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前回投降後、1000PVいきました。
ありがとうございます!
皆さんの暇つぶしにでもなれば幸いです。
5人で机に向かって入会届を書く。会長さんは肩の荷が降りたように生き生きとしている。
「いや~、これで3高の連中に大きな顔されなくてすむよ!」
「3高の人たちがどうかしたんですか?」
3高というのは都立H第3高校のことで、僕たちの通う2高とは徒歩で40分ほどの距離にある。
「3高の2年にね、何でも異世界帰りの元勇者がいてさ。ダークエルフや暗黒魔導士やら向こうから連れて帰ってきた子たちとヒーロー部とかやってんのよー」
あ、3高は「同好会」じゃなくて「部」なんだ。
「でさ、去年の文化祭の時にウチの展示来てくれたんだけどさ。『え、現役はともかく、経験者もいないんですか!?』だってさ! まあ、それを言ったのは透き通ってる人で元勇者に窘められてたけどさ!」
まあ、こっちの世界の常識がない人が相手ならそんなもんなんじゃないですか。野球観戦が主な活動内容の野球部とかあったら会長さんもそう思うんじゃないですかね。
てか、透き通ってる人って何!? ロシア系レベルの色白な人って感じじゃないですよね? 異世界の人ですもの! ゲルっぽいの? クリスタルっぽいの?
「あ、皆、できた。じゃ、ちょっくら生徒会室まで行ってくるわ!」
出来上がった5人の入会届を持って会長さんが意気揚々と廊下を走っていってしまった。
「草加殿も大喜びで御座るな~。昨日まではヒロ研が無くなるかもしれないって拙者の入会届も受け取ってもらえなかったので御座るが」
「ふふ、そう言う三浦君も嬉しそうよ?」
「あ~、そういう理由で僕達と一緒に届け出を書いてたんだ」
会長さんが戻ってくるまで話をしながら、去年の展示物を眺めたり、保管してあった過去の校内新聞を読んで待っていた。
ん? 戻ってきた。え? あからさまに落ち込んでる?
「……………………」
「草加殿?」
「…………ご……ゴメン!」
押し黙ったすえに、いきなり頭を下げられる。おでこと膝がくっつかんばかりの角度だ。
「おいおい、穏やかじゃねぇな?」
「……何があったんですか?」
「受け取ってもらえなかった……」
「「「「「え?」」」」」
「……正確には4人分だけは受け取ってもらえたんだけど……」
「不備があったというわけではなさそうですね」
「……うん」
そらそうだ。届け出の不備なら書き直せばいいだけだ。会長さんがこうなる必要が無い。会長さんの落ち込みようは痛々しいほどだ。
「何があったんですか? それを教えて頂かないと対応も取れません」
そう言う明智君が大きなため息をつく。何か予想できたのかな?
「……か……会員は人間じゃなきゃ駄目だって! 生徒会長が! 誠君は、その…………」
改造人間は駄目かー。あ、そっかー、さっきまで浮かれちゃって馬鹿みたいだなー。僕。
ガタンっ!!
「ふっざけンなァ!! 改造人間だって人間だ! 立派な人間だ!」
しばらく沈み込んでいた僕達の沈黙を破ったのは天童さんだった。いきなり立ち上がったせいで椅子は倒れ、体をプルプルと震わせている。
いや、天童さん? 今週初めて顔を合わせたクラスメイトのためにそんな怒んなくったって、僕ぁ皆様の邪魔にならない社会のすみっこで生きていきまs…え? 天童さんの目には涙が浮かんでいた。
皆が黙っているところで、いきなり叫んだせいで皆の注目が集まる中、天童さんは泣いていた。
そっと天童さんの肩に手を乗せる三浦君。
「大丈夫で御座る。皆、同じ気持ちで御座る……」
「なあ、誠? 人間って何だ?」
「え?」
明智君の問いに僕の電子頭脳は適切な答えを出してくれない。てか、ウィキペ〇〇アのページを提示する電子頭脳ってどうなの?
「例えば、だ……、俺なんか視力を落としてから目の前に眼鏡を付けているけど俺は人間じゃなくて強化人間か? 事故で四肢を失って義肢を付けている人は? 病気で臓器を摘出して人工臓器に置き換えている人は人間じゃないか?
朝、誠は『自分の脳味噌は半分くらいしかない』って言ったよな? 世の中には事故で脳味噌がいくらか飛び散っても生存している人がいるんだ。……まあ、記憶を失ったり、怒りっぽくなったりする人も多いらしいがな。そういう人たちは人間の定義から外れるのか?」
「……違う……と思う」
「そうか、なら聞き方を変えよう。仁さんはそういう人たちなら助けないと思うか? お前はどうだ?」
な~んだ。答えは最初から分かっていたんじゃないか。
「違う! 何か欠けていたって人間だよ! 僕も兄ちゃんも見捨てたりなんかしないよ!!」
「俺も、俺達も……少なくとも、ここにいる6人は誠を人間だと思っている。誠は躁鬱の気があって面倒なヤツだけど俺達の友達だ」
「私もそう思うわ! ね! 誠君……」
真愛さんが僕に向かって笑顔で手を差し出してくる。握手?
「昨日のピストル貸して? ちょっと、生徒会長さん説得してくるから」
「ま、真愛さん!?」
「ぶぅあはははは! 真愛ちゃん、生徒会室にカチコミかけようってか!?」
先ほどまで体を震わせていた天童さんがケロリとして腹を抱えて笑っていた。
「あ~、さっきまでナンカ感情が抑えらんなかったけどさ~。明智んの小難しい話聞いてたらスススッ! って涙が引いてってわ。で、殴りこみ? いいんじゃない? アタシも付き合うぜ!」
「デュフフフ! 拙者も行くでござる」
「わ、私も行くわ!」
三浦君も会長さんも乗ってきた!
「ごめんなさい! 生徒会長に何を言われたからってすごすご帰ってきちゃったら、私も肯定しているのと同じよね! だから、私ももう一度、行くわ!」
え? 何? 皆でカチコミかける系? こ、ここは冷静な明智君に止めてもらわねば!
「あ、明智く~ん。たすけて~」
「ふむ……いや、いいんじゃないか? 行こうぜ」
「「「「「おーー!!」」」」」
マジか……
「へへ……皆の友情があたたかいなあー。あ、あと真愛さん」
「うん?」
「女の子は銃をよこせだなんて気軽に言っちゃ駄目だよ! 銃を人に向けていいのは撃たれる覚悟があるヤツだけだゼ! ってね」
「クスっ! ごめんなさ~い」
可愛く言ってもごまかされないぞ!
生徒会室は2階の進路指導室の隣にあった。
会長さんを先頭にノックしてから入っていく。生徒会室は普通の教室の3分の2くらいの大きさの部屋で、半分は物置として使われていた。実際の生徒会室としてのスペースはキャビネットと本棚が2つずつと長机が2つ、生徒会長用にスチールのデスクがあるくらいなこじんまりとしたものだった。
「会長、ヒロ研の皆さんが来てます」
1人の男子生徒がデスクに座る生徒会長に告げる。長机には3人の生徒が赤鉛筆や電卓を使って書類とにらめっこしている。彼らが生徒会役員なのかな? 生徒会長もデスクに頬杖をついて書類を眺めていたが、こちらに視線を移す。
生徒会長はおでこの目立つ、髪が肩まである女子生徒で、垂れ目を無理に大きく開けて笑顔を作っているように見える。背丈は座っているので正確ではないが、僕と同じくらいに低いだろう。きっと、こんなことで会わなければ親近感を抱いただろうに。
「やあ! 草加さん。化け物じゃないメンバーは見つかったかしら」
Oh! 開口一番にそれですか? 随分と過激な思想をお持ちでいらっしゃいますね。
「…………!」
前に出ようとする天童さんを三浦君が手で制する。草加会長が「大丈夫!」と言わんばかりにこちらを振り向いて頷いてから宣言する。
「誠君は化け物ではありません! 人間です。そしてウチの6人目のメンバーです!」
「ん? 会員集める期間の猶予が欲しいのなら、そう言えばいいのに」
「いいえ! 言葉通りの意味です」
「はっ! 却下よ、却下! 各部、各同好会は生徒会の管轄下にあるの。そして私は生徒会長として人間しか認めないわ!」
ヒロ研の一番後ろに立っている僕には他のメンバーの怒気が目に見えるようだった。草加会長と生徒会長が睨みあっている中、明智君が一歩、前へ出て草加会長に並ぶ。
「よろしいですか? 貴女のような人間のクズに物事の道理を問おうとは思いません。ですから、それ以前の話をします。俺が間違っているところがあったら、その時点で指摘してください」
「言ってくれるじゃない。続けなさい」
明智君は理由も無く「人間のクズ」だなんて汚い言葉を使う人間じゃない。つまり、理由があるんだ。もちろん、それは生徒会長を挑発すること、そして判断力を鈍らせること。今はただの安い挑発に聞こえても、それはジワジワと毒のように相手に浸透していく。現に余裕ぶっている生徒会長の顔面の温度が僅かに上昇したのを僕の眼は逃さなかった。
明智君はそういった話術も駆使して地底人とのデスゲームを乗り切ったのだ。電波ジャックされたテレビ放送で僕も見ていた。
「貴女は『各部、各同好会は生徒会の管轄下』にあると言いましたが、生徒会もまた校則と生徒会規則によって縛られているのです。
そして校則には『本校生徒は停学、休学を問わず本校に在籍する者を指す』とあります。これにより石動誠は本校の生徒であることが分かります。『正し改造手術を受けた者は除く』なんてありませんからね。
次に生徒会規則によると『部及び同好会は本校生徒により構成される』『本校生徒は一つ以上の部もしくは同好会に参加し自己研鑽に努めなければならない』とあります。これで本校生徒の誠は同好会に参加することができるどころか、参加する義務があるのです。
そして3つ目には……これは俺から生徒会長に聞きたいのですが、生徒会規則のどこにも『生徒会長は同好会への入会届を拒否できる』なんて項目は無いのですが、世の中に蔓延る貴女のようなクズが寄ってたち、時には隠れ蓑にしている規則はどこにあるのですか? まさか自分の行為は根拠の無いことですなんて言いませんよね?」
2度目のクズ発言! 僕達、他のメンバーは口を挟むこともできない。よくよく考えてみると、長机の生徒会メンバーも一年生にここまで言われて口を出さないということは、内心では生徒会長の横暴を苦々しく思っていたのだろう。
「心配はいらないわ。規則は人間の作るものだから抜けがあるのは当たり前よ。校則や規則を作った頃に改造人間なんて想像していたと思う? 来週にでも緊急の生徒総会を行って改正案を採択しましょう」
生徒会長の反撃は僕も予想していた。僕にも予想できる程度の事しか言えてないのだ。それじゃあ駄目だよ?
「賛成です。緊急の生徒総会で貴女方の解任動議を出させていただきます。生徒会長は『職権乱用』、他の生徒会メンバーは生徒会長の職権乱用を目の当たりにしながら黙認したことによる『適格性の欠如』
草加さん?」
「はい?」
「草加さんが最初に入会届を持ってきた時に、生徒会役員でいなかった人はいますか?」
「いや、全員いたよ」
「なら結構。いや、生徒会メンバーのリコールだなんて、進学の面接の時になんて答えるんですか? まさか隠し通すつもりですか? 貴女のようなクズなら『嘘は言ってない。隠していただけ』とでも言うんでしょうけど、他の皆さんはどうするんですかね?」
突然、自分たちにまで事が及んだことで口にこそ出さないが、互いに顔を見合わせている生徒会メンバー。
「まあ、それはさておき、次に移りましょう」
生徒会の解任動議の話題を明智君は早々に切り上げる。当然だろう。明智君なら校則や規則の否決はできるだろうが、解任動議もまた可決されることはないだろう。1年の僕たちが提案したところで2、3年の大半は生徒会を支持するだろうから。2年の草加会長にしたってヒーロー同好会の会長が校内のメインストリームにいるとは思えない。
生徒会長だって少し考えればそれくらいは分かる。1年生に何度もクズ呼ばわりされて頭に血が昇ってなければすぐにでも気付いたかもしれない。明智くんにその少しの時間を与えられなかっただけだ。
つまり解任動議はただのジャブだ。そして、そろそろ……
「生徒会長は去年、就任後の新聞部の取材に対して志望校はH大だと言ってましたね? 去年の校内新聞を読みましたよ。なんでも『進みたい学科があって』『母子家庭なので母親の負担にならないように実家から通える大学』でしたっけ? まあ奨学金制度を使ったとしても、それで全てを賄えるわけではないでしょうからね」
「お前、母子家庭とか、言って良いことと悪いことがあるぞ!」
「『言って良いことと悪いことがある』ですか……何で、それを草加さんが最初に来たときに生徒会長に言わなかったんですか?」
「うっ……」
デリケートな問題に突っ込んだ明智君に、生徒会メンバーがたまらず口を挟むがすぐにやり込められる。
「…………何が言いたいのかしら?」
さっきまでの明らかな作り笑いとはうって変わり、生徒会長は怒りを隠そうとしない。口調だけは無理をして丁寧だ。
「ああ、前置きが長くなりましたね。これからが本題です」
本題に入るということは、既に明智君は勝利を確信しているということだ。
明智君曰く、戦って勝つのではなく、勝ってから戦う。
「生徒会長の志望校であるH大の学長と市長が公私共に非常に懇意であることはご存知でしたか?」
「……だから何なのよ!」
「では、市長の治安対策の一環として肝煎りで赴任してきた市災害対策室の室長については? 俺はちょうど昨日、会ってきましたよ。ええ、何度か俺の意見を取り入れてもらったこともありますしね。昨日は誠が破壊活動を行う異星人を10体以上も処理した件でね。
分かりませんか? 誠は引退したと言っても、その場に居合わせれば人のために戦う気概を持っている。そしてH市の市長は特怪事件の対策に非情に熱心だ。その市長が、そうですねえ、去年の埼玉のような市内、及び近隣のヒーロー全員でも対処できない事件が起きたとして、誰に協力を求めると思います? 分かりますよね?」
「…………」
なるほど、そんな手できたか。効果は抜群だ! 生徒会長はもはや何も言い返せない。
「ついでに言うと、これはH大に限った話ではありませんよ? 都内どころか、国内の公立の大学に貴女は進むことはできないという話なんです。室長は警視庁出身とはいえ国内有数のエキスパートで顔が広いですし、誠は昨年、文科省所管のヒーローの命の危機を救っていますからね
生徒会長? 誠を『化け物』と言った貴女が一番、誠を過小評価しているのではないですか? 子供が石動誠の名前を軽く見てはいけませんよ? やるなら初手から差し違えるつもりでやらないと」
え、何? そんなことなってんの僕?
いつの間にか生徒会長の体がワナワナと震えていた。後悔や恐怖ではない。怒りのためだ。
「……よくもまあ、口が回るものね」
「ええ、自分の友人のためですから!」
怒りに震える生徒会長とは対称的に明智君はまるで勝利の余韻を楽しむようだ。コーヒでも出したらススッ! と飲むんじゃなかろうか?
「あんた、母子家庭だ、何だ言ってくれるけど……」
「はい?」
「……」
「……」
そして生徒会長の口から出てきた言葉は僕はおろか明智君ですら予想しなかっただろう。
「あ……アンタたちが! パパを見殺しにしたようなモンじゃないのよ!!!!」
よく「作者は自分より頭のいいキャラクターを登場させることができない」と言いますが、
私にとって明智君がそうです。
少しは頭良さそうに見えるでしょうか?
ちなみに「地上の支配権を賭けて地底人と拉致された明智君がデスゲームを行った」という設定ですが、
そのデスゲーム自体は考えてません!




