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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第33話 死神だって助けたい!
212/545

33-3

高度10,000メートルからの眺望は微妙な物で、大気で地上の様子はボヤけているのにかといってハッキリと地形が地図のように小さく見えるほどではない。


結局、僕は電脳内の位置情報を参照しながら東京都H市、1時間ほど前に飛び立った地点を目指して降下していく。


思っていたより気流に流されていたようで微調整を加えながら降下する事3分、徐々に町は大きくなっていき、離陸したポイントがハッキリと見えるようになると、そこには数台の車両と歩道には真愛さんたちの姿が確認できた。


「あ! アレ……!」

「戻ってきた!」

「お~い!」


真愛さんが下降する僕たちに気付いて指指すと、歩道橋の階段に座ったりガードレールに腰を掛けていた皆は一斉に立ち上がってこちらに手を振って出迎えてくれる。


「ゴメン、ゴメン! お待たせ!」


歩道の真上、3メートルほどの高さで1度、静止してそれから完全にロケットをシャットオフして地上に降り立つ。

マントのヒートシンクモードを解除して、僕自身も人間態に戻ると変身前後の身長差からD-バスターはバランスを崩して転びそうになった。


「1時間も経ってD子が平気な顔してるって事はもう平気なのか?」

「うん! もう心配ないみたい」

「結婚10年目の夫婦みたいに冷えてるよ~!」

「よかった……」


ホッとしたような顔を見せる皆の後ろから2人の男女が出てきた。


「よう! 大将! 相変わらずキワいのと付き合ってんだなぁ! おい!」

「ヴァルキリーさんも相変わらずのようで……」

「あ、どうも……」

「ネーチャンじゃねぇよ!」


70年代風のアメリカン暴走族風のオッサン、モーター・ヴァルキリーさんは代名詞と言えるバイクを降りても、その奇抜なファッションセンスからインパクトは十分。

そして何故か僕が「ヴァルキリーさん」と言うと彼の後ろに乗っていたライダースーツ姿の女性が反応して返事をしてきて、ツッコミを入れられていた。


この女性はモーター・ヴァルキリーさんの奥さんか彼女さんなのかな?

どうも2人の中は親しいもののように見えるし、実際に2人乗り(タンデム)でバイクに乗ってカラクリメカを追っていたのだ。生半可の仲ではそんな危険な真似はしないと思うのだけれど……。

その割には袖無しのGジャンを素肌に羽織って頭にバンダナを巻いたモーター・ヴァルキリーさんと、黒い革製で体に密着したオーバーオールタイプのライダースーツの女性ではタンデムするのにあまりにファッションセンスがチグハグだった。


女性の方はジェットタイプのヘルメットを被っているし、その辺もヒーローには道交法は適用されないからって戦闘中でもノーヘルを通しているモーター・ヴァルキリーさんとは考え方が違う人種のようだった。

なんたってモーター・ヴァルキリーさんがヒーローやってる理由はノーヘルでもお巡りさんに捕まらないかららしい。


ていうかヘルメットからはみ出している長い金髪に顔立ち、ライダースーツのせいでバッチリと分かる日本人離れしたプロポーションと明らかに女性は海外の方だ。

むしろ顔が美人すぎて「日本人」離れどころか、「人間」離れしているような雰囲気すら醸し出していた。


「えと、どうも、初めまして。石動です」

「はい、噂はかねがね……。私がヴァルキリーです」


え?

「モーター・ヴァルキリー」って個人のヒーロー名だったハズ。チーム名ではなかったような?

いや、むしろ女性の良い方ではバイク乗りのオッサンは「ヴァルキリー」ではないとでも言いたげな様子だった。


「まあ、話はどっか落ち着ける所でしようぜ! 大将たち、サ店に茶ァ、シバき回しに行くとこだったんだろ? 助けてもらった礼代わりに俺が奢ってやるぜ! ちょっと待ってろ!」


そう言うとモーター・ヴァルキリーさんは車道を封鎖して現場検証を進めている警察の人たちの方へ大股で歩いていった。


改めて確認してみると、現場検証に来ていたのは警察の他に、市の災害対策室の腕章を付けた作業服姿の人もチラホラ混じっていた。

また前輪がパンクしたモーター・ヴァルキリーさんのバイクを回収しに、クラスメイトの原君の家のバイク屋さんのトラックも来ていた。

先週の犬養さんのバイクに引き続き、バイクに乗ってるヒーローは原君チに迷惑かけなきゃいけないノルマでもあるのかな? あ、いや、ウチの兄ちゃんもバイク乗ってたけど悪党以外には迷惑とかは掛けてなかったな。


「……えと、モーター・ヴァルキリーさんが奢ってくれるらしいけど、皆は大丈夫?」

「大丈夫って何で? 奢ってくれるなら万々歳だよ!」

「おし! 山ほど食うぞ~!」


うん、知ってた。

天童さんとD-バスターが「人見知り」なんて概念とは無縁だって事は僕も知ってた。

ていうか、むしろ僕はD-バスターから奢ってもらいたいくらいなんだけれど?


「俺は別に知り合いだから気にならないが……」

「わ、私も別に……、あ、有難くご馳走になりましょうよ! 折角の誠君の知り合いの方なんだし!」


去年、埼玉で明智君はモーター・ヴァルキリーさんと何度か顔を合わせていたので馴れっこのようだけれど、真愛さんはあのオッサンのテンションに度肝を抜かれて引き気味のようだった。

真愛さん、僕が知り合いのいない街に引っ越してきたから、折角、この町で再開した知り合いを無碍にはしたくないと気を使ってくれてるのは分かるし、その気持ちはありがたいけれど、別に僕はあのオッサンとそんなに仲が良いわけではないからね? 単なる「知り合い」以上の何者でもないよ?


えと、残るは三浦君か……。

その三浦君はと……。


「どしたの? 三浦君」

「え、あ、ああ……」


三浦君は僕に生返事を返しながらもモーター・ヴァルキリーさんの連れの女性の事を舐めるようにジットリと見つめていた。


いや、三浦君、確かに彼女はスタイル抜群で、ライダースーツの上からでも体付きがハッキリと分かっちゃうけどさ! そんなにジロジロと見たら失礼だと思うんだよね?

ほら! いくら男子高校生がそういうのに興味があるお年頃といっても、相手が不快に思うような事は……。


「そなた、人間じゃないで御座るな?」

「ええ、そうですけど?」


僕が三浦君に何と言ったらいいべきか頭の中で言葉を選んでいると、三浦君は女性に向かってにわかには信じられないような事を言い出す。

しかも、女性の方もすんなりと彼の言葉を肯定してよこしたのだ。


さらに三浦君は続ける。


「もしかして、これは勘で御座るが……。ロキの関係者で御座るか?」

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