31-4
謎のアンドロイド、D-バスター1号はいきなりきっつい話をブチ込んで場の空気を重苦しい物にしておいて、自分はけろっとお好み焼きをパクついている。
デジタルの電気信号で物事を考える人工知能ならちょっと前にどんな感情を持っていても引きずる事はないんだろうけどさ~、僕たちは脳味噌に脳内物質を流し込んだらしばらく切り替えられないよ?
「いや~! 美味いなぁ~! 特にこのスジモダンっての? これは良いな~!」
「……あのさ、君はどう思ってるの?」
「何が?」
「何がって、さっき自分で言ってた『一度、全力を出すと壊れる』とか『自分は使い捨て』だの……」
「え? だから楽しめる時に楽しまないと! でしょ?」
当の本人がクソも気にしていないのは助かるし、人間は例え誰であってもいずれは死ぬ、そう考えれば彼女の言っている事は一つの真理かもしれない。
でも僕の質問に対しては鳩が豆鉄砲を食らったような顔で答える姿を見ていると、心配して損したみたいで釈然としない気がするなぁ。
でも、まぁ、彼女が気にしていないのならと僕たちも気を取り直してお好み焼きに箸を伸ばしていく。
真愛さんと三浦君は少し困惑したような表情で、天童さんも使い捨てのアンドロイドを憐れむような表情をしていたが1口、お好み焼きを口に入れるといつもの笑顔を取り戻していた。
ただD-バスターの人間性 (アンドロイドだけど……)はどうあれ、彼女を作った組織がどのような所なのかは分からない、それを探ろうと明智君だけは硬い表情を保ったままだった。
「ドリンクバー、お代わり取りにいくけど、明智君はウーロン茶でいい?」
「ん? ああ、済まないな……」
なんかD-バスターを警戒しているのも馬鹿らしくなってきたし席を外しちゃおっと。
明智君はまだ彼女から目が離せないだろうから彼の分の飲み物も注いでこよう。
「あの兄弟が強過ぎるから私が作られた。そういう意味でマジ、リスペクト! 私が毎日、楽しい事が出来るのもパイセンたちがいたからだしね! まあ、強過ぎるから使い捨ての設計に割り切らないと対抗できなかったらしいんだけど、強過ぎるせいで私は当分、出番が無いみたいだしね! その辺はチャラで!」
僕がドリンクバーから戻るとD-バスターはますます調子を上げていた。
言っておくけれど、彼女が飲んでいるのはドリンクバーのメロンソーダとヨーグルトドリンクを混ぜた物。つまりはソフトドリンクでけしてアルコールではない。
何がそこまで楽しいのか分からないけれど、彼女のおかげで先ほどまで重い空気が立ち込めていた皆も大分、気を取り戻していたようだった。
「出番が無いってどういう事?」
「ああ、こないだパイセンたちハドーの連中とドンパチやったっしょ? で、その内、そのドキュメントビデオとか出るらしいから、映像プロダクションのサーバーにハッキングして動画データとかパクってきたらしいのよ。で、『あ……、これはアカンな……』ってなって下手なちょっかいは出さない事にしたらしいよ?」
「へぇ~……」
そんな事を考える頭脳があるのなら、とっとと悪い事を止めたらいいのに。
「って、パイセン、全然、食べてないじゃん!?」
「え、いや……」
だって、さっきまでD-バスターの事を警戒して食事どころじゃなかったし、それから場の空気が重くなるような話をブッ込まれたし、それからドリンクバーに行って戻ってきたばかりなんだけどなぁ。
「美味しいよ? 冷める前に食べなよ」
「うん……」
釈然としない気持ちを抱えながらも、僕を倒すために作られたアンドロイドの人懐っこい笑顔に促されてお好み焼きを1口。
……うん、美味しい。
これはD-バスターが最初にひっくり返そうとして失敗した奴だね。
でも幸い海鮮ミックスだったために1度、グチャグチャになったのを固めなおしても大して味は変わらないんじゃないかな?
「どう?」
「美味しいね」
「でしょ~! 私、お好み焼きは初めてだけど凄い美味しいわね!」
「う、うん」
なんの屈託も無い満面の笑顔で同意されて、なんだか気恥しくなるくらいだ。
「D子は普段、何、食ってんの? オイルとか?」
天童さんがD-バスターに早速、変なあだ名を付けていた。
まぁ、彼女からしたらこれが平常運転なのだ。僕なんか初登校の日から「マコっちゃん」呼ばれているし、三浦君にいたっては入学式の日から「デブゴン」とか言われていたらしい。
対するD-バスターの方も「D子」なんて言われてもまるで気にした様子が無かった。
「ハハ! 天童ちゃんも言うね! 私がも〇みちに見えるかい? まぁ、オイルは使ってるけど口からは入れないよ。普段はまぁ普通に? 普通ってのが良く分かんないんだけどね。あ、でもここ2、3日はボルシチばっか食ってたなぁ~!」
「ボルシチ?」
ボルシチといえばロシア風のシチューだっけ? 牛肉とかビートとか入ってる。
「そうそう! たくさん作った方が美味しくなるからって作り過ぎだっての。何度も温め直してるから具ももうグダグダでさ~!」
「……お前らの所にはロシア人でもいるのか? さっきも『スターリナ』とか言ってたよな?」
D-バスターの製造元の手がかりと見て、明智君の目が鋭くなって突っ込んだ質問をする。
けど、彼女の方は情報を探られてるなんて露にも思っていないような表情で返した。
「ロシア人ってか、ロシア被れ? いやソヴィエト被れかな?」
「まさかお前を作ったのは日本ソヴィエト赤軍なのか?」
「いやいや! 赤軍も参加してるってだけで色々といるよ~」
「それじゃルックズ星人とかも?」
「うん。ルックズ星人のアッ君が皆の取り纏め役かな~。ほら、ウチの連中って人間的に問題あるのばっかりじゃない?」
「……知らんがな」
「日本ソヴィエト赤軍」という明智君が口にした組織の事を僕は知らなかったので、電脳内のデータベースで検索してみると、朝鮮戦争中に米軍の目が朝鮮半島へ向いている事を良い事にソ連から軍事援助を受けて、北海道は石狩平野に上陸したが撃退されたとある。
その後もチラホラと活動していたらしいけれど、ここ数年は活動が確認されていないらしい。
ていうか揃いも揃って人間性に問題のある人ばかりで異星人がリーダーって、同じ地球人としてどうかと思う。
「……それじゃ、さっきの話だけどお前に『レーヴェ』って名前を付けようとしていたのは、もしかしてナチ系の組織なのか?」
「おっ、良く分かるね!?」
「え、明智ん、なんで分かんの?」
「レーヴェってのはドイツ語でライオンを意味する言葉でな。旧ナチスが計画していた戦車にもそういう名前の物があったから、もしやと思ってな」
「凄いじゃん! じゃあさ! 私に『アンゴルモア』とか『セックス・ピストル』とか付けようとしたのはだ~れだ?」
情報を探られているとか考えもしないのか、D-バスターは聞かれもしないのにクイズ形式で情報の断片を晒してくる。
彼女の話を聞くかぎりだと、どうもD-バスターを作った組織ってのは色んな組織の寄せ集めらしいんだけれど、情報保全とかの概念を持ち合わせている人は誰もいないんですかね?
「ん~、『セックス・ピストル』の方はメタル……、いやパンクか、なら『スラッシュパンクス』か?」
「正解!」
「『アンゴルモア』だとオカルト系だよなぁ……。あ、『世界怪奇同盟日本支部』か!」
「ブッブ~! 正解は越〇製菓、じゃなくてサクリファイスロッジでした~!」
「あ~……」
ゴメンね、明智君。
世界怪奇同盟日本支部は残党とかいないんだよね。主に僕と兄ちゃんのせいで……。
まるで鬼の首を取ったような得意気な表情で勝ち誇るD-バスター。
間違えてしまった明智君も演技ではなく本気で悔しそうな顔をする。いつもクールな明智君もD-バスターの底抜けに人懐っこい様子に調子を狂わされているのかもしれない。
「それにしても色んな組織の名前が出てくるで御座るなぁ」
「アタシは聞いててさっぱりだよ……」
「私も……」
「アハハ! ゴメン、ゴメン! 今は皆で集まって『UN-DEAD』って名乗ってるんだけど分かる?」
「ブフゥ!?」
「UN-DEAD」の名を聞いて明智君が口に含んでいたウーロン茶を盛大に吹き出した。
なんとか鉄板に吹き出す事はなく、右を向く事は出来ていたけれど、そこには三浦君が。三浦君の左半身は霧状に吹きだされたウーロン茶でビショ濡れになってしまっている。
まぁ、気持ちは分かるよ、うん。最近、話題になってる謎の組織が向こうから情報持ってきたんだもの。
「す、スマン……!」
「……い、いや、いいで御座るよ……」
「きったないな~! ほらメガネのお兄さん、オシボリ!」
「ああ、ありがとう……」
D-バスターから受け取ったオシボリで明智君は三浦君の学生服を拭き、三浦君は自分のオシボリで顔を拭いている。
でも、ここまで簡単に情報を吐かれると情報保全うんぬんっていうか、D-バスター自体が深刻なセキュリティーホールみたいな物だよねぇ。
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