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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『魔王のスカウト』編

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生命の母イブ

 聖剣の名を呼び、力を解き放つ。

 原初の聖剣、その名はイブ。

 試練の果てに知った名前が、彼女の枷を解き放つ。


「……イブ……それが原初の聖剣の名だと?」

「そうだ」

「――嘘だな」


 サタンは否定する。

 俺が知った彼女の名前を。

 サタンは訝しむように俺と聖剣を見つめる。


「聖剣が持つ名は全て、実在する神の名前だ。暴風の神オーディン、守護の女神アテナ、月の女神アルテミス……全て実在する」

「まるで会ったことがある言い回しだな」

「あるとも。故に知っている」


 サタンは逡巡せず即答した。

 魔王が神の存在を肯定し、断言するのも不思議な話だ。

 俺のように聖剣を通して神と邂逅することもできない魔王が、どうして知ってるのか。

 だが、奴はこれまで敗れた魔王の集合体。

 サタンよりも古い魔王だって混ざっているはずだ。

 俺が知らないだけで、歴史に残っていないだけで、彼らは邂逅したのだろう。

 いやもしかすると、百年前の戦いでも……。


「余が神の名を知らぬはずがない。イブ……そんな神など存在しない」


 そうしてサタンは断言する。

 俺は思わず、笑ってしまった。

 馬鹿にしたわけじゃない。

 ただ、サタンの言っていることが真実だったから。


「正解だ。イブは神ではない……人間だ」

「……」

「だけどな? この聖剣の名がイブであることに間違いはない。なぜならイブこそが、全ての生命の始まりだから」

「――どういう意味だ?」


 あらゆる神の名を知り、イブを神ではないと断定しながら、その正体は知らないらしい。

 サタンは俺を睨む。

 怖い視線を感じながら、俺は聖剣を横向きに持ち、刃を見ながら話す。

 長い話は好きじゃない。

 だから端的に、先に結論を伝えるとしよう。


「人も、悪魔も、神も……全てイブから生まれたんだよ」

「――!」


 サタンが驚きで目を見開く。

 

 世界が誕生する前、何もない空間に二つの生命が誕生した。

 始まりの二人。

 名を、アダムとイブ。

 男女の番として生まれた二人から世界は始まった。

 彼らは人間だった。

 今の俺たちと同じとは到底言えないけど、姿形は同じだ。


 彼らは互いに、生み出す力を持っていた。

 アダムはその力で世界を形成した。

 空を作り、大地を作り、海を作り、自然を作った。

 この世に存在する物質、景色に至るまで、アダムが作り出したものが起源となっている。


 対してイブは命を生み出した。

 人間を生み、悪魔を生み、動物を生み、昆虫を生み……。

 生み出した命は交わり、新たな命を生む。

 人間と悪魔の間に生まれた命が亜人種であり、現代にある生物の原点はイブである。

 

 アダムは世界という家を作り、世界の基盤を作った偉大な父である。

 イブは世界に生きる生命を生み出した。

 俺たちにとって偉大な母だ。

 神もイブから生まれている。

 原初の聖剣に宿る力は、かつて命を生み出したイブの力そのもの。

 内からあふれ出る命の輝きが、終焉の魔剣の傷を癒した。

 おかげで俺は、万全な状態でこの場に立っている。


「イブが神を生み出した? そんな事実はない」

「知らないだけだ。お前も知りたいなら聞けばいいさ。その手に持っている魔剣に」


 俺は指をさす。

 サタンが握る最強の魔剣。

 原初の聖剣と対を成す……終焉の魔剣を。


「俺は魔王じゃないけど、そいつの名前を知っているぞ」

「……なんだと?」

「なんだ? お前は知らないのか? いや……知るわけがないよな。それは本物じゃない。お前の中にある大魔王サタンの記憶から複製した贋作だ。偽りの器には、偽りの力しか宿らない」

「貴様……」


 サタンが怒る。

 奴が複製した大罪の権能は、聖剣グレイプニルの効果で封印されたままだ。

 加えてアスモデウスたちから回収した権能は、終焉の魔剣と融合している。

 奴の中に、憤怒の権能はない。

 にも拘らず、権能を発動したかのようにサタンの力が向上する。

 怒りによって高ぶり、地面と空気を刷り削る。


「たかだか一度生き延びた程度で……調子に乗り過ぎだ」

「……」

「忘れたか? お前は一度、余に敗れている」

「……忘れるわけがない。人生で初めての敗北だ」


 俺は負けた。

 勇者が魔王に敗れること……それは恥だ。

 俺たちは負けられない。

 背負う使命を果たすために、か弱き者たちを守るために……俺たちの剣はある。

 俺は聖剣を強く握る。


「俺は……何も守れなかった」


 ここに来る道中、世界を見た。

 悲惨だ。

 何もかもが破壊され、跡形もなく消滅している。

 かつて誰かが幸せに、緩やかに生きていた場所も、何一つ残っていない。

 人も悪魔も関係ない。

 ただ静かに暮らしたいだけの者たちこそ、俺が何より守らなければならない存在だった。

 最強の名が聞いてあきれる。

 自分の弱さに、不甲斐なさに腹が立つ。


 それでも……。


「こんな俺を、まだ勇者と呼んでくれる奴らがいるんだ」


 リリスが、サラが……俺の帰りを待っていてくれた。

 俺を見て、心から涙を流してくれた。

 ルシファーはまだ、俺を最強だと呼ぶ。

 俺との決着を望んでいる。

 目を瞑れば見える……耳を澄ませば聞こえる。

 みんなから伝わる期待が。

 遠く離れていようとも、たとえ声は届かなくとも。

 俺の勝利を、信じてくれている。


「だから応えるんだ。これ以上、何も失わないために!」


 聖剣が輝きを強める。

 サタンからあふれ出るどす黒く禍々しい力の濁流を、聖剣の輝きが相殺する。

 まるで光と闇、生と死、正と悪。

 相反する力と概念が、俺たちを中心にぶつかり合っているようだ。


「サタンの亡霊、お前はここで倒す! そして再び、世界をやり直す!」

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