4-1
こんにちは。誠です。
え~、今、僕は電信柱の陰に隠れているわけで。
何故、隠れているかというと下校中に悪魔を見つけてしまったのです。ウチの兄ちゃんみたいな「悪魔を模した〇〇」どころじゃないマジモンを!
巨大な蛇の下半身に人間の女性のような上半身が付いていて、後ろ姿しか見えないけど側頭部に1本ずつ、2本の「く」の字型の角が生えてる。蛇の下半身を使ってシュルシュルスルスルと僕の前方を移動中なんです。
場所は僕の住んでいるアパートのすぐ近くの商店街。引退した身の上といえど自宅のすぐ近くに現れた脅威に対処しなきゃいけないのかな? 登校初日の時はジャスティスマンティスさんがすぐに来てくれたけど。あ~、誰か早く来てくれないかな?
ヒーローが駆けつけてくるどころかパトカーのサイレンの音すら聞こえてこない。
それどころか商店街の人々も特に気にする様子もないどころか、小さな子供なんかは手を振っている。
悪魔は鯛焼き屋の店先で注文をしているけど、店主のオバチャンも気にした様子は無い。
ハッッ!?まさか、精神操作!?よし…………!
「……殺るか!」
「やめろ、誠」
「誠君、ちょっと待って!」
「うひゃあ!!」
いきなり声を掛けられてビックリする。いつの間にか僕の後ろに明智君と真愛さんがいた。
「もおー、脅かさないでよ。反応炉が止まるかと思ったよ」
「ゴメンね。それで。あの人なんだけどね……」
ん?真愛さんの知り合いなの?
「ちょっと待ってて」
そのまま鯛焼き屋の悪魔に向かって小走りで駆け寄っていく真愛さん。悪魔に話しかけてこっちを指差す。悪魔がこっちを向いた。嗚呼!目が、目が!悪魔の目が……ん?
「あれ!もしかして!?」
「やっと気付いたのか?」
僕の予想通りなら、そりゃ明智君も知っているだろう。
真愛さんと一緒に向かってくる悪魔。その手には鯛焼き屋の紙袋と「ファッションセンター はらだ」のビニール袋を持っている。今、着ている服は流行を押さえているのに何故か個性に乏しいファストファッション風の物だ。僕の頭の中に「はらだを着た悪魔」という言葉が浮かんで消えない。
「よっ!どうした?少年?」
悪魔が話しかけてくる。悪魔の目は左右に2つずつ、白目黒目の類が無い真っ黒な目だ。空洞なわけではない。現に光を反射して艶々だ。その4つの目がアトランダムに瞬きしている。
「あの、貴女は四ツ目婦人でい、いらっしゃいますか!?」
「え!?あ~~~、少年は特撮ドラマ見てた口か?」
「は、はい!」
「あんがと!でも本物のアタイはアーシラト=イラトって名前でな。で、何のようだ?」
「あ、え、いえ、えっと!」
「こいつ、『殺るか!』とか言ってたぞ」
「ふぁッッ!?」
「アーハハハッハッハ!?そ、それでアタイの事を殺してやろうと!?コイツ!?」
「スイマセン……」
「いいってことよ!まぁ、鯛焼きでも食え!ホレ!真愛も元親も!」
場所を移して商店街近くの公園。ベンチに腰掛けたアーシラトさん。紙袋を開けて鯛焼きを浮かせて(魔法!?)僕たち三人にも鯛焼きをゆっくり飛ばしてよこす。
どうでもいいけど、アーシラトとイラトとどっちが姓でどっちが名だろう?
「んで、少年は真愛と元親の後輩か?」
「いえ、クラスメイトです。あっ、この鯛焼き美味しい!」
明智君と同じ制服と組章で分からないのかな?悪魔(?)だから人間社会には疎いのかも知れない。それか細かい所に気がつかない大雑把な性格なのかもしれない。
「ゴメンね。アーシラトさん。誠君、引っ越してきたばかりだから」
おや?と思う。アーシラトさんをモデルとした四ツ目婦人は女児向け特撮ドラマ「魔法の天使プリティ☆キュート」の登場人物で、いわゆる悪の女幹部だった。気さくで、ノリが良く、ツメが甘い。敵役件コメディリリーフ的存在で、ドラマ終盤には寝返ってキュートと共闘していたハズだった。ドラマの中ではキュートは四ツ目婦人を呼び捨てにしていたような。
「てかさ? 少年がどうやってアタイを殺す気だったのさ? カッターナイフとか振り回しても、すぐお巡りさんが飛んでくんよ?」
再燃!僕、知名度無さすぎ問題!
「いや、誠はヤメヒーってやつでな。事情が事情で、引退したあとも戦力はそのまま保持しているんだ。誠、結構強いぞ」
明智君のフォローに真愛さんも乗ってくる。
「誠君とお兄さんのビデオ、明智君から借りたんで一緒に見ませんか?」
「へ?兄弟揃ってのヒーロー?まさか……!?」
お、アーシラトさんも気付いた!?な~んだ、僕の変身前の顔を知らなかっただけかぁ!
「兄弟侍 ケンゴーブラザー!!」
「あっ、違います」
……誰だよ、そいつら。
「きゃあああああああ!誰かぁぁぁぁぁ!!」
夕方前の平和な時間を突如、誰かの叫び声が劈く。
「行くぞ!皆!」
アーシラトさんが皆に促す。真愛さんの小さくガッツポーズを取って気合を入れ、明智君がクイっと眼鏡を上げる。てか、アーシラトさん、自分の姿を見られての悲鳴だとは思わないんですね。
あ~、「プリティ☆キュート」を見ていた頃は、まさか僕が四ツ目婦人に仕切られるようになるとは思わなかったな!




