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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第24話 たいかん☆こうげき
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24-5

 敵巡洋艦が全長3.2kmの巨艦と言えど彼我の距離10万km以上では姿を視認することはまだできない。


 でも地球衛星軌道上の宇宙望遠鏡から地上へ、そして地上からミナミさんたちが乗っていた2段目、2段目から僕が乗ってきた1段目、最後に乗り捨ててきた1段目から攻撃機へと無線を中継してモニターに敵艦の位置が表示されている。

 ただ想像はしていたけど大分ラグ(遅延)い。相対距離が数100km単位で変わっていくのだ。そして、この表示も何秒のラグがあるのか分かったものじゃない。


 ただ蒼龍館高校技術部で改造した航行システムは順調なようで、機体の向きを自動で微調整しながら敵艦に向けて突っ込んでいく。


(…………来た!)


 モニターに表示されていたのが敵艦のアイコンのみであったのに、一気に表示が増えた。

 敵艦が戦闘機を、迎撃機(インターセプター)を発艦させて展開したのだ。


 《デスサイズ! 艦載機はそちらに表示されてる!?》

 《はい! 捕捉済みです!》

 《じゃあ予定通り、貴方は突っ切る事だけ考えて! 貴方の背中は》

 《ワイらに任しとき!》

 《こちらもデスサイズ、迎撃機、敵艦、全て捕捉済みだ!》

 《お願いします!》


 モニターに表示される敵迎撃機は扇上に展開し、僕に対して接近を始める。

 ミナミさんたちの予想通りに包囲網は2段構え、しかも無人機も混じっているのか異様な横軸縦軸移動も組み合わせた機動を取る機体もある。だが、それもミナミさんたちから聞いていた通りだった。

 ホント、あの3人は何者なんだろ?


 僕を緑色の光線が追い越していく。

 1条。

 2条。

 3条。

 そして少し間を置いて4条目。

 チョーサクさんが射撃を始めたのだ。狙いは迎撃機ではなく、その後方の戦闘ポッド。

 この戦闘ポッドは地球の軍艦でいうところのCIWS(個艦防衛システム)の役割を果たすものらしく、巡洋艦の近くで静止して近づく物を迎撃する物らしい。

 僕のモニターにはその戦闘ポッドはアイコンすら表示されていないというのに、チョーサクさんはあの自身の背丈よりも大きな銃で狙撃をしているのだ。


 《おっしゃ! カカシ(戦闘ポッド)は潰したで! 突っ込めや!》

 《チョーサクさん! ナイス!》


 続いてチョーサクさんは機動性に乏しい有人機タイプの狙撃を始める。

 僕自身の(光学センサー)にも迎撃機の姿が映る。拡大されても黄色い砂粒のようにしか見えないけど、距離2万kmで確認できるだけ凄いと思う。


 そしてワイファイで機体とリンクした電脳から火器管制装置(FCS)を呼び出し、機首大型ビーム砲と全ミサイルランチャーをスタンバイさせる。


 狙いは大まかなものでいい。

 目的は迎撃機を潰すためのものではなく、道を開けさせるための物だからだ。

 どの道、機体は巡洋艦の方を向いている。

 ビーム砲のチャージが終わり次第、僕は右スロットルレバー付け根に取り付けられていたトリガーを引く。


 1度、たった1度の射撃で敵第1陣、及び第2陣から6機ほどが宇宙の藻屑と化す。

 続いてミサイルランチャーを全基発射、及び空になったランチャーを投棄。

 左右それぞれに機首、ロケットエンジン上部とサイドの都合、6ヵ所に取り付けられていたミサイルランチャー分、軽くなった機体はさらに推力重量比を上げて加速していく。

 ヤクザガールズの子の誰かが付けたであろうランチャーカバーのラインストーンデコに太陽光が反射して眩しい。


 でも、やっぱアレだね。

 音が無いと迫力出ないよね!

 一応、エンジンの音とか機体から体に伝わっては来ているんだけど、それだけなんだよね。

 ビームの射撃音とか、ビーム砲の冷却器のファンとかガスを噴射する音とか、ミサイルの連続発射音とか、敵を撃墜した時の爆発音とかさ、全然聞こえないの。

 モニターを見るとミサイルは結構な命中率で敵戦闘機を撃墜してるみたいなんだけど、音が聞こえないせいか、まったくもって雰囲気が出ない。


 それはともかく、僕を乗せた攻撃機は敵陣に開いた穴を突破して猛スピードで駆け抜けていく。

 僕の背後から先ほどのチョーサクさんの緑色の光線の他、青、赤、紫、黄色、白などの色とりどりの閃光が飛び去って行く。

 きっとミナミさんとジュンさんも交戦を開始したのだろう。

 え? 後ろにいる僕の護衛は3人だけなのに何? この射線の色の豊かさは!

 僕の電脳上に表示されているのはレーザー光線が2種類に、パルスビーム、プラズマビーム、収束熱線砲、帯電レールガン、電磁波砲など様々だった。

 怖っ!

 僕の後ろで一体、何が起きてるの!? あの3人ってホントにただの警備員さんなの!?


 3人が奮闘しているせいか、2陣に分かれた戦闘機部隊合わせて60機以上は反転して僕を追いかけてくることは無かった。

 当たり前だろう。反転しようとすれば3人からワケの分からない猛射撃を浴びせられるのだ。


 そして、ついに僕の目に巡洋艦の姿が映る。

 宇宙望遠鏡が撮影した写真よりも鈍く輝いているように見える巨艦は菱型のように見える。


 さて、今までに気付いた事が幾つか。

 まず1つ目、さっきビーム砲で敵迎撃機を6機くらいまとめて落としたじゃん? アレって何も敵機が1直線に並んでてくれたわけじゃないんだよね。どういう事かというと攻撃機のビーム砲が放射線状に広がって範囲攻撃みたいになってんだけど、え? これってビーム砲だよね? 収束率ガバガバじゃん? この拡散しながら薄くなっていくようなビームで3.2kmの軍艦って落とせんの?


 そして2つ目。

 マックス君は機体説明の時に、このビーム砲は地球上は考えられないような距離で敵を狙う事ができるって言ってたけどさ。うん、それはいいよ。確かに球上の地球じゃ数万km先を直接照準で狙うって有り得ないんだしさ。

 実際、僕のセンサーとリンクした攻撃機のFCSは確かに敵巡洋艦を照準しようとしてる。

 でも機体の振動が凄くて使い物にならないんだけど? 砲安定化装置(スタビライザー)とかは無いんですかね?

 彼我の距離、現在3万km弱。砲身が数cmブレただけで3万km先はどれほどズレると思っているのだろう。


 そして3つ目。

 これは今になって気付いたというか、2つ目で言った振動を抑えられないかと思ってスロットルレバーを戻してエンジンを弱めてみようと思ったんだけどさ、全然、ロケットの勢いが変わんないの。ついにはレバーを完全に初期位置に戻してもエンジンの勢いは変わる事がない。


 これは故障かと思って、チェック機構をONにしてみたけど燃料ポンプは異常無し。それも3系統のチェック機能のいづれもエンジンと燃料ポンプに異常が無い事を示していた。

 そして燃料ポンプは僕の指令通りに動作を停止しているのに、ロケットエンジンは燃焼を続けているのだ。


 ふと僕の脳裏に小学生の頃の理科の実験が思い起こされた。

 高い位置の水槽にホースを入れてホースの先端は水槽よりも下にする。ホースを吸って水を出させるとサイフォンの原理で水が出続けるという実験だ。

 まさか燃焼するロケットエンジンがポンプが止まっても勝手に燃料を吸い込んでいる? それがサイフォンの原理による物かは分からないが、起こっている事象は大して変わらないだろう。

 Oh…………!

 そういえば明智君。出発する前に「何があっても機体を信じろ」とか言ってたし、もしかしてそれってこの事象が起こる事に気付いてたとか? やたら歯切れの悪い言い方をしてたし。……まぁ、明智君が信じろってくらいだから安全性には問題ないんだろうけどさ。


 それよりも燃料ポンプから画一的に燃料を供給されなくなったせいか、機体の振動はさらに酷いものになっていた。

 不揃いなエンジンの燃焼で機体はあちこちに曲がり、機体の自動運行システムにより巡洋艦の向きに調整される。そしてまた曲がり、調整される。

 まるでロデオに乗っている気分になるが、敵艦はすぐそばまで迫っている。


(……まっ、この辺までくればいいかな?)


 僕は攻撃機を放棄する事を決め、自前のイオン式ロケットエンジンに点火する。

 攻撃機から降りたからといって、それまでの速度が無くなるわけではない。特に宇宙空間ならば空気抵抗も無いし、ここラグランジュポイントならば見かけ上は引力も無いのでなおさらだ。僕は秒速200km弱の速度で敵に接近していく。

 対艦攻撃機とは即ち敵艦を沈める能力を持った攻撃機の事だ。古くは航空魚雷を搭載し、現代の物は対艦ミサイルを積む。そして蒼龍館高校技術部謹製の宇宙対艦攻撃機が積んできたのは僕だ。


 宇宙に浮かぶ島のように巨大な巡洋艦の至る所から対空砲火が上がるが、僕にも秘策があった。

 必殺技その2(デスサイズキック)の時に使う時空間トンネルを組み合わせ防御壁を展開していく。先端は小さく、徐々に大きな時空間リングを合わせていく。そして出来上がったのが錐のように尖った防御壁だった。

 普段の空中戦の時みたいに、上へ下へ右へ左への機動戦では展開が間に合わないだろうけど、今みたいにただ敵に突っ込む時には十分に使える物だった。

 敵艦から放たれるビームやレーザー、そして実体弾の類であろうとも時空間の壁を撃ち抜く事は出来ずにすべて弾かれていく。


 僕が乗り捨てた攻撃機が敵艦の中央近くに命中。どうやら自動航行システムの性能だけは一級品のようだった。


 僕は大鎌を手元に転送してエネルギーチャージを開始する。

 そう、すでに敵艦は目と鼻の先の距離だった。

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