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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第23話 わんだばだばだば!
100/545

23-1

 木曜日。

 明日が体育祭のために、今日は午後から全体の予行練習と機材設営のために時間割は変更されている。

 そして週が明ければ1学期の中間テストの準備期間だ。

 でも僕が気になっているのはそんな事じゃない。


「……今日も明智君は休みなのかな?」

「そうみたいね……」

「何かあったので御座るかな?」

「デブゴンとか何も聞いてねーの?」

「いや、まったくで御座る」


 月曜日に犬養さんと会った後、明智君は「用事ができた」と言って1人で帰って、そして翌日から学校を休んでいた。

 そして今日も後10分でSHR(ショートホームルーム)が始まるというのに明智君はまだ来ていない。

 机の脇の鞄掛けにも彼の荷物が無いという事はどこかに行ってるという訳でもないんじゃないかな?


 担任の安井先生は他の欠席者については朝のSHRの時に「〇〇君、風邪だって~、皆は気を付けてね~」とか「〇〇さん、通院してから来るって~」とか言うのに、明智君については昨日も一昨日も「欠席だって連絡があったわ~」と言っていた。

 ホント、どうしたんだろ?

 まあ、明智君ならテストが近くても問題は無いんだろうけどさ。


「あ! 明智ん来たぜ!」

「噂をすれば何とやらで御座るかな?」


 天童さんが黒板側の入り口から入ってくる明智君を見つけた。

 でも何だか元気が無いような?


「おはよう! 明智君!」

「……ああ、おはよう……」

「どうしたの? 朝から元気ないね?」

「ん? ああ、最近、寝てなくてな……。悪いが三浦、2年の教室まで行って草加会長を呼んできてくれるか?」

「うん? 分かったでござるが……」


 三浦君は明智君の言葉で訳が分からない様子ながらも教室を出ていった。


「どうしたの? 会長とか呼びつけて……」

「お前らも出かけるぞ……」

「はあ? 何処へ?」

「ヒーロー同好会の活動の一環としてってヤツだ。どこへかは教室じゃ言えないな……」

「い、いきなり?」

「大丈夫、他の部活の大会なんかと同じで公欠にするから……。それに日帰りの予定だから弁当だけ持ってきゃいいさ……」

「お弁当って、それ、三浦君に会長へ伝えてもらわなくていいの?」

「…………」

「……?」

「……言うの忘れてた……」


 どうやら寝不足って言うのは本当らしい。普段なら、明智君がそんな大事な事を伝え忘れるわけないしね!

 急いで三浦君にRINE(リーン)を送って草加会長にお弁当を持ってきてもらう。


 やがて鞄を持った草加会長が教室に現れた。

 少し遅れて三浦君が息を切らせて入ってくる。3階の2年生のフロアまで行っただけで息を切らせるって大変だな~。僕が代われば良かったかな?


「皆、お早う! で、明智君、どうしたの?」

「おはようございます!」

「……話は後で、よし、皆揃ったな~、んじゃ、行くぞ~」


 朝っぱらから疲れ果てた様子の明智君は話もそこそこに教室の外へ行ってしまう。


「ちょ、ちょっと、何処へ?」

「ヒーロー同好会として、社会科見学ですよ……」


 明智君の様子に僕たちは呆気に取られるが……、あ、いや天童さんだけは目を輝かせて行く気満々だ。天童さん? アナタは明智君と違ってテストが近い時に学校をサボって大丈夫な人じゃないですよね?

 渋々といった様子の僕たち4人+何か面白そうな匂いを嗅ぎつけた天童さんは明智君の後を追っていく。


 明智君を追ってSHRの予鈴を背中で聞きながら校門を出ると、すぐそばの車道にはマイクロバスが止まっていた。マイクロバスはメーカー標準のものではない水色の塗装がされ、市谷駐屯地所属を示すマーキングがされていた。


(…………自衛隊……?)


 明智君に促されて僕たちがマイクロバスに乗って席に座ると他に乗客はいない。そして明智君が乗り込んで運転手さんに合図をするとバスは発車した。

 僕たちを送迎するためだけに用意されたバスのようだった。


 バスが発車して、自分も僕たちの近くの席に座ると明智君は話始めた。


 銀河帝国の皇女様が乗った宇宙巡洋艦が犯罪者集団にハイジャックされた事。

 皇女様は小型艇で脱出して地球に逃げ込んだ事。

 彼女を追ってハイジャックされた巡洋艦も地球近くまで来ている事。

 そして巡洋艦に搭載されている惑星破壊爆弾なる超兵器が地球へ向けられている事。

 ………………

 …………

 ……


「た! 大変だぁ~~~!!!!」


 明智君は月曜日に犬養さんの話を聞いて、疑問に思った事から別ルートで情報を仕入れて色々と動いていたらしい。

 なんでも犬養さんが「防衛秘密に当たる事は喋ってない」と言っていた事から、どこか近い所に防衛秘密があると気付き、それが僕たちに協力を要請できないほどの事だと気付いたということでヤバすぎる事態の存在を明智君に勘付かせたそうな。

 だが、そんな事はどうだっていい!


「う、運転手さ~~~ん! た、種子島(たねがしま)! いや、羽田に行ってぇ~~~!!!!」

「落ち着け、誠……」

「だって!」

「今、種子島に行ったってロケットなんか無いぞ!」

「え? そうなの?」

「……それにいきなり行ったって、タクシーじゃあるまいしロケットなんか乗せてくれるわけないだろ……。第一、帰りはどうするんだ?」

「ん? 帰り? どうしよ? 宇宙ステーションで迎えでも待とうかな?」

「親戚の家じゃないんだぞ……」


 僕と明智君以外の皆は顔を真っ青にしていた。

 天童さんなんかバスに乗った頃は、ただの年式の古いバスを物珍しそうに眺めていたのに今じゃガタガタ震えている。


「……大体、お前、宇宙に行ってどうするんだ?」

「んなモン、決まってんじゃん! その巡洋艦だか芋羊羹だか沈めてやるのさ!」

「はぁ~~~…………」


 僕の言葉を聞いて明智君は大きな溜め息をついて項垂れてしまった。そして意を決したように顔を上げる。


「1度だけ、1度だけお前に頼んでみようかと思ったが……、まさか誠から言いだしてくれるとはな……」

「ちょ、ちょっと明智君!? まさか誠君にまた戦わせるために私たちを!」


 明智君に真愛さんが抗議の言葉を上げる。


「別に誠君じゃなくてもいいじゃない! 他にもヒーローなんていくらでも!」

「いや、ヒーローはいくらでもいても、宇宙で動けるヒーローなんてそうはいないんだ……。そうだよな、誠?」

「うん。確かに僕には宇宙空間での戦闘用システムはインストールされているよ」


 もっとも完全な宙間戦闘用アプリを持っていたのは「スターサテライト」のみで、僕みたいな他の大アルカナにインストールされているのは試製(β)版だ。

 けど、それは僕の事を心配してくれている真愛さんの手前、黙っておくことにしよう。


「……結局、お前に頼る事になってしまって済まない」

「いいよ! 僕が地球で普通に暮らすには、その巡洋艦をやっつけなきゃいけないんでしょ? なら、それを僕がやるのがいい!」

「誠君? 大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫! 僕がカップ麺を食べたかったらお湯を沸かすのは僕さ! 他に食べたい人がいたなら、まとめてお湯を沸かしてあげるよ!」


 何と言ったらいいものか、真愛さんの表情から不安の色が消える事はない。そんなに僕は頼りないかな?


 やがてマイクロバスは山道へ入り、目的地へと辿り着く。

 そこは話に聞いた事はあったけど、実際に来るのは初めてだった。


 僕たちの学校とは比べ物にならないほど豪華な校舎。

 校舎と同じ様式でデザインされた学生寮。

 そこは私立蒼龍館高校だった。


 だが僕たちヒーロー同好会の目を引いたのはそんな物ではなかった。

 修理中と聞いていたハズの物がそこにいた。

 グラウンドに臥せる巨大な鉄の竜。


「ドラゴンフライヤーだぁ!!」

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