---Re:2---
綺麗な満月を背景に、私の目の前に現れたのはまばゆいばかりの光。
でもそれでいて少しも眩しさを感じることのない優しい光。
淡い淡い緑色をした光。
そこからふっと更に二つの光が現れた。
そしてその光は、出て来た元の光の周りを嬉しそうに(そう見えるんだから仕方ない)飛び回る。
「な、何? 何なの?」
長い間、声を出すことを忘れてしまっていた私の喉から自然とそんな声が出た。
その間も光はどんどん大きくなり、ついには小さな子供くらいのサイズにまで成長した……、宙に浮かんだ淡い光の塊。
その周りをくるくると不規則に飛び回る光の玉。その光はお互い仲が良さそうに絡み合って飛んでる。
パッと見、人魂っぽく見えなくもないけど、それみたく尾を引いて光ってるわけでもなく、怖いって感じはしない。それどころか優しく穏やかな気持ちになるくらい。
三階にある病室の窓の外で起こっているその摩訶不思議な光景を――、私は呆然とした面持ちで、時間の経つことも忘れじっと見つめ続けてた。
秋の夜。
夜風はとても冷たく、体がだんだん冷えてきてるけどそれも気にならないくらいに夢中になってそれを見続けてた。
光の大きさが落ち着くと、今度はだんだん輝きが収まってきて、その中に何かの形が浮かび上がってきた。
「なんだろ? え、人?」
私の目にはそれは人の形に見える。
更に輝きが収まり、それはその人の形が光を纏っているかのように見える。
小さな女の子――。
繭のように丸くなってて、今は眠ってるのかな?。
白っぽい金色のさらさらの長い髪が腰ほどまで伸びてふわふわ漂ってて、その体は透けるように白い、いや、実際少し透けてるような気もする、そんな生身を感じさせない肌。そして同じように透けるかのような薄手のシンプルなワンピースを纏ってる。そこから覗く四肢もほっそりと華奢で折れてしまいそう。
なんてきれいなんだろ。
神秘的ですらあるその女の子。(実際、神がかかった現れ方だけど……)
女である私が見ても見惚れてしまう……。
でもその女の子にはなんとも見過ごせない……、
変わった部位が……。
「は、羽はえてるし!」
そう!
その女の子の背中からは見まごうことなどありえないほど、しっかり。
それはもうしっかりと羽が生えてた。
それはもう驚いて、つい大きな声を出してしまった。こんな声だしたのいつ以来だろ?
で、私がその事実にまたも呆けていると、女の子の頭がかすかに動いたように見えた。
まるで私の声に反応したようにも思えてちょっと焦った。
そしてその小さな頭がひざ頭からゆっくりと離れ、そのままなんと……、
なんと私の方を見てきた!
綺麗な若葉色の目。
それは一瞬だった。
ぼーっとしてたように見えたその子の表情が瞬間ぱーっと明るくなり、みるみる笑顔に変わっていく。
「りなっ!」
え、私?
女の子が私の名前を叫んだ。
その声はか細かったけど……、しっかりと私の耳に届いた。
そう思ったのもつかの間。
次の瞬間には私の上に少しひんやりとした、ほのかに優しい香りをまとった物体がのしかかっていた。
「ふえっ!」
「りな~!」
そう。
私にさっきまで窓の外にいたはずの女の子が飛びついてきていた。いやのしかかってきていた。
「ふえぇ~~?」
もう私、混乱の極地です。
ベッドの上で体を起こし、あまりの理解不能な出来事の連続にもう放心状態もいいところな私。
そんな私の横には、窓から飛び込んで来るなりいきなり抱き付いてきた正体不明、怪しすぎる女の子が気持ちよさげに眠り込んでる。
窓から飛び込んで来て抱き付いてきたかと思えば、そのまま安心したかのように私に体を預け、あっという間もなくすっと寝入ってしまった。初め見たときは全身が光って見えたけど、それは今は収まったのか普通だ。
でもその背中には相変わらず大きな羽が、今は女の子の体に沿うような形でたたまれてて、それを私はじっっと見つめる。
「羽だ。どこをどーみても羽。それも鳥じゃなくて昆虫系……」
見方によっては虹色に光る、透き通ったきれいな羽。昆虫系だから翅と言ったほうがいいそれは、虫の翅みたいに膜と筋みたいなので出来てるんだけど、これがほんとほれぼれする美しさ。
でもそれが……、
「なんでこの子の背中から生えてるのー? っていうか、なんで空から……、光の中から湧いて出て来るわけー?」
もうほんと、意味わかんない。
しかも!
「なんで私の名前しってるの?
あんな風に私を呼ぶのは……、お兄ちゃんだけ……だったのに」
安心しきって眠ってるその女の子の顔を私はじっと見つめる。
なぜか不思議と知ってるような気がしてならない。
なぜか他人とは思えない気持ちが湧き上がって来て……なんとも不思議な気分になる。
もちろん、こんな小学校低学年くらいの小さな女の子の知り合いなんていない。
「それに、それにこの姿って、まるで……」
そう、この姿見て連想出来るものって一つしかない。
「妖精?」
私がそう……、あまりにも非現実なことを口にしたとき、ずっと女の子の周りをフワフワと飛んでいた二つの光が、まるでそうだ! とでも言うように私の目の前をお互いが交差するようにそれはもう嬉しそうに飛び回った。
そういやこの光の玉もよくわからない。女の子ととっても仲がいいみたいだけど……。
妖精と光の玉……。
なんかもうありがちなファンタジー設定で私の小さな頭では理解不能!
私の名前知ってることといい……いったいこの子たちなんなの?
あまりも不審な女の子が窓から突然入ってきたんだから……、ほんとだったら看護師さん呼ぶなりして……すぐにでも対処しなきゃいけないんだろうけど。
そんな気にもなぜかならない。
そもそもこの子、他の人……、大人に見せちゃったらどんな反応されるだろ?
やっぱまずい気がする。
早く事情聞いて、どうするか考えなきゃいけないのに……。
「ふぁ……」
いつもならとっくの昔に眠ってる時間。
寝てる場合じゃないのに……、
疲れた体は正直だ。
眠気に待ったは効かないみたい。
私は不思議な女の子の隣、寄り添うように……、
それはもう自然に、ここ最近無かったゆったりとした気持ちで……、
ゆっくりと眠りの世界に落ちていった――。
翌朝。
女の子は相変わらずそこにいた。
ただし。
身長三十センチほどの……、それはもう小さなちいさな体となって。
「ええっーーーー!?」
私はもう驚くほかなかった――。
小さくなっちゃいました。
読んでいただきありがとうございます。




