---Re:4---
満月の夜にいきなり私の前に現れたかと思うと、そのまま飛び込んできた妖精さん。
妖精なんていない、いる訳ないって、さすがにこの歳になれば思ってるわけで。この科学技術の発達した現代で、しかも日本なんかで……。
まさか妖精さんと出会えるなんて。なんの冗談なんだろ? なんて思った。
しかも。
しかもよ?
あろうことかその妖精さんが、妖精さんが……、
死んじゃった私の、私の……、大事な大事な――、
お兄ちゃん……、
お兄ちゃんの生まれ変わった姿だなんて!
普通ならそんなこと信じられない。信じられるはずがない。でも……、
妖精さんが私のおでこにその小さなおでこを重ね合わせた時。
色んな想いが私の中に流れ込んで来た。
私とお兄ちゃんが一緒に暮らしてた時の思い出。けんかしちゃった時の思い出。ママとパパと遊びに行った時の思い出。
色んな出来事が流れ込んで来た。
お兄ちゃんの最後の時のことすら……、
そして、生まれ変わったって知った時の、妖精になったってわかった時の驚き――。
そんな想いが私の中でぐるぐる回って……、私は恥ずかしながら耐えられず、少しの間だけってお兄ちゃん言ってたけど……気を失ってたみたい。
――だから今は疑うことも、迷うこともなく信じられる。ううん、もう確信もって言える。
この妖精さんが……、お兄ちゃんだってこと!
「でもさ、なんで現れた時は普通に人間の子供サイズだったのに……、こんなに小っちゃくなっちゃったの?」
看護師さんが持ってきてくれた朝ごはんを食べ、にがーいお薬を飲んだあと、一人っきりになった病室、ベッドの上で体を起こしてる私の膝の上にお兄ちゃん妖精を乗せ、私は色々お話を始めた。
でも、さっき看護師さんが入って来た時はおどろいちゃった。お兄ちゃんったら慌てちゃって……、人形のふりでもしてるつもりなのかベッドの上にコロンって転がって動かないふりしてた。くすっ、私、笑い抑えるのに必死だった。
まぁそんなことがあった後、まずは最初に思った疑問から質問したわけ。
「うーんとね、ここは精霊さんの力がすっごく少ないから! かな」
小さな体だけど不思議とお兄ちゃんの声は私の耳にはっきりと届いた。そ、それにしてもなんてかわいらしい鈴の音が鳴るような声なんだろ。その翅の生えた不思議な姿形も相まって思わず胸がキュンとなっちゃう。
「はぁ、お兄ちゃんなんかかわいすぎ……、っといけない。そんなことより。少ないとどうして小さくなっちゃうの? もっとちゃんと教えてよ?」
私の言葉に小さな可愛らしい頭をこてんと傾げ、ちょっと悩んだ様子を見せるお兄ちゃん。
くぅー、まじかわいい! っていうか、そもそもお兄ちゃんの姿って……、どこをどう見ても完ぺき女の子に見える。それも超の付く、美少女……、美妖精? 真っ白な肌にプラチナブロンドの長い髪。それにきれいなエメラルドグリーンの瞳。外見だけ見てたら絶対お兄ちゃんだなんてわからない。
お兄ちゃんの記憶を覗かせてもらったから……頭の中ではわかったつもりだったけど、やっぱ実際じっくり見ると驚きだ。うーん、あのワンピースの下、どうなってるんだろ? やっぱ人間の子と一緒なのかな?
時間と共に私の好奇心はみるみる大きく成長してきちゃった。
暴走ぎみの私の心の中のことなど知る由もないお兄ちゃんは、わかりやすく説明しようと一生懸命考えてる。
「えっとね、ぼくのからだはね、森や大地、精霊さんの力をもらって出来てるの。だからげんそー世界にいた時はりなちゃんが見た姿でいられたんだけど……、こっちの、げんじつ世界じゃね……ダメなの。森も、大地も、妖精さんも……みんな弱ってるの。街の中にはぜんぜんいないの。
だからからだを小さくしないとぼくも弱っちゃうの。そんな感じ」
ハッとした。
たどたどしく話すお兄ちゃん。生前はもっとしっかりと、はっきりとお話してた。
きっと、妖精と自然って切っても切れないものなんだろう。
精霊っていうのがどんなものなのかはよくわからないけど……、こんな都会のど真ん中の病院の中じゃ、そりゃ、力が無くなっちゃうのも当然かも。それになんかお兄ちゃんが幼稚な感じがするのもそのせいなのかな?
「でもね、まんげつの夜だけは別なの。力が満ちて来るの。
だからぼくはその日を待ってここにきたの。どうしても、どうしてもりなちゃんに会いたかったから……」
潤んだエメラルドグリーンの目で私を見てくるお兄ちゃん。
私はそんなけなげな姿のお兄ちゃんを見てもう我慢できなくなってきた。
「お兄ちゃん!」
「はわっ」
私は目の前でかわいく女の子すわりしてる、小さな小さなお兄ちゃんを両手を添えてそっと持ち上げ、そしてその体を私の頬によせ、すりすりって……大事に大事に頬ずりしてしまった。
私の目からはぽろぽろと涙がいっぱい溢れてきてしまう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
そんな私の周りにいつの間にか二つの光が寄り添うように浮かんでた。
「テルとメイっていうの」
お兄ちゃんが私の涙を小さな手で拭いながら(小さすぎて全然意味ないんだけど)、その二つの光の名前を教えてくれる。
「そう、テル、メイ。お兄ちゃんといつも一緒にいてくれてありがとう。これからもずっと一緒に居てあげてね?」
その存在のことはお兄ちゃんの記憶からもわかった。生まれたてのお兄ちゃんとずっと一緒にいてくれた優しい妖精さんたち。姿は違うけどお兄ちゃんのお仲間さん。
その輝きを見てるだけでわかる。とっても優しい子たちなんだよね。
私はお兄ちゃんを頬に寄せ、テルとメイに囲まれ、ここ最近感じることのなかった暖かい気持ち、幸せな気持ちで心がいっぱいになった。
双子のお兄ちゃん、凛兄ちゃんはもう居ないけど。
リィンって名前(ユニコーンがそう呼んだからって言ってたけど、ユ、ユニコーンってほんとに居るんだ。それもまた聞かなきゃ)のかわいい妖精さんとして戻って来てくれた。
私だっていつまで生きていられるかわからないけど……、それでも今はこうしていられるだけでとっても幸せだ。
お兄ちゃん――、
って、いつまでもお兄ちゃんは変かな? こんなにかわいい妖精さんなんだもん。
リィン……、
やっぱ、リィンちゃんって呼ぶのがいいよね。
これからよろしくね?
リィンちゃん!
次回こそ日常生活?
うん、もうこうやって言うのはよそう……。




