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backup  作者: 黒い映像
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41.王都をお散歩Ⅴ

人間のために、創られた、世界……?


『文字通りの意味だけど……意味分かんないよね。この世界はそういう風に定義されて創られたモノなの』


ちょっと待ってくれ。

この世界は(かみ)達が創ったんじゃないのか?

なんでそんな、人間を優遇するような定義がされているんだ。


『ウチたちは与えられた命令に従っただけ。……鶏が先か卵が先かっていう話になるけど、この世界を創った(かみ)は、そもそもどうやって生まれたと思う?』


……(かみ)でさえも、何者かによって創られた存在なのか?

だから、(かみ)はその何者かの命令に従って、人間を守っている、ってことか?


『そ。残念ながらもう従って無い奴もいるけどね。……世界の発端としてはそうだった』


……やっと、ジョーガちゃんが何をしに俺の下へ来たのか、その意図が分かった。

人間を守ろうとしていない、俺みたいな世界の敵を造った奴を──(かみ)を、探しているんだろう。


『それは、半分正解。やっぱりキミは聡い子だね。……その通り、キミの身体の事情には、ある(かみ)が関わってる。ウチはそいつを探すために、キミを利用してる』


やっぱりそういう事か。


『でもね、キミの身体を治してあげようとしてるのも、ホントのことなんだよ? ……信じてなんて、貰えないかもしれないけど』


いや、別にそこは疑ってないぞ?


『え?』


短い付き合いだけど、それくらい分かるよ。

ジョーガちゃんは優しいから、本当に助けてくれてるんだって。

ただ、他に理由があるんだろうなって何となく感じてただけだ。


『……ふーん。ふーーーん』


ジョーガちゃん?


『レイルっち。先に言っておくけど』


なんだ?


『ウチは攻略対象キャラに入ってないからね?』


別に何かを攻略してるつもりはないんだけど……。


***


『ん、取り込み完了。解析は裏で回しとくから、一旦帰ろっか』


もう全部取り込んだのか……。

分かった、一度戻ろう。

城の方も、俺の代わりをやってる分身がバレてないか気になるしな。


『それは大丈夫だよ、まだバレてない。ってか、あの分身を見分けられる奴はそういないって★』


……ジェーンが言ってたけど、そういうのあんまり自分で言わない方がいいんだぞ?

確か自爆スイッチだとか何とか。


『死亡フラグね! 自爆スイッチだと自分から死にに行っちゃってるじゃん!』


あれ、そうだったか……?

とにかく、一度口に出しちゃうとそれが起こりうる可能性が出てきてしまうとか、そんなことをジェーンは言っていた気がする。


『まぁそういう話はあるけどねぇ。仮にも龍技(ブレス)なんだから、そこらの人間如きに見抜けるはずないよ。もちろん、レイルっちの身体に魔術を掛けた魔術師にだってだよ?』


う~ん……。

そこまで言われれば、大丈夫な気もしてくる。

非戦闘系の技とはいえ、国一つ滅ぼすほどの威力があるんだからそれくらい高度な技なんだ。

大丈夫だろう。うん。


『そうそう★ ほら、さっさと行こっ。時間は限られてるんだから!』


だな。

色々考えさせられたから、城に戻って頭を休ませたいところだったんだ。


***


「本当にご用事はお済になられたのですか? 随分と早かったみたいですが……」

「はい。思ったより早く終わっちゃいました」


王立図書館から出て、帰路に就く。

さっきみたいな奴らがまた出てこない保証はなかったので、ミーシャさんを見送ってから帰ることにした。


「行先はギルドでよかったですよね?」

「えぇ。王都に滞在中は、ギルドの職員寮にお世話になってますので」

「分かりました! ──とは言っても道が分からないんで、後ろ付いて行きますね」

「ふふっ、よろしくお願いします」


歩き出したミーシャさんの後に続く。

王都のギルドはまだ行ったことのない場所だし、ちょうどよかったかもしれない。

……まぁ、もう行く事なんて、ないかもしれないけど。


「っと」


遠くに竜車が見えた。進路的にこちらを通るようだ。

このままだと俺のデカい身体が邪魔になってしまう。

少し横にずれて道を開けた。

一頭立ての竜車が迫り、すれ違う。


「──え?」


竜車の窓をなんとなしに見た俺は、思わず声を上げた。


──目と目が合った。白いフードを被った女の子だ。

会ったこともないはずのその子の顔を見た瞬間に、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


わずか一瞬の出来事。竜車はすれ違い、顔は見えなくなってしまった。

よく分からない感覚に惑う。知らない人のはずなのに、誰よりも知っているような……。

過ぎ去ろうとする竜車の窓から、フードの女の子が顔を出した。


「あ……」


向こうも、こちらを見て驚いたような顔をしていた。

再度顔を見ても、やっぱり知らない女の子のはずだ。

でもなぜだろうか。懐かしい感じがする。

俺が忘れているだけで、どこかで出会ったことがあるのだろうか?


声を掛けようかどうか迷っている間に、竜車は角を曲がって見えなくなってしまった。


『……!』


ジョーガちゃんが息を呑むのを感じた。

もしかして、知っている子なのだろうか。


『……レイルっち、今の子……』


「レイルさん、どうかしましたか?」

「あ、いえっ、何もないです!」

「そうですか……?」


いけない、今はミーシャさんの護衛をしているんだった。

ジョーガちゃん、もし知っている子だったら後で教えてくれ。


『うん……』


俺は馬鹿だから、同時に他の事を考えていたら頭が追いつかなくなって駄目になる。

まずは目先の事にだけ集中しよう。


***


「着きました。こちらが王都のギルドです」

「おぉ……え? これ全部ですか?」

「はい、こちらにある全ての棟がギルド管轄の建物となってます」


この建物全部がギルド……。

入り口から中を見ると、冒険者で賑わっており、酒場では酔っぱらいたちが騒いでいる様子が見えていた。

そこだけ見ればリシアのギルドとさほど変わらないように見えた、が……広さが全くと言っていいほどに違う。

王都のギルドなんだから大きいんだろうなとは何となく思っていたけど、想像以上だった。


「なんか……凄いですね?」


なんとも馬鹿みたいな感想になってしまった……。


「ふふっ、そうですね。ここは王国全てのギルドの本部となってますので、規模が大きいんですよ」

「なるほどぉ……」


ギルドの本部か。ならこの大きさも納得だ。

王国各地のギルドを纏め上げているわけだし、その分やることも多いんだろう。


「あの……レイルさん」


そんなことを考えながらギルドを眺めていると、ミーシャさんが話を切り出してきた。


「なんですか?」

「あの、その……もしよろしければなのですが……。明日の感謝祭(フェス)、一緒に回りませんか……?」

「えっ」


ミーシャさんからの突然の誘いだった。

明日の感謝祭(フェス)かぁ……。

行ったことが無かったので、一度見てみたい気もするけど……。


『めっちゃ攻めてくるじゃん! レイルっちどうすんの!?』


どうするったって……今はダメだ。


「ごめん、ミーシャさん。明日の予定がどうなるかは自分でもよく分かってなくて……約束は出来ない、です」


『おぅ。そこはキッパリ断るんだ』


できない約束はあんまりしたくないんだよ。


「あ、いえいえそんなっ、謝らないでくださいっ! 急に誘ってしまったこちらが悪いんですから!」

「いやいや、ミーシャさんは悪くないですよ! 俺が自分で予定も決められないダメな奴なだけです!」

「そんなことはありません! 予定なんて自分で決められないことが多々あるんですから、レイルさんが気に病む必要なんて無いんです!」

「でも俺が!」「いえ私が!」

『だぁーっ! もうっ、やめいやめい! いつまでやるつもりなのっ!』

「っ!」


ゴメン、俺が悪かったから頭の中で怒鳴らないで……。


「すみませんでした、レイルさん……。無理に誘うようなことを言ってしまって……」

「いえっ、誘ってもらったことは嬉しいです! 次があればお願いします!」

「ええ、それは是非! 感謝祭(フェス)は来年もありますから」


……来年か。

それまで生きてるかな、俺。

できない約束はしたくないけど、可能性があるなら……。


「今日はありがとうございました。それでは、また」

「はい、お疲れ様でした」


綺麗に一礼をして、ミーシャさんがギルドの建物内に入っていった。

そこまで見届ければ十分だろう。


***


夕日が指していた。

もうすぐ夜が来る。

なんだか、時が過ぎるのを早く感じてしまうな。


『もう、おじいちゃんみたいなこと言わないの』


確かにお年寄りは一日を短く感じるっていうしな。

俺の精神はもうおじいちゃんの部類に入るかもしれない。


『確かにレイルっちは精神が摩耗しすぎてるけどさ……まだ15才なんだからね?』


15才か……イマイチ実感が湧かないんだよな。


何十年も生きたように思うのは、きっとあの地獄のせいなんだろう。

一片の希望もない中で、ひたすらに死を望んでいた無為な時間。

それが今の自分を形作っているのだと思うと……少しだけ悲しい。


『……ゴメンね』


なんでジョーガちゃんが謝るのさ。


『ウチがキミをもっと早く見つけてあげてたら、そんなことにはなってなかった』


……身寄りのない子を集めて面倒を見てるとか言ってたっけ。

それの事か?


『……うん。それもあるし……ウチら側の事情の被害者でもあるから』


(かみ)たちの事情、か。

……なんにせよ、ジョーガちゃんが謝ることじゃない。

全部、今更の話だ。

それよりも、今、こうやって助けてくれてる事の方が嬉しいよ。


『……本当?』


あぁ、本当。

だからそんなに気にしないでくれ。


『……そっか、ありがと』


こっちこそだよ。


『……フフッ、このままだとさっきみたいにお礼ループしちゃうかもだね★』


確かに。

……あ、そうだ。

さっき通り過ぎた女の子のことだけど。


『あぁ、うん。あの子』


知ってる子なのか?

俺、あの子に何か既視感を感じたんだけど、覚えがないんだよな。


『知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らない』


……え? どういうことだ?


『あの子、顔を変えてたんだよ』


……顔を変えてる?


『うん、魔術による変装だろうね』


魔術による、変装……。

ジョーガちゃんが知っているって言ったのは、変装後の顔の人物についてってことか?


『そゆこと。王都なんだからここにいることは知ってたのに、顔を見るまで頭から抜けてたんだよね』


やっぱり、そういう事か。

ということは……あの時感じた既視感は、もしかすると……。


なぁ、中身が誰かまでジョーガちゃんは分かってるのか?


『あの一瞬じゃ解析できなかった。けど、推察はできる』


……俺も何となく分かった気がする。


『だよね。キミの感覚は常人よりだいぶ強化されてるから。あの変装魔術は魔力も偽装してたけど、それすらも凌駕して見抜く事ができた。……愛だよねぇ★』


……あの子の中身は、ジェーンだな?


『多分ね』

***

読了いただき、ありがとうございます。

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