31-1
「んじゃ、皆、今日はこれからどうする?」
「どうするって家に帰ってテスト勉強じゃないの?」
放課後、いつもの5人のメンバーで玄関を出たところで天童さんが陽気な声を出した。
皆で集まって勉強会をするのは週末の土曜日って決めたよね?
そもそも、中間テストの準備期間中で部活動が休みになるというのは、あまり僕たちには関係のない話だよね? だって普段ロクに活動らしい活動なんてしてないじゃん?
精々、大H川中のさくらんぼ組事務所に行ったり、先週、蒼龍館高校に行ったくらいじゃん?
なんで天童さんは部活が休みになった開放感を感じているのだろう?
そもそも真面目に部活をやってる人たちは部活動が休みになってても、自主練って事にして練習してるじゃん?
「ん~? もしかして皆、乗り気じゃない?」
「……まあ。週末は勉強を頑張るから、その前に買い物とかしとかないといけないけど、それは金曜でいいし」
「天童氏の自信はどこから来ているで御座るか?」
「京子ちゃんもしっかり勉強しとかないとダメだよ!」
「……俺もパス!」
僕以外の皆も乗り気ではないようで、一様に天童さんに考え直すよう窘める。
でも、それでも天童さんは未練タラタラの様子だった。
「ちぇ~! 明智んは勉強なんかしなくてもテスト満点取れるだろ~?」
「あのな。お前、俺と2人きりで楽しいか?」
「1人じゃ間が持たないんだよ~!」
「それじゃ、アーシラトさんの電話番号を教えてやるから、お前ら2人で『UN-DEAD』とかいう連中のアジトでも潰してこい!」
「明智君! 止めて! この2人ならやりかねないから!」
明智君の無茶振りに真愛さんが顔を青くしてストップをかけた。一方の天童さんは「その手があったか!」と言わんばかりに目を輝かせているし。
でも「UN-DEAD」のアジトとやら、もう潰されてたりして……。
5時間目の事だけど、物凄く遠くから何かの爆発音とか聞こえてきたんだよな~。
それに気付いたのは僕と、英語の授業で僕たちのクラスに来ていたゼス先生だけだったみたいだし、ゼス先生も特に気にする事なくすぐに窓から黒板に視線を戻して授業を再開したけど。
それでも結構な重低音が続いて、幾つもの爆発が連続で起こっていたみたいで、アレはちょっとやそっとの事じゃあないと思うんだよなぁ……。
ホント、このH市は日本でもっともヒーローが集まる街だけあって、僕の出番なんてよほどの事じゃなければ回ってこないのは凄いと思う。
僕は自分の体が普通ではなくなってしまった分、極々、普通の生活を送っていたいと思う。
特に学校生活というのは僕にとって、同年代の人たちと一緒に生活する分、“普通の生活”をしている実感が感じられて嬉しいんだよなぁ。
他の人にとっては厄介なテストも僕にとっては大事な事だ。
なんたって僕は中2の途中で誘拐され改造されて、それから中学校には行ってないから、テスト自体、久々の事なんだよなぁ。
そりゃあ頭もイジられて機械仕掛けになっちゃってるけど、電脳のサポート外の、例えば数学の問題に公式を当てはめてとかやってると、嗚呼、僕は普通に高校生やってるなぁってしみじみと幸せに感じる。
そんな事を考えながら校門の辺りにまで差し掛かると、コンクリートの校門に1人の女性がもたれ掛かってるのに気付いた。誰かと待ち合わせかな?
その女性は歳こそ僕たちと同じくらいに見えるけど、黒のカーゴパンツに薄手ながらダボダボのパーカーを合わせたラフな格好をしている。
女性は僕たちが校門に近づくと校門から背を離し、気さくに笑顔で右手を上げてよこした。
誰かの知り合い?
それとも僕たちの後ろに別の誰かがいる? それだと、どっかで会った人だっけ? と思いながら手を上げると恥ずかしい事になるやつだな。
「よお!」
「チィ~ス!」
女性に対して天童さんが手を上げて軽く挨拶をした。
なんだ。天童さんの知り合いか……。
どうしよ? 天童さんはこれから別行動かな? それともちょっと離れた所で待ってたらいいのかな?
けど、女性は天童さんと軽く拳と拳をタッチさせた後、僕の目の前に来た。
「アンタがデスサイズ?」
「え? はい、そうですけど……」
いきなりの不躾な質問も、何故か人懐っこい女性の表情に不思議と腹は立たなかった。
そして女性は信じられない事を言い出したのだった。
「私はD-バスター1号。あ! 『D』ってのは『デビルクロー』とか『デスサイズ』の頭文字の『D』ね!」
え?
僕と兄ちゃんをブッ飛ばす?
「アンタたちと戦うために作られたエクスペンダブル・アンドロイド」
「は?」
「可哀そうだろ? そういうわけでメシでも奢ってちょ!」
あまりの事に僕はなんと言っていいのか分からずにゆっくりと首を天童さんの方を向けた。
「…………て、天童さん? こ、この人、知り合い?」
「いや、今、初めて見た!」
「知り合いっぽくなかった……?」
「ほら! アタシ、人見知りしない方だから!」
……うん。天童さんはそういう人だったね。
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