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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
クリスマス特別編 聖夜の悪魔王決定戦
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クリスマス特別編-9

 ベリアル配下の3柱の悪魔がアスタロトに迫る。


 老人の悪魔ハズウェルが腕を振りかぶり、山羊の下半身の跳躍力で跳び込んでくるが、アスタロトはハズウェルの拳が振り下ろされるよりも前にボディーブローを叩き込む。

 アスタロトの全身のバネを使った一撃にハズウェルは吹き飛ばされて子羊園の外壁へ衝突した。


 続く性別不詳の子供の悪魔、アイヴィーがどこからともなく2本のナイフを抜いて斬りかかる。

 アスタロトは2本のナイフを一々、避けたりという事をしなかった。

 腕を斬り付けられながらも敵の足に蛇の下半身を絡みつかせ、右掌を顔面に叩き込んで一気に押し倒す。

 アスタロトの(スペース・)(トルネード)(・オーメン)は顔面への掌底と同時に、後頭部を地面と激突との打撃を与える魔法(物理)だ。

 顔面と後頭部へのダブルパンチでアイヴィーは目を回して脳震盪を起こしていた。


 さらに巨体ゆえに動きの遅い巨人の悪魔、ネハレムへと魔法弾を乱射する。

 無詠唱の魔法弾連射では威力も低く、溶岩のように頑強なネハレムのボディーへほとんど損傷を与える事はできないがアスタロトの目的は敵にダメージを与える事ではない。

 乱射された魔法弾はネハレムのみでなく、周囲の地面にも着弾して盛大に土煙を巻き起こしていたのだ。

 土煙でアスタロトの姿を見失ったネハレムは周囲を見渡して警戒するが、寸分の間を置かずにアスタロトは真正面から現れた。

 俊敏なアスタロトのムーブにネハレムの対応は遅れ、アスタロトは蛇の下半身を持ち上げ巨人の首へとラリアットを決めた。


「ハッハハ! さすがじゃないか! アスタロト!」

「……チッ!」


 巨人を地面に沈めたアスタロトが蛇の下半身を地面に降ろそうとしていると、いつの間にか彼女の背後に回り込んでいたベリアルの強烈なドロップキックを背後からお見舞いされてアスタロトは宙に飛んだ。

 ただのドロップキックではない。魔力で加速された動きによる跳び蹴りだ。常人ならばその一撃だけで脊椎を折られて絶命しているであろう。


 だが、アスタロトはそのベリアルのドロップキックですら利用していた。数千年に渡る闘争によって磨き上げられた戦闘センスの賜物といってもいい。


 宙に飛ばされた彼女が飛んでいた方向は縛り上げられた子供たちが並べられている方向であった。

 アスタロトは空中で身を捩って体を制御し、子供たちの周囲にいる顔無しの最下級悪魔たちへ魔法弾の連射を浴びせた。

 上空からの機銃掃射に等しい魔法弾に最下級悪魔たちはなす術がなく、次々と消滅していく。


 小さいが重い地響きを立てて着地したアスタロトの両腕にそれぞれ青と白に輝く光が零れる。


 白く光る右腕はベリアルたちへ向け、悪魔たちが放った火炎や氷柱などの魔法を防ぐ障壁魔法を展開。

 蒼く光る左腕は気絶している老シスターへ向けて治癒魔法をかける。


 アスタロトはあまり治癒魔法が得意な方ではなかったが、シスターの呼吸が落ち着いたものになったのを見てホッと安堵して子供たちへ声を掛けた。


「お前たち、無事か!?」

「うん!」

「ありがと~!」

「た、助かりました!」

「…………!」


 子供たちは縛られたまま立ち上がり口々にアスタロトに礼を言う。

 その表情には脅えなどはなく、かえって若いシスターの方がおどおどしているほどだ。

 中には嬉しさのあまりか何度もピョンピョンと飛び跳ねている子供もいた。

 サクラも言葉こそ無いものの、笑顔でアスタロトの顔を見つめていた。


「よし! それじゃ、もう少し待ってろ! すぐにあいつらを片付けてやる!」

「うん!」

「……誰を『すぐに片付ける』って?」


 アスタロトの言葉にベリアルは気を悪くするどころか満面の笑顔で返す。ただし、これ以上は無いというほどに悪意の詰まった笑顔だった。

 ハズウェル、アイヴィー、ネハレムの3柱もゆっくりと立ち上がり、ダメージを確認するように腕を振ったり首を回している。


「そもそもさ、アスタロト? 貴女と私たちは別に敵対しているわけじゃあないよね? 何でおこなのさ?」

「テメェらみてぇに子供を虐めて笑ってる連中を見逃せとでも? い~や、許すわけがねぇだろ!? 激おこプンプン丸だよ!」

「いや、私らは悪魔だろう? 何か問題でも?」

「何も問題は無ぇな!」

「なら……」

「なら! アタイだって自分が気に食わねぇ奴をボコにしても問題がねぇだろう!? 悪魔なんだからな!」


 アスタロトの怒鳴るような啖呵にベリアルは腹を抱えて笑い出した。その笑いは作り笑いでもなんでもなく彼女の本心からの物のようで、ベリアルの顔は笑い過ぎてむしろ苦しそうにすら見える。


「あ~! 面白い! ……まっ、貴女はそんな悪魔だよね! でも、貴女がそうやって自分勝手に好き勝手に生きる悪魔であるからこそ、私には勝てない。絶対にね!」

「抜かせ!」


 意味深な笑みを浮かべるベリアルへとアスタロトは突っ込んでいった。




 アスタロトはベリアルたち4柱の悪魔を相手に縦横無尽に動き回って戦っていた。

 だが、それは裏を返せば4柱の悪魔を相手に包囲されながら戦っていたという事だった。


 ハズウェルが機を見てアスタロトの懐に跳び込んで蹴りや拳を叩き込み。

 アイヴィーがナイフで斬りつけ、距離をとっては投擲してくる。

 ネハレムは動きこそ遅いものの重量級のボディーの防御力とパワーを活かして常にアスタロトの正面に出ていた。


 さらにベリアル。

 ベリアルの闘法は彼女の悪意に満ちた性格をそのまま形にしたような陰険で邪悪なものだった。しかも魔法無しでの身体能力すらアスタロトに匹敵しているのだ。

 アスタロトが配下を攻撃した瞬間を狙って痛撃を加え、アスタロトの視線が自分に移れば引いていく。


 対するアスタロトも打たれ斬られて赤い血に塗れながらも動きを止める事が無い。

 攻撃を受けてでも最短距離で敵に向かって痛撃を加える。


 ベリアルたちのように複数で1体の敵を包囲して嘲笑うかのように徐々に体力を奪っていくことも悪魔の闘争であれば、アスタロトのように自らの負傷を構わずに怒りのままに戦うこともまた悪魔(ハードコア)()闘争(レスリング)であった。


 肉を打つ鈍い音が響き、鮮血が飛び散る。

 まるで地獄絵図。

 異形の悪魔同士の戦闘はあくまで凄惨な物だった。


 だが、子供たちは悪魔たちの闘争を固唾を飲んで見守っている。

 逃げる事もせずに自分たちのために戦う悪魔の姿を見逃すまいと瞬きすら忘れているかのようだった。


「アハハハハ! まっ! こんくらいはやってもらわないとね! 悪魔王の1柱を私が殺ったっていってもロクに動けない老いぼれが相手じゃ自慢のしようもない!」


 アスタロトの居合のごときラリアットをヒラリと躱したベリアルが笑う。


「それじゃ、そろそろ貴女が私たちに勝てない理由その1でも教えてあげようか! おい! 名無しども!」

「なっ!」


 ベリアルの声に反応するように無数の最下級悪魔たちが子供たちへと迫っていく。


 子供たちから離れた位置の最下級悪魔たちはアスタロトが放った魔法弾を受けて消滅するが、子供たちのすぐ傍に近づいている者に魔法弾を使えば子供たちも巻き添えを食らうかもしれない。

 アスタロトはその性格ゆえに精密射撃が苦手であったし、そもそも1体1体、狙撃しているような暇などは無いのだ。


 アスタロトは4柱の敵に背を向けて子供たちへ駆け出していた。


「……それが貴女が私たちに勝てない理由の1つさ! 貴女は“自分の好きに生きる”悪魔であるがために例え勝利のためとはいえ子供を見捨てる事はできない。……アイヴィー!」

「……チャ~ンス!」


 ベリアルの言葉に蟻を踏みつぶす子供のような陰気な笑みを浮かべたアイヴィーがナイフを投擲する。

 魔力の込められた必殺のナイフは真っ直ぐにアスタロトの背中へと向かっていく。

 アスタロトは完全に子供たちに意識が向いていたがためにナイフに気付く事は無い。




 ベリアルたちが勝利を確信した時、1発の銃声が響いた。

 1発の銃声。

 だが、その1発の銃声で子供たちの周囲の悪魔数体は消え失せ、アスタロトへ迫っていたナイフも弾き飛ばされていた。


「な、何者だッ!?」


 ベリアルたちが周囲を見渡すと門の方から4つの人影が駆けてきていた。


 リボルバー拳銃を手にしたテンガロンハットに皮のベスト、ジーンズの中年男。

 この国伝来の民族衣装を身に纏った骨と皮ばかりの老人。

 所々に油汚れのついた水色のツナギを着た男。

 ツナギの男を付いて歩く積み木細工のような鋼鉄の機械人形。


「…………お前たち……」


 アスタロトにとっても、その3人+1体の助けは信じられなかった事であったので彼女は目を丸くしていた。

 当然だ。

 彼らとは普段は酒を酌み交わす事もあっても1たびアスタロトが悪さをしようものならば、すっ飛んできて戦うような間柄であったのだ。


 だが彼らはそんな過去など無かったかのように子供たちを取り囲む最下級悪魔たちを排除して、アスタロトをカバーするようにベリアルたちと向き合った。


「悪ぃ! 遅くなった!」

「ふむ。腕がなるのお……」

「スティンガータイタン! コンバットモード! アクティブ!」

ツイッターやってます。

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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