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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第三章 ―神を包む繭―
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022 ギルド施設


 俺と華の自室での話し合いは続いていた。

「さて、次はこいつだ。改めての確認になるがまずは認識を一致させるぞ」

 ステータスからギルド施設の項目を開くと、はい、と頷いた華が頬を擦り寄せてくる。

 華は体臭すらも自在に変化させるのか、それとも俺が慣れただけか。

 以前は淫猥さにくらくらさせられたそれも、今はただ心地よいと感じるだけだ。

(傲慢による精神と肉体の乖離は必要ないな)

 あれも使いすぎれば俺がどうにかなっちまうからな。使用は少ない方がいい。

 もう華を引き離す考えはあまり浮かばない。いちいち面倒だとか、キリがないとか、『主従』の維持もそうだが、華ほどの美人に擦り寄られれば俺の自尊心は満たされる。権能を自在に扱えるほどの傲慢を維持するのに、その快楽を受け入れるのは役に立った。

(無根拠に自分を他人より優れてると思うより楽なんだよな……)

 俺は華がテーブルに置いた狂王希少肉のジャーキーを皿から摘みつつ、コップに注がれた烏龍茶を飲み干す。

「で、だ。新規で建設できる施設についてだが」

「『朱雀の養鶏場』に『養鶏場』と『きのこ園』。『饕餮牧場』に『牧場』と『グラウンド』。これらの固有施設ですね」

 どうにもこれらは俺が使い道がないと投げ捨てるように使った『願いの玉』が関係しているようだった。

 根拠は2つだ。

 所有権を持つ裏の2つのエリアに建設が可能な点。

 踏破した表のエリア1とエリア2、行ったことのある表と裏のエリア3。これらの4エリアには建設ができない点。

「ギルド項目にある『土地購入』でも施設建設は可能になるかもしれねぇが、他人が侵入可能だったりクエストの報酬に指定されると厄介だからな。表のエリアで検証するのは誰も入れないエリア1だけになるだろうな」

「そうですね。ただ、施設を建てられるほどの土地を買うともなるとそれなりにしますが」

「追加メンバーのためのギルドハウスの部屋数拡張を考えればあんまり無駄遣いはできねぇんだよな」

 そう考えれば願いの玉によるエリア取得はほどほどに良い願いだったのだろう。

 なにしろ直接のゴールド付与は強欲の閾値を上昇させる恐れがある。

 傲慢と嫉妬だけでも心が破綻しかけているのだ。これ以上大罪を積み重ねるのは耐性のある俺でも危険だった。

「あとはそうですね」

 俺の耳に吐息を吹きかけるように華は考えを述べる。

「エリア共通の追加施設の『転移装置』、これも願いの玉の影響でしょう」

 近いぞ、と注意すれば華はさらに頬を擦りつけてくる。最近は離れていましたから、と言い訳のように言う。

「あー、『水田』と『畑』もそうだな。ただ『健康』と『武器化』『隠しステータス閲覧』はないのはどういうことだ?」

「あれらは個人向けに調整されてる願いですから面倒なんでしょう」

「あ? 『転移』は違うのか?」

 転移に関しては隠しエリアに転移できるように、としか俺は天使に言っていない。だから個人調整されなかったのか?

「違います。忠次様のそれはキーです。もともと存在する機能なんですよ」

「おいおい、隠しステータスってのはそこまでわかるのか?」

「読み解くのにいくらか知識が必要になりますが」

 宙空に目を漂わせ、瞬きする華。

 俺は天使が華の願いを危険と称した理由を、ようやく理解する。


 ――華の視界はおかしく(・・・・)なっている。


(華は、もうまともに元の世界を認識できてねぇんじゃねぇか?)

 隠しステータスを読み解く必要があるということ。それはつまり、自分の欲する情報だけが都合よく転がっているというわけではなく、あらゆる全てにあらゆる情報が余すことなく載っている、ということだ。

 華の言うことを信じるなら、それらは人間がわかるように記述されていない。

 だからきちんと自分で理解して、自分の認識に落とし込まなければならない。


 ――華の視界は今、どうなっている?


「お前、大丈夫(・・・)か?」

「もちろんです。忠次様(・・・)がいますから」

 俺を正面から見る華。視線を合わせてくる。

 俺は華の肩に手を置き、がっと抱き寄せた。

 どうしてかそうする必要があった。華にそこまでさせてしまったことを小胆が悲しんでいた。

「忠次様?」

「お前、もう少し自分を大切にしろよ」

 俺自身が華を手ひどく扱っている自覚はある。

 それでも限度というものはあったし、あんまりひどいと見ていられなくなる。

「あ、あの、わたしはもう、忠次様にとても大切にしてもらっています」

「それでもだ」

 それでもだ華。お前のためじゃない。俺のためにそうしてくれ。

 祈るようにそう言えば、顔を赤らめ、瞳を潤ませた華が「あの、忠次様。わたしがこんなに幸福でいいのでしょうか?」と呟いた。


『神園華はエピソード7【幸福が溢れる】を取得しました』

『エピソード7【幸福が溢れる】』

 効果:『神園華』が『絶好調』の際、最大HPとATKを1.2倍する。

 幸福の維持は人の生の目的なれど。

 それを果たし続けることができる人間は限られている。


                ◇◆◇◆◇


「あー、施設の話に戻るぞ」

 はい、と頬を赤らめた華から俺は目を背ける。

 重すぎる忠誠(あい)に小胆が反応したのだ。クソが、女々しいぞ俺。

 小胆を傲慢で押しつぶす。

 今度は俺から華に顔を寄せ、開いたステータスから「どれを建てる?」と問いかけた。

「転移施設は他の方に利用される恐れがありますが、今後エリア固有の施設を全て稼働させるなら必要になるでしょう」

「追加施設を動かすには人員を配置する必要があるからな。ただ施設利用の点だけじゃなく、あった方が便利だぞ転移は。俺がいなくても人員が移動できるなら俺も多少は暇ができる」

 もっとも、ギルメン全員が信用できているわけではない。

 難度が上昇した隠しエリアでまともに戦える人間が限られるとはいえ、俺と華もこの世界の仕様を全て把握していない。

 エリアを専有したいわけではないが、隠しエリアなのだ。勝手をされて何かが起こるおそれがあった。

「ただなぁ、今は全員が浮いている。誰か一人はエピソード取得のために連れ回すが、暇なメンツは働かせておきたいんだよな」

「そうですね。良からぬことを考えるかもしれませんが、施設の効果を考えれば稼働は早ければ早いほどいいでしょう」

「食材アイテムのレアリティアップはな。難度が上がっていくなら早めに用意しておいた方がいいよな」

 どの施設も対応する食材のレアリティを高めるようだが、時間がかかるようなのだ。

「ああ、そうです。忠次様、エリア3に滞在中にエリア1のボスドロップを買い集めておきました」

「おお? へぇ、結構集まってるな」

 華が表示したアイテムボックスを覗き込めば、ゴーレムのドロップがそれなりの数集まっていた。

「手数料はかかりますが、クエストは利用の際に名前欄を匿名にすることもできますので。多少は怪しまれたでしょうが、正式な売却額の2倍ほどで手に入れられました」

 ゴーレム素材はドロップ増強をつけた俺たちが周回すれば簡単に集まる数とはいえ、手間をかけずに手に入ったのは美味(おい)しい。

「今は何より時間だからな。で、そのゴーレム素材で作れる作業用ゴーレムってのは実際どうなんだ?」

 現在、ギルドハウスの工作室を利用して作成した『整備ゴーレム』がギルドハウス内を数体動いていた。

 こいつらはギルドにプールした資金を消費してギルドハウスの清掃や各部屋の備品の補充を行ってくれる。

 風呂とかも以前はいちいちメニューからゴールドを支払って掃除と水の入れ替えをしていたが、こいつらのおかげで今は何もしなくてもよくなった。

「ゴーレム自体は便利です。ただ、掃除ぐらいはギルドのメンバーにやらせた方がいいと思います」

「なるほど。確かにそうだな。俺も連中にホテル暮らしをさせたいわけじゃない」

 俺は設定をいじり、各部屋を清掃候補から外した。

 あんまりに便利すぎても怠惰の大罪の温床になる。

 大罪所有者は欲しいが、怠惰はなんか嫌だよな。戦わせるのに苦労しそうだ。

 あとは『料理ゴーレム』なんかも作れるようだが同様の理由から作っていない。

 今は華や朝姫や留学生(アンドリュー)に料理を任せているが(ちなみに逢糸(マネージャー)ははちみつレモンしか作れない)、いずれはギルメンから正式に調理担当を選び、そいつらに作らせることにする予定だ。

「あとは『傲慢孔雀』と『怠惰牛』か」

「効果は固有施設の生産物のクオリティアップですね」

「……どう思う?」

「どう、とは」

 俺が窓際を指差せば、うるさくなさそうなので作ってみた怠惰牛が陽射しを浴びながらうたた寝をしているところだ。

 饕餮牧場に出現する怪物と違い、もこもことした毛皮に覆われた、デフォルメされた人間ほどの大きさの牛の人形。

 今は寝ているが、のそのそと動く姿は可愛らしくすらあると言ってもいい。

 ただし、こいつは生産素材にオリジナルの魔王(・・・・・・・・)の素材を使ったゴーレムだ。

 傲慢孔雀も一体分だけだが素材があるのでオリジナルが作れる。もちろん未だ作っていないが――。

混ざって(・・・・)いますね」

「特別な効果なんかは」

「あるかもしれませんし、ないかもしれません。彼ら(・・)次第でしょう」

「そうか。そうだよな……」

 俺は呟きながら、どの追加施設を作るかを決める。

「とりあえず『きのこ園』作るか」

 きのこ園に決めた理由。それは現在、きのこ系の食材がゴールドで買える通常物品しかないこともあるが。

「なんとこの施設、カブトムシとクワガタが手に入る。すごいぞ」

「ええと忠次様、昆虫好きなんですか?」

 おいおい、俺は男の子なんだぜ? これでもな。

 たまには無駄なことをしてもいい。

 最適解を選び続けても、きっとどこかで間違える。

 そんな俺を華はどこか優しげな表情で見ていた。


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