---Re:6---
こっちの世界に戻って来て二十日ほどがすぎた。
窓からお外をのぞき見ると抜けるような青空。すっごくいい天気。
りなちゃんはお昼ごはん食べて、お薬飲んで……、今はお昼寝中。
うーん、どうしよっかなぁ?
ぼくは悩んでる。
うーん。
ちらりお外を見て、それからりなを見る。
うーん……。
またお外をじっと見つめる。
「よし、決めたっ! やっぱ、お散歩行こっ」
そう。ハッキリいって……、ぼくは退屈してた。
妖精はほんらい気ままで気まぐれで、もっというと自分勝手……な生きもの――らしい。
でもこっちじゃ力は弱まっちゃうし、りなちゃんも心配だから……なかなか病室から離れる気にならなかった。
けどもう限界。
ぼくはりなちゃんをチラッと見て、そして少しだけ開けてくれてある(りなちゃんはいつでもぼくが外に出られるようにって開けてくれてる、やさしいんだ)窓からスルリと小さな体を通して――、
窓の外に飛び出した。
「ふあ~! 気持ちいい」
四枚のはねをぴんと張って、全力全開、めいっぱいの力でお空を飛び回った。
急上昇に急こう下。 一緒に出て来たテルとメイとスピード競争もした。
病院の周りに少しだけある木々の間を抜けるように飛び回ったりもした。
あはは、枝にとまって休んでたすずめさんたちが驚いて、ぼくたちに文句言ってる。
ごめんねー!
って、すずめさんたち、ずいぶんさわいでぼくたちになんか言ってる。怒ってる……のとはなんか違うみたい。
な、なんだろ?
「えー? なぁにー?」
気になるし、聞きに戻ろうとしたときだった。
「!!!」
まっくろい塊がぼくの目の前に一気にせまってきて……、
「ひゃうっ!」
一瞬でその場からさらわれた。
わけわかんなかった。
目が回りそうな勢いで、ぴゅーって体が持ってかれた。
「な、なに? なんなのー?」
ぼくはまださらわれた勢いでアタマがくらくらしてるけど、なんとか自分の状況確認をした。
ぼくはなにかにお腹周りをつかまれて、だらーんとぶら下がった感じになってた。時々それがぎゅっとお腹をしめてきて、ちょっと痛い。
「え、ええ?」
ぼくはまだまだ混乱中。
腰の方をそろっと見てみる。
黒い顔にたくましくてふとーい、く、くちばし?
そ、そう。
こいつは。ぼくを一瞬でさらった、こ、こいつの正体は。
「か、からすー?」
そう、カラスだった。
街の中、都会での野生動物の頂点といってもいい存在に違いない……、か、カラスだった!
ネコやイヌがいる? そんなの目じゃない、とぼくは思う。カラスは怖い、すっごくこわい。
そんなカラスにパクってくわえられて、さらわれたみたい。
ど、どうしよー!
ぼくがそうやってパニクってる間も、カラスの奴ったらばさばさとそれは調子良さそうにどっかに向かって飛んでってる。幸い今すぐ食べる気はないみたいだけど。
よ、妖精のぼくをさらうだなんていい根性してる。
ぼくはなんとか冷静になろうと必死。
こ、こいつ、きっとぼくを巣に連れてこうとしてるんだ。
ああ、ぼくったらそこでカラスのひなのエサにされちゃうんだ! あーん、どうしよう?
まだぼく、りなちゃんの病気も直してないし、ママにもほんとのこと言ってないし……。
そんな、なんの解決にもならないこと考えてたらカラスがきょろきょろし、うっとうしそうに唸り出した。ぼくをくわえてるから鳴けないんだよね、いい気味。で、カラスのそんな態度の原因は……、
「テル! メイ!」
そうスプライトのテルとメイ。
二人がカラスのあたまの周りをびゅんびゅん、輝きを強めて飛び回ってる。時には体当たりするみたいなすごい勢いでカラスにせまってて、カラスはすっごくうっとうしそうなそぶりをみせてる。
もちろん、そんなことでカラスがどうにかなるわけじゃないけど。
ぼくはそれを見て元気をだし、一緒になってさわぐ。
「こら、カラス―! はなせー! 妖精に手を出しちゃダメー。ぼく食べてもきっとおいしくないよー? ゆ、ユニコーンにいいつけるぞー!」
思いつくままにいっぱいわめきたおした。ユニコーンって言葉にぴくって反応した気もする。オーサーったらこっちでも有名なのかしら?
テルとメイもあいかわらずトツゲキ中。
「くう……」
カラスが鳴きたくてうずうずしてるみたい。もうちょっとだ。
ぼくはトドメとばかりに体に力をこめる。この世界じゃ弱っちゃって、たいしたこと出来ない……なけなしの力。
とたん、目を開けてることができないくらいまばゆいばかりの輝きに包まれるぼくのカラダ。
そう、ぼくは普段は抑えてる自身の輝きをここぞとばかりに全開にした!
(いつも光ってたら精霊の力が弱いこの世界じゃ燃費わるすぎだから、おさえてるんだもんね、それにりなちゃんもまぶしいだろうし、なにより目立っちゃう)
「くわぁ!」
あまりのまぶしさについに絶え切れなくなったのか、大きな声でひと鳴きしたカラス。
「やた!」
落っこちるぼく。
そしてここぞとばかりにはねに力をいれ、一気にその場からはなれる。
当然カラスのやつもすぐに気付いて追っかけてくる。
ぼくは病院に向かって急降下。カラスも一緒に急降下しようとするけど、そこをテルとメイが邪魔をする。もうこうなったら根競べ。カラスもしつこいけどぼくもやられるわけにはいかないもん。
あっという間に近づいてくる病室の窓。
ボクははねをピンとはり、くりんと方向転換。目一杯羽ばたいて窓のスキマにすべり込んだ!
すぐ後ろにまで迫ってたカラスったら、窓にぶつかりそうになり変な鳴き声と共に慌ててそこから飛びさった。えへへ、いい気味、あっかんべーだ!
「ふわぁ、た、たすかったー」
ぼくは飛び込んですぐ安心したあまり、りなちゃんのベッドの上で足をほうり投げ、はねをだらんとしなだれさせてだらけちゃう。
「ちょっとリィンちゃん、一体どうしたの? 目が覚めたら居ないし……、心配したんだからね?」
りなちゃんが心配そうにぼくに声をかけて来た。
「う、うん……、そのぉ、ちょっとお散歩してたらカラスに……おそわれちゃった。あはは……」
ぼくの言葉にお顔を引きつかせるりなちゃん。
「うわ、なにするのりなちゃん!」
ぼくは怖い顔したりなちゃんの手でその場からすくい上げられ、目の前まで持っていかれる。
りなちゃんは真剣な目つきで、ぼくのからだをぶつぶつ言いながらこと細かに眺めまわしてる。
「うん、見た感じ……ケガはなさそう……、でもお洋服の中は……」
その言葉に悪い予感がして一言言おうとする前に……、
「わっ、りなちゃん。なにするのー?」
着ていたワンピースをすっぽり脱がされた。すごい早わざだった。
りなちゃんの手のひらの上、パンツ一枚でしゃがみこんじゃうぼく。恥ずかしさで白い肌が全身まっかになっちゃう。――ちなみに今はママが買って来てくれたパンツをはいてたりする。ピッタリしててちょっと恥ずかしいけど……なかなか肌触り良くって、人形用とはとても思えない"いっぴん"だった。
「ふぅ、とりあえずどこもケガしてないみたいで良かったー。でも、リィンちゃんたら恥ずかしかがっちゃってかわいいっ。
でも、気を付けなきゃダメなんだからね? リィンちゃん小さいんだから周りをもっと警戒しなきゃ! また私を置いていっちゃうなんで……、絶対ダメなんだからね!」
手のひらの上で照れるぼくに最初は笑顔を見せてたりなちゃん。でも最後は泣きそうな目で必死に訴えかけて来るりなちゃん。
ううぅ、悲しませてしまった……そ、そんなつもり全然なかったのに。
ぼくは手のひらからふわっっと飛び立ち、りなちゃんのお顔、そのほっぺをやさしくなでる。
「りなちゃん、心配させてごめんね。これからは気をつける……急にいなくなったりしないから。安心して?」
ぼくのその言葉に安心したのか、かわいい笑顔を見せてくれるりなちゃん。
この際だ、あのことも言っておこ。
「あのねりなちゃん、ぼくがここに戻ってきたのにはもう一つ理由があるの。
聞いてくれる?」
「うん? なんなの、リィンちゃん」
こてんと小首をかしげ、不思議そうな表情を浮かべてぼくを見るりなちゃん。
ほんとかわいい、ぼくの天使。ぜったい病気、治してあげるね。
「あのね、じつは――」
ぼくはユニコーンの角のお話をした。
そして今度の満月の夜にそれを実行に移したいってことも……。
りなちゃんは泣いてた。
ぼくのお話をどこまで信じてくれたかはわからない。
ぼく自身、ほんとに効くのかどうかもわからない。
でもぼくは信じてる。
元気になったりなちゃんと野山をかけるんだ。お外で一緒に遊ぶんだもん!
ぼくはりなちゃんのやさしい笑顔をみながら……そう決意をあたらにした。
読んでいただきありがとうございます。




