32-3
ラス面の1つ前のステージに戻ってプレイを再開したD-バスター。
改めて見てみるとアンドロイドだけあってコントローラー捌きは精緻を極めるような巧みなもので、隣の亮太君も目を丸くして彼女の手元を凝視していた。
でも、いくら見たところで絶対に参考にはならないと思うよ?
僕の眼にはハッキリと見えるD-バスターのコントローラー操作も、常人の目には残像がチラついて何がどうなってるか分からないんじゃない?
ていうか、このゲームのザ・エンペラー。このD-バスターの操作でも勝てないって一体、どうなってるの?
僕って一応、課金ダウンロードキャラだよね。
亮太君を始めこのゲームのプレイヤーはゲームソフトを買った上で、更にお金を出してデスサイズを使用しているのにこの仕打ちは酷いんじゃないかと思う。
テレビ画面に目を戻すとD-バスターの操作が適当なものではない証拠に画面に映る僕はNPCの兄ちゃんと協力して的確に敵を捌いていく。
ステージは反物質爆弾搭載ミサイル格納庫。
本物のARCANAのアジトは防犯カメラとかは無かったし、機密保全のためか自爆してしまったので格納庫の様子はゲーム制作陣の想像によるものだ。
巨大なミサイルを中央にして、無機質で広大な格納庫の中を3DCGの僕と兄ちゃんが飛び回りながらARCANAの尖兵ロボットたちの大軍を蹴散らしていく。
三浦君の言葉通りにD-バスターは僕を兄ちゃんの盾にしながら、1度はダメージを貰い過ぎてゲームオーバーになりながらも2度目の挑戦で見事にクリアに成功する。
兄ちゃんの残りHPもほとんど満タン。
三浦君の言う「デビルクローの残りHP8割以上」の条件は確実にクリアしていた。
「で、どうなるの? あの腐れ外道がアホみたいに弱体化するとか?」
「く、クサレゲドー!?」
「ああ、メンゴ、メンゴ。ザ・エンペラーの野郎の事だよ」
個人的には条件を満たす事でザ・エンペラーが産まれたての小鹿みたいなプルプルした足どりで出てきて、それを僕がボッコボコにできる展開を期待しちゃう。
もし、そうだというなら、今日の帰りにでもゲーム機とソフトと課金用のプリペイドカード買っちゃう。
でも僕の予想は外れているのか三浦君はニヤリと笑って「まぁ、見ていると言いで御座る……」とだけ言っていた。
僕たちが話している内にステージ後のリザルト画面は終わり、ついにラス面の幕が上がる。
デスサイズルート最終面。
僕とザ・エンペラーの最終決戦のステージだ。
先のステージと違い、実際の戦場となった廃車置き場には防犯カメラが設置されていて、その様子はドキュメントビデオにも収められていた。
そんなわけでゲームも実際の戦場と良く似た構造となっていた。
あの日を思い出す様なドシャ降りの雨も。
「で、で! 三浦君! 後はどうすればいいの!」
ステージ開始直後に一時停止したD-バスターが三浦君を急かすように助言を求める。
ということは、ここまでは今までと変わらないという事なのかな?
「ああ、後はザ・エンペラーの攻撃を1発食らえばいいで御座るよ」
「それだけ? 攻撃を食らうの?」
訝しみながらもポーズを解いてプレイを再開。
攻撃を受けるといってもデカいのは貰いたくないのが人情といったところか、D-バスターの操作するデスサイズはあからさまにド派手なエフェクトの剣撃を避けて、小技っぽいミドルキックを受ける。
『うわあぁぁぁぁぁ!!!!』
ザ・エンペラーの攻撃を受けた瞬間にゲームはムービーに切り替わり、ただの中段蹴りを受けただけのデスサイズは絶叫を上げながら地面をバウンドしながら飛んでいき、やがて積み上げられた廃車にぶつかって止まる。
テレビの中の僕の体の数か所から電気がショートしたような青白い火花が飛び散っていた。
ザ・エンペラーは雨に打たれながらゆっくりと歩いてきて、僕の鼻先に大剣を突きつける。
その様子はすでに勝負は決したと見なしているかのようで、僕の事なんかよりも雨の方を気にしているかのようですらあった。
『我が軍門に下れ。デスサイズよ。ここまでやった男だ。我の右腕の座に向かえいれよう』
『断る!』
『そうか……。ならば死ね!』
ザ・エンペラーが僕に止めを刺そうと剣を振り上げた。
本当ならば剣を振り上げた隙を見計らってマントに隠したビームマグナムを発射して形勢逆転したハズだった。
でもゲームの中の僕は動かない。
ザ・エンペラーの剣を止めたのは天から降る数条のビームだった。
その瞬間、BGMのショパンの葬送曲がアップテンポな曲に切り替わる。
アレ? この曲って……。
『何者だッ!? 姿を現せ!』
狼狽えるように周囲を見渡すザ・エンペラーにビームの主は頭上から姿を現す。
全身は黒い装甲に覆われて、肩や膝には山羊の角を模した突起が。
頭部には長く伸びた頭髪がイオンロケットに煽られながらたなびき、顔のアイカメラは左右非対称に光っている。
『よお! 誠! 待たせたな!』
『兄ちゃん!?』
『デ、デビルクロー!? 貴様、生きていたか!』
なんとゲームの中で僕の援軍に駆けつけたのは兄ちゃんだった。
反物質爆弾を宇宙空間で自爆させて共に宇宙の星となった兄ちゃんだ。
「デビルクローじゃん!」
「…………えぇ……」
「ちょ!? 三浦君、誠君になんてものを見せるの! 不謹慎よ!」
「そ、そうであったな……」
「い、いや、ウチの兄ちゃんがそれだけ世の人に好かれてるって事だし……」
天童さんはデビルクローの登場に一気に興奮し、真愛さんは三浦君を責める。
僕のルートの難易度が高すぎるからってゲーム制作陣が用意した救済手段は「デビルクローの登場」。
先ほど切り替わったBGMも兄ちゃんのドキュメントビデオのテーマソングだった。
それらを考えれば兄ちゃん、デビルクローの人気が高いからで、それは別に悪い事ではないと思う。
「三浦君、後は!?」
「えと……、後はザ・エンペラーはデビルクローしか狙わないで御座るから、範囲攻撃に巻き込まれないように中距離でビームマグナム撃って敵のHPを削って……。あ! デビルクローのHPがゼロになるとゲームオーバーで御座る。敵の必殺技はビームマグナムでは止められないのでブーストで突っ込んでマーダーヴィジランテのアシストを使って……」
僕そっちのけ!?
兄ちゃんのアシスト役もマーダーヴィジランテさんに取られるの!?
真愛さんに指摘されて不謹慎であると思っているのか三浦君は控えめに言葉を選んでいるけれど、ハッキリと言っていいよ?
これは「デスサイズルート」じゃなくて「デビルクロー生存ifルート」だって。
兄ちゃんの人気があるのはいい。
それはともかく、僕の扱いが悪くないですかねぇ?
このゲーム、アーケード版じゃ僕はデビルクロールートのラスボスだったよね?
家庭版でプレイアブルキャラに昇格したのはいいけれど、正規の方法じゃ難易度が高くてクリアできない人が続出で、アップデートで用意された救済手段では主役ではなくなると?
あらためて世の人の僕に対するイメージをまざまざと見せつけられたような気分だった。
案外、僕の事を一番、高く買ってくれているのは敵である侵略者たちだったりして……。
あっ!
それは無いか!
だって僕用に作り上げたアンドロイドがD-バスターみたいなポンコツだもの。
『デビルクローパァンチ!!』
『ぐわあああああ!!』
そうこうしている内にゲームの中の兄ちゃんは必殺技でザ・エンペラーとの勝負に決着を付けていた。
『覚えておけ! 我が死すとも悪の芽は絶えず。一足先に地獄で待ってるぞォォォ!!!!』
『フッ! 俺たち兄弟がいる限り、お前らみたいな連中にデカい顔させるかよッ!』
ザ・エンペラーの断末魔にカッコ良く台詞を決める兄ちゃん。
でも、まあ……。
なんていうか、ザ・エンペラーに止めを刺す瞬間にD-バスターはアシスト攻撃とやらを使っていたせいか、デビルクローと並び立っているのはマーダーヴィジランテさんだった。
ムービーは終わり、スタッフロールが流れ始める。
「すげー! やっとクリアできたよ! D子ちゃんも三浦さんもアリガトー!!」
ゲームクリアの喜びで亮太君は何度も体を跳ね上げて喜びを表していた。
スタッフロールと同時にムービーも同時に映されているがD-バスターは亮太君の喜んで興奮している顔ばかり見て微笑んでいる。
コイツ、ホントに悪の組織が作ったアンドロイドなのだろうか?
そう思わせるような限りなく優しい笑みだった。
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