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僕を乗せた攻撃機がロケットの先端に降ろされると、作業員の人が接続を開始する。
ソケットが機体後部に差し込まれロケット側から電源供給開始を確認。
作業員のおじさんに親指を上げて、無事に接続された事を伝えるとおじさんも僕にサムズアップを返してくれた。
その後、2人の作業員は攻撃機をロケットに固定する作業に移る。
その後、作業員が退避してからロケットの先端部分、僕と攻撃機のスペースにカバーが取り付けられた。
ゆっくりとクレーンで降ろされるなだらかな曲面で作られたカバーが取り付けられると、元は人工衛星の打ち上げ用であったと思われる機内は真っ暗になる。
しかも狭い。
手を上げて確認してみると、レーシングバイクのようになっているコックピットシートに思い切り前傾姿勢でまたがる僕の頭の20cmほど上には天板があるのだ。
閉所恐怖症とか暗所恐怖症の人ならパニック必須じゃないかな? 両方を持ってる人? そりゃ、発狂しちゃうんじゃない?
機外からは作業員がカバーを固定する作業の音が聞こえてくる。
実際に宇宙でロケット内から発進する時には、このカバーは爆薬で結合部を吹き飛ばす事になっている。その爆発の力でカバーを攻撃機の進行方向外に飛ばして邪魔にならないようにするんだって。
なお、各ロケットやブースターの切り離しはミナミさんが担当する事にはなっているけれど、いざという時にはこちらのタッチパネル式モニターコンソールからもできるようになっている。
《誠、接続は終了したようだが問題は無いか?》
通信で明智君の声が聞こえてくるのと同時に機内に数か所、LEDの小さな緑色の明りが点灯した。
《うん。さっきまで暗くて辟易してたけど、今、明りが点いたよ!》
《そうか。なら良かった。これから搭乗員が乗り込むが、なにせ高さが高さだ。しばらく時間がかかるから待っててくれ!》
《了か~い!》
普通の旅客機なんかよりも段違いの高さだから、空港なんかで使ってるタラップ車やリフター車なんかは使えないんだろうしね。
高所作業車のバケットで何度にも分けて乗るんだろうか? ん? でもヤクザガールズの子たちは箒で飛べるしなぁ? いや、それよりもミナミさんとかどうやって乗り込むんだろ?
気になった僕はモニターをタッチして、ロケットの外部カメラを起動させて攻撃機のモニターに映す。
カメラにまず映ったのは空を箒で飛ぶヤクザガールズの子たち。やはり彼女たちは自前で空を飛べるから手間が無くていいね。
そしてカメラに向きを変えさせて映ったのがクレーンに吊り下げられたミナミさん。彼女の大型車なみの体の背にチョーサクさんが乗り、腹側の脚の上にジュンさんが座っている。
ふと、もしかしたら彼ら3人はこの状態でも戦う事ができるんじゃないかと思った。ミナミさんの死角である背中側は大きな単眼のチョーサクさんが見る事ができるし、ミナミさんの弱点っぽい腹はジュンさんの甲殻に守られている。そして腹の脚にジュンさんが座っているといっても体側の幾本もの脚は全てフリーだ。なにより彼らがこの状況に随分と慣れているような、余裕すら感じさせるほどなのだ。
まぁ、チョーサクさんの目が大きいから死角をカバーできるんじゃないかな~とか、ミナミさんの腹とか柔らかそうな触手を出したりしてるし弱点っぽいな~とかは全部、僕の予想なのだけれど。
そして、さらにカメラを動かすと僕が予想していた高所作業車があった。
そこにいたのはマックス君。そして僕たちと同年代くらいの男子生徒、天童さん並みに焼けた肌を持つ耳の尖った銀髪の女性、ヤクザガールズの子たちとは一風変わった尖がり帽子の女性、そして透き通った女性だった。
男子生徒は学生服だが背に剣と盾を背負っているし、耳の尖った女性は弓矢を持っている。尖がり帽子の人はこの日差しだというのにブ厚いローブを見にまとっている。透き通っている人は衣服だけが透明じゃないので服屋のマネキンのようだが、確かに動いている。
この人たちってもしかして……。
僕は前に聞いたマックス君の話を思い出していた。
別世界で魔王だった彼がこの世界に来た理由。
異世界から召喚された勇者とマックス君を裏切った元配下、ダークエルフに魔導師、あと透き通ってる人。
あれ? 透き通ってる人って種族ってなんだっけ? そもそもマックス君から聞いたっけ? 話に聞いた時にはスライムっぽいのかクリスタルっぽいのか気になったけど、まぁ特に大事な話でもないし。カメラで望遠して見てみてもどちらとも判別付かないな。スライムみたいに震えていたり形状が変化しているわけでもないし、クリスタルみたいに角ばったりしてないし。案外、ただ単に透き通っているだけだったりして。
元勇者を中心にして立つ4人に対してマックス君は近づいて話しかけ、どこか遠くを見るように視線をずらし、また4人の方に向き直り、そして頭を下げた。
ロケットの中の僕には彼が何を言っていたのかは分からない。
ただ彼の腰から綺麗に曲げて下げた頭が良く見えるだけだ。
自分を裏切った相手や自分に送り込まれた元暗殺者に頭を下げるというのはどういう気持ちなんだろうか?
《……ねぇ、明智君。聞こえる?》
《ああ、聞こえるぞ》
《今いる場所からマックス君は見える?》
《ん? え~と、ああ、見えるな……》
《マックス君が今、一緒にいる人たちってさ……》
《ああ、多分、誠が考えているとおりだと思うぞ……。彼ら、3高のヒーロー部の連中も手を貸してくれていてな。結界の敷設とか向こうの世界の魔法に通じているんで手伝ってもらったんだ》
ああ、そういえば彼ら4人はH第3高校の生徒でもあったっけ。
前に草加会長が透き通ってる人に「現役のヒーローはともかく、経験者もいないんですか?」って言われたって言ってたけどさ。その気持ちも分からなくはないかな?
仲間と彼らにとっての異世界であるこの世界にいきなり飛ばされて、どんな経緯があったかは知らないけど、こちらでヒーローとして活動する事にして、世間様の役に立って、それでも不安だったんじゃないかな? だから歳の近い同業者の知り合いが欲しかったんじゃないかな?
そりゃ、透き通ってる人にも仲間がいるし、学校にも友達くらいいるだろうけど、それでもそれ以外のこちらの世界への繋がりが欲しかったんじゃないかな?
だから去年のウチの学校の文化祭でそういう同業者の知り合いが増える事に期待していたのに、現実は現役どころか経験者すらいない愛好家の集まりであったと。だから、あんな言葉がつい口から出てしまったんじゃないかな?
僕も今から「宇宙」という知り合いもいない冷たい世界に、ミナミさんたちと行くからそう思ってしまうのだろうか?
気弱になったつもりもないけど、ついセンチメンタルな気持ちになってしまった。
モニターに目を戻すと、マックス君は頭を上げて元勇者と握手をしているところだった。
そして彼ら4人はマックス君に手を振りながら高所作業車のバケットに乗り込んでいった。
《おっ! どうやら彼らも竜に乗ってくれるみたいだな!》
《明智君? どういう事?》
《いや、別に拒否されたわけでもないんだが、彼らはマックスとなんやかんやあったわけだろ? だから、よく分かんなかったんだ。まあ、魔力の供給源は多いに越した方がいいし、こっちの世界出身のヤクザガールズよりも、向こうの世界の魔法使いの方が魔力の操作には長けているみたいだしな!》
《へぇ~、そうだったんだ!》
マックス君は確執のあった相手に頭を下げるほどこちらの世界を愛してくれている。それに、それは友人である僕を無事に宇宙まで送るためでもあるかもしれない。
そのどちらかは分からない。多分、両方じゃないかな?
まぁ折角、元魔王と元勇者たちが和解できたんだ。歳も近いんだし、これから彼らがこちらの世界の住人として友情を育む事もできるだろう。
そのためにも地球を破壊されるわけにはいかないよね!
僕がロケットの先端に搭載され。
2段目にはミナミさん、ジュンさん、チョーサクさんが乗り込み。
3段目には宇宙服を着た栗田さんが入る。
ドラゴンフライヤーのカーゴスペースにはヤクザガールズと元勇者パーティーが乗り込んだ。
そして龍田さんが草加会長と三浦君の前で無駄に派手なポーズを決めながらプロトブレスを操作してプロトスーツに変身する。
一気に盛り上がるヒーローオタ2人に対して、照れ隠しかヘルメットの後ろ側を掻く真似をする龍田さん。っていうか、あの2人、いつの間に龍田さんと仲良くなったんだ?
そして龍田さんはドラゴンフライヤーのコックピットのある頭部へ一気にジャンプした。
その後、しばらくして僕の見ているモニターにドラゴンフライヤーが起動状態に入ったことが通知された。
そして明智君の通信が入る。
《各セクション。異常無いか?》
《こちら龍田、異常無し!》
《カーゴルーム、全員配置に付きました!》
《栗田、降下艇操縦室異常無し!》
《星野綜合警備、いつでも行けるわ!》
《デスサイズ、攻撃機、共に異常無し!》
《良し! 重機類の退避をもって「オペレーションAー13」を開始する。各員の健闘を祈る! 死ぬなよ、誠!》
《大丈夫、お小遣い一杯、用意しといてねって政府の人に言っといて》
《了解、了解》
数分の後、作戦の開始が伝達される。
そして鋼鉄の竜が咆哮を上げて立ち上がる。
僕を宇宙へ運ぶため、傷付いた竜が立ち上がった。




