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3段目の分離後、2段目のロケットに点火する数秒間の間、地球の重力に引かれて減速したものの、再点火によりロケットは加速を再開する。
僕もミナミさんたち3人も自前で宇宙空間で行動できるために、帰りの燃料やロケットの耐久性を考えない急行軍だ。アポロ計画の月ロケットのような悠長な加速ではラグランジュbポイントへ着くまでに地球は破壊されてしまうだろう。
大気の空気抵抗も無く、地球の引力も少しずつ小さくなるためにロケットはどんどんと加速を続ける。
………………
…………
……
……暇だ。
幾ら最終的に毎秒150kmほどに加速するとはいえ、あくまでそれは最終的な速度だ。ラグランジュポイントまでは結構な時間がかかるのだ。
目の前のモニターコンソールってタブレットPCっぽいし映画の1本でもダウンロードしてもらえばよかったかな? いやいや、それでネットに接続した時にウイルスに感染しましたとか目も当てられないしな……。
カメラに目を向ければ宇宙空間や眩い地球が見れるのだろうけど、カメラ越しに見るならテレビのドキュメンタリー番組で見るのと大して変わらないよね?
《ミナミさ~ん……》
《あら? どうかした?》
暇を持て余した僕は2段目にいたミナミさんたちと機内通話をすることにした。
《いや、地球とまだ交信できるかなって思って……》
《無理よ。地球から何万キロ離れたと思ってるの?》
《あれ? でもウン十年前のアポロ計画の時は月とも交信できたんじゃ……?》
《あのねぇ……。あの時はそもそも月探査の計画だから綿密な準備をしてたの。今、私たちが乗ってるロケットは人口衛星を軌道上に上げるためのロケットを魔法だなんだで無理矢理に飛ばしてるわけ》
《つまり、そういう準備をしてないから無理だと?》
《そうね! それよりどうかしたの?》
《暇だから、地球の友達と話でもしようかと思って……》
《ハハ! 坊っちゃんも中々に肝が座っとるやんけ!》
いきなりミナミさんの背後からチョーサクさんの大きな単眼の顔が覗く。まだチョーサクさんがミナミさんの背の上にいるという事は、ジュンさんはミナミさんの前脚の上かな?
《てっきりビビっとるんかとワイらで話とったら、暢気なモンやで!》
《はぁ、すいません?》
《いやいや、ホンマにビビっとるんよりかはエエわ! で、地べたを這いずり回っとる連中になんの用や?》
《え? いや、特に用ってわけじゃ……》
《ほな、女の子に宇宙の話でもして口説く気かい? あのセミロングの子かい? それともそばかすの子か肌の焼けてる子か!?》
《え、そんな事しないですよ……》
チョーサクさんの話は止まる事が無い。
きっとチョーサクさんも退屈していたのだろう。狭いし暇だし、何よりミナミさんの背の上ってゴツゴツしてて居心地悪そうだし。
《ん? 地球人は「君の瞳は1パーセク」とかいう口説き文句は使わんのかい?》
《それを言うなら「君の瞳は100万ボルト」じゃあ?》
《は? なんで電圧が関係あるねん!》
《消費電力の大きい電灯に例えて、それほど輝いているって意味なんじゃないですかね?》
《はぇ~! 地球人もやるやんけ! 下の堅物にでも教えてやりたいわ!》
《貴様っ! 誰が堅物か! 少年もこんな男のいう事を間に受けなくてもいいぞ!》
ジュンさんの声が入ってきたけど、姿は見えない。
ジュンさんとチョーサクさんとで口論になりそうだったが、そこはミナミさんが押さえてくれた。
《アンタたち! 静かにおし! アナタも、そろそろ敵艦までの距離が15万キロになるわ。これから最終切り離しまで4分ほどよ!》
《了解しました! 僕は最終チェックに入ります!》
《お願いね!》
通信は入れたまま、モニターコンソールを操作して対艦攻撃機のセルフチェック機能を作動させる。
チェック完了まで90秒ほど。ドラゴンフライヤー上の飛行や、ロケットエンジンによる衝撃や振動にも耐え、攻撃機の全機能はオールグリーンを示していた。
《攻撃機、システム、オールグリーン》
《了解、ロケットエンジンを起動してアイドルに入って頂戴》
《了解!》
コンソールでロケットエンジンに点火。コンソールで全てのブースターが作動している事を確認した後、首を左右に回して目視でも確認する。
今はまだ弱々しい輝きだが、今の時点でも生身の人間なら蒸し焼きにされてしまうほどの熱風が立ち込めている事を僕のセンサーは示していた。
《全エンジンが正常に点火した事を確認》
《了解、それでは1段目を切り離すわ! カバー開放は切り離しの30秒後!》
《了解!》
《分離まで5、4、3、2、1、Go!》
再び、僕の体を衝撃と減速が襲う。だが衝撃は強いが減速は大分、小さい物だった。地球の引力がそれほど小さくなるような距離なのだ。
そして次にまた衝撃と加速のG。1段目のみと大分、質量が小さくなっているためにGは強く、振動も大きい。
僕も気合を入れてスロットルレバーを強く握る。
通信でミナミさんたちの声が聞こえる。宇宙の中で1人きりになったようでいて、彼らはまだ僕を見てくれていた。
《カバーを爆破で吹き飛ばすまで10秒……。5、4、3、2、1、発破ァ!》
《デスサイズブースター! 発進や!》
《ちょっと! チョーサク!》
ボンという音がしたかしないか。僕を覆っていたロケットのカバーが吹き飛び、そして僕は音の無い世界にさらけ出される。
吹き飛んだカバーは後方に吹き飛んでいた。
爆薬による射出は上方向なのだが、ロケットが前進し続けているためにそう見えるのだ。
左右のスロットルレバーをゆっくりと回していく、すぐには攻撃機を解放はしない。十分な推進力が確保されてからだ。
やがて計画どおりの推力に達したことがモニターに表示される。
左手はレバーを握ったまま、右手でコンソールを操作してランディングギアを固定していた金具の接続を解除する。
途端に攻撃機はロケットの先端部分から飛び出し、宇宙という海へ置き去りにする。
まだ巡洋艦は見えない。
それも当たり前。まだ12万km近くはあるはずなのだ。しかし、現時点で計画だと攻撃機は秒速150kmほど。さらに攻撃機のロケットで加速して10分以内に決着はつくハズだ。
僕が勝つにせよ、負けるにせよ。
まっ、負ける気なんてさらさら無いけどね!




