32-2
大声の主はD-バスター。
ワイヤレスのコントローラーを持ったまま、大きく体をのけ反らせている。
え? なんで僕、いきなりディスられたの?
「ディ、D子ちゃん、姉ちゃんたち勉強してるんだから、いきなり大きな声を出しちゃ悪いよ?」
「だって~!」
あのアンドロイド、小学生の亮太君にまで「D子ちゃん」呼ばわりされてるの?
てか、小学生にたしなめられるって何? 反面教師的な所を見せて子供の成長を促すとか、そんな機能とか付いてんの?
「……どうしたで御座るか?」
集中の糸が切れてしまったのは皆も同じようで、憮然とした顔でテレビの前の2人を見ていた。
三浦君が何があったのかを聞いてみる。
「いや、亮太君がパイセンのストーリーモードがクリアできないっていうから私が代わりにやってやろうと思ったんだけどね……」
「戦闘用アンドロイドの反応速度を見せてやるって言ってたのに……」
「ああ、本人の前で言うのもアレで御座るが、デスサイズは性能がちょっとアレでネットじゃ産廃とか言われてるで御座るからね。ストーリーモードも難易度ノーマルですらクリアは難しいで御座るよ」
……へ、へぇ~、僕ってネットじゃ産廃なんて言われてるんだ~……。
このゲームの開発元は僕に恨みでもあるのかな? まぁ、無いとも言い切れないのだけれど。
でもゲームの中とはいえ、自分が「産業廃棄物」呼ばわりされているのはさすがに嫌な気がする。
どういう事が三浦君に聞いてみよう。
「……産廃ってどういう事なの?」
「石動氏の売りの機動力をゲームで再現しようとしても人間には操作できないで御座ろ?」
「まあ、それは分かるかな」
「攻撃力もゲームバランスの都合で、本物の石動氏みたいにはいかないで御座る」
「そりゃあねぇ……」
「でも、紙装甲は本物並みで御座る」
ええ……。なんでそこだけ再現しちゃうのさ?
真愛さんも「ま、まあ、ゲームの話だし」とフォローを入れてきてくれるけど、それでも釈然としない気持ちは残る。
さらに三浦君の話は続いた。
「後、よく言われているのが『アシスト攻撃がトラップ臭い』というので御座るな」
「アシスト攻撃」とか用語が出てくるあたり、三浦君もこのゲームやってるでしょ?
ま、三浦君はネットで産廃呼ばわりしてないと信じてるけど。
「アシスト攻撃ってなあに?」
「このゲームの攻撃方法の1つで、使用キャラにちなんだ仲間が助けに来てくれるで御座るよ。」
真愛さんも気になったのか聞くと、三浦君もゲームをやった事も無い人にも分かり易く説明してくれる。
「で、石動氏、というか、このゲームのデスサイズは敵との距離に応じて近距離ではマーダーヴィジランテ殿が、遠距離ではジョージ・ザ・キッドが援護しに来てくれるので御座るが、マーダーヴィジランテ殿は高威力で発動も早いので御座るが、ジョージ殿は低威力で発動も遅いのでござるよ」
「逆じゃないの?」
三浦君の言葉は意外だった。
譲司さんの武器といったら拳銃だから低威力なのはしょうがないにしても、彼のファニングはまさに居合のような素早い動作で、三浦君の言う「発動が遅い」というのは想像が付かない。
どちらかというとマーダーヴィジランテさんの方が「典型的パワーファイター」っぽくて発動が遅そうなんだけれど?
でも僕の疑問に対する答えは今までゲームをやっていたD-バスターからもたらされた。
「ああ、あのオッサン、なんか帽子をクイッと持ち上げたりポーズを決めてから攻撃するんだけど? なんで?」
「……なんでだろうね」
まあ、譲司さんらしいといえばらしいかな?
僕の知ってる譲司さんは体形こそ足が長いおかげでスマートに見えていたものの、アゴのあたりとかお肉が弛んでいて中年男性らしい感じだったのだけれど、昔はハンサム、今でいうイケメンとして話題だったらしい。
それも本人の談だからどこまでホントの話だか分かったモンじゃあないけれど、その昔の癖で恰好を付ける癖は確かにあった事を思い出した。
逆にマーダーヴィジランテさんは恰好とか関係無しに、敵に向かって目の色変えて襲い掛かっていきそうだものね。
「ジョージさんって生徒会長の親父さんだったよな?」
「うん」
「ま、誠君も大変だったのね……」
「いやあ、それが本物の譲司さんは意外と目端が利くというか、埼玉の最終決戦まで手傷らしい負傷はなかったんだよね。むしろ戦いが終わった後は皆がピリピリした雰囲気が残っている中でノンキにラーメン食べに行ったり、キャバクラ行ったり……」
「へ、へぇ……」
僕も譲司さんにキャバクラに連れてかれた事があるというのは真愛さんには内緒にしておこう。
「ま、あくまでゲームで御座るからな。というわけで譲司殿はポーズ決めてるうちに敵の反撃を食らいやすいので御座るよ」
「でも、それならアシスト攻撃とやらを使わなければいいだけだろ? アタシ知ってるぜ。『〇〇は封印安定』とか言うだろ?」
「まあ、ジョージ殿だけなら封印安定なんで御座ろうが、マーダーヴィジランテ殿の方は高性能なので御座るよ」
「ああ、マーダーヴィジランテさんの方は使いたいけど、距離を測り損ねて譲司さんが出てくると?」
「そ、そ。だから『トラップ』なんて言われてるで御座るよ」
三浦君の説明ではゲーム内のマーダーヴィジランテさんの攻撃は威力が高い上に多段ヒットで敵を気絶させやすいらしい。
そういう事で僕をこのゲームで本気で使おうとするならマーダーヴィジランテさんのアシストを組み込んだ連続技が必須になるらしい。
「でも、私も亮太君もそんなコンボとか憶えてられないよ!」
三浦君の話にD-バスターが不満気な声を上げる。
このゲームは家庭用に移植された際に自宅でじっくりやり込めるようにストーリーモードが実装されていて、ムービーやテキストを交えて各ヒーローたちの軌跡を追えるようになっているそうな。
亮太君も隣に住んでいる僕のストーリーモードをやってみたけれど難易度が高すぎて困っていたらしい。そこで対デビルクロー、デスサイズ用アンドロイドであるD-バスターに頼ってみたけれど結果は駄目。
何度、挑戦してみてもデスサイズルートのラスボスであるザ・エンペラーに勝てないそうな。
「ザ・エンペラーはゲーム内でも屈指の難敵である上に、対するデスサイズはゲーム内屈指の産廃で御座るからな」
あっ! 三浦君、今、ナチュラルに産廃って言った!
「ホント、デスサイズが弱すぎて困るよ! 敵が強いのはラスボスだからしゃあないって気もするけど、デスサイズが弱すぎて戦いようがないんだよね!」
D-バスターも「デスサイズが弱い」と口に出して言う。
2回も続けて。
さっきのも入れれば3回目だ。
てか、僕が弱すぎるってソレ、自分の存在意義が無くなっちゃわない?
D-バスターはプリプリした様子で「デスサイズが弱い」と言った後、一転してすがるような目で三浦君に助力を求めた。
「なあ、三浦く~ん。なんとかならない?」
潤んだ瞳で三浦君を見上げるD-バスターの表情は世の男性たちなら思わず息を飲むようなといったところだけれど、普段のコイツを知っている僕には「調子の良い奴だなぁ」といった感想しか出てこない。
「う~ん、これは自力で勝てない人の最終手段で御座るが、そういう人が多かったんで御座ろうな。亮太氏、最新のアップデートはしてあるで御座るか?」
「うん」
おっ? 三浦君にはこの状況をひっくり返す方法が?
「ならラス面の1つ前、反物質爆弾工場の面でNPCのデビルクローの残りHPを8割以上の状態でクリアしてみるで御座る」
「え、どゆこと?」
「いいから、いいから。なんならデスサイズを盾にしてデビルクローを守るで御座る」
「……分かった」
三浦君の言葉に怪訝な顔をしながらもD-バスターはステージセレクト画面から1つ前のステージに戻り、プレイを再開する。
テーブルに向かっていた僕たちもゲームの画面が気になってテレビ画面に釘付けになっていた。
テレビゲームなんか興味無さそうな明智君までもがだ。真愛さんも苦笑しながら冷蔵庫から麦茶のポットを出してきて皆のコップに注いでくれた。
D-バスターというアンドロイド。
実は物理的にではなくて、社会的に僕の事を抹殺するつもりなのだろうか? 主にテスト勉強の邪魔をして悪い点を取らせる事で。
Twitterやってます!
雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U
https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U
毎回、更新の度に呟く事が無いのですが、設定とかの話って需要あります?




