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昼休み。
僕と三浦君と天童さんの机をくっつけて、そこに真愛さんを加えた4人で昼ご飯を食べるのが最近の僕達のスタイルだ。
明智君は一人で自分の席で食べている。「5人じゃ狭いだろ?」だそうだ。確かに学校の机3つに5人では狭いかもしれない。4人でも机の脚が結構、邪魔だし。
「いやあ~、今朝は参ったよ……」
「え? アタシは面白かったよ! また来ね~かな?」
「も~、京子ちゃんったら、誠君が可哀そうでしょ」
「ドゥフフフ! 拙者は昼休みも来ると思ってたで御座るよ『誠ちゃん、お昼ご飯、一緒に食べましょ!』って」
「ブフォ! や、やめろデブゴン……あ~、いきなり裏声でマネするから咽ちまったぜ~」
「俺もその線を考えていたが」
「あ、明智君も止めてよ~。僕の気が休まる暇がないよ~」
机を動かして、おしゃべりしながら食べている僕達に比べて明智くんがお弁当を食べ終わるのは早い。先に食べ終わった明智くんがこうやって合流するのが最近の流れだ。
窓際の壁に背中を持たれかけて腕組みして話に参加する明智君。
「……って、おい。来たぞ!」
「え?」
明智君の見ている方へ首を向けると、教室の後ろ側の入り口から生徒会長が入ってきていた。そのまま僕達の方へ。
「あ、どうも……」
「誠ちゃん、午前の授業はどうだった? 分からない所があったら、お姉ちゃんが教えてあげるわよ」
「あ、いえいえ。恙なく終わりました!」
「偉い、偉い」
満面の笑顔の生徒会長に頭を撫でられる。
ホント、何しに来たんだろ? 三浦君が言っていたように「一緒にお昼ご飯を食べる」という目的でないことは、生徒会長が手ぶらであることから分かる。
よっぽどの用事でもなければ生身の体で1階の3年生の教室から、4階の1年生の教室まで来ようとは思わないだろう。……普通の人なら!
「生徒会長~! マコっちゃんに何の用~!」
期待で目を輝かせた天童さんが問いかける。天童さんは面白そうなことがあれば、誰に対してでも懐に飛び込んでいく。ボクシングのインファイターのようだ。
絶賛現在進行形で僕の懐に飛び込み、メンタルにラッシュを浴びせるもう一人のインファイターの注意が逸れる。
インファイター対インファイター。生徒会長? ウチの天童さんの防御力は僕のヤワな装甲とはモノが違いますよ? 物理無効、化学無効、魔術反射の「魔法の天使ラブリー☆キュート」のラスボスと同等の防御力ですよ?
けれど、話は僕の予想通りには進まなかった。生徒会長の標的は天童さんではなく明智君に向いていた。
「あ、そうだった。あんまり誠ちゃんが可愛いものだから忘れてしまうところだったわ」
明智君に向き直り、ビシッ! と人差し指を向ける。
「ちょっと、明智君!? ビデオ見てて思ったんだけど……」
「はい?」
「アンタ! 今度、ウチの誠ちゃんに『ちょっくら巨大ロボのロケットパンチに乗って邪神の腹ン中、飛び込んでこいYO!』なんて抜かしたら私がタダじゃおかないわよー!!」
周りのクラスメイトたちがこっちを見てるよ……ハハっ! あの下級生の教室で叫んでいる人が、この学校の生徒会長なんですよ……
「え? いや、アレ。ロケットパンチじゃなくてブレイブナックル……」
「そんなん、どうだっていいでしょぉおおお!!」
明智君がブレイブナックルバスターと言うのを遮って生徒会長が叫ぶ!
あ、生徒会長も巨大ロボとかどうでもいい人ですか。
「いえ、どうでもよくはないですよ。今朝、誠が『巨大ロボは男のロマンだ』って言ってましたよ」
「あ、あら。そうなの?」
明智君が僕の話題に切り替える。巻き込むつもりだ。面倒になったんだな!
「誠ちゃんもまだまだ子供ね~! でも4階まで上がってくるのも久しぶりね~。大分、周りの見え方が違うものね」
「生徒会長は1年生の時は何組だったんですか?」
「私はF組だったから、窓の外は体育館の屋根と畑しか見えなかったわよ」
「へぇ~」
「…………あのね、誠ちゃん。そのお姉ちゃんのこと生徒会長って呼ぶの他人行儀じゃない?」
「へ? 生徒会長は生徒会長で」
「…………」
駄目だ! 目が座ってらっしゃる!
ん?
生徒会長の後ろで明智君がサインペンでルーズリーフに書いて僕に掲げている。……カンペか?
おお、てっきり僕に生徒会長を押し付けたユダかと思ったら、明智君は僕を見捨ててはいなかった!
ん~と、なになに?
「『お姉ちゃんには学校の中では分別を持った人でいて欲しいなあ~』」
「も~、誠ちゃんがそういうなら仕方ないなら仕方ないな~」
お~、通じた!
僕は新必殺技で初めて敵を倒した時のような達成感を感じていた。
ん? 天童さんもルーズリーフに何か書いてる? どうせロクなことじゃないだろう。物凄い笑顔だし。
ほら!
≪おねえちゃんにあまえるのは、ほうかごがいいなー≫
なんて書いてある! しかも「※できるだけ可愛い声で!」なんて注釈付きだ。
絶対に言わないぞぉ!
三浦君なんか腹を抱えて声を殺して笑ってるし、真愛さんはアワアワしてるし。
「ん? 5時間目はLHRなのね。何の話?」
教室を見渡してした生徒会長が、今日の予定が書かれた小黒板を見て聞いてきた。
「体育祭に誰がどの種目に出るか、らしいですよ。ま、僕には関係ない話ですけど……」
「ん? 何で? あ、もしかして反抗期ってヤツ? 誠ちゃんは反抗期まで可愛いわね!」
「違いますよ~。僕が運動会出たらドーピングどころの話じゃないですからね」
「え、別にいいでしょ? 高校の体育祭でドーピング検査なんてするわけないでしょ?」
「え?」
「部活の大会とかだったら、学校の外だから私には手が出せないけど。体育祭なら問題ないでしょ?」
「そ、そうなの?」
「大体、競技委員長は誰だと思う?」
「もしかして……」
「お姉ちゃんでした~! 何なら、私が卒業した来年以降も誠ちゃんが参加できるように前期の生徒会で校則を変えましょう!」
「できるの!?」
「もちろんよ! えぇ、コホン! 『私は以前、テレビで世界大会を目指すアスリートの姿を受け強い感銘を受けました。ただのアスリートではありません。義手や義足のアスリートたちです』みたいな感じで演説初めて、体育祭の項目に『義手、義足その他の補助器具の使用を認める』って付け加えればOKでしょ?」
「いよ! お姉ちゃん! 日本一!」
「えへへ、お姉ちゃんは凄いのだ!」
ヒソヒソヒソヒソ
(石動氏が落ちたで御座る)
(おい、明智ん、いいのか? また生徒会長が権力でどうこうしようとしてっぞ)
(……いいんじゃないか? 誠も喜んでるし)
(誠君、部活の話の時にも「自分は競技種目にはでれない」みたいなこと言ってたし、結構、気にしてたんじゃないかな?)
(マコっちゃん、中学の時は何かやってたのか?)
(前に仁さんから、弟は陸上の長距離をやってるって聞いたことがあるな。体格のせいで早くはなかったけど、自己記録を更新した時は嬉しそうだったって聞いたな……)
(あ~、それじゃアタシはもう何も言えねーよ……)
(拙者たち皆、そうで御座ろう? ま、体育祭では運動部の連中に泣いてもらうとするで御座る)
(でも誠君、ホント嬉しそう!)
僕が望む「普通の生活」。その力強い味方が出来た。
少々の不都合には目を瞑るとして!
「少々」で済むかなあ……




