32-6
皆様のおかげで1周年を迎える事ができました\(^o^)/
これからもよろしくお願いします。
……ま、まぁ、風魔軍団とやらがカラクリにこだわりがあるのは分かった。
そして風魔軍団のカラクリメカを追うガソリンエンジンも姿を現す。
予想通りに大排気量のアメリカンバイク。データベースを参照しても該当車種が出てこないあたり、結構な改造が加えられているようだ。
そのバイクに跨っているのはでっぷりと太ったオッサンだった。
下半身は黒い革のズボンに茶のゴツいブーツ。上半身は素肌の上に袖無しのGジャンを着ていて、ビール腹を隠そうともしないで前を開け放っている。
さらに銀色に陽光を反射するサングラスをかけ、ヘルメットは被らずに頭にはインディアン風の模様が描かれたバンダナを巻いている。
「……なに? あのオジサン……」
D-バスターは風魔軍団のカラクリメカよりもバイクのオッサンに驚いているようで、言葉を失った所を無理矢理に振り絞ったような擦れた声を出す。
うん。ま、初見は驚くよね。
でも、あの人、同業者なんだよなあ……。
「モーター・ヴァルキリーさんって知らない?」
「私はほら! 対石動兄弟用だから……」
まあ、僕も去年、埼玉で何度か会った事があるくらいなんだけれどね。
でも、どうしたものかな?
状況を見るに3体のカラクリメカをモーター・ヴァルキリーさんが追跡してるって状況みたいだけど、もう少しで追いつきそうなんだよな。
手を貸すべきかな?
「明智君、手伝うべきかな?」
「いや、どうだろ? とりあえず逃げられそうなら頼めるか?」
「……うん」
この辺りの判断は面倒なもので、もし民間人に被害が出そうなら、もしくはモーター・ヴァルキリーさんが負けそうなら迷わずに手を貸すのだけれど、あのオッサン意外と強いし、人通りの少ないこの辺りではむしろ真愛さんたちを守っていた方がいいような気がする。
「あれ? マコっちゃん、行かないの?」
「京子ちゃん、誠君は引退してるのよ。それにモーター・ヴァルキリーさんも専業ヒーローだからピンチでもないのに手を貸したら逆に迷惑になっちゃうのよ」
「ああ、メシの種を取るなって事?」
「そうそう!」
前方を注視している僕に代わって真愛さんが天童さんの疑問に答えてくれる。
真愛さんが言う事はもっともな事で「風魔軍団」のカラクリメカの撃破報奨金は標準で98,000円。
プライズム星人の1体3,000円は極端として、異次元の素材で作られているハドー戦闘ロボットですら5万円なのを考えると高額に思える。多分、あの立体的な機動力を考慮しての物だと思うのだけれど、機動力で勝負できるモーター・ヴァルキリーさんにとってみればボーナスステージみたいな敵だろう。そんな状況を引退した僕が横からかっさらうのも気が引けるし、僕が倒して報奨金だけ受け取ってくださいというのもあのオッサンは首を縦にしないだろう。
「でも、あのロボ……、いやカラクリだっけ? 忍者みたいな動きであちこち飛び回ってんぜ!?」
「まあ、あのくらいなら……」
僕たちがそうこう話している内にモーター・ヴァルキリーさんは勝負を決する事にしたのかバイクのスロットルを一気に回して加速した。
耳をつんざくエンジン音に僕たちはカラクリたちから目を離して初老のオッサンに注目する。
一気に目標を追い越したモーター・ヴァルキリーさんはそのまま歩道に入り込み、大排気量エンジンのパワーと大口径のタイヤを活かして歩道橋に乗り上げていく。
「あれ? あのオッサン、後ろに女の人を乗せてんぞ!?」
天童さんが両手で耳を塞いだまま叫ぶ。
彼女の言う通り、バイクの後ろには黒いライダースーツを来たパツキンのネーチャンがモーター・ヴァルキリーさん腰に両手を回してしがみ付いていた。
素肌の上に袖無しのGジャンを羽織るような独特の美学を持つモーター・ヴァルキリーさんの後ろに、綺麗でスタイルグンバツの女性が乗っているとそれだけで様になる。まあ、なんか女性の顔が引きつっているのは気にしないとして。
歩道橋の階段をドカドカと猛スピードで上がっていく時、女性が助けを求めるような目でこちらを見ていたのも気にしない。
すぐに階段を登り切ったモーター・ヴァルキリーさんはそこでさらにスロットルを回し、バイクの後輪は白煙を上げながら高速回転、たちまちウィリーの状態になった。
「ハァッッッハァ~~~!! Ho~~~!」
奇声を上げるモーター・ヴァルキリーさんを乗せたバイクが飛ぶ。
アメリカンタイプの大型の車体の重量を感じさせない陸上選手の跳躍のような大ジャンプ。
そして、その先には向かいのビルに跳ぼうとしていたカラクリメカの1体が。
空中でバイクと衝突したカラクリメカは火花を上げて部品を盛大に撒き散らしながら四散。
一方のアメリカンバイクは何事も無かったように道路に着陸する。
着地の瞬間、バイクの前輪に取り付けられたサスペンションはその性能を如何無く発揮するけれど、後ろに乗っている女性にはサスペンションの恩恵は薄いのか悶絶するような表情で大口を開けて天を仰いだ。
残るカラクリメカは逃げきれないと悟ったのか、アメリカンバイクの2人に向かって飛び掛かっていく。
でも、モーター・ヴァルキリーさんもそんな事は想定していたのか再びスロットルを操作してウィリーの状態でスピンして迫るカラクリメカを弾き飛ばす。
さらに倒れた1体の上に前輪を落として頭部を粉砕。
カラクリメカ、最後の1体は飛ばされながらもバク転を繰り返して距離を取り、相対距離8メートルほどでバイクと向かい合う。
向こうも勝負を決めようと腹を括ったと見たのかモーター・ヴァルキリーさんはニヤリと口角を上げ、2、3度エンジンを空吹かしした後で一気に突っ込んでいく。
「危ないっ!!」
僕が上げた声に反応して急ブレーキをかけるものの一歩、遅かった。
バイクの前輪は小さな爆発によって見るも無残に弾け飛び、タイヤの内部に充填されていた気体によってBOM! という大きな音を立てる。
カラクリメカはバク転しながらステルス・マキビシを周囲に撒き散らしていたのだ。
爆発の正体はマキビシの中に入っていた爆薬だろう。
ブレーキをかけていた事で転倒こそ免れたもののモーター・ヴァルキリーさんの代名詞であり、唯一の武器であるバイクは使用不能の状況に追い込まれてしまった。
さらにカラクリメカは猿のように高く跳び上がってバイクの2人に向かって両手を振り下ろす。
何か小さな物が幾つか銀色の光を瞬かせながらモーター・ヴァルキリーさんに迫る。
「誠君ッ!」
「分かってる!」
真愛さんが声を上げるよりも先に僕はビームマグナムを手元に転送していた。
そのままファニングで銀色に光る物体、5つの風魔軍団標準装備のタングステンカーバイド手裏剣を空中で撃ち落とした。
「ハッ! 石動兄弟抹殺光線!!」
さらに手裏剣を投げたカラクリメカへ弾倉に残った最後の1発をお見舞いしてやろうとしたところ、僕の後方から発射された3条のビームがカラクリメカを蒸発させた。
まさかと思って恐る恐る後ろを振り返ると、そこには予想通りに右腕を天に向かって真っすぐに突き上げ、その右腕に左手を添えているD-バスターがそこにいた。
彼女の右腕は内部の機構が展開し、前腕部に3器のビーム砲が現れている。
「……ちょっ、おま、何、やってんだよ!?」
「な、なんていうか……、ノリで?」
D-バスターはエクスペンダブル人造人間を名乗るとおり、一時の性能のみを追求された構成で、1度、出力炉のリミッターをカットしてしまえば後は自身が放出する熱に耐えきれず数分で自壊してしまうのだという。
こないだお好み焼き屋で言っていた切り札の「石動兄弟抹殺光線」とやらを果たしてリミッター限度内で使う事ができるのだろうか?
「お、おま、リミッターは!?」
「…………」
D-バスターは無言でウインクして舌を見せる。
あ、これ、アカンやつですわ……。
僕のアイカメラのサーモグラフィーで見てみると彼女の体内温度が急激に上がっている事が分かる。
一応は冷却器っぽい反応も見えるけど、どう考えても温度の上昇に間にあっていない。
「お前、ど~すんだよ!? これから甘いモン食いに行く流れだっただろ!? 何、こんなしょうもないトコでリミッター解除してんだよッ!!」
「アハハ……。メンゴ! それじゃサラダバー!」
一瞬だけ悲しそうな顔で笑顔を作った後、D-バスターはスプリンターばりのフォームで駆けだしていってしまった。
以上で32話は終了となります。
それでは、また次回。




