25-5
お昼休みの後には部活動対抗リレーだ。
午前中に寝ていたおかげで明智君もなんとか起きてきていた。
「明智君、大丈夫?」
「まあな。100メートルちょいくらいなんとかなるだろ?」
「なら良かった!」
同じクラスの5人で集合場所に向かうとすでに草加会長が待っていた。
「会長、お疲れ様です」
「皆もお疲れ様。石動君も急な話でマント貸してもらって悪いわね」
「いえいえ。ちなみに去年は何をバトン代わりにしたんですか?」
「えっと、去年は昨年度に卒業した先輩が作ったスーパーブレイブロボね」
「ん?」
部室にある大きな段ボール箱にしまってあるのはバスタースーパーブレイブロボだったハズ。それとは別なのかな? 出来が良くて卒業時に持って帰ったとか?
「それでそのロボの模型、リレーの最中に腰の辺りでボッキリ折れちゃったのよね~!」
「えっ、そうだったんですか?」
「ええ。それで去年は両手にそれぞれロボの上半身と下半身を持って走る事になったわね~」
「へぇ~大変でしたね」
世の中には走る時に握る事によってフォームが改善されるというスポーツグリップなる種類の商品もあるけれど、ロボの模型じゃ却ってバランスが悪くなりそうだな。尖ってる部分とかもあるし。
「それから先輩、少しずつ修復してって、文化祭の時にはバスタースーパーブレイブロボになってた時には驚いたわね……」
「あ、それじゃ部室にあるヤツが?」
「ええ、あれがそうよ」
全員が揃ったので皆で柔軟体操をしながら話を続ける。部活動対抗リレーはクラス毎の得点集計がされないために気楽なものだ。大体、本職の陸上部の他、運動部がいくつもあるのに僕たちヒーロー同好会のような文科系同好会が勝てる要素などないだろう。例え僕が3000mの時のように世界記録を越えたとしても。
「それにしても羽沢さん凄かったわね~」
「いやぁ、恥ずかしいです……」
「ん? 羽沢、何やらかしたんだ?」
草加会長が振った話に真愛さんが顔を赤くする。
会長が言っているのは真愛さんが出場した砲丸投の事だけど、明智君は寝ていたので知らないのだろう。
「やらかしたっていうか、ねえ……?」
「ハハハ……」
「?」
明智君は午前中に椅子で変な姿勢で寝ていたせいで体が変に硬いとかで念入りに柔軟をしている。
皆で柔軟体操をした後も地べたに座って三浦君に背中を押してもらいながら前屈、側屈をしていた。
「真愛ちゃん、砲丸投げで世界記録の3倍だしちゃったんだよな!」
「ブホォッ!? 痛タタ……」
「大丈夫、明智君? 明智君!?」
天童さんの言葉を聞いていきなり噴き出し力が急に抜けてしまった明智君は、三浦君に押されてせいもあって股関節を押さえて悶絶している。
「……な、何してんだ? 羽沢ぁ?」
「ご、ゴメンなさい。えっと目立たないように事前に調べておいたんだけど、その見たのが円盤かハンマー投げの記録だったみたいで……」
「魔力とかいうインチキを使うのを止めたら解決するのでは?」
「ハハハ……!」
幸い明智君は特に怪我は無かったようだった。股関節を押さえながらなんとか立ち上がる。
「……ふぅ~! それはともかく、誠のマントをタスキ代わりにするんですよね?」
「ええ」
そのデスサイズマントは天童さんが羽織っている。何故か気に入ったのか午前中から競技に参加中以外はずっとボロボロのマントを羽織っていた。
「それなら走る順番なんですけど……」
「なになに?」
部活動対抗リレーにおいては特に出走順を事前に提出しておくという事もない。つまりスタート直前までいつでも変えられるという事だ。
明智君の提案した順番はこういうものだった。明智君→天童さん→草加会長→真愛さん→三浦君→僕。僕がアンカーなのは分かるけど、アンカーの前が三浦君なのは不思議だった。どう見ても三浦君はアンカーに繋ぐ位置で走るような体形ではない。
やがて場内アナウンスで競技の再開と部活動対抗リレーの開始が告げられる。
運動部の人たちはユニフォームに着替えており、文化系の部の人も茶道部なんかは稽古着を着ていた。
「あれ? 石動は着替えないの?」
各部のアンカーの待機位置で声を掛けたのは女子バレー部のユニフォームを着た生徒会の書記の人だった。
「あ、どうも。ウチのヒーロー同好会にはユニフォームとか無いんで……」
「いや、ユニフォームってかヒーローの恰好に?」
書記の人の後ろで陸上部のアンカーが「やめて!」みたいな顔をしてるけど、他の部のアンカーの人たちはチラチラと期待するような目でこっちを見ていた。
「さすがに変身するのはアンフェアーじゃ……」
人間相手に改造人間に力を全て出すというのも大人げない気がする。
「でも技術部の人たちはほら……」
書記の人が指差したのはリレーのスタート位置。そこには下半身に鋼管パイプを組み合わせたそうな機械を装着した人がいた。アレは下半身だけのパワードスーツかな?
「そういう事なら……」
まぁ、部活動対抗リレー自体がお遊び企画らしいし、機械を使ってもいいかな? 地球征服のための作った物をお遊びに使われてトンチキ共には草葉の陰で悔しがってほしいし。
僕は右手首に変身ブレスレットを顕現させて変身する。
僕がデスサイズの姿に変身すると周囲の人や遠くで見ている人から歓声が上がる。
「さ、さすがに空は飛んだりしないわよね?」
「ハハ。さすがにそれはしませんよ。ほら、ここが閉じてるでしょ?」
「う、うん……」
陸上部のアンカーが僕に聞いてきた。
さすがに本職の陸上部が惨敗するのは嫌だろうし、僕も中学校で陸上部だったので気持ちは分かる。僕が通っていた中学校の運動会での部活対抗リレーではサッカー部と接戦でヒヤヒヤしたものだった。結局はバトンの受け渡しの差で陸上部が競り勝って面目を保ったものの、肝が冷えた事に違いはない。
僕はマントを着けていないので露わになったボディーのイオン式ロケットの噴射口の1つを指差して、噴射口にカバーがかかっている事を説明する。
陸上部のアンカーも恐る恐るといった様子で僕の装甲カバーを触って確かめる。
「確かにこの辺りから青い光を出していたわよねぇ……」
「はい!」
「でも、走っても早いんでしょ? それに3000の時はフォームも綺麗だったわ」
「ええ、中学じゃ陸上部で長距離やってたんで……」
「あら? じゃあ高校でも陸上部に入ればよかったのに」
「いやぁ、体育祭ならともかく、公式大会じゃ改造人間はアウトだと思うんですよね……」
「あ、それもそうよね。ゴメンナサイ。まぁ、貴方が相手なら負けても面目が立つでしょ」
「ありがとうございます」
その後も各部のアンカーの人たちに色々と装甲を触られながらリレーのスタートを待つ。
柔道部のアンカーの人には「試しに」と言って組まされてしまった。だが、いくら僕が痩せているように見えても僕の体重は300キロ近い。腕を差し出して背負い投げの姿勢を取らせてみたけれど、もちろん投げられるわけもなかった。
そうこうしている内に部活動対抗リレーのスタートを告げるピストルの音が響いた。
全校生徒の応援の声がグラウンド中を埋め尽くした。
さてと皆は……?
お、明智君は綺麗なスタートを切って現在3位。彼は中学校時代はサッカー部のレギュラーだったというし、短距離みたいな瞬発力がモノをいう競技は得意だろうな。綺麗というよりはとことん合理的な彼らしい走りで2位に迫っていくが、もう次の走者が近くだ。
天童さんはバトンパスを考えないようなダッシュを始めるが、明智君も元サッカー部らしいスパートを見せて見事バトンを渡す事に成功した。
もう1回、同じ事をやらせたら上手くいくかは分からないようなギリギリのバトンパスだったが、そのおかげもあって天童さんは一気に2位まで順位を上げて1位の陸上部へ迫っていく。
そして第3走者は草加会長。
もちろん天童さんのような無茶が助走はしないで無難なバトンパスで駆けだしていく、3位の野球部に追い上げられるが何とか順位を落とさずに真愛さんに繋いでいく。
そして真愛さん。
……うん。真愛さんは運動が苦手な事は知ってるよ。中々に見ないような女の子走りだし。
順位を5位まで落として三浦君にバトンパス。
だが三浦君。三浦君が異常に、というか異様に早い。
そりゃ早いといっても人間レベルのものだし、それも世界レベルというほどではない。
だが三浦君の体重は108kg。そしてアンコ体形のどう見ても速そうに見えない。
その彼が懸命に走り、3位まで巻き返した時には応援の生徒たちも興奮の度合いを増したようだった。実際に電脳内に表示されるデシベル計には声援の音量が上がった事を示していた。
むしろ三浦君、膝とか大丈夫?
そして最後のアンカーは僕。
助走しながらのバトンパスではなくスタート位置で三浦君を待つ。
三浦君が走りながら脱いだデスサイズマントを受け取り走りだす。
本来の持ち主である僕の元に戻ったデスサイズマントはナノマシンが配列を変えながら移動し、元の姿へ戻っていった。つまり羽織る動作がいらないのだ。その分、走る事に集中できる。
現在、1位の陸上部と2位の野球部はゴールまで半ばほど。
そして僕はスタートしたばかり。
誰も前にいない状態で走るのも気持ちがいいけど、前にいる人を目指して走るのも楽しいなぁ。
以上で第25話は終了となります。
それではまた次回。




