24-3
まあ「鋼鉄の竜が咆哮を上げて」ってドラゴンフライヤーの鳴き声は、自動車のクラクションとか船の汽笛みたいな意味合いなんだけどね。なんでもブレイブファイブの前リーダーがカッコイイからそうしろって言い張ったんだって!
ん?
あれ?
な、
なんか。
揺れてる?
いや、ドラゴンフライヤーは戦闘兵器なんだから振動とかはあって当然だと思うんだけど、そういう機械の振動とか、歩く度の地響きが伝わってくるとかそういうのじゃなくて前後にビョンビョン揺れてる? ぼくが前傾姿勢でシートにまたがっているからか、なんていうかメリーゴーラウンドみたいな?
モニターコンソールを操作して外部カメラの映像を見てみようと、右手をスロットルレバーから離したところで前後の揺れとは違う強烈な振動を僕を襲った。
慌ててレバーを握ったままの左手に力を込めて踏ん張る。
その後も前後の揺れと治まる事のない強い振動に耐えながら、なんとかタッチパネルを操作して外部カメラとリンクする。画面をタッチする度に生身の人間なら突き指するんじゃないかという衝撃があったが、幸い僕は改造人間だ。
そういや自衛隊やら警察の戦車も自動装填装置にタッチパネル式のモニターコンソールを採用してるみたいだけど彼らは突き指とかしないのかな?
それはともかく、やっとの事で映しだした外部カメラの映像には小さく映る蒼龍館高校が映しだされていた。そして、それは徐々に小さくなっている。
ん?
浮上してる?
そういえば、さっきまであった定期的に襲ってくる上に突き上げるような上下運動はいつの間にか無くなっていた。やはりアレがドラゴンフライヤーの歩行の衝撃だったのだろう。
やがてカメラの映像は機体が旋回を始めたことを示していた。僕の運動検知器も同様だ。
予定通り、蒼龍館高校のある山に張り巡らされた結界に掛けられた「浮上」の魔法に機体を乗せ続けるための行動だった。
そういえば山の外縁近くに綺麗な円を描いて赤紫の光が立ち上っている。アレがアーシラトさんが結界に流してくれている魔力なのだろう。
すべては予定通り。
きっと龍田さんはドラゴンフライヤーを初めて操縦するのに必死でこちらにまで離陸の連絡を入れるのを忘れたのだろう。
あれ? ペーパードライバーどころか龍田さんって免許持ってんのかな? いや普通自動車の免許を持ってるのは知ってるけど、ドラゴンフライヤーの免許って何だろ?
機体が蒼龍館高校周辺を旋回するのも、アーシラトさんが浮上の魔法を使うのも予定通りだったけど、1つだけ予定外の事があった。先程から気になっていた前後モーメントの揺れだ。
おっと僕はそれを確認するためにカメラを見る事にしたんだった!
ロケット各部に取り付けられたカメラの向きを操作して機体をチェックする。
ロケット、僕のいる先端部分から後端両脇のブースターまで異常無し!
ドラゴンフライヤー、カメラで見える部分に関しては異常無し! ただし中にパイロットがいるのに長い首を使って頭部を盛大に振り回しているのを正常と言っていいのかは疑問が残るけど。だが、それはあくまで異常なのはこんな機構を作った連中だ。機体そのものは正常に設計通りに動作している。何故、そんな機能を付けたかというとブレイブファイブの前リーダ(以下略)。
ロケットにもドラゴンフライヤーにも異常は無い。だが今も前後の揺れは続いていた。残るはドラゴンフライヤーの上にロケットを乗せている鉄骨の支持架か?
………………
…………
……
思わず言葉を失ってしまったが、原因はすぐに見つかった。というより一目瞭然。
なんと縦横に無数の鉄骨で組まれた骨組みがバネのようにビョンビョンと前後に揺れていたのだ。そして、それは僕の感じている揺れと確実に同期していた。
……明智君、まだ通信は通じるかな?
《明智く~ん? 聞こえる~?》
呼びかけに対して、少しのラグがあってから明智君が応答する。
《誠! どうした!? 非常事態か?》
《非常事態ってほどではないんだけどさ……》
《うん?》
《なんか妙な揺れがあるな~って思って、カメラで確認してみたらさ、骨組みがメッチャ揺れてんだよね……》
《え、ちょ、え? く、空中分解しそうなほどか!?》
通信は音声のみだけど、それでも分かるほど明智君は動揺していた。
《いや、そこまでじゃ……、でも、そうならないのが不思議なくらいにビョンビョン揺れてる……》
《ビョンビョン? お前の話じゃまるでバネみたい聞こえるんだが……》
《そう! そんな感じ! まるで遠慮の無いメリーゴーラウンドに乗ってる気分だよ!》
《…………》
《明智君?》
《あ、ああ。誠? 今、お前を乗せてるロケットを支えてる支持架を補強してるのはヤクザガールズたちだってのは知ってるよな?》
《うん? そりゃ、もちろん……》
明智君の声色が落ち着きを取り戻し、僕に言い聞かせるような口調になる。
《異世界出身の魔法使いたちも乗ってるがな、人数的には主流はヤクザガールズたちの魔力になるんだろう》
《うん》
《で、だ。アーシラトみたいな古代の悪魔とか、マックスとか勇者の仲間みたいな異世界出身者たちの使う魔法と違って魔法少女たちの使う魔法は体系化された魔法じゃないせいか。何があるか分からないんだ……》
《つ、つまり?》
《支持架の骨組みを強化する時に、頑強にするんじゃなくて、柔軟性を持たせるような結果になっちゃったんだろうな!》
《ええ……。だ、大丈夫なの?》
《そういうのは本人たちに聞いてくれ! それより誠……》
《なあに?》
《草加会長が明日の体育祭の部活対抗リレー、走る順番はアンカーでいいか? だってさ!》
《それって今じゃなきゃ駄目!?》
明智君との通信を切り、ドラゴンフライヤーのカーゴスペース内の山本さんと話をしてみることにした。
機外の明智君とは違い、カーゴスペースとはテレビ通話ができる。こんな狭くて薄暗い所で揺れに耐えているんだ。気晴らしにでもなればいいけど。
少しの呼び出し音の後、通話に出たのは知らない男性だった。
《あっ、もしも~s》
《……ぎゃああああああ!!》
あっ! そういえば僕、今は変身してるんだった!
僕の不吉な骸骨を模した仮面を見た男性は悲鳴を上げて倒れてしまった。そういえば彼が異世界から戻ってきた元勇者かな?
《あ、すいません! オジキさん? 山本です。お電話代わりました……》
《あっ、ゴメンね! 今の彼、大丈夫!?》
《た、多分、驚いただけみたいです。いきなりだったので……》
《ならいいけど、ゴメンね! って伝えといてもらえる?》
《ハイ! ところでどうかしましたか?》
《いや、そっちは大丈夫かな~って……》
僕の問いかけに対し、山本さんは何やら別の装置に表示されていたのであろう数値を読み取ってきた。
《ハイ! 魔力供給量、予定値に対し108%前後で安定しています。魔力供給回路もオールグリーン。異常ありません!》
《ハハ……。それは良かった。それじゃ僕は失礼するよ……》
《お疲れ様ァァァっス!!》
通話を切る時にヤクザガールズの子たちの気合の入った声が受話器の遠くから入ってきた。異世界出身の人たちに変に思われたりしないかな?
さてと、山本さんの話だと魔法の方には異常が無いとか。つまりは明智君が言っていた通りにこの揺れは魔法で鉄骨の骨組みを強化(ただし柔軟性を持たせるという方向で)した結果なのか……。
次は降下艇の栗田さんを呼び出してみよう。彼女がいるのもロケットの内部。つまりはこの揺れに耐えているハズなのだ。
《栗田さ~ん? 大丈夫~?》
《あっ……、いす……るぎ……さん……》
栗田さんの土気色した顔が画面一杯に移る。
宇宙服のヘルメット、バイザー部分を上げた顔にはじっとりと油汗が浮かんでいた。明らかに大丈夫ではない。
《うわっ! どうしたの? 具合悪いの?》
《…………》
《栗田さん?》
《…………吐きそう……》
……乗り物酔い?
念のため、彼女に酔ったのかと聞くとコクリと頷いた。
《……乗り込む前に、カップヤキソバのギガサイズなんか食べるんじゃなかった……》
《栗田さん? 栗田さん!?》
いけない!?
このままじゃ栗田さんがゲロ☆ヒロイン略してゲロインになってしまう!?
栗田さんを心配している僕のコンソールにロケット2段目から着信が入った事を知らせる通知が表示される。
こんな時になんだってんだ!? 栗田さんがクールビューティー系魔法少女の面目を保てるかどうかの瀬戸際なんですよ!?
《ゴメン、栗田さん。また掛けなおす!》
かといって通信を無視するわけにもいかずに2段目からの着信に出る事にする。2段目にはミナミさんたち3人が乗り込んでいる。
《ハイ!? 誠です》
《ミナミよ。後、1分程度でロケットに点火するわ》
《も、もう?》
《こんなもんでしょ? まぁ地球人が作った物にしては早いわね。やっぱ魔法とかいうインチキのせいかしらね……》
《ハ、ハハ……、そうだ! ミナミさんたちは揺れで具合悪くしたりとかしてませんか?》
《私たちは別に?》
《なら良かった》
《それはともかく現在高度は101キロ。パイロットと調整して適正発進角度が取れ次第、ロケットに点火するわ》
《了解!》
ミナミさんはこれから大変な仕事があるので通信を切って任務に専念できるようにした。
その後、栗田さんに通信でロケットに点火したらこの揺れは収まるから頑張ってと伝えると、彼女の瞳に光が戻った。まだ具合は悪そうだけどなんとかなるかな?
ん?
そういえば無重力って酔うんだっけ? どうだっけ?
ロケットの点火に備え、両手で左右のスロットルレバーをしっかりと握り、シートを挟む太腿に力を入れる。
そして通信でミナミさんの声が入る。
《点火10秒前……》
機体の角度が気持ち上がったような気がした。
《…………5、4、3、2、1、点火!》
ミナミさんの点火の発声とともに轟音と振動が機体を襲う。
マックス君が開発した魔法生成燃料は物凄い推進力でロケットを押し上げようとするが、ロケットはまだ支持架から動かない。十分に推力が上がるまではロックされているのだ。
《続いて機体接合解除まで5、4、3、2、1、テイクオフ!》
ロケットを支えていた支持架の幾つかが横に倒れロックが外れる。
すでに高度100kmと大気の薄い領域だ。ロケットは速やかにドラゴンフライヤーを離れてなおも加速を続けていく。
内部にいる僕も凄まじいGに襲われるが、まだ耐えられないほどじゃない。それでも、まるで自分が1個の砲弾になったような感覚すら覚えるような加速だった。
そして燃費や経済速度なんてモノの一切を無視した加速はあっという間に僕たちを宇宙空間に連れ去っていく。
厳密にいえばロケットに点火した高度100kmはすでに宇宙と言ってもいいのだけれど、まだあそこは地球が、大気が近かったために宇宙とは思えなかった。
だが高度500km、衛星軌道までくると話は別だ。
僕はカメラ越しに遠くになってしまった地球の大気を眺めていた。
そんな僕の感傷を中断させたのはまたしてもミナミさんからの通信だった。
《サイドブースター、投棄するわ……》
カメラに機体から離れて地球へ帰っていく2つのブースターが映る。
《続いて3段目を分離、栗田さん? 後は予定通りに……》
《……はい。分かってます》
《栗田さん? 大丈夫?》
《ハイ!》
空元気だろうが彼女の振り絞った声を聞いて少しだけ安心した。
そして先ほどのブースターのように離れていく3段目。そして2段目のブースターに点火される。
分離した3段目は残った燃料を使って衛星軌道に乗り、ラグランジュポイントbに対して地球の裏側になる位置へ移動する。
見れば先に投棄した2つのブースターが大気との圧力熱で赤熱していた。
一足先に地球に帰るブースターを僕は羨ましく思っていた。
まあ、あんな感じに燃え尽きるように大気圏突入は御免だけど。
今回投下前に本作のジャンルをコメディ(文芸)からローファンタジーに変更しました。
理由は自分で読み直してジャンル:コメディというのに違和感を感じたからです。
シリアス展開に持っていくのは第3話からありましたが、第3話くらいの分量であれば主人公たちの過去編として本編との落差を楽しんでもらう事ができると思いますが、その後「ハドー編」「天昇園編」と文量が増えるにつれ、なんか違和感があるな~と。
まあ作者は昔から「冒険活劇がいつの間にかバトル物になっていた」とか「コメディタッチのアイスホッケー漫画がいつのまにか下ネタギャグマンガになってた」とかいうマンガばかり読んできたのでジャンル変更してもいいかなと。
読者の方々におかれましては特に展開が変わったりとかそういうのは無いと思いますんでご安心ください。
どの道、コメディだからどーだこーだ、ファンタジーだからあーだこーだ言うほど器用でもありませんので。
それでは引き続きご愛顧のほどよろしくお願いいたします




