---Re:Re:---
う……ん……。
あたたかい――。
それに……なんて心地いい……。
…………。
ぼ、ぼく……、また死んじゃったの……かな?
ここは天国……なの?
心地よい、まるでママのお腹の中にいた時みたい(実際その時のこと覚えてるわけじゃないけど……)に、すっごく心が安らぐ場所で……、僕はふと目を覚ました。
辺り一面は淡い金色や、緑、色んな色の輝きで満ち溢れ、そよそよと風が吹くたびにその光がキラキラと揺らぎ瞬く――、なんとも幻想的な光の草原。
僕はそんな草原の中で横たわっていたみたい……。
「ぼ、僕、なんでこんなとこに?
僕ってたしか……、確か……」
僕は寝起きでまだうまく働かない頭をふるふるとふり、ぼんやりとした思考をはっきりとさせようとした。
自分の体を見下ろす。
真っ白できれいで、なめらかな肌。なにもかもが小さな女の子の妖精の体。
あう、なぜかまた裸になってる。
そうだ――。
僕は妖精――。
妖精に生まれ変わったんだった。そう、そうだよね。
……で、テルとメイ、それにユニコーンのオーサーと出会って……、
出会って――。
「!!
そうだ、理菜、理菜ちゃんに会いに元の世界に戻って!」
僕ははっきりと思い出し、横たわっていた体をがばっと起こし、つい大きな声を上げてしまった。
その瞬間。
僕の周りを囲むように広がってた光の草原のその光が、強い輝きをまき散らしながらぱぁーっと一斉に広がり、縦横無尽、辺り一面に光をまき散らしながら飛び回っていたそれは……だんだん大きく大きく広がっていき――、
あんなに光に満ち溢れていた僕の周りには、静かな暗闇が残るだけとなっていた。
ううん、違った。
ただしくは二つだけ残ってた。
微妙に色合いの違う、淡い緑色に輝く光の玉。
僕のこぶし大くらいしかない、けど、優しく輝く光の塊。
僕の大事なお友だち。
「て、テル! メイ!」
僕は大きな声で二人の名前を呼んだ。
とたん、その二つの光の妖精たちは輝きを増しながらリズミカルに、まるで踊ってるかのように飛びまわりながら宙に浮かんでる僕に向けて飛び込んで来た。
「あんっ、ちょっと二人とも勢いよすぎー! ちょ、ちょっと落ち着いてよー」
僕の周りをくるくるとそれはもう勢いよく飛び回る二人。時折僕の顔や体を撫でるように飛んでいき、こそばゆいったらない。
「もー、はしゃぎすぎ。どうしちゃったのさー」
「ふふ、仕方あるまい。
お前はまるまる十の日の間、目覚めることなく眠っていたのだからな。
そ奴らが喜び飛び回るのも致し方あるまい。
それよりそ奴らに感謝するのだな。
リィン、お前が眠っている間……、ずっとスプライトたちが大事に抱くようにして保護していたのだからな」
え?
こ、この声って……。
「お、オーサー?」
「おうよ。
頭ははっきりしてきたか、リィン。
まったく、無茶をしたものだ……」
僕の目の前にオーサーがいる。
鈍い銀色に輝く綺麗な角。純白の毛並みの滑らかな馬体。初めて会った時みたいに水面に立って僕の方を見つめてた。
周りをテルとメイが飛んでる。
ふと周りを見渡してみる。
静かな、波一つない鏡の様な水面。そこにはきれいな満月が映り込んる。
泉だ。
僕の、僕の生まれ出た泉だ。
「お、オーサー? ぼ、僕って、僕って、帰ってこれたの?
ぼ、僕もうてっきり……」
僕のその言葉にオーサーはため息をついたようなしぐさをした……ように見えた。
そして言った。
「お前はあちらの世界で満月でないにもかかわらず、我の角を具現化し、解放した。
まだまだ生まれたての未熟な妖精のくせに無茶をする。
そのおかげでリィン、お前が向こうでその体を維持することが出来なくなり、消えてしまったわけだ」
「……う、うん。その、言いつけ破ってごめんなさい。
で、でも、そうしなきゃ理菜は、僕の妹だった理菜は……きっと死んでた。僕、そんなの絶対いやだった。だから……後悔はしてない」
僕はオーサーのちょっと責めるような言葉にがっくり頭を垂れながらも、それでも理菜ちゃんを助けられたんだから……後悔なんかはしてないと、言い切った。
それにしても――僕、もう死んじゃったと思ったのに……どうして?
僕のそんな疑問はきっと顔にもバッチリ出てたんだろう……、
「くくっ、妖精がそう簡単にその存在を消すわけがなかろう? しかもリィンは生まれたて、更にはスプライトも付いていたしな。
むろん、向こうの世界じゃ精霊が少なすぎるから復活は無理だろうが……、弱ればこちらに戻って来るのは必然。ばかなことをしてすぐ、スプライトと共にこの泉に現れた時は呆れたぞ」
僕はオーサーのその言葉に頭が真っ白になる。
「え、え、えー? じゃ、なんで初めからそう教えてくれれば……」
僕はふてくされてほっぺをぷくりと膨らます。
「教えればすぐ無茶をするだろう? それに物事に確実というものもない。無茶はせずに越したことはないのだぞ?
実際お前がこうして意識が戻り話せるようになるまで十の日がかかった。本来なら三十の日がかかってもおかしくなかったかもしれん。
十の日で済んだのは、そこのスプライトらが寄ってたかってリィンに精霊力を分け与えたおかげと知れ。こちらに現れてからというもの、ずっとそれを続けていたのだからな、見上げたものよ。
だからこれに懲りて……、
む、ん? おい、リィン、我の話を最後まで聞け!」
僕はオーサーの話を聞いて、胸が一杯になった。
説教モードに入り出したオーサーを放置し僕は……、
「テル、メイ、ありがとー!
他のみんなもありがとー!」
僕は感謝の気持ちを込め、二人の間に翅を思いっきり広げ、飛び込んでいった。
テルとメイが一緒になって飛び回り、周囲には一度は散り散りになった他のスプライトたちも再びわらわらと現れ出でていた。
そして……、
僕の体は淡い緑、きらきらとエメラルドグリーンの輝きに包まれて――、
見事な復活をとげていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
次回完結予定です。




