31-5
「ていうか皆、どうしたのよ? そんな驚いたような顔をしてさ」
飲み物を噴き出してしまった明智君以外の皆もD-バスターの口から出てきた「UN-DEAD」という組織の名に目を丸くしている。
「UN-DEAD」の名は今日の昼休みにゼス先生から聞いたばかりで、ヒーロー協会のメルマガでも注意喚起がされるような組織らしい。
話に聞いたかぎりだと「世界怪奇同盟日本支部」の御遺族をけしかけて僕の命を狙わせたり、元某組織の怪人だった佐々木さんに僕の行動の監視をしたり、後は見込みのありそうな人の所に勧誘に行って返り討ちになったりと最近、暗躍しているそうだけれど、方やD-バスターのような超絶ファジー機能を搭載したアンドロイドを僕や兄ちゃん用の兵器として作ったりとワケ分かんないね。
「……どうしたっていうか、君んトコ、最近、頑張ってるらしいじゃん?」
「ウチのクラスで今日の昼休みもお前んチの話してたぜ?」
「そうそう! なんか皆、最近、忙しいらしくてさ! 前ほど遊んでくんないんだよね。だからさぁ、今日も何かいきなりてんやわんやの大騒ぎになっちゃってさ、んで、隙を見て無断外出してきたわけよ」
「何かいきなりてんやわんやの大騒ぎ」って一体、何があったんだよ、UN-DEAD。まぁ、こんなヘンテコなアンドロイドを作る連中の事だから何があっても驚かないけどさ。
「で、1人で外出して自由を満喫したのはいいけれど、財布を持ってないのに気付いてさ。よし! それじゃパイセンにタカりに行こうと……」
「ええ……。今更だけどさ、君と僕って会った事、無いよね?」
「校門の所で会ったのが初めてだけど?」
それで何故「財布を持ってない→よし! タカりに行こう」になるのかが分からない。
「まぁ、私がこんなけったいなスペックになったのもパイセンのせいだし、責任取ってもらおうと、ていうかパイセン稼いでるっしょ!? こないだのハドー戦の報奨金いくらだった?」
「そういや、まだ通知とか来てないなぁ……」
「ああ、ハドー総攻撃の時のは規模が大きくて算出に時間がかかってな」
「へぇ~……」
明智君の話だとむしろその後のアカグロが占拠した銀河帝国宇宙巡洋艦撃破の報奨金の方が先に決まるんじゃないかという事だった。
なんでもハドーの時はほぼH市だけにしか被害がでていないので大規模特怪災害の指定がされなかったせいで、H市の市役所の人が頑張って算出してるけどまだ予算措置すらできていないのに対して、アカグロの方は国連裁可の案件になったためにスパッとお金が落ちてくるらしい。
正直、予算の「概算請求」だの「執行」だの言われてもチンプンカンプンだ。どの道、報奨金は非課税らしいので気長に待っておくことにしよう。
「いやぁ~! ホント、パイセン、パネェっス! ゴチになります!」
「……まぁ、いいけどさ」
あからさまに持ち上げられて、おざなりに「ゴチになります」て言われても気持ちはいいものではない。
かといってここまで来て出さないというつもりもないけれど、まぁ情報料という事で。
「たしかに石動氏のハドー戦での活躍は目覚ましい物があったらしいで御座るな」
「新聞にも載ってたし、DVDの告知のCMにもマコっちゃんが使われてるよな」
「ふふん、そのデスサイズと戦うために作られたアンドロイドが私なのよ~! 凄いでしょ!」
「そ、それが未だに信じられないので御座るが……」
D-バスターは得意気になるが三浦君は微妙な顔で返す。それは真愛さんも天童さんも同様だった。
「お前は良いヤツっぽいから言ってやるけど、ウチのマコっちゃんは凄い強いぞ。あと顔に似合わず、やる事がエゲつないぜぇ? アタシやデブゴンが近くにいても怪人をいきなり爆破したり……」
……うん、天童さん、その件に関してはゴメン。気が動転してて……。
「私も止めておいた方がいいと思うわ……」
天童さんに続いて真愛さんも控えめながらD-バスターへ一言。
「むしろ石動氏と戦うために作られて、なんでそう能天気なのかが不思議で御座る」
「うん? 逆じゃない?」
「逆?」
三浦君の言葉にD-バスターは我が意を得たりとばかりにウインクを返した。
「ハドー総攻撃の時って市街戦でけっこうな乱戦だったじゃない? まぁ、私もハッキングした動画しか見てないんだけど、で、ハドー怪人がデスサイズを出会いがしらにギョッとして、そのまま切り捨てられちゃった所とかも見たのよね」
「ほうほう……」
「私はそんな事にはならないわよ? とことんポジティブに調整されてるからね!」
「えっ? お前の性格ってわざわざソレに調整されてんの?」
まぁ、まともな人格に作られてたら敵にメシをタカりに行くという発想なんか絶対に出てこないだろうね。
「曲がり角を曲がったところでいきなり大鎌を構えたパイセンに出くわしても『おっしゃ!』としか思わないような、そういう風に人格パラメータを振り切らせてあるって聞いたわ」
「……確かに誠に遭ってビビっちまった怪人なら俺も見た事があるな。それじゃ戦うどころじゃないのも確かだ」
明智君が言ってるのは去年の埼玉での事かな? あの時期の僕は一番、荒んでた時期だからね、しょうがないね!
「で、実際の所、戦って勝てるので御座るか? 何か武器でも使うので御座るか?」
ヒーローオタの三浦君が突っ込んだ事を聞いていく。その質問に明智君の目もますます細くなったのを僕のアイセンサーは見逃さなかった。
でも、まぁ、そんな事、聞かれても答えないよなぁ……。
「お! よくぞ聞いてくれました!」
答えるのかよ!?
D-バスターのセキュリティホールは組織の事ばかりではなく、自身の事に関してもそうであるらしい。
「私のデビルクローの装甲を想定した『石動兄弟抹殺光線』ならワンチャンあるっしょ!?」
凄い!
漢字8文字も使っておいて僕たち兄弟にエラいヘイトが向いてるって事しか分かんない!
例えば戦車の主砲から発射されるAPFSDSとかなら「装弾筒付翼安定徹甲弾」と日本語で書けばどんな物か想像できるのに!
「光線」って付くから飛び道具なのかな? とも一瞬だけ思ったけれども、昔、家で飼ってた犬を動物病院に連れて行った時に獣医さんが「近赤外線レーザー」と言っていた物は患部に押し当てて使う物だった。「光線」と言っても飛び道具とも限らないという事なんじゃないかな?
ただ、D-バスターは右腕を伸ばして左手を添えている。突き出した右腕は拳を握り三浦君の方へ向けてウインクを。
どうやら、このポーズがそのナントカ光線の姿勢らしい。
これでこのポーズがフェイクならとんだ策士だと思う。まぁ、それは無いんじゃないかな?
「あっ! これは言っとかないと! パイセン、空に逃げないでね?」
「……嫌だよ」
「というと貴女は?」
「飛べないんだな~! コレが!」
必殺技に続いて自身の弱点まで晒してくれるD-バスター。
むしろここまでくると飛べない事よりも、彼女の性格こそが弱点なのではと思ってしまう。
次から次へと明かされていく情報に明智君はもはや頭を抱えてしまっていた。
こうも簡単に情報を出されるとむしろ信憑性を疑いたくなってしまっているのだろう。
うん、まぁ、気持ちは分かるよ。
「……話を変えるが、お前ら『UN-DEAD』の目的は何なんだ?」
頭をガリガリと掻いた後、明智君は意を決したように頭を上げ、D-バスターに問いかける。
「おっと! そう易々と話すと思うかい?」
「……そうか」
まぁ、普通はそうだよね。
むしろ「今更かよ!?」と思わなくはないけれど……。
「あ~、このアイスとか食べたら喋っちゃうかも?」
「喋るのかよ!?」
D-バスターはメニューの裏面に載っているアイスの盛り合わせを見た後、明智君の返事を待つ事もなく店員さんを呼んで全員分のアイスを注文した。
D子「今日も何かいきなりてんやわんやの大騒ぎになっちゃってさ」
クリスマス編を挟んだせいで忘れている人のために。
この日、「UN-DEAD」のアジトは重戦車に乗ってる認知症のお爺ちゃんに攻め込まれてます。
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