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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第31話 迫るD-バスターの恐怖! の続き!
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200回特別編 そんなこんなで彼らは彼らで元気にやってます(後編)

 ライカは走った。


 狼煙が上げられたのならば狼煙を上げるに相応しい出来事があったハズであるが、そんな事などおかいまいなしで全力で走った。


 鎧を脱いだ事で体は軽く、さらにライカは「身体能力強化」の魔法を使って己が肉体を加速させていく。


 草をかき分け木々を越え、見る見る内に村に近づいていった。


(……なんだアレは……)


 トワ村が見えてくると、ライカの目に村に迫っている一団も入ってくる。


 野盗でもどこかの軍勢、落ち武者の類でもない。

 そもそも隔絶された環境にあるトワ村にそのような集団が現れるハズもないのだが、何らかの集団が村の西側の柵に殺到していたのだ。


 異様な集団だった。


 村の方では狼煙を上げ非常事態に備えて村人たちが走り回ったり、子供たちの泣き声や大人の怒声が届いてくるのに、一方の柵を破ろうと押し寄せている集団は何一つ物音を立てていないのだ。

 それどころか覇気とか活気というような生気そのものが感じられない。


 だがライカが村の西側に進路を変えてしばらくすると村を襲っている集団から生気がまるで感じられない理由がハッキリと分かった。


 彼らは、村へ殺到している集団はアンデッドだったのだ。


 完全に白骨化したスケルトンのような者もおれば、思わず目を逸らしたくなってしまうような歩く腐肉のゾンビもいる。


 村の大人たちは柵の内側から物干し竿や農耕用のフォークなどで必死に敵を近づけさせまいとしていたが、相手はすでに死したる身、突かれようが殴られようが構いもせずに押し寄せていく。


 村人たちも弓を取るシドを除いてはまともに戦える者もいないのだ。

 そのシドも物見櫓の上から矢を放ちながら懸命に他の村人たちを励ますために声を張り上げ続けている。


 ライカが村を空ける時にはシドに頼んでいたといっても、あくまでそれは害獣、猪や熊などが村に侵入した時のためで、村の柵も害獣除け程度の物でしかない。


 村を襲うアンデッドの大群を目の前にして、ライカは村へ駆けてきたその足でアンデッドの集団に突っ込んでいった。


「ハアァァァ!!!!」


 長剣を鞘から抜き放ち、手近のスケルトンを背後から袈裟に叩き斬る。


 剣の柄付近に刻まれたセガル騎士団の紋章がライカの闘志を振るい立たせた。

 騎士として叙任された日、自分が誓った事を思い出す。

 あの日、確かに自分は誓ったのだ。

 我が身はすでに我が物に非ず。

 我が剣は力無き者を守るための物で、盾は森のクドーたちに預けてきたが我が身こそ真の意味での盾なのだ。

 ライカはそう誓っていた。

 王でも貴族でもなく、自分自身にだ。


 切り込んできたライカにアンデッドたちも気が付いたようで彼女を取り囲もうと動きを変えるが、むしろそれこそライカの狙いだった。


 人間の集団ならば数十人も人数がいたならライカの相手は少数で、残りは変わらず村を攻めていたハズだ。

 だが脳すら腐り果てたアンデッドにそんな事を考える事ができるハズもなく、全てのアンデッドがライカを目指して集まってくる。

 その隙に村の方では態勢を立て直す事が出来るハズだ。


 剣を体ごと振り回して3体のアンデッドをまとめて斬ると柵の内側の村人が歓声を上げた。

 アンデッドたちが離れた所を見計らって壊れかけた柵の補強を始め、少しでもライカを援護しようと大人の拳ほどの石ころをアンデッド集団に向けて投擲する。


 ライカは獅子奮迅の活躍を見せて次々にアンデッドを屠っていく。

 脊髄を横から斬られながらも上半身だけで這って動くスケルトンの頭部をブーツで踏みつぶし、ドロドロに溶けた肉を纏ったゾンビを脳天から唐竹割にする。


 次にライカの前に現れたゾンビは腐っていたものの、ほとんど原形を留めていた。


「ウェルズ!? あ、貴方はウェルズですか!?」


 ゾンビは答えない。


 だが腐汁と泥に塗れていたがカールの強い赤毛や、角ばった頬骨など目の前のゾンビは確かにトワ村の住人ウェルズであった。


 ウェルズは先週、風邪を拗らせて亡くなっており、葬儀にはライカも参列していたのだ。


 そのウェルズがゾンビとなってライカの前に現れた。


 その瞬間、ライカには点と点が線で繋がったような感覚を覚える。


 墓荒らしの手によってたった1晩で持ち去られた全ての遺体。

 そして、その翌日に村を襲うアンデッドの大群。


「……村人たちの遺体をアンデッド化したという事ですか!」


 怒りのままにライカはウェルズのゾンビを切り捨てた。


 村人の遺体をアンデッド化させたのなら運び去る手間はいらない。自分自身で歩かせればいいからだ。


 だが、まだパズルのピースが足りない。

 きっと近くに死霊術師(ネクロマンサー)がいるハズだ。

 村人たちの遺体をアンデッドに変え、死者の集団を操っている者が。

 墓地が荒らされたのは一昨日の晩である。それから今までアンデッドたちが村を襲わなかった理由をライカはまだ見ぬネクロマンサーに求めていた。


 突如、アンデッドたちの集団が道を作るように左右に分かれ、その間を2人組がライカに向かって歩いてくる。

 露出の多い皮鎧の女とブ厚いローブを着込んだ背の高い恐らくは男の2人組。


「たった1人で頑張るじゃない?」


 艶のある黒く染められた皮鎧を纏った褐色のエルフが嘲笑うような言葉をライカに投げつける。


「……貴方たちが死者を弄ぶネクロマンサーですか!?」

「半分は正解、半分はハ・ズ・レ」


 ダークエルフの女が目配せすると、ローブの者は目深に被ったフードを外した。

 フードから現れたのはカサカサに乾いた灰色の顔面、眼球は無く、空いた眼下には青い炎が宿っていた。


「リィ~チッチッチ! 我をただの死霊術師と一緒にするな! 我は……」

「なんですって! 死霊魔導師(リッチ)だなんて!」

「え? いや、我はまだ何も……」

「え、でも笑い方……」


 魔法の神髄は深く、人に与えられた寿命ではとても解き明かす事はできない。

 その事に絶望した魔導師が禁呪に手を染め、自らをアンデッド化した存在を死霊魔導師リッチという。

 生者とは比べ物にならないほどの時間をかけて研鑽した魔法の威力は凄まじく、神話に語られる魔法を再現できるのはリッチのみであるとも言われている。

 とてもライカのような騎士1人で相手できるような敵ではない。かつての記録によるとリッチの討伐には1個騎士団が用いられたとの記述もあるのだ。


「少数で敵地に侵入してリッチ男の死霊術で手駒を増やす。その新戦術の検証のためにお誂え向きの村でテストをして見事に成功。後は……」

「証拠隠滅でリチ~!」


 ダークエルフが腰の後ろから取り出した長い鞭をライカに振るう。

 ライカが避けた所にリッチの黒い火球弾が襲った。


 剣を持ったまま前転するように転げてライカが避けるが火球は地面に着弾すると、まるでそこに火薬を仕込んでいたように大爆発をおこした。


「きゃあああああ!!」


 爆発に煽られてライカは地面に叩きつけられる。

 そこへ死者の集団が群がっていく。


 ライカは倒れたまま剣を振るうが腕の力だけで振るった剣に威力は無く、スケルトンの肋骨で止まってしまった。


「……マズ! 死……」


 ライカが群がる死者に自身の死を予感したが、意に反してアンデッドは次から次へと何者かに殴り飛ばされていった。


「……え? クドー! それにシシガミにクロイも!」

「よ! おまたせ!」


 クドーが人差し指と中指をピッと振ってライカに合図をする。

 シシガミとクロイの2人はライカが彼らに預けてきた鎧や盾を振り回してアンデッドたちをライカに近寄せまいとしていた。


「怪我は無いか?」

「え、ええ……」

「後は俺たちに任せておけ」

「そんな! 相手は……」


 リッチという不死者の危険性をクドーに説明しようとしたが、クドーが見せた笑みでライカは言葉を飲み込んだ。


「ま、餅は餅屋ってね。皆! 行くぞ!」

「応!」


 クドーが2人に号令を掛けるとシシガミもクロイもクドーの元へやってくる。

 クドーを中心として3人はへたり込んだままのライカに背を向け、ダークエルフとリッチに相対する。


「変身だァ」


 3人が腕をまくるとそこには同じブレスレットがあった。

 それぞれの手首に装着しているブレイブブレスのダイヤルを回してパスワードを入力する。

 パスが外れ、ブレスは入力待ちのアイドル状態へ移行。


「ブレイブチェンジ!!」


 音声入力の変身コードはただちに認証され、3人は一瞬で3色の強化戦闘服を身に纏った。


「ブレイブ! ライオン!」

 赤の雌獅子、獅子神緋音。

「ブレイブオルカ!」

 黒の鯱、黒井鯱。

「ブレイブゥ! ドラゴンッ!」

 銀の竜、工藤竜。


「ブレイブファイブ! ただいま参上!」


 3人がめいめいにポーズを決めると変身装置のエネルギーの余波が3色の煙となって彼らの背後に掃き出されていく。

 だが、煙が掃き出されたその場所、そこにはライカがいた。


「ヒィっ……!」


 まるで何かの爆発のような勢いで掃き出された色付きの煙に飲み込まれていったライカを見てダークエルフが小さく悲鳴を上げた。


「…………あ、ワリ……」

「メンゴメンゴ!」

「だ、大丈夫!?」

「……コホッ! コホ! 助けにきてもらってなんですが、コレは分からなかったんですか!?」

「え、いや、何ていうか……」

「ノリでね」

「ホント、ゴメンね?」


 煙に咽ながらライカが目を開けると、そこには3色の鎧には見えないモノに全身を覆われた3人がそこにいた。


「それじゃあ、気を取り直して……」

「行くぞ! 怪人!」

「俺たちブレイブファイブが相手だッ!!」


 ブレイブファイブ。

 工藤たちの前世、日本において度重なる特怪災害に防衛省がその技術力を結集して作られた特殊強化戦闘服を身に纏って戦う戦士たち。

 だが侵略者たちの超技術と戦うには人類も未だ解明されていない彼らの技術を使うしかなかった。

 そのためブレイブスーツの装着者たちは熱い闘志と勇気を持った者たちが選ばれていた。


 そう、1度、敗れて死んだくらいでは彼らの勇気の炎は消せはしないのだ!

 戦え、ブレイブファイブ!

 負けるな、ブレイブファイブ!

 異世界含めて世界に平和が戻るまで!


「……ちょっと待って」


 まるで闘志が人の形をとったような3人に対して、敵であるダークエルフは手の平を向けて怪訝な顔をする。


「え? お前たち、チーム名が?」

「ブレイブファイブだッ!」

「……ねぇ?」

「?」

「なんでブレイブ“ファイブ”なのに3人しかいないのよ!?」

「なんでって、ねぇ?」


 3人はダークエルフの言葉に肩をすくめて「コイツ、分かってね~な~」といった素振りを見せた。


「ブレイブファイブで財務省から予算をもらってんだから、勝手に名前を変えられねぇだろぉ?」

「ウチのリーダーは怪人よりも財務省の人の方が怖いってよ!」

「そんくらいアンタ、空気を読みなさいよ!」

「えぇ……」


 なお彼らの元の世界では工藤の後を継いで2代目リーダーとなった犬養葵が各関係省庁を回って「トライブレイブス」に改名した後、2名の新メンバーが加入した事で再び「ブレイブファイブ」を名乗る事を彼らは知らない。


「大体なぁ! それを言ったらこないだまで6人でブレイブファイブだったんだぞ!?」

「へぇ……。いや! いやいや! それでもおかしいから!」

「ええい! つべこべと! お前たち、やってしまえ!」

「応!」

「ファッ!?」


 3色の戦士たちは腰のホルスターからそれぞれの専用武器を手にとって周囲のアンデッドたちを蹴散らしていく。


 ブレイブライオンは獅子の頭部を模した手甲を。蓄えられたエネルギーで赤く発熱した手甲は次々に死者たちを打ち砕いていく。


 ブレイブオルカはオルカショーで使われるボールを模したモーニングスターを。ブレイブスーツのパワーアシストで振り回される特殊金属製の鉄球はスケルトンだろうがゾンビだろうが構わずに砂糖細工のように砕いていった。


 ブレイブドラゴンは竜の姿を模した杖を。杖を変形させて共通装備のビームガンであるブレイブラスターと合体させてドラゴンライフルに変えてビームを撒き散らしていく。


「おのれ! アンデッド軍団が! リッチ男、やっておしまい!」

「リィ~チッチッチ……」


 ダークエルフの指示でリッチは両手を合わせてシャボン玉のような光の塗膜を作り上げた。


「これは……」

「我が魔導研究の結露でリチ、このマジックバリア、いかなる属性の魔力も絶対に反射してみせるでリチ。お前たちは自分の魔力で自滅するがいいでリチ!」

「魔力を……通さない……?」


 ブレイブドラゴンは首を傾げながらリッチの誇るマジックバリアへドラゴンライフルを発射した。


「うひょお!」


 長き時をかけて磨き上げられてきたリッチのマジックバリアはプラズマビームを素通しし、リッチは死者とは思えないような身軽な動きでビームを間一髪の距離で回避した。


「……やっぱり」

「だよね~……」

「悪いけど、俺ら魔力とか使ってないぞ?」

「え?」


 すでにアンデッドたちはほぼ全滅し、残るはリッチとダークエルフのみという状況になっていた。


 ライカも張り付けていた緊張が解けたせいか、地面に座り込んだまま彼らの戦いを見守っている。

 考えていたのはすでにアンデッド軍団の事ではない。


(彼らの腰のベルトのエンブレム、「聖魔導巨人」の物と同じ……。彼らは一体?)


以上で200回記念特別編は終わります。

次回からは本編に戻ります。

「異世界戦隊ブレイブファイブ」は続きません。


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