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backup  作者: 黒い映像
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54.親子の楔Ⅴ

父上との話を終えて、私室への長い道のりを歩く。

精神的にも肉体的にも疲労がどっと押し寄せてきた。


(結局盗聴魔術(バグ)があったかどうかははぐらかされたし……いつまでも子守りみたいな機能付けるんじゃないっての)


まぁ、それぐらい自分で調べて取り除く事くらいはできるか。

それまではとりあえずは妨害魔力波(ジャミング)の魔術式で封印しておこう。


それにしても、通信用の魔道具なんてかなりの高額品だ。

もう一つ分見繕ってアイツに持たせれば、いつだって声を聴くことが出来る。


(私がオーヴム探しの旅に出ても、レイルと連絡を取り合える。……間違ってもアイツを旅に連れ回すワケにはいかないからな)


ふと窓に目を向ければ、外は既に真っ暗闇。


(……もう夜か)


今宵も月は出ていない。闇の龍は眠りについたままなのか。

結局今日一日でやった事はほぼ無駄だったけれど、先には進めた。


「一体後どれくらい……アイツに時間が残ってるんだろうな」


婆やが掛けてくれた魔術は、暫くの間持つとは言っていた。

けどそれが具体的にいつまで有効なのかは分からない。


「……急がないと」


天と氷の龍のオーヴム。

天の龍は、遥か高き山脈の頂上に、かの龍を祀る一族が住んでいると聞く。

まずはそこへ足を運ぶべきだろう。

氷の龍は……ほとんど情報がない。

最終的には凍土に直接赴く必要があるかもしれない。

いずれにせよ準備が必要だ。

休む暇なんてない。


***


そんなことを考えていたら、既に私室の前にまで到着していた。

ドアに手を掛けると、中から話声が聞こえてくる。

この声は……義兄さんとアルルか。


「お、姫さんおかえり。王にこっぴどく叱られましたか?」

「おかえりなさいです」

「んな……!」


ドアを開いて待っていたのは……腕を組んで椅子に座ってる義兄さんと、床に正座させられているアルルの姿だった。


「ちょっ、ちょっと義兄さん! 悪いのは私だからっ!! アルルにそんなことさせないでっ!」

「わぷっ」


アルルを庇うために間に割って入る……!


「ごめんアルルっ! 私のせいでこんなことさせられて……!!」

「もがが、もふぅ」

「ちょいちょい姫さん、離してやんなさい。アルルが陸で溺れ死んじまうぞ」

「え。あっごめん」


勢いよく抱きしめすぎて、アルルの顔が私の胸に埋まってしまっていた。

慌てて腕を放した……けど、なぜかアルルは私の胸の間から離れなかった。


「……」

「ア、アルル? おい、大丈夫か?」

「もうちょっとこのままでもいいですか? 男の人がおっぱいを好きになる気持ちが分かった気がするので」

「……てい」

「あぁん」


勢いよく引っぺがすと、アルルが名残惜しそうな声を上げた。


「仲がいいことで。……姫さん、あまり落ち込んでないみたいですね。もしかして王と仲直り出来ました?」

「──ん。色々と話したよ。……誤解も解けたし」

「……そうですか。そりゃ良かったですよ。本当に」

「仲直りできたんですか。よかったですね王女様。王様も王女様も二人して不器用でツンデレ屋さんなので、心配だったんですよ」

「……」

「んあぁ」


何だか腹が立ったので鼻を摘まんでやった。


「何にせよ、今回のは迂闊でしたよ。城から抜け出て冒険者になるなんてのとはワケが違うんだ、姫さん。もしも留置場にいたのが本当に帝国兵だったら危なかったんだ」

「……父上にも言われたけど、帝国の兵って言うのは何がそんなに怖いんだ?」

「……そもそも奴らは捕虜になる事がないんですよ。捕まるという概念が奴らにはないんだ」

「それって、神風特攻隊って事です?」

「カミカゼ……?」

「あ。いえ、忘れてください」


アルルがよく分からん事を突っ込んだ。

こいつはどこから仕入れたか分からん単語で例えたりするから、場が混乱することが多々ある。


「とにかく、奴らは自分の命を勘定に入れずに戦うんだ。ようするに自爆してくるんだ、奴ら」

「自爆……でも、そんなの戦場だと大したことじゃないんじゃ?」


最前線に身を置く兵士ならそういう事もあるんじゃないだろうか。

殿を受け持って敵を引き付けるとか、特攻を仕掛けて道を切り開くとか。


「大儀を抱えてる状況ならそういうこともあるだろうさ。だが奴らは死ぬことが目的とでも言いたいのか、ほぼ全員が特攻を仕掛けてくる。恐ろしい光景だぞ」


……想像するだけでもゾッとする光景だ。

兵全員が狂獣戦士(バーサーカー)のような戦法で突撃してくるとか、夢に出てきそう……。

アルルは「やはり神風……」などと呟いていたが、何がやはりなのかよく分からなかった。


「戦場で直接戦ったから言えるが……奴ら、気が触れてる。冗談でも何でもなく意思疎通が出来ん。こっちまで狂っちまうような気さえしてくるんだ」

「……精神性が人間から逸脱しているって父上は言ってたな」

「そうだな。同じ人間のはずなのに、まるで虫とでも対峙しているような嫌悪感がある。……正直、俺も関わりたくないんだ。帝国兵とは」


父上も義兄さんもそこまで言うのか。

……人体実験なんかやらかしてる時点で、まともな連中ではないのだろうけど。


「挙句の果てには竜械人(ドラゴニクス)なんて倫理を無視したバケモンまで駆り出してきやがる。ここを越えたらヤバイって限度がヤツらにはねぇんだ」


何をしてくるか分からない敵っていうのは、相手にして一番厄介な類だ。

この一年の冒険で嫌という程思い知った事実だから、間違いない。


「あのう。ドラゴニクスってなんです?」

「……あ」


アルルにはそこのところは詳しく説明してなかったっけ。

スヴェン義兄さんの方を見ると、口に手を当てて「しまった」とでも言いたげな顔をしていた。

……義兄さん、こういうところおっちょこちょいなんだよな。


「帝国の作った生体兵器だよ。人の形をそのままに竜の要素が加えられたような姿をしてる。……元は人だったらしいけど、レイルの血でそういう風に改造されたんだと」

「……人を、竜に……?」


アルルが怪訝な表情で呟いた。

……こんな胸糞悪い話、聞きたくもないよな。


「ちょっと姫さん……俺が口に出したのが悪かったけどなぁ……」

「もう事の大半は話しちゃったんだよ。今更隠す方がおかしいでしょ」


一方的に巻き込んでおいて何だけどさ。


「あー……んん。とにかく。姫さんはもうちっと自分の身を大事にしてくださいって話です。……周りの人がどれだけあなたの事を心配してるのか、ちゃんと分かっただろう?」

「……ん」

「アルルも。友人のために身を投げ出す行為は美徳かもしれないが……時には諫めることも必要なんだぞ?」

「はぁい」


そう言って義兄さんは椅子を立った。

説教タイムは終わりのようだ。


「そんじゃ、俺はこれで。お次はストラスの相手をせにゃならんからな」

「あ。ストラスさんに騙しちゃってごめんなさいと伝えておいてもらえますか?」

「今度会った時に自分で言え」


アルルの頼みを右手をひらひらと振って断り、義兄さんが部屋を出て行く。


姉さん、来てたのか。

やっぱり姉さんに見つかって替え玉がバレちゃった流れかな?

……私も後で姉さんに謝らないと。


「……って、あ」


そうだ、レネグの事を伝えないといけない。

締まり掛けた扉を掴み、義兄さんを呼び止めた。


「義兄さん、ちょっと」

「ん? なんだ?」


***


「……レネグが?」

「うん。本当に悪い事しちゃって……だから今日の事は多めに見てあげてほしいんだ。レネグが抜けた事で何か不都合が起きてたら、私が責任を取るから」

「いや、そんな事させませんよ……。にしてもアイツ……」

「……どうかしたの?」


義兄さんに事情を話して、レネグの事をどうにかできないか聞いてみた。

が、どうにも義兄さんは怪訝な顔で何やら悩んでしまった。


「いや……アイツと会ったのは裏口に出る方の廊下だって言ったよな?」

「? うん」

「何でそんなところに居たんだと思ってな。確かヤツの今日の割り当ては城下の警備だったはずなんだが」

「何か城に用でもあったんじゃないの?」

「うーん……ま、分かりましたよ。捕まえて話聞いときます」

「本当にごめん義兄さん……。あ、後、割と強めに夢幻魔術(レスト)掛けたから、もしかしたらまだ留置場の竜車置き場で眠ってるかもしれないんだよ。様子だけ見に行ってくれないかな」


そう伝えると義兄さんがすんごい顔で私を見てきた。

いや……本当に申し訳ないって思ってるんだよ……。


「やり過ぎたって思ってます……。反省してます、ごめんなさい」


これに関しては平謝りするしかなかった……。


「やんちゃも程ほどにしといてくださいよ。……アイツにとってはご褒美かもしれないですけどね」

「あぁ……」


確かにレネグならそれすらも喜びそうではある。


「ま、ストラスを慰めてから様子を見に行ってみますよ。先にアイツに構ってやらにゃ数日は引きずりそうな感じなんで」

「う……姉さん、そんなに怒ってる感じ……?」

「怒ってるというか……自分が許せないんですよ。姫さんに変装してたアルルに気付けなかったから」

「……へ? 気付かなかったの? じゃあ何がきっかけでバレたの?」

「王ですよ。王は一目見て部屋にいた姫さんがニセモノだって見破ったらしいです」

「父上が……?」


寝耳に水だ。


「父上、そんな看破するようなスキルなんか持ってたっけ……?」

「……」

「……何、義兄さん。その目」

「いやぁ、ついさっき同じやり取りをしたもんで。……それくらい王は姫さんの事をちゃんと見ていたという事でしょうよ」

「むぅ……」


ちゃんと見ててくれたっていうのは分かったけど……姉さんが気付かないような事に気付くっていうのは、何かこう……もにょる……。

***

読了いただき、ありがとうございます。

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