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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第28話 平穏と不穏
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28-1

 月曜日、今日の1時間目の数学の時間は担当の安西先生が体調不良だとかで自習だった。


 来週から中間テストとはいえ、テスト範囲は先週の内に発表されていたらしいので問題は無い。ここは大事をとって安西先生には休養してほしい。


 机の中に入っていた各教科のテスト範囲がまとめられたプリントを見つけ、それを確認して数学の問題集を開いた。

 先週の金曜は体育祭だったので、このテスト範囲が記されたプリントは木曜の内に配られていた物らしい。

 僕たちヒロ研は木曜は朝のホームルーム前に蒼龍館高校に行っていたので気付かなかったみたい。


「なぁ、マコっちゃんって勉強する意味ってあるの?」

「ん? それ、どういう事?」


 隣の席の天童さんが話しかけてくる。

 天童さんは体こそ机の上のプリントに向かっているものの、顔は退屈そうに僕の方を向いていた。

 ちなみに天童さんが今、向かっている化学のプリントは今日の3時間目に提出予定のハズの物で、今だプリントは真っ白なままだった。今日の1時間目が自習にならなかったらどうするつもりだったんだろ?


「いやさ、マコっちゃんって改造人間じゃん? 数学の問題とかってパパっと頭に浮かんでこないの?」

「あ~、そうだったら良かったんだけどね……」

「違うの?」


 ついに天童さんは体まで僕の方に向いてしまった。

 こりゃ、早めに話を切り上げないと3時間目に天童さんが肩身の狭い羽目になってしまうね。


「ん~と、単純な四則演算なら天童さんの言う通りに電脳にパッと出てくるんだけどね。でも、どこを因数分解してから何の公式を当てはめてとかっていうのは僕の場合、生身の脳味噌を使うんだよね」

「…………」


 天童さんは僕の言葉に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして固まってしまった。


 僕の電脳内には照準補正や対象の未来位置予測、自分の体の色んな所に付いてるロケットの推力調整用など様々なアプリケーションがあって、それらには複雑な計算を一瞬でこなす能力があるのだけれど、それを学校の数学の問題には活かせないという事だ。

 そのくせ宙間戦闘プログラムみたいな未完成品も入ってるとか、つくづくポンコツだと思う。


「天童さん?」

「……な、なあ? シソクエンザンって何? 中国拳法の必殺技とか? 死息円斬みたいな?」

「京子ちゃん、四則演算ってのは足し算、引き算、掛け算、割り算の基本的な計算方法の事よ……」


 天童さんの後ろから真愛さんが控えめな声で助け船を出してくれる。

 真愛さんの席は本来なら廊下側で、窓側の僕たちの席とは離れているのだけれど、部活の自主練の相談とかで天童さんの後ろの後藤さんと今だけ席を交換していたみたい。


 あまり五月蠅くならないようにと、控えめな声で席から少しだけ身を乗り出して天童さんに四則演算の意味を教える真愛さん。


「あ~! 分かった。要するに頭の中に電卓があるみたいな!」

「ま、まあ、身も蓋も無い言い方をすればそうなるね……」

「ちょっ……、京子ちゃん、少し声が……」

「ああ、ゴメンゴメン」


 少し大きな声を出した天童さんに真愛さんが慌てて注意する。

 僕たちのクラスは自習でも、他のクラスでは普通に授業をしているわけで、騒ぎすぎると隣のクラスの先生が来て叱られてしまうかもしれないからね。

 天童さんも素直に謝って、小声に戻る。


「それで今年から数学のテストの時に電卓の持ち込みができるようになったんだな。マコっちゃんのおかげだね」


 天童さんは1人で納得しているが、彼女の言っている事は間違いじゃあない。間違いじゃあないけれど、電卓が使えるようになった分、その分、問題数が増えると考えない辺り、天童さんの楽天的な性格が覗える気がする。

 まあ簡単な点数を稼げる問題もそれなりにあって、総合的な難易度は平年通りにするつもりなんじゃないかとは思うけれど。


 それからしばらくは天童さんも大人しく科学のプリントに取り組み、僕や真愛さんもノートや教科書を参考に問題集を進めていったのだけれど、1時間目も残り10分ほどの所で天童さんは課題を終わらせたのか、それとも飽きたのか、また話しかけてきた。


「そういやさ、英語の薮内先生、産休に入ったじゃん?」

「ん? ああ、結構、お腹、大きくなってたものね」


 僕は体育祭の時に見た薮内先生の姿を思い出していた。

 ゆったりとしたマタニティウェアを着て担任のクラスの生徒を応援したり、仲の良い女子生徒にお腹を触らせたりしている時の先生の顔は幸せそのものといった感じで、僕も前日に地球の危機を防いできて良かったと思っていた。

 ……まあ、その立役者の明智君が長期間の寝不足のせいでぐったりしていたのとは対照的な姿という感じだったけれど。


「でさ、今日から、その産休の間の代理の先生が来るらしいんだけどさ……」

「ああ、そういえばそうだったよね」

「その代理の先生が凄いらしいのよ」

「はあ? 凄いって何が?」


 例えば、とんでもない鬼教師だとか?

 僕も改造人間にされたからって、そんな噂になるような鬼教師とか怖いよ?

 しかも僕たちのクラスの2時間目がその代理の先生が来る英語の授業なのだ。

 なんか宿題とか忘れてなかったかな?


「なんか、アタシも聞いただけだけど、見た目はすっごい美人で超高学歴なのに見た目がヤバいらしい」

「京子ちゃん、人の見た目で噂話とか駄目だよ~!」

「そういって真愛ちゃんも実は気になるんじゃない?」

「……ちょっとだけ」


 はて? 超高学歴はともかく、「美人」なのに「見た目がヤバい」とはどういうこっちゃ?

 とりあえず僕が考えていた「鬼教師説」はひとまず置いておこう。それなら「見た目がヤバい」なんて表現にはならないだろうし。

 教師なのにメタルとかパンクみたいなファッションしてたら「美人なのに見た目がヤバい」という表現に当てはまるのかな?


 それからほどなくしてチャイムがなり1時間目は終わる。

 数学の問題集を4ページほど終えた満足感を感じながらも、どちらかというと天童さんのいう噂の新任教師の方が気になっていた。


 休み時間中に天童さんがクラス中に謎の新任教師についての噂を触れ回り、クラスの皆は興味半分、怖さ半分といった様子で2時間目の英語の時間を待っていた。


 そして2時間目のチャイムがなると同時に1人の女性が教室に入ってくる。


「Hey! fuckin ’guys!」


 まず目に入ってきたのは真っ赤な髪の毛だった。

 鮮やかな髪色は威勢の良い第1声と合わさり、彼女の髪色が自然のように思えた。……一瞬だけ。どう考えても真っ赤に髪を染めた教師なんて聞いた事が無い。


 髪だけではない。

 その女性の来ているスーツも彼女に似合ってはいたが髪と同じく真っ赤だった。


 ん……?

 いきなり噂通りの恰好で面食らってしまったけど、この顔……。僕はこの人を知っている。

 え~と、久しぶりだから名前は思い出せ……、あっ!


「塩宇宙人の絶望のゼス!」

「……そういや、貴方はこのクラスだったわね……」


 フィジョーバ星系人、絶望のゼスは僕の声で僕の存在を思い出したような顔をしていた。

番外編の後の本編って文体を忘れていて時間がかかります。

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