表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『怠惰の魔王』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/107

意外と働き者だな

「ちょっと血が足りないな。もう一本貰うよ」

「何本目じゃ! もう八回抜いておるぞ!」


 研究室に戻ると、注射器を持ったサルがリリスに迫っている光景に出くわした。

 出た時と状況が進んでいないように見えるんだが……。


「なんだか楽しそうなことしてますね~」

「ああ、来たんだね」

「アレン! 助けてくれ!」


 リリスが勢いよく走り出して、俺の後ろに隠れる。


「あやつ悪魔じゃ! ワシの血を全部吸い上げる気でおる!」

「お前も悪魔だろ」


 このやり取り何度目だ?

 呆れながら、俺はサルに視線を向けて尋ねる。


「修復に必要な血が足りないのか?」

「ん? いいや、その分は足りてるよ。他の研究に使えそうだから貰っておこうと思って」

「なんじゃと! ワシを騙したな!」

「騙されるほうが悪い。悪魔なんだから、ちゃんと疑わなきゃ」

「うぅ~ こいつワシの部下のくせにぃ~」


 ぐぬぬぬとい悔しそうな顔をしながら、リリスは俺の袖をぐしゃぐしゃに掴んでいる。

 フィーの魔王環境も特殊だが、部下に騙される魔王という構図も中々普通じゃないな。


「足りたなら先に修理してやってくれ」

「仕方がないな」

「な、なんでアレンの言うことは素直に聞くんじゃ?」

「ん? だって、必要な代金は支払ってもらってるしね」


 サルは俺を見てニヤっと笑う。

 あとで身体で支払ってもらう、とでも言いたげな顔に、少し背筋が寒くなった。


「なんじゃ? やっぱり何か隠しておるな!」

「それを今から説明するんだよ。フィーも聞いてくれ」

「ふぁーい」

「欠伸しながら返事をするな」


 こいつ今の一瞬で寝落ちしかけてたぞ。

 定期的に声をかけないと寝るかもしれないな……。


「フィー? なんじゃその呼び方は! ぬしらまで仲良くなっておるのか!」

「あーもう、説明するから静かにしてくれ」


 個性が喧嘩して収集がつかない。

 サラがいてくれたらうまくサポートしてくれるんだが……子供のお守をしてる感覚だ。

 俺は短くため息を吐いて、みんなに説明をする。

 昨日の晩、何があったのかを。


「襲撃? ここにアスモデウスが来ておったのか!」

「そうだ。正確にはサルを勧誘していた。それを断って戦闘になったところを俺が守ったんだ」

「そうじゃったのか……というか、ベルフェゴール! ここはぬしの城じゃろ! なに簡単に侵入されとるんじゃ!」

「えぇ~ なんで怒られなきゃいけないんですか~ ボクの城なんだからボクの勝手ですよぉ~」


 フィーは文句を言いつつも覇気はない。

 テキトーにリアクションしているようにも見える。

 確かに彼の城だから、とやかく言うことではないのも事実だが……。


「さすがに警備が軽すぎないか?」

「大丈夫ですよ~ 城と街にはボクの結界が常に展開されてますから。この中で起きたことは全部、ボクが把握してますから」

「そうじゃったのか?」


 フィーの魔王城を起点として、城下町全てを覆う大結界が展開されている。

 結界内はフィーの監視下にあり、どこにいても彼の眼が届く。

 出入りが自由になっている代わりに、誰がいつ入り、どこにいるのかをフィーは把握しているらしい。

 結界や魔法については悪魔ほど詳しくない。

 が、街を覆う結界を常時発動させ、中の状況を常に把握している。

 それがどれほど異常なことかは理解できる。


「さすがじゃの……相変わらず魔法に関しては魔界一じゃな」

「これくらい普通ですよ~」

「そんな結界があるならどうして、サラがアスモデウスの接触を受けてることに気付かなかったんだ?」

「だって彼女はボクの部下ってわけじゃないですからね~ エリアから除外していたんです」

「アタシも、監視されたくなかったから何も言わなかった」

「お前ら……」


 コミュニケーション不足と危機感の欠如。

 お互いのよくない部分が合致した結果起こった事故……みたいだな。


「そんなこと言ってる場合じゃないじゃろう」

「そうだな。今から研究室までエリアを拡大してくれ。サルも、危険だから見てもらってろ」

「メンドクサイですねぇ」

「……仕方がないから我慢する」


 こいつらは本当に個性が強いな。

 サルも含めてになるが、ここは究極の個人主義者の集まり、という感じがする。

 各々がやりたいことをやる。

 お互いに干渉せず、必要最低限の関わりしか持たない。

 組織というより、ただの括りでしかない。

 改めて信じられない。

 これでよく問題が起こらなかったな。

 反乱でも起こされた日には、一瞬で崩壊しかねない脆さだぞ。


「しかしじゃ。結界で状況はわかっても、対処しなければ意味ないじゃろ? 敵が攻めてきたりしたらどうするんじゃ?」

「その時は追い出しますよ~ 面倒ですけど、建物とか破壊されるともっと大変なので」

「フィーが自分で動くのか?」

「そうですよ~ 結界の中なら、ボクはどこでも移動できるんです」


 つまりフィーは、問題の発生から解決まで、いつも一人熟しているという。

 彼曰く、部下に頼むよりそっちのほうが速いし楽だからと。

 だらけた姿しか見ていない俺には、その言葉に強烈なギャップを感じた。

 怠惰な彼が街や城を守るために働いている。

 しかもたった一人で。


「働き者じゃないか」

「そうなんですよ~ 本当はもっと楽がしたいんですけどねぇ」

 

 そう言いながらも、彼はこの城を一人で守り続けているんだ。

 怠惰という言葉がしっくりくると思ったこと……今から訂正しようか。

 彼は彼なりに、日々奮闘している。

 魔王城や城下町の生活は、彼のふんばりで支えられている。

 ただ……やはり問題はある。


「フィー、可能なら部下たちを一度集めたほうがいいぞ」

「どうしてですか?」

「アスモデウスは仲間を集めていた。サルみたいに、お前の部下も勧誘されているかもしれない」

「あー、裏切りですか。その時はその時ですよ。ボクは止めません」


 彼はあっさりと裏切りを肯定した。

 少し驚く。

 が、なんとなく察する。

 他者の意見を尊重する彼は……心から他者を信じていないんだ。

 王城を一人で守護しているのも、もしかすると他者に任せたくないから……?


「魔王が部下を放置するのもどうかと思うのじゃ。ぬし、よくそんなんで魔王になったのう」

「成り行きですよ~ 大魔王様にお願いされて、ルシファーにも頼まれて。あーでも、ボクにも夢はあるんですよ」

「なんじゃ?」


 リリスが尋ねる。

 すると彼は唐突に、床にバタンと倒れる様に寝転がる。


「みんなが自由に、安心して生きられる世界になってほしいですね。こうして一日中何もせず、のんびり寝ていても安心できるような……そんな世界が、ボクの夢です」

「なんじゃそれ、ぬしらしいのう」

「あははは、そうですね~」


 フィーは笑い、目を瞑る。

 確かに、彼らしい夢だと思った。

 のんびり一日中眠っていたいという彼の本音もわかる。

 そして俺は、そんな未来も悪くないと思えた。

 戦うこともなく、奪い合うこともなく、理不尽に失わない世界……。

 それは俺たち勇者が目指す未来とよく似ていた。


 フィーが目を開ける。

 むっくりと自分から起き上がり、立ち上がって天井を見上げる。


「フィー?」 

「騒がしくなってるので、ちょっと行ってきます」

「え?」

「すぐ戻りますよ」


 直後、フィーは視界から消える。

 空間転移の魔法を発動させた余韻だけが残る。

 フィーは上を見上げていた。

 地上で何かがあったのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://book1.adouzi.eu.org/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] あ、フィーの性格分かった。誰かに似てるなとは思っていたけど、戦国無双の竹中半兵衛に似てるんだ。 半兵衛の理想とかほんとそのまま実行しているっていう感じがする。 昔の大魔王サタンも、無双の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ