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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第25話 高校生でも体育祭が楽しみでいいじゃない?
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25-3

 天童さんが2年生の待機場所まで行ってしまったので、僕は自分の席まで戻ると校舎からジャージ姿の明智君が歩いてくるのが見えた。

 さっきまで彼は保健室で寝ていたハズで、少しでも寝て具合が良くなったのかとも思ったけれど、いつもの明智君とは違って猫背気味にトボトボと歩きながら大きな欠伸をしている。


「あれ? どうしたの明智君? まだキツそうだけど……」

「うん……。まぁ、まだな……」


 僕が自分の物と一緒に運んできていた椅子にどっかりと座りこんで、ずり落ちるギリギリまで腰をずらして背もたれの上に後頭部を乗せている。


「ああ、そういや俺の椅子、誠が運んでくれたんだっけ? 悪いな……」

「ううん。それはいいけど。大丈夫? まだ保健室で寝てたら?」

「俺もそうしてたいんだけどな~……」

「?」


 学校の椅子では背もたれが低すぎるのか、もう少し腰の位置を前にずらそうとして落ちそうになったりしながらも明智くんは目を閉じていた。


「保健室で寝てるとな~、生徒会長が恨みがましい目で枕元で『誠ちゃんに危ない事させるなって行ったわよね……?』とかブツブツ呟いてくるんだよ~……」

「怖っ!?」

「俺だって怖いよ……。だから、ここまで逃げて来たんだよ……」


 体育祭という全学年合同のイベントなのにちょっかい出してこないからおかしいな~とは思ってたけど、何してんだあの人!

 ていうか生徒会長って体育祭の競技委員長じゃん? 運営用のテントにいなくていいの?


「そ、それは大変だったね。でもそんなに寝不足でしんどいのに学校に来て明智君は偉いね!」

「家にいてもなぁ……」


 えっ? 明智君ってもしかして複雑な家庭環境だったりする?


「マスコミが家に押し寄せてきて、ど~せ寝られないだろ……」


 なんだそういうことか。良かった!


 昨日、ドラゴンフライヤーの準備が整ってから十数分後には政府からアカグロに占拠された銀河帝国軍宇宙巡洋艦が地球を狙っている事と、その対処のために僕たちが向かった事が発表されたらしい。

 そのせいで蒼龍館高校にもマスメディアの取材が押し寄せてきて、その相手もしなきゃならなかったそうで明智君は結局、僕たちが飛び立った後も寝る時間は無かったそうな。


 今も学校を取り囲んでいるコンクリートブロック制の塀の上から複数人のカメラマンが大きなカメラをこちらに向けている所だった。


「……困ったモンだね~。まあ学校内にまでは入ってこないみたいだしいいか!」

「ん? あいつらは学校内だから入ってこないわけじゃないぞ?」

「え?」

「アレは学校内だから入ってこないんじゃなくて、お前が近くにいるから近づいてこないんだよ……」

「ええ……」

「そうでもなければ、『空き時間にでも……』とか言って校長に交渉してずかずか入り込んできて数時間は付きっきり、今日の午後のワイドショーにはその映像が使われてるぞ……」


 そ、そんなにマスコミの人ってしつこいかなぁ?


「お前なあ……。不思議そうな顔してるけど、お前が交渉しに行っただけの俺にビームガン突きつけたドキュメントビデオが一般販売されてるって自覚あるか~?」

「……ハハハ! け、結構、根に持ってたりする?」

「……いや、お前が辛い時期を過ごしていたのは、仁さんが生きていた事を伏せていた俺たちにも責任があるわけだし、今、こうやってマスコミの連中が近寄ってこないなら儲け物さ……」

「ハハハ……」


 明智君は結局、背もたれの上に後頭部を乗せるのは諦めたようで、椅子に普通に座り頭をダラリと後ろに向けていた。

 ニュースで今年の夏は冷夏だと言っていたように今日も気温は低めで涼しいが、それでも日差しは眩しく、明智君は瞼をピクピクとさせていた。


「明智君、アイマスク代わりにタオル使う?」

「ん? でもお前の分は……」

「雨になった時の事を考えて2枚持ってきたから大丈夫だよ!」

「それじゃ、悪いが借りるわ……」


 明智君は僕が差し出したタオルを2枚折りにして目の上に乗せ、その上から眼鏡を掛けた。

 眼鏡をストッパー代わりにしてるんだろうけど、なんだか滑稽な姿だった。カメラで撮られてるって話をしたばかりなのにこんな姿を晒すだなんて、よほど疲れてるのだろうな。

 部活対抗リレー、大丈夫かな?


「それじゃ、寝るのに邪魔だろうし、僕は行くね!」

「おう。悪いな!」


 明智君がこんなにも寝不足になったのは、夜も寝ないで関係機関と調整したり作戦プランを立てていたせいだろう。

 そしてギリギリまで「引退した」と言っている僕を使わない作戦を模索していたのだろう。

 その彼に「悪いな」と言われてなんだか、僕の方こそ申し訳ない気持ちになった。




 休んでいる明智君を1人にしてあげようと控え場所の前、グラウンド脇まで移動する。

 トラックやフィールドで繰り広げられている競技の応援で皆、盛り上がっている。

 中にはスマホのカメラを使って競技を撮影している人もいた。普段は課業時間中にスマホを使ってたりしたら先生に没収されちゃうけど、今日みたいなイベントの時には大目に見てもらえるらしい。そりゃ応援もしないでネットでも見てたら別だろうけど。


 トラックで行われているハードル走で丁度、クラスメイトの原君が1位で僕たちのクラスの前を駆けていくと一斉に歓声が上がった。

 え~と、ハードルの高さが915mm(電脳測距儀調べ)だから914mmの誤差か、つまり400mハードルかな?


 そのまま原君はガチ勢(陸上部)の2年生や3年生を抑えて1位でゴール!

 またも応援しているクラスメイトはドッと沸き上がる。天童さんなんかデスサイズマントを羽織ったまま飛び跳ねてるし。


 放送席や救護場所などがある運営テントの前に設置されている各クラス毎の点数表示は、原君のハードル走での得点が加わって1年生の部で暫定1位。

 全学年で見ても3位と中々の健闘ぶりだった。

 これは僕もうかうかしてられないな!


 椅子の並んでいる待機場所の後ろの方は人も少ないので、そっちに動いてから先月、ZION(ザイオン)で買ったタダクニのランニングシューズの紐を硬く締めなおす。

 このシューズにはなんだか大気圏突入しそうな名前がついているけど、買った時にはまさか自分がそんな事をすることになるなんて思っていなかったな。まぁ、魔法少女の障壁魔法で守られた降下艇の乗って、海外ドラマの話で盛り上がる人たちの酒盛りを見ながらだったけど。


 400mハードルの次に110mハードルと女子ハードルが行われた後はいよいよ僕が出場する3000m走だ。

 中学の時に陸上部だった癖で5分くらいウォーミングアップとして走っておきたいけど、周りを見ても軽く慣らす程度にしか走っている人はいない。陸上部でもないのにガチっぽいのは引かれるかな?

 まあ、いい。

 どうせ今の僕にはウォーミングアップなんて必要無いんだ。


 それでも軽く前屈や屈伸などの柔軟をしながらeco(エコ)モードからコンバットモードに移行しようかと考えていたら、ふと思った。


 昨日、僕たちが沈めた銀河帝国の巡洋艦。アレは地球よりも遥かに進んだ技術力で作られた物だった。

 でも、あっけなく沈んだ。


 その理由はなんだろう?


 マックス君たち蒼龍館高校技術部が作り出した宇宙攻撃機と魔法生成燃料のおかげ? いや、アレは魔法を使ったとはいっても、あくまで地球製としては信じられないといった程度の加速力のハズだ。なんといったって銀河帝国の巡洋艦はワープ航法とかいう地球人からみたらチート(インチキ)みたいな能力を持つ軍艦なのだ。


 チョーサクさんが巡洋艦の射程範囲を超えるような距離から狙撃をしたり、ミナミさんが巨大化したりしたおかげで混乱した? それもどうだろう? 彼らは確かに凄いけど、彼らだって新種の生物というワケじゃない。たった3人の警備員を相手に混乱するような連中が宇宙で幅を利かせる犯罪者集団として名を売れるのかな?


 明智君の立てた作戦のおかげ? それも確かに凄いだろうけど、それが全てというワケでもないんじゃないかな?


 結局、ただ事態が最終局面になってからポッと出張ってきただけの僕には分からない事なのかもしれない。

 それでも1人のマスティアン星人が作ってくれたチャンスに、地球の皆が力を合わせて必死で食らいついたから得られた勝利なのかもしれない。そうだったらいいな、と思った。


(皆で掴んだ勝利か……)


 場内アナウンスが3000m走の選手にスタート位置に集合するよう告げている。

 僕はecoモードのままトラックに向かっていく。

 体育祭もクラスみんなで勝たないとね!


太宰治「ことしの正月、よそから着物を一反もらった。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った」


ワイ「ごちうさ3期の制作発表がされた。2020年放送だという。2020年まで生きていようと思った」

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