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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第34話 「切り札」
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34-5

『お師匠様と同規格の魔法少女とやらが倒した「アンゴルモアの大王」も旧支配者の仲間ですよね?』


 異星人の尼僧は明智とウリエルの元に切り分けられた羊羹が乗せられた小皿を差し出しながら事も無げにテレパシーを送ってくる。

 遥か数万光年の彼方にある銀河帝国との通信の切り札となったマスティアン星人のテレパシーだったが、実際に体験してみるのは明智も初めての事だった。


「私じゃ無理ですよ。真愛さんじゃあるまいし」


 だが茶のお代わりを持ってきたZIZOUちゃん自身がクゥエルの言葉を否定する。


『そうなのですか?』

「ええ、私と真愛さんは同規格の魔法少女でしたが、真愛さんは私とは比べ物にならない膨大な魔力を持っていたので」


 明智も当時の事を思い出していた。

 魔法少女プリティ☆キュートこと羽沢真愛は小学生ながら、かつては「最強のヒーロー」とも称されていたほどで、数多の侵略者たちを爆炎と閃光の中に消し去っていたのだ。


 それがフランスの狂える4行詩人ミシェル=ノストラダムスが予言した時より数年も遅れて地球に接近していた「アンゴルモアの恐怖の大王」との戦いにプリティ☆キュートは勝った。

 勝つには勝ったが、その残骸を完全に消滅させるには至らず、今もその無数の破片たちはスペースデブリとなってラグランジュ・ポイントDを埋め尽くしていた。それらは地球人類の宇宙進出を阻む大きな障害となっており、ラグランジュ(Dirty)をラグランジュCに戻す事が人類の大きな課題となっている。


 ようするにプリティー☆キュートでも旧支配者を相手にしては完全に消滅させる事などできなかったのだ。

 同じ魔法少女であったZIZOUちゃんが「膨大な魔力を持つ」と形容する羽沢真愛ですらだ。恐らくはギリギリの戦いだったという事だろう。


「……それにできたとしてもやろうとは思いませんね」

『それは何故です?』


 まさか「20を過ぎてあのキッツいミニスカートは穿きたくない」とかいう理由じゃないだろうな、と明智は昔の事を思い出していた。

 魔法少女のコスチュームはフリルを多用しながらもギリギリを攻めたデザインで、ミニスカートに慣れていなかったかつてのZIZOUちゃんは変身するたびに赤面して脚をモジモジさせていたのだ。

 当時小学生だった明智もZIZOUちゃんの健康的な生脚よりも、むしろ今にも泣きだしそうな顔に罪悪感を覚えて顔を背けていたものだったのだ。


 だがZIZOUちゃんが語る理由は明智の予想とは裏腹に至極、真っ当なものだった。


「『魔法』だなんて良く分からない物の力を借りて何とかしても、私は100年後には生きていませんよ? 100年後にまた同じような事を起こったらどうするのです?」

「しかし、100年後があるか分からない状況になったら……」


 明智も言葉にこそしないものの、ウリエルの言葉に同意していた。

 “邪神”“旧支配者”の復活とはそれほどの、人類にとって存亡の瀬戸際と言っていい。


「ウリエルもクゥエルも良く聞いてくださいね。釈迦は6つの神通力を持っていたと言われていますが、その中でもっとも重要視していたと言われているのが“漏神通”と言われているものです」

『老人痛?』

「なんですか? そのリウマチとか痛風みたいなのは?」

「ええと、明智君が帰ったら日本語の勉強をしましょうね2人とも。まぁ、漏神通というのは煩悩を捨て去ってああだこうだと平たく言えば『他の神通力を使わない』という物ですね」

『え? もったいなくないですか?』

「そうでもありませんよ。神通力なんて『アレをこうしたい』とか『〇〇を知りたい』なんて煩悩の結果です。そもそも煩悩が無ければ使う必要も無いではありませんか?」

「そうかもしれませんが……」


 だが言うは易し、行うは難しといったところだろう。

 いかに修行を重ねた僧侶といえど煩悩を捨て去るなどという事がはたして可能なのだろうか?


「『魔法』も『神通力』と同様。だから私は他所の世界からもたらされた魔法で戦う事を止めたのです。明智君は僧侶ではありませんが、それは同様なのではありませんか? 安易に『魔法』だ『天使』だワケの分からないモノに頼るべきではないのではないでしょうか?」

「そうかもしれません」

「……ん? え? アレ? 私、『ワケの分からないモノ』とか言われてる……?」

『先輩、ドンマイ!』


 愕然としているウリエルと彼を励ますクゥエルを尻目に明智はZIZOUちゃんの澄んだ瞳を見つめていた。


「たしかに辛く厳しい道かもしれません。でも、けして無駄な事ではないと思います。明智君が考えて考えぬいた事は明智君と人類の今後に多いに役に立つでしょう」

「……はい」


 振り絞るように返事をした後、明智は羊羹を楊枝で切る事なくそのまま口の中へと放り込む。

 疲れ果てた脳は糖分に飢えており、味覚から補給がもたらされた事を知った頭脳は活力を取り戻していく。


「少し、確認してみたい事が出てきました。今日はここで失礼させて頂きます。急にお邪魔してすいませんでした」

「いえいえ、いつでもどうぞ」


 明智の脳裏に浮かんでいたのは知り合いの異星人たちだった。

 旧支配者も外宇宙から来たもので、地球人とよく似た精神性を持つ異星人たちには地球人と同様に旧支配者は大きな脅威だっただろう。彼らならば旧支配者たちへの対処方があるのではないかと思いついたのだ。


 差し当たっては異星人の教師と、警備会社の3人組に当ってみるべきか。

 異星人教師は意外と高学歴らしいし、警備員3人組の内の1人にいたってはク・リトル・リトル並みのサイズに巨大化できるようだ。


 明智は挨拶もそこそこに念徳寺を後にしていく。

 人類の「切り札」はまだ見つからないが、もはや彼は神頼みなんてするつもりは無い。

 来た時には気付かなかった朝露に濡れて輝く新緑が人類の明るい未来を暗示しているかのようにすら思えていた。




 一方、明智が退席した後もZIZOUちゃんたち3人は縁側で羊羹をつまみながらお茶を楽しんでいた。

 そこにZIZOUちゃんの父である住職が寄ってくる。


「節子や、ウリエルさんにまたお客さんじゃぞ」

「ん? 誰でしょう?」

「今日はお客さんがよく来る日ですね」


やがて住職に案内されてきたのは1人の少女と形容し易い異形だった。

「漏神通」の解釈は間違っているような気がしないでもありません。

だが、私は謝らない\(^o^)/

(フィクションを免罪符に好き勝手やる人間のクズ)

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