪問の時間帯も昼食時を外すのが礼節に適っていると言えるのだろうが、鮫島工務店ではドラゴンフライヤーの座席設置作業を急遽、行っていたために本来の作業予定の遅れを取り戻すために土日も無しで働き続けており、先方の都合の取れる時間が昼時しか無かったのだ。
宇垣も年頃の女子中学生であり初対面の人物に仁義を切るのは中々に恥ずかしい物があったものの、幸いにも鮫島工務店の社長である鮫島の祖父は受け方を知っていてくれたために何とか無事に組長の名代という仕事をやり遂げる事ができていた。
その後、家の中に招かれて2人は職人たちと一緒に昼食をご馳走になり、こうして母校への帰路についているのである。
昼食に振る舞われたのは蕎麦だった。
田舎風に太くてコシの強い麺に、カツオ出汁ではなく甘めの鶏出汁が合わせられた蕎麦にたっぷりのネギとホロホロになるまで煮込まれた鶏肉が乗せられた、職人の男性が好みそうななんともパンチのきいた蕎麦だった。
当然、2人は満腹の後の心地よい気怠さに包まれながら住宅地を歩いている。
「中々に美味しいお蕎麦だったわね」
「ええ、サメちゃんのお爺さん、東北の出身らしいですから、そっちの味付けですかね?」
「かもねぇ。ゲプ……。あ、げっぷがネギ臭いわ……」
「さっきから言おうと思ってたんですけど、宇垣さん、前歯にネギ挟まってますよ?」
「ちょっ! もっと早く言ってよ……」
宇垣が立ち止まり、手で口を隠して舌先でネギを取ろうとモゴモゴしはじめる。
豊田も宇垣に付き合って立ち止まって手持無沙汰なのか周囲の景色を眺めていた。
だが豊田の目が向かいのコンクリートブロックで止まる。
何かは分からないが妙な違和感があった。
だが豊田がその違和感の正体に気付くよりも先にコンクリートブロックはまるで薄皮が剥がれるようにパラリとめくれていく。
「危ない! 若頭ァ!」
「えっ……!?」
豊田は思い切り宇垣を突き飛ばす。
宇垣も不意の転倒に何とか受け身を取って体を起こすと豊田の肩に鈍色に光る十字手裏剣が深々と突き刺さっているのが見えた。
「アンブッシュ!?」
手裏剣を投げ付けてきた者はコンクリートブロックの上に軽い音を立てて降り立った。
それだけではない。
ある者は電柱の陰から、ある者は塀を跳び越えて、次から次へと襲撃者たちは音も無く現れては2人を包囲していった。
「風魔軍団!?」
「いかにも!」
集団の中心にいた男が答える。
男が着ているのはサイバーシノビ装束。首に巻かれた赤いマフラーは風魔軍団前線指揮官「中忍」の証であった。
その中忍の背後には精巧なハリボテを被って自販機に偽装していた大型ロボットが1体。カエルと大型の類人猿をミックスしたような艶消し塗装のロボットは見るからに力自慢の物のように思える。
さらに宇垣たちの周囲を取り囲んでいるのは風魔軍団標準の下忍ロボットである。手にはセラミック・シノビブレードや爪付きのシノビガントレットを構え、中には特殊合金製と思われるクサリガマの分銅を振り回している個体もいた。
「大人しく捕縛されるのであれば大事な商品だ、これ以上の怪我はさせぬと約束しよう。……もっともお主らを買った者がどう扱うかは知らぬがな」
「誰が! 豊田さん! まだやれる!?」
「モチロンです!」
「「変身ッ!!」」
立ち上がった宇垣と豊田は共にマジカル・ピンキーリングを呼び出して魔法少女の姿に変身する。
風魔の下忍ロボたちも片手の空いている者は手裏剣を投げ付けて牽制するが、少女を包む魔法の光は手裏剣のことごとくを跳ねとばしていた。
「さあ! 生まれてきた事を後悔させてやるぜ!」
「いくぞ! ロリコン野郎!?」
「ろ、ロリコンじゃね~し!?」
先の「宇垣たちを捕まえて売り飛ばす」という発言から妙な誤解をさせてしまった事に今更ながら気付いた中忍の男であった。
「忍者、死すべし!」
「性犯罪者も死すべし!」
「だから違うって……、あ、いや、忍者なのは合ってるけど……」
「問答無用!」
宇垣のマカロン半自動魔法拳銃と豊田の魔法狙撃銃が同時に中忍の男に向けられる。
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