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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『大罪の衝突』編

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大罪同士の衝突

「――アンドラスが言っていた通りでしたねぇ~ 狙いは最初からこちらでしたかぁ」

「やっぱり読まれてたか。けど、望んでいたシチュエーションだ」


 大規模な戦闘の裏で、俺たちは少数で魔王城に侵入していた。

 アンドラスとの戦闘で一度使った手段だ。

 敵に奴がいる時点で気づかれることはわかっていた。

 ただ、あの時とは規模が違う。

 わかっていても、外の軍勢を放置することはできない。

 必然的に魔王城内の守りは、少数精鋭に限定される。


「ここはボクに任せてください、兄さん」

「フィー」

「時間が惜しいですし、ボク一人で十分ですよ」

 

 フィーはゆったりとした口調で話し、一歩前に出る。

 普段通りに見えて、その瞳にはわずかに覇気を感じられる。

 やる気のあるフィーは初めて見たかもしれない。

 彼の言う通り、今は時間が惜しい。

 全員で戦えば確実に倒せるけど、アスモデウスもそれを承知で戦うはずだ。

 相手も強敵、油断はできない。

 だからこそ、フィーは一人で戦うことを提案した。


「わかった。頼んだぞ、フィー」

「いいですよ~ その代わり、終わったら褒めてくださいね?」

「ああ、もちろんだ」


 頼りになる弟にアスモデウスは任せる。

 すり抜ける俺たちを、アスモデウスはスルーした。


「追わなくてよかったんですかぁ?」

「関係ありませんねぇ~ わたーしの目的は、あなた方の戦力を少しでもそぐことですから」

「そうなんですねぇ……じゃあ、早く終わらせて寝ようかな」

「ひっひっひっ、子守歌ならわたーしも得意ですよ~ もっとも、二度と目覚めませんが」


  ◇◇◇


 アスモデウスをフィーに任せ、俺たちは先へ進む。

 魔王城の構造はどこも変わらない。

 最上階にトップが坐する。

 直接乗り込みたいが、外からの侵入は強力な結界に阻まれて不可能だった。

 故に俺たちは内部から進行する。


「ここは通さねーぜー」

「次はお前か」


 『強欲』の魔王マモン。

 狂気的なほど金、権力、武力に固執する大悪魔が立ちふさがる。


「てめぇら、先に行け」


 相対するために踏み出したのは、『暴食』の魔王ベルゼビュートだった。

 ルシファーが尋ねる。


「いいのか?」

「勘違いすんな。こいつをさっさと片づけたらオレも行ってやる。ちんたらやってんなら、オレが偽物も食っちまうぞ」

「ふっ、そうか。ならば俺たちは急ごう」

「任せたのじゃ! ベルゼビュート!」


 リリスが手を振り、俺たちは彼を置いて先へ進む。

 不敵に笑うベルゼビュートは拳を鳴らし、やる気満々でマモンと向かい合う。

 

「意外じゃんか。あんたは集団行動とか苦手だと思ってたぜぇ」

「てめぇに言われたくねーんだよ」


 ベルゼビュートとマモン。

 二人の悪魔はよく似ていた。

 故に、この対決は運命だったのだろう。


「さぁ、食い散らかすぜ」

「あんたを黄金の彫刻にしてやるぜぇ! さぞ高値で売れるだろうからなぁ!」


  ◇◇◇


 続く相手は必然、大罪の最後の一人にして、唯一の女魔王。

 『嫉妬』の魔王レヴィアタン。

 彼女が立ちふさがり、ニヤリと不敵に笑う。


「ようこそ私たちの城へ。歓迎するわ」


 冷たい視線は鋭く光る。

 俺やリリスではなく、彼女が見つめていたのは……。


「私の相手は、あなたかしら? ルシファー」

「そうだな。順番的に俺だろう」


 視線の意味に気付いた彼が、戦うために前へ出る。

 

「ルシファー」

「元よりこうするつもりだった。構わず行けばいい」

「……感謝する」

「勇者が魔王に礼を言うな。これが全て終われば、俺たちの決着もつけよう」


 ルシファーが俺を見て笑う。

 こんな状況になっても、ルシファーは俺との決着を忘れていない。

 そのことがおかしくて、嬉しくて。

 俺も自然と笑ってしまう。


「ああ、勝って最強を決めよう」

「ふっ、リリス」


 ルシファーはリリスに告げる。


「大魔王の幻影を超えてみせろ。お前が新たな大魔王になれるかどうか……見定めさせてもらうぞ」

「望むところじゃ! 偽物なんてワシが倒してみせる!」

「その意気だ。さぁ、早く行け」

「ああ」

「任せたのじゃ!」


 俺とリリスは最上階へ向けて走り去る。


「さて、早めに終わらせようか? できれば、俺も見学したいんだ」

「ふふっ、それはリリス? それとも……勇者アレンの戦いを、ですか?」

「……ふっ、どうだろうな」

「ああ……妬ましい」


 レヴィアタンはかつて、魔王ルシファーの配下だった。

 しかし彼女は魔王となった。

 彼と、対等になるために。


「私が目の前にいるのに、他の存在を見ているなんて……嫉妬で狂いそうですわ」

「お前は当の昔に狂っているぞ? レヴィ」


 この戦いもおそらくは必然。

 全ては仕組まれたものだと思えるほどに。


  ◇◇◇


 俺たちは先を急ぐ。

 魔王城の最上階に、必ず王は待っている。

 そのための城、そのための試練。

 勇者として幾度も超えてきた壁を、仲間と共に突き進む。

 不思議な感覚だ。

 一人で戦ってきた俺が、誰かと共にいる。

 その相手が本来、敵であったはずの魔王たちだなんて。


「……ふっ」


 思わず笑ってしまう。

 任せてきた彼らに、微塵の心配もしていない。

 魔王だから?

 違う……心の底から信頼しているんだ。

 彼らが負けるはずがないと思っているからこそ、俺たちは一寸の迷いもなく走れる。

 そして彼らも……俺たちの勝利を期待している。


「目の前だ。覚悟はいいか? リリス」

「もちろんじゃ」


 彼女はペンダントを握りしめる。


「お父様の思い出を……偽物に踏みにじられてたまるか!」

「ああ」


 魔王城最上階。

 玉座の間の、仰々しく禍々しい扉を押し開ける

 俺たちはついに対峙する。


「――来たか。勇者アレン」

「……」

「それに、リリス」

「――!」


 暗闇に光る瞳。

 映像では隠れていた素顔が、俺たちの視界に飛び込む。

 戦慄した。

 驚愕した。

 俺もリリスも、その顔を知っている。

 あの日、共に見た顔と――


「大きくなったな、リリス」

「お父……様……」


 寸分違わぬ、大魔王サタンの顔を。

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