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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第23話 わんだばだばだば!
101/545

23-2

 ドラゴンフライヤー

 全長82メートル、全備重量8,400トン。


 その姿は東洋の龍のように蛇のような細長い胴体に手足が生えたものではなく、西洋の竜のような太い胴体を持っている。胴体の中には貨物室(カーゴスペース)があって輸送機としても使われたりもするらしい。

 だがドラゴンフライヤーの本分は戦闘だ。手足の爪や口の鋭い牙にはレーザー発振器が組み込まれ切れ味を増し、熱線砲(ブラスター)や大小のミサイルを満載した上に装甲も厚い。そのために「突撃戦闘輸送機」とかいうワケ分かんない分類をされたりもする。


 このドラゴンフライヤーは、5台のブレイブマシンが合体したブレイブロボと合体する事でスーパーブレイブロボとなるのだ。

 ドラゴンフライヤーの装甲はブレイブロボの増加装甲として機能し、ブレイブロボ自体のブースターを阻害しないような形での合体となるために両機のブースターを使うことができるために機動性の低下は無く、それどころかブースターの推進方向が増えるために小回りが効くようになるという。

 必殺武器は2機のジェネレーターを直結して放つブレイブバースト。この超兵器で数多の侵略者の巨大メカを葬り去ってきた実績がある、正に日本の守護神といっても過言ではないスーパーロボットだ。


 登録上で「ブレイブロボ」と言えば、このスーパーブレイブロボにさらに支援戦闘ロボ「ブレイブガンナー」が合体した状態、僕たちがバスタースーパーブレイブロボと呼んでいる状態の物を指す。

 これは敗戦国である日本が複数台のスーパーロボットの所有を禁じられたために、それに対して政府が「それじゃ1台のスーパーロボットを普段はバラして使いま~す!」という一休禅師もビックリのトンチで返したためだ。さすがに国連も終戦からウン十年もたってそれ以上とやかく言う事はなく足利将軍のように許してくれた、というか、うやむやのままにすることにしたそうな。どっとはらい!


 そして去年の埼玉での対邪神(ク・リトル・リトル)戦でブレイブガンナーは消滅し、ブレイブファイブはスーパーブレイブロボでハドー総攻撃を戦う事になった。

 長時間に及ぶ戦闘行動は、戦闘による損害もさることながら改修のために交換された新造パーツと旧パーツの予想外の摩擦を生みだし、それによる損傷が甚大であったらしい。



 確かに蒼龍館高校のグラウンドに臥せるドラゴンフライヤーには今も多数の大型重機が取り付いて作業をしていた。

 だが、それは「修理」のためのものとは違うような?

 なんというか作業は竜の背に多数の支持架で取り付けられた巨大なミサイルのような物の接続のためのもののような気がする。


「お~い! 誠~! 俺は寝不足で直射日光がキツいんだ……。早く中にはいろうぜ!」


 慌ただしく作業を進める重機群。

 職員用駐車場にずらりと並んだOD(オリーブドライ)迷彩やパンダ塗装の戦車(MBT)や各種装甲車たちの威容。

 警戒のためか空を飛ぶ早期警戒管制機(AWACS)や戦闘機。

 所々に見えるヒーローたちの姿の中には見知った顔もあれば知らない顔もあった。

 あまりの蒼龍館高校の物々しさに僕たちは言葉を失うが、明智君はくたびれた様子で僕たちを校舎へと促す。

 慌てて明智君の後を追おうとすると、急に明智君は振り向いて僕に問いかけてきた。


「そうだ、誠? 決意は変わらないか?」

「う、うん。ちょっとビックリしただけ……」

「そうか……。悪いが先に中に入っててくれ……」


 そう言うと明智君は玄関脇のテントに入り中の机に置かれていたマイクを手に取った。そしてグラウンドにも響き渡る包装。校内からも聞こえるし蒼龍館高校の校内放送を利用してるのかな。


 《あ~、テス、テス。明智より伝達、明智より各員に伝達。現時刻を持って「プランAー893」を破棄。以降、「プランAー13」に傾注する。繰り返す「プランAー893」を破棄、「プランAー13」へ尽力せよ!》


 明智君の放送で重機の動きが止まり、打合せのためか数台の重機からはオペレーターが姿を現した。




「おっ! 来たか!」


 玄関で明智君を待っていた僕たちを出迎えたのはマックス君だった。

 彼は高校の制服姿に「安全✚第一」と書かれた黄色いヘルメットを被っていた。


「あ、マックス君!」

「ちょり~ス!」

「お久しぶりで御座る!」

「あっ、お久しぶりです」

「おはようございます」

「うむ。貴公らも息災で何よりだ。……ところで明智は?」

「なんか外のテントで捕まってるみたいだね」


 玄関から見えるテントの中の明智君は作業服や黒スーツ、セーラー服と様々な服装の人たちと話をしていた。


「ふむ。それでは会議室までは予が案内するとしよう。そこな衛士よ。明智が来たら先に会議室に行ったと伝えてくれ」

「ハッ!」


 玄関脇にいた小銃を持った自衛官に言伝を頼んでマックスは僕たちを校内へ促した。


「ようこそ! 蒼龍館高校へ!」

「ありがと! 話には都内有数の進学校って聞いてたけど、入るのは初めてだよ!」

「まあ、文化祭か何かじゃなければヨソの学校になど用は無いだろうからな。ところで誠殿が宇宙へ行くようだが?」

「あれ? 話が早いね?」


 バスの中でも明智君はスマホを弄っている様子も無かったけど?


「ん? ああ、先ほどの明智の放送があっただろ? 『プランAー13』というのは誠殿を主体とした作戦プランの事なのだ」

「ああ、それで?」

「ね、ねぇ……」


 そこで話に入ってきたのが草加会長だった。

 どうも場の空気に飲まれたのか怯えたような表情をしていた。


「そ、そういうのって軍事機密とかになって私のような民間人が聞いていい話じゃあ……」

「あ、それは大丈夫ですよ……」


 いつの間にか追い付いてきた明智君が草加会長の言葉を遮る。

 書類を挟んだ大判のバインダーや書類筒を抱えていた彼を見かねて、三浦君が荷物を幾つか持ってあげていた。


「まあ、確かにあと数時間は情報規制されていますけど……。ここから外に出れないと思ってくれたらそれで十分です」

「そ、そうなの?」

「寮生なんかは昨日から外出できない上に通信も遮断されてますけどね……」

「通信制限ってスマホゲーも出来ないのか。そりゃ可哀そうだな!」

「それが後、数時間で解除されるってのは?」

「ん? 誠が宇宙巡洋艦が沈めるか、それとも俺たち地球人に打つ手が無くなるかって事かな?」


 うわぁ……。責任重大だなぁ。


「ま、誰だって何で自分が死ぬか分からないってのは嫌だろうからな。俺がお前たちをここに呼んだのもそれが理由だ……」

「それでよく関係ない私たちを入れてくれたわね?」

「関係あるさ。なんたって俺は『H第2高校ヒーロー同好会員』って肩書で協力してるからな! 俺が頑張ってんだから、お前らも見学くらいは許されるだろ?」

「ハハ! 明智君には敵わないな!」

「……誠」

「さっき、俺は1度だけお前に頼んでみようと思っていたと言ったな?」

「うん?」

「あれも本当なんだぞ。もし、お前が拒否しても俺は何とも思わなかった。むしろ任務の危険性から考えれば当然だと思うし、他の連中がなんやかんや言おうものならお前に千円札でも渡して『映画でも見てこい』とでも言って追い払うつもりだったんだ」

「え、映画?」

「ああ、なんか今、お前が好きそうな映画やってるみたいだぞ?」


 僕が好きそうな映画ってなんぞや? 児童向けのアニメ映画とかだったら僕だって怒るぞ!




 やがて2階の職員会議室へ僕たちはついた。

 中にはヤクザガールズの山本組長と(自称)ブレイブファイブの予備メンバー龍田さんがいた。

 室内には「コ」の字形に並べられた長テーブルと演台、プロジェクターにホワイトスクリーン。演台の上にはノートパソコンといった具合でよくある会議室だった。


「あ、皆さん! オジキさん! お久しぶりです!」

「山本さんもおはよう! 龍田さんは今日はカレー屋はいいんですか?」

「あ、あれは世を忍ぶ仮の姿だし!」


 龍田さんとは去年の埼玉で何度も顔を合わせていた。

 ブレイブファイブの旧メンバー3人が殉職し2人が戦列を離れていた時期、犬養さんは1人で戦い続けていた。彼女との連絡要員として何度も龍田さんは埼玉に来ていたのだ。ただ普段はどう考えても流行らないカレー屋さんの店番をしているらしい。

 去年は龍田さんはブレイブファイブの次期メンバーにと張り切っていたが、戦列が離れていた2人が復帰してトライブレイブスになり、さらに最近、新メンバー2人を加えた新生ブレイブファイブとなったがそこに龍田さんの姿は無かった。まだ予備メンバーを名乗ってるのかな?


 僕たちが再会を喜んでいる間に明智君はプロジェクターとノートパソコンを起動してプレゼンテーションソフトを立ち上げる。


「お~い! 皆、適当に座ってくれ! あ、山本組長、部屋を暗くしてもらえるか?」

「は~い!」

「んじゃ、作戦プランを説明するぞ~!」


 山本さんがカーテンを閉めて室内が暗くなったのを確認して明智君は演台のノートパソコンから「P-Aー13」というフォルダを立ち上げた。

 まず最初に様々な組織のロゴが次々に現れていく。


 日本国政府

 内閣府

 総務省

 防衛省

 警察庁

 H市災害対策室

 富士菱重工

 ヴォルト工業

 韋駄天組

 鮫島工務店

 星野綜合警備

 さくらんぼ組

 私立蒼龍館高校技術部

 都立H第3高校ヒーロー部

 都立H第2高校ヒーロー同好会

 ………………

 …………

 ……




(な、長い……。えっ、これ、いつまで続くの?)


 なんというか、洋ゲーの大作でスタート画面に行くだけでも一苦労したのを思い出した。

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