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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『原初の試練』編

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内と外の邂逅

 勇者が持つ聖剣には、それぞれ名前がついている。

 聖剣に刻まれた名は、その聖剣を授けた神の名前である。

 神は自らの名を冠した聖剣を勇者に与えることで、勇者を神の代行者にする。

 故に、聖剣には神の力が宿っている。

 しかし、人間では神の力を扱うことはできない。

 聖剣という器から漏れ出るわずかな力を制御する。

 神意解放とはすなわち、聖剣に宿る神の力を解き放ち使役する。

 文字通り、神の力の依代となる術。

 会得する方法は、聖剣に宿る神の意志と対話し、試練を超えて資格を授かることだ。


「七本のうち六本の聖剣で、俺は試練を超え資格を得た。現状、勇者の中で神意解放が使えるのは俺だけだ」

「すごいっすね。神になれるんすか?」

「いや、力を使えるようになるだけだ。厳密には聖剣に宿っている力だけだから、神様には遠く及ばない」

「うーん、よくわからないっすけど、一本だけできないんすよね?」

「ああ」


 手にしている原初の聖剣だけ、試練を超えられていない。

 正確には、試練の場にすら入れない。

 この聖剣だけは未知だ。

 名前がなく、どんな神から授かったものかも不明なのだから。


「今まで一度も試練を受けられたことがない。それでも今、やるしかない。こいつも理解しているはずだ」


 神は勇者に聖剣を与えた。

 この世の秩序を守るために、悪を許さぬために。

 ならば今、この瞬間こそ力がいる。

 天界から見ているのだろう?

 だったら応えてくれ。


「原初の聖剣……お前の名前を教えてくれ」


 俺は聖剣に語り掛ける。

 次の瞬間、まばゆい光が部屋を包み込む。


「うわっ! なんすかこれ!」

「――行ってくる。少しの間、俺の身体を頼んだぞ」


 光は俺の身体を包む。

 正確には肉体ではなく、俺の魂を連れ出す。

 意識は光に導かれて夢の中へ。


  ◇◇◇


 気が付くと俺は、真っ白な世界にいた。

 こんな状況が以前にもあったことを思い出す。

 もっとも、あの時は真っ黒で何も見えなかったけど……。


「今度は白か」

「――これが原初の世界だよ」


 声が響く。

 頭にではなく、身体全体に。

 何もいなかった視界の先に、突然シルエットが浮かぶ。

 人の形をしていて、顔は見えない。

 真っ白な世界の中で、青白く光っている。


「あなたが……原初の神か?」

「どう見える?」

「……眩しいだけだ」


 白い世界に別の白いシルエットが浮かんでいる。

 ハッキリ言って目が痛くなりそうだ。

 ほとんど色合いも一緒なのに、景色の白と輪郭の白が区別できているのが不思議で仕方がない。


「さっき、ここが原初の世界って言ってたけど、あれはどういう意味なんだ?」

「言葉通りの意味だよ。原初は始まり……始まりには何もない。だから……」

「白か。じゃあ逆、終焉は全てが終わって真っ黒だったってことか?」

「その通りだ。私たちはもう、終焉の世界を経験している」

 

 なんだこの違和感は……。

 おそらく目の前にいる青白いシルエットが、聖剣に宿った神の意志。

 原初の神で間違いないはずだ。

 神は俺たち勇者にとって信仰の対象でもある。

 本来ならば敬い、礼儀正しく接するのが当たり前なのに……俺は自然と、敬う気が薄れていた。

 どういうわけか、俺はこの神のことが好きになれない。

 むしろ……話していると腹が立ってくる。


「原初の神、あんたの試練を受けにきた」

「知っているよ」

「受けさせてくれるのか?」

「そうだね。その資格はすでに持っている」


 神にもその気はあるらしい。

 一先ず安心する。

 ここで拒絶されたら、もはや後がない。


「じゃあ早く始めよう。ここであんたと戦って勝てばいいんだろ?」


 試練はいつもそうだ。

 神の意志と対話し、対峙して勝利を勝ち取る。

 そうして神の器たる資格を得られる。

 俺は自然と身構える。

 だが、原初の神は首を横に振る。


「私たちの試練は戦いに勝つことじゃないよ」

「何? だったらどうすればいい?」

「簡単だ。私たちの名前を……当ててごらん」


  ◇◇◇


「おーい! 生きてるっすかー?」


 ネロは耳を傾ける。

 返事はない。

 光が消えたベッドでは、アレンが死んだように眠っている。

 ネロは胸に耳をあて、心臓の鼓動を確認した。


「一応生きてはいるっすね」


 ホッと胸を撫でおろす。

 

「ってことは試練ってやつに挑んでるんすか? 急にいかないでほしいっすよ」


 やれやれと首を振るネロ。

 ため息をもらし、彼女はアレンの枕元でじっと彼の顔を見つめる。


「変な人っすねぇ。けどなんか、ちょっとだけ大魔王様に似てるっすか? いやそんなこと、うーん……」


 ネロがアレンを助けたのは、偶然倒れているところを見つけたからだ。

 ただ、彼が勇者であることが分かった時点で放置することもできた。

 考えとしては浮かんだ。

 そうしなかったのは、彼からリリスの匂いがしたから、というわけではなくて……。


「助けなきゃって思ったんすよねぇ」


 直感、というより本能である。

 瀕死の彼を見つけた瞬間、彼女は衝動的に助けずにはいられなかった。

 まるで勇者のように。

 それは偏に、彼女の魂が似ていたからである。

 悪魔と獣人の混血でありながら、彼女の魂の形は……アレンによく似ていた。

 これも一つの運命である。

 彼らが出会い、ネロがアレンを救ったことも。

 全ては一つの定めに繋がっている。


 そして――


 この悪魔が、彼らの元にたどり着いてしまったことも。


「見つけたぜぇ」

「え?」


 突然、小屋の地面が盛り上がる。

 ネロは咄嗟にアレンを抱きかかえ、部屋の外へと飛び出した。

 次の瞬間、小屋は顎のように開いた地面に砕かれる。


「錬金術?」

「チッ、躱しやがったか」


 姿を見せたのは、元『憤怒』の魔王アンドラスだった。

 大群を引き連れてキスキルたちと交戦していた彼は、大魔王サタンが放った攻撃にさらされた。

 裏切りを知ったアンドラスは激怒し、指揮を捨ててその場から撤退した。

 錬金術の力で地下を進み、攻撃が弱まる外へと逃げた。

 結果、彼は偶然にもたどり着いたのだ。


「おいくそ獣人、そいつを渡せ」

「なんすか急に! よくわかんないけどお断りっすよ!」

「そうか。じゃあ……お前も死ね」


 アンドラスはネロに殺気を向ける。

 襲い掛かかる地形変化に、ネロはアレンを抱きかかえて走る。

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