表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
ハロウィン特別編 MONSTERS in KUMAMOTO!
140/545

ハロウィン特別編-2

 大分から長崎を結ぶ国道57号線を1台のキャンピングカーが走る。

 すでに大分県は抜け、阿蘇市内を進むその旧型のキャンピングカーには1組の男女が乗っていた。


 1人は歳の割には若い女性。

 1人は中学生くらい、もしかしたら小学生にも見えるような男の子。


 親子のように歳の離れた2人であったが、親子には見えない。

 2人とも顔立ちは整っているがまるで似通ったところが無いのだ。ただ1つだけ、その身に纏わせた深く暗い沈んだ空気を除いては。


「……?」


 ハンドルを握る女性が左手で前方に見えてきた山を助手席の男の子に指し示す。言葉は無い。


「ん~? 違うんじゃない? だって阿蘇山って1600mくらいのあんまり高くない山だよ? まだ見えないんじゃない?」


 男の子の名は石動誠。そして女性の方は松田晶。

 彼らはとある事情で行動を共にしていたが、目的の敵がちっとも姿を現さないので目先を変えて別の標的を狙う事にしていたのだ。

 目下、お目当ての獲物を求めて日本全国をキャンピングカーで行ったり来たりといった具合であった。

 彼らの次の目的地は阿蘇市の南部に位置する赤口村。


 だが石動誠にとっても松田晶にとっても熊本は初めての地だった。

 自然と観光名所への期待は高まる。


 昨日の昼は福岡の博多でとんこつラーメンの有名店をハシゴし、夕方には大分は由布院の温泉旅館に到着して1泊。

 そしてこれから阿蘇山の眺望を堪能して目的地へというのが2人の計画であった。


 石動誠も口では「阿蘇山はあまり高くない山」と言いながらも、阿蘇山の見所はその高さではない事は理解していた。


 阿蘇山は世界最大級のカルデラであり、その外輪山は南北25km、東西18kmの広大な面積を有するという。


「でもさ~、『世界最大級』って割りに『日本で2番目』ってどういう事なんだろうね!」

「……?」

「ヴィっさんも分かんない?」


 コクリと頷く松田に石動もそれ以上は突っ込まない。

 彼が松田を「ヴィっさん」と呼ぶのは、松田のコードネームである「マーダーヴィジランテ」から取ったものである。


 やがて車は市街地に入り、しばらくすると石動が松田に指示を出す。


「あ、パノラマラインに入る前にちょっと直進して、あと、もうしばらくコンビニ無いから」

「……」

「どうする? お昼ご飯、コンビニで済ましちゃう?」

「……」

「了か~い!」


 石動の言葉に松田も左手を上げて了承の意思を示した。

 石動のナビゲート通りに県道111号阿蘇吉田線、通称阿蘇パノラマラインへと続く左の道へ曲がらず直進するとすぐにコンビニがあった。



 コンビニで昼食を買い終えた2人が駐車場の車まで戻ると、遠くに大きな山が見えた。


「……?」

「ん、うん。あれじゃないかな? 阿蘇山?」


 田舎特有の広い駐車場はガラ空きであったし、季節柄か風も心地良いので2人は車のボンネットの上にレジ袋を置いて、立ったまま昼食を済ませる事にした。


 阿蘇山も冬場には雪が降るというが、さすがに九州。4月ともなれば山頂にすら雪は見えない。むしろ真冬に雪が積もっていても、2人のような遠くから来た人間が見れば火山灰だと勘違いするのではないだろうか。

 しかも、まだ4月の上旬だというのに緑が濃い。

 東北生まれ東北育ちの石動からすればそれは異国の風景のようにすら感じられた。


「…………」

「うん? ああ、センチメンタルな気分になってさ。岩手山はまだ真っ白だろうしね……」

「…………」

「うん。大丈夫。さって! 宇宙海老を捕まえるのにちゃんと腹ごしらえしないとね!」


 感傷的になった石動を見て、松田が目を細めるが、石動も振り切るようにボンネットの上のレジ袋からサンドイッチを取り出して食べ始める。


 いつの間にやら照り焼きチキンサンドがレタス&トマトサンドにすり替えられていた。

 松田の手によるものであることは間違いが無かったが、他に石動が選んでいたのはチーズバーガーにカレー味のブリトー、フライドチキンを2種類。野菜サンドの方が僅かながらでも栄養バランスはいいだろう。


 つい最近、ともに旅をすることになった新しい友人、松田晶は妙にオカン臭い所がある。そう石動誠は感じていた。


 彼の電脳内のデータベースには松田の危険性とともに「女性扱いされる事を嫌う」事が記されており、彼が話せるにも関わらず無言を貫いているのも自身の声が女性のものに他ならないからだった。


 その割りには先ほどのコンビニのレジで「フライドチキンを海苔塩とスパイシーを2つずつ、あ! あと、ポイント使える分、使ってください」と綺麗な澄んだ声で喋り、石動を驚かせていた。


 だが、この無口でオカン臭くて、その割に女性扱いするとへそを曲げてしまう妙な友人は、いざ侵略者を目の前にすると鬼のように強いのだ。

「目の前にすると」というのも違うかもしれない。彼は自分から悪党を探し出しては抹殺して回っているのだ。


 その棒のように長くて細い手足でどうしてあんな怪力が出せるのかは分からない。

 それどころか彼は先週にはARCANAの尖兵ロボットから劣化ウラン弾の連射を浴びせられていた。だが、さすがにその日は大分、弱った様子であったが病院は嫌いだと言い。キャンピングカーの中で寝込んでいたのだが、石動が「お粥でも作ろうか?」と言うとスケッチブックに「味噌味、玉子入りで、ネギとカツオ節マシマシで!」と書いてきたくらいなのだ。

 そして常人でも食欲をそそられるようなお粥を土鍋で1つまるまる食べ終えるとまた寝込み。そして翌朝にはケロリとしていたのだ。


「んなアホな……」と石動は呆れながらも、注意深く彼の事を見守っていたのだが一昨日の月曜日には某組織の戦闘員を愛用の鉈で細切れにしていた。


 彼にそのタフネスの秘密を聞いてみても「昔、ドラゴンの返り血を浴びた」とスケッチブックに書いてきたが、正直、石動には到底、信じられない事だった。


 だが、まるで不死身であるかのようなタフネスは石動誠にとってはありがたい事だった。

 両親と兄を亡くした石動にとって、殺しても死なないような友人が傍にいてくれる事こそが心の平穏を保つ最後の手段だったのだ。


「あ、そうだ! 熊本もラーメンが名物らしいよ? 明日にでもどう?」


 野菜サンドの後にチキンを齧りながら、唐突に思いついた事を口にする。

 熊本のラーメンもとんこつベースのものらしいが、博多の物とは真逆で太麺を使っているらしい。

 ここしばらくの全国行脚で友人もラーメンが好きなことは分かっていたし、昨日は博多で口の中でブツブツと小気味良く切れていく極細麺を堪能したのだ。今度は歯ごたえのある太麺を味わってみたいと思うのも無理は無い。


 だが隣の友人はオニギリを片手に身振りだけで説明する。どうもラーメンには乗り気ではないようだった。


「えっと、なになに? 宇宙海老、大きい、これから、しばらく、海老尽くし? う~ん……。それなら仕方無いかな……。食べきれなくて捨てちゃうのもなんだしね……」


 彼ら2人が熊本の地を訪れた理由。それが「宇宙海老」だった。

 幻の珍味とも称される宇宙産の海老は濃厚な味と香り、食べる者に至極の満足感を与える適度な食感が世の美食家たちの注目を集めてやまない最高級の食材らしい。

 だが、宇宙から地球へと飛来する宇宙海老は地球人の血液を抜いて殺害することが目的で、並みのハンターでは狩る事が出来ない危険生物でもあったのだ。


 人肉を食する生物であったなら石動も松田も食べる気はしなかっただろうが、宇宙海老は血液を抜いて殺すだけ。

 そして、それが宇宙海老狩りの助けにもなる。

 すなわち血を抜かれて殺された死体が発見されれば、それが宇宙海老の存在を示す根拠となるのだ。


 だが長野で血が抜かれた死体が発見されたと聞いて現地に向かってみれば、某組織のヒル怪人の仕業であり、八つ当たりついでに2人で某組織のアジトを襲撃して彼奴らの活動資金も奪って懐は温かくなったが空振りには違いがない。そもそも彼らは金銭的には困っていなかった。


 そして熊本県で血が抜かれた死体が発見されたという報道を見て、はるばる熊本の地まで足を伸ばしてきたのだ。

 阿蘇市の南に位置する南阿蘇村で発見された死体は川から流されてきたようで、川の源流のある赤口村に目星をつけていたのもそんな理由からだった。




 景色と食事を堪能した後、ゴミを捨てて車に戻った石動がスマホで食後の日課であるニュースのチェックを行っていると、妙な記事を見つけた。


「ん……?」

「…………」

「いや、しょうもないゴシップ記事なんだけど……」


 記事に書いてある内容はどうしようもないネタ記事のような内容だが、その記事を載せているのがお堅そうな地元新聞のネット版である事に石動は違和感を抱いていた。

 彼の様子に松田も気になったのか先を促す。


「…………?」

「き、聞きたい?」

「…………!」

「れ、例の死体だけど、生き返って、そして死んだって……」

「…………?」


 死体が生き返る。それだけなら珍しいが稀にある事でもある。理由は様々で医師の死亡診断が間違っていたり、実は仮死状態であったとか。

 そして生き返った死体がまた死ぬ。これも珍しい事ではない。なんといっても死んでいたと思われるような状況だったのだから。

 だが血を抜かれて死んでいた死体が生き返るとは確かにおかしい話ではある。

 さらに石動は話を続ける。


「えと、霊安室から飛び出した死体(仮)が太陽の光にあたって灰になって死んだって……」

「!?」


 石動の言葉を聞いて松田がアクセルを吹かして車を飛ばす。

 経験の浅い石動には分からなかったが、松田はニュースの記事だけで事の真相に気付いたのだ。


 すなわち吸血鬼の存在に。

最近、メインヒロインよりマーダーヴィジランテさんの方がフィーチャーされていると思われる方がいるかもしれませんが、

ゴメンナサイ。

自分の制作ペースとタイムテーブルを丼勘定で考えてる作者が悪いのです。

本来だったら26話から間を開けて、28話か29話の後くらいにハロウィンになる予定だったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ