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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『最恐のメイド』編

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こんな夜更けにどうしたの?

 テーブルの上に豪勢な料理が並ぶ。

 香る料理のいい匂いと、色とりどりなラインナップ。

 パーティーかと突っ込みたくなるほど豪華な夕食に……。


「おおー! これ全部サラが作ったのか!」

「はい」

「サラは料理の天才じゃな!」

「ありがとうございます」


 リリスも無邪気に大興奮していた。

 さっそく子供の心を掴んだか。

 さすがサラだ。


「悪いな、サラ。長旅で疲れてるのに」

「お気になさらないでください。アレン様のお世話は、メイドである私の役目ですから」

「サラ……」

「ぬしよ!」


 いい雰囲気のところにリリスが顔を近づけてくる。

 瞳を輝かせて何か言いたげだ。

 大体予想できるが、一応聞いておこう。


「なんだ?」

「これでメイドは用意できたぞ! じゃから明日からの訓練を」

「却下だ」

「なんでじゃ!」


 予想通り過ぎて呆れもしない。

 おれは首を横に振りながら、納得していないリリスに説教をする。


「いいわけないだろ。サラは元々俺のメイドだったんだ。お前が連れてきたわけじゃない」

「でもメイドじゃろ! ぬし専属じゃ!」

「最初からな。あと間違ってもお前のメイドじゃないからな。勝手に命令とかするなよ」

「わ、ワシのほうが上司じゃぞ!」

「だったら相応の待遇をしてくれ。できないなら出て行くぞ」

「ず、ずるいのじゃぁ……」


 リリスは泣きそうな顔をする。

 ちょっとばかり大人げなかっただろうか。

 そっとサラのほうを確認する。

 彼女は普段通り、無表情でじっと俺たちのやり取りを見ていた。


「……」


 夕食が終わり、俺たちはそれぞれの部屋に戻る。

 部屋はたくさん余っているから、サラの部屋も用意できた。

 廊下で三人が揃い、顔を合わせて話す。


「申し訳ありませんが、私は先にお休みさせていただきます」

「ああ、疲れてるだろ? ゆっくり休んでくれ」

「はい」


 先にサラが自室へと入っていく。

 それを見送り、隣でリリスが眠そうに目をこする。


「ワシも寝るのじゃ……疲れた」

「ああ。また後でな」

「うむ。おやすみなのじゃ」


 とぼとぼと歩き、リリスも部屋に入っていった。

 残された俺は、サラの部屋のほうをじっと見つめながらため息をこぼす。


「はぁ……俺も準備するか」


 今夜は特に、ゆっくりしていられないからな。


  ◇◇◇


 深夜。

 静かな魔王城がより静かになる時間帯。

 皆が眠り、魔界では珍しく平穏な時間でもあった。

 こんな辺境の古びた魔王城に訪問者なんているはずもない。

 故に、城主も油断している。

 いいや、彼女の場合は単に甘いんだ。

 誰も自分に害をなすなんて思っていない。

 

「スゥー」


 だから気持ちよさそうに眠っている。

 安心しきっている。

 そこにそっと、近づく影が一つ。

 手には仰々しい大剣が握られていた。

 彼女は柄に力を籠める。


「どうしたんだ? こんな夜遅くに」

「――!?」


 声をかけると彼女は慌てて振り向いた。

 目と目が合う。

 

「アレン様……」

「こんばんは、サラ。リリスに何か用事か?」

「……」


 間が悪そうな雰囲気が漂う。

 お互いに気まずい。

 だがそれも、仕方がないことだろう。

 俺はため息交じりに笑いながら呟く。


「そんな物騒なもの、お前には似合わないな」

「――っ!」


 彼女は大剣を両手で握りしめ、大きく振りかぶる。

 そして襲い掛かる。

 俺にではない。

 スヤスヤと眠っているリリスに。

 躊躇なく大剣を振り下ろした。


「く……ぅ……」

「ダメだぞ、サラ。眠っている子供への悪戯にしては……やり過ぎだ」


 大剣は完全に振り下ろされることなく、俺の左手によって受け止められた。

 サラは力を振り絞ったぶん、まだ手が震えている。

 悔しそうな、辛そうな表情を見せられると、俺も心が痛くなる。


「サラ……」

「どいてください、アレン様。その子供は魔王です。倒すべき敵です」

「そうだな。けど、もういいんだ。俺は勇者じゃない。俺にとってこいつは……ただの手のかかる上司だよ」

「っ……」


 彼女は未だに大剣に力を込めている。

 このまま押し込もうとしている。

 硬い意志で、まっすぐに。


「わかっていたよ。お前がこうするつもりだってことは……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 久々に面白いと思えた作品です 中途半端に終わる他の人の作品が増えてきてるのでそう成らないように連載お願いします
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