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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
クリスマス特別編 聖夜の悪魔王決定戦
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クリスマス特別編-13

 カウボーイブーツが大地を噛むが、譲司の質量と慣性を食い止め切れずに滑る。


 地面を滑りながらガンマンは拳銃を構えて悪魔に発射。そのままヘッドスライディング気味に跳びながら前転して投擲されたナイフを躱す。


 前転し終わると視線を子供のような悪魔に向けたまま愛銃の回転式弾倉をスイングアウトして排莢。腰のガンベルトのポーチに入ったクイックローダーを用いて速やかに装填。


「日本一のガンマン」の二つ名に恥じない流れるような自然な動作だった。


 発射された弾丸も悪魔アイヴィーの眉間に命中している。

 だが、悪魔は45口径マグナム弾の直撃をまるで裁縫針で軽く突かれたようにしか感じていないようで、新たに手元にナイフを呼び出して譲司に向けて構える。

 戦闘を開始してから数分、周囲にはアイヴィーが投擲したナイフが幾つも地面に落ちていた。

 どうやらアイヴィーという悪魔は魔力が続く限り無限に凶器を召喚できる能力を持つらしい。


「はぇ~! 悪魔ってのはアスタロトだけじゃなくて皆、丈夫にできてんだなぁ~!」


 驚くような口調とは裏腹に譲司はヘラヘラと笑っていた。

 そんな譲司の様子にアイヴィーはムスッとした顔を見せた。


「お前、ふざけているのかい?」

「まあな!」

「なっ……! 馬鹿なのか!?」

「ハッ! 切った張っただ、そんなツまんね~事、真面目にやっても馬鹿だろ? 同じ馬鹿なら楽しんだモン勝ちさ! ホレ! もっとナイフを投げてこい!」


 譲司が左の掌を胸の前で天に向け、4指を2、3度折り曲げて挑発してみせるのを見て、アイヴィーは譲司が何を狙っているのかに思い至り、自然と顔が綻む。


「僕の魔力切れを狙っているの?」

「ん?」

「そんなトボけた顔をしても無駄だよ? そんな事を考えたヤツは今までにいくらでもいた。でも皆、皆、僕の魔力が尽きる前に体力が尽きて死んでいったよ」

「へぇ……」

「君もどうせ2、3日もしない内に精根尽き果てて『早く殺してくれ!』と言い出すよ!」

「顔に見合わず怖い事、言うなぁ、オイ……」


 顔を顰めて困惑したような顔をする譲司はすぐに笑みを取り戻してアイヴィーに自分の笑顔の理由を説明した。


「お前ら『侵略者』ってのは現代の金山なのさ。脅威であるのと同時にな……」

「はぁ? 僕たちが金山?」

「まぁ悪魔なら異星人やキチガイマッド科学者(サイエンティスト)みたいな超技術は持ってないだろうがな。コレを見てみろ」


 譲司は革製のベストのポケットからスマートフォンを取り出してアイヴィーに見せつける。


「俺がガキの頃には想像もつかなかったような物がその辺で手頃な値段で売っているんだ。この小さな板切れに電話もカメラも音楽プレーヤーも入ってるんだぞ? 凄くないか? それもこれも侵略者たちの技術を解析して得た結果さ」

「…………」

「何のこっちゃか分からないって顔をしているな? 安心しろ! 俺も自分で言ってて良く分からん!」

「馬鹿なんだね?」

「言ったろ? 馬鹿で結構。その方が世の中、楽しめる」


 スマホをポケットにしまった譲司は両手を広げて周囲に散らばるアイヴィーのナイフを指し示した。


「で、だ。お前さんのナイフ、1本、いくらで売れるかなって考えてたのさ! 材質はなんだか知らないが、悪魔のナイフって触れ込みなら好事家(オカルトマニア)やらブラックメタルとかやってる連中はこぞって買うぞ~!」

「はぁ~!?」

「あ、そうだ! お前、名前は何だ?」

「……アイヴィーだけど?」

「う~ん、知らんな~……。俺が知らないだけで有名だったりする?」

「いや、多分、無名だけど……」

「ならよ! 今からでも『ルシファー』とか『ベルゼブブ』とかに改名しねぇ!? その方がよっぽど良い値が付くと思うんだ!」

「君は悪魔の名前を何だと思っているんだい?」


 アイヴィーは心底、呆れたような顔をして溜め息をついた。


 悪魔のような霊的な存在にとって名前とは人間以上に重要な役割を持つ。

 名前によって悪魔は自己の概念を確立し、存在を保っているのだ。

 名前を持たない最下級悪魔などは取るに足らないような力しか持たないし、そもそも個々の見分けすらつかないような見た目なのも「自分」と「他者」を区別する名前を持たないがゆえだった。


 その悪魔が改名などしようものなら、それは自己の変質すら意味する。

 神ですら神格を奪われてしまえば、それまでの名前を使う事ができず、別の名前を持つ悪魔や妖怪と呼ばれる存在に成り果ててしまう。

 アスタロトやベリアルも元はそういう神々だったのだ。


「悪魔は改名なんかできないよ。仮にできても本物のルシファーやらが飛んできてボコボコにされちゃうだろ!」

「ちぇ~……」


 子供のように口を尖らせるいい歳こいたオッサンにアイヴィーは妙にイラつかされる。


「まぁ、駄目だっていうならしょうがねぇ。ならよ。ナイフにサインしてくれよ! で、ナイフをネットオークションか何かで売った後でよ、綺麗なお姉ちゃんがいっぱいいる店に酒でも飲みに行こうぜ!」

「……お前は何を言っているんだ?」

「お前だって姉ちゃんたちにチヤホヤされてりゃ悪い事しよ~って気もなくなるだろ?」

「どうせあれだろ? 僕をダシにして自分が女性と楽しくやりたいんだろ?」

「まあな!」


 アイヴィーは「自分自身の魅力で勝負するべきだ」と言おうかとも思ったが、それは悪魔らしい言葉ではないのでグッと堪え喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。


 その代わりに両手に持っていたナイフを宙に浮かせ、フリーになった手を掲げて魔力を放出。地面に散らばるナイフたちはアイヴィー固有の魔力に反応して瞬く間に姿を消した。


「ファッ!? お、俺のナイフが!?」

「いやいやいやいや! 僕のナイフだから!」

「頼むよ~! 返してくれよ~! アレが無いと年がこせねぇよ~!」


 宙に浮かぶナイフには無警戒で譲司は悪魔へ近寄ってこようとする。


 アイヴィーはステップで距離を取って、宙に浮かせているナイフを譲司に向かって突撃させた。


「おうっと!」

「年を越す事を考えるより、クリスマスを迎えられるかどうか考えたらどうだい?」


 飛来する2本のナイフを譲司は躱すが、アイヴィーの魔力の込められたナイフは空中で軌道を変えて譲司に迫る。


 2度、3度と譲司はナイフを回避し、それに業を煮やしたアイヴィーは1本のナイフに別の指令を与えた。

 ナイフは1本は譲司に向かって、もう1本は縛られたままの子供たちに向かって飛んで行く。


「……!? にゃろ!」


 譲司の拳銃が火を吹いて1発の銃声が轟く。

「ファニング」と呼ばれるシングルアクションリボルバー独特の操作。すなわち引鉄を引いたままハンマーを高速で作動させる事で現在主流であるセミオートマティック拳銃を超える連射速度を発揮する技により、2本のナイフはほぼ同時に撃ち落とされた。


「……テメェ。俺とじゃれてる内は笑ってられるがな。子供たちを狙うとなると容赦はできねぇぞ!」

「容赦できなきゃ、どうなるんだい?」


 アイヴィーは新たに2本のナイフを召喚。

 譲司の、いや「ヒーロー」と呼ばれる人種の弱点を見つけた事で嗜虐的な笑みを浮かべていた。


 対称的に譲司の顔からは先ほどまでのヘラヘラとした笑顔は消えていた。

 片方の口角こそ上がっているが、それは奥歯を噛み締めているためで、目も細め、獲物を射抜くような鋭い眼光を見せていた。


 譲司はベストのポケットから小さなビニールの真空パックを取り出して封を切る。

 パックの中に入っていたのは1発の弾丸。そして脱酸素剤の小袋だった。


「もう用意していたローダーは品切れ? 1発1発ちまちま装填するのに何秒かかるんだろうね?」

「……1発だけなら大してかかりゃしねぇさ」


 言葉どおりに譲司が回転式弾倉に装填した弾丸は1発だけ。

 まだ弾倉に残っていた弾丸を手で押さえて拳銃を傾け、空薬莢のみを排莢する。


「もったいつけるのは好きじゃねぇ。だから先に教えておいてやる。今、装填したのは銀の弾丸。それもただの弾丸じゃねぇ。祝福された聖銀の弾丸だ。お前ら悪魔には劇毒のように効果をもたらすハズだ!」


 譲司の眼光がアイヴィーを見据える。

 だがアイヴィーは陰気な笑顔で譲司を笑う。


「聖銀なんてそう簡単にそこらに転がっているワケないだろ? ブラフか何かかな? 仮に本当だとしても僕たちのような名有りの悪魔を殺しきれるほどの祝福を施せる聖職者がどれほどいると?」

「祝福したのは聖職者じゃねぇ。……俺の娘だ!」

「は?」

「今年の俺の誕生日に娘がお守りにくれたんだ! 父親にとっちゃ子供のプレゼント以上の祝福があると思うか?」

「いや、そうじゃなく! お前、娘がいるのに『綺麗な姉ちゃんがいる店』とか言ってたの?」

「茶化すんじゃねぇ!」

「えぇ……」


 譲司の怒声にアイヴィーは呆気に取られていた。


「降参するなら今が最後のチャンスだぞ!?」

「……そうか、分かったよ。1発、良ければ僕の勝ちだって事がねえ!」

「……馬鹿が……」


 アイヴィーは魔力を開放し3本目、4本目のナイフを召喚していく。

 譲司は狂ったように笑う悪魔を見て苦い物を口にしたような顔を浮かべて駆け出していた。

 自身に対して降り注ぐナイフを躱しながらある1点を目指す。


 園庭の隅に置かれた庭石。


 その庭石と自身の中間にアイヴィーが来るような位置を目指して譲司は走り、目的の場所に辿りついた譲司の拳銃が火を吹く。


「馬鹿の1つ憶えみたいに!」


 アイヴィーは譲司の射線から抜けるが、3歩も進まぬ内に左膝から力が抜け激痛が走る。思わずアイヴィーはつんのめって倒れた。


「馬鹿な!?」


 アイヴィーが膝に目をやると思っていたように銃弾を受けていたのだが、被弾した場所が問題だった。

 譲司は目の前にいるのに膝に開いた傷口は膝の裏側。つまり後ろから撃たれた事になる。

 恐る恐るアイヴィーが後ろを振り向くとそこには大きな庭石が。


「……跳弾か!?」

「……ああ」


 譲司がファニングで発砲したのは4発。

 譲司はその4発の銃弾を庭石に跳ね返らせ、しかも微妙にそれぞれ角度を変える事で、どこに悪魔が逃げてもどれかは当たるようにしていたのだ。


 そして発射された4発の弾丸はいずれも通常のマグナム弾。つまり聖銀の弾丸はまだ拳銃に装填されている。


「ワンマンズ・クロスファイアなんて気取った名前もあるがな」

1人(ワンマンズ)十字砲火(・クロスファイア)!?」


 何故、ただの人間である譲司が拳銃1丁を手に数多の侵略者と戦ってくる事ができたのか?

 その答えがこのワンマンズ・クロスファイアであった。


 譲司はこの「ファニング」と「跳弾」という2つの技を組み合わせた全領域(オールレンジ)からの攻撃を武器に時に侵略者の軍勢を、時に強力無比な改造人間やロボット兵器を相手に戦いぬいてきたのだった。


「それじゃ、アバヨ……」


 膝を撃たれて倒れた悪魔へ譲司の拳銃から必殺の聖銀弾が発射される。

ツイッターやってます!

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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